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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「四天王、十席」

## 第一話「三十年ぶりの会議」


「——今日は——絶対に——四人——揃う——!!」





——魔王が——宣言した。






「——全員——出席の——予定です——!!」







——秘書の——悪魔が——報告した。








——四天王も——珍しく——早く——集まった。








「——今日は——暑くないな」







——炎の——将軍イグニスが——言った。







「——俺——一番乗り——!!」







——風の——将軍ゼフィールが——飛び込んできた。







「——議題を——時系列順に——並べて——おきました」







——大地の——将軍ガイウスが——書類を——広げた。








「——あと——一人だ——!!」







——魔王が——身を——乗り出した。







——全員が——扉を——見た。








——こんこん。







「——おお——!!」








——秘書が——入ってきた。







「——氷の——将軍様より——伝言で——ございます」








「…………」







「——"本日も——欠席します"」








「…………」







——広間が。






——静まった。







——そして。







「——そうか」








——魔王が——ぽつり、と——言った。







「——さようですか」






「——ですな」






「——だろうな」








——誰一人。






——驚かなかった。







——そして——そのまま——茶を——飲み始めた。








「——もう——帰る?」







——ゼフィールが——尋ねた。







「——今日は——全員——揃った——気分であった」








——魔王が——満足そうに——言った。









*——議事録*





*——出席:三名*





*——欠席:一名*





*——備考:いつもの、こと*








---


## 第二話「炎は、暑い」


——イグニスは——灼熱の——属性、である。







「——将軍——熔岩の——湯で——ございます——!!」







「——熱い」








「——火山の——温泉です——!!」






「——熱い」








「——熔岩の——蒸し風呂です——!!」






「——熱い」








「…………」







——部下が——混乱した。







「——炎の——属性では——!?」






「——だから——熱いのだ」








「…………」









——夏。






——魔王城。







——皆——汗だく、だった。







——だが——イグニスだけ——量が——おかしい。








「——水を」







——十升——飲んだ。







「——もっと」








「——将軍——溶けます——!!」






「——すでに——溶けて——おる」









——そして——ある日。






——例の——シャッフルが——起きた。







——イグニスは——氷の——属性に——なった。








「…………」







——彼は——動かなかった。







「——将軍?」






「…………」








「——いかが——されました——!!」







「——涼しい」








「…………」







——広間が——静まった。







「——眠い」








——イグニスが——ぽつり、と——言った。







「——腹が——減った」






「——鎧が——熱くない」






「——息が——楽だ」








「…………」







——千年——言えなかった——本音、だった。








「——将軍……」







——部下が——絶句した。







「——今日だけは」








——イグニスは——横に——なった。







「——寝坊しても——怒るな」









——翌日。






——昼まで——爆睡した。







——そして——起きた——第一声。







「——生き返った」








---


## 第三話「風の、贈り物」


「——暑そうだな——!!」







——ゼフィールが——飛び込んできた。







「——暑い」






「——作って——やる——!!」








——三日、後。






——巨大な——送風の——道具が——できた。








「——完成——!!」






「——かたじけない」








——イグニスが——感激していた。







「——では——回す——!!」








——ごおおおおおお——!!







「…………」







——魔王城が。






——飛んだ。








「…………」







——後には。






——魔王だけが——座っていた。








「——城は」






「——飛んだ」








「——なぜだ」






「——風量の——調整を——忘れた——!!」








「…………」







「——魔族軍——建築規約——第八条——違反です」







——ガイウスが——静かに——言った。







「——そんな——条文が——あるのか——!!」






「——ございます」









——ちなみに。






——イグニスだけは。






——極めて——快適そう、だった。








「——涼しい」






「——喜ぶな——!!」







---


## 第四話「第十一条」


——ガイウスは——規約の——鬼、である。







——誰かが——椅子を——動かす。







「——第五条」








——皆——戻す。







——誰かが——茶を——机に——置く。







「——第三十九条」








——皆——敷物を——敷く。








「——疲れぬのか」







——魔王が——尋ねた。







「——疲れません」









——だが——ある日。






——部下が——書類を——破いた。








「——申し訳——ございません——!!」







「…………」








——ガイウスは。






——黙って——糊を——出した。







——そして——静かに——直した。








「——怒らぬのですか——!!」






「——大事だからだ」








「…………」







「——なぜ——全部——覚えて——おる——!!」







——ゼフィールが——尋ねた。







「——昔な」








——ガイウスは——ぽつり、と——言った。







「——四人で——作った」








「…………」







——彼の——表情が。






——ほんの——少し——緩んだ。








「…………」







「——我は——一つも——覚えて——おらぬ」








——魔王が——ぼそり、と——言った。







「——存じて——おります」







---


## 第五話「空席」


——会議の——間に。






——一つだけ——空いた——席が——ある。








「——ここに——座ります——!!」







——新入りが——腰を——下ろそうと——した。








「——駄目だ」







——三人が——同時に——言った。








「——え?」






「——そこだけは、な」








「…………」







——その——席には。







——花が——挿してあった。






——毎日——掃除されていた。






——椅子は——磨かれていた。








「——誰も——来ぬのに——ですか——!?」







——新入りが——困惑した。







「——来るかも——しれぬ」








——イグニスが——静かに——言った。







「——毎日——ですか——!!」






「——毎日だ」








——ガイウスが——答えた。







---


## 第六話「休暇届」


「——欠席の——理由くらい——書け——!!」







——魔王が——命じた。







——翌日。







——届が——出た。








*——理由:寒いので*







「——お前だろう——!!」







——三人が——同時に——叫んだ。








——翌日。







*——理由:暑いので*







「——お前だろう——!!」








——さらに——翌日。







*——理由:眠いので*







「——働け——!!」









——ちなみに。






——日付は——全部。






——三十年——前の——ものだった。







——誰も——気づいていない。







---


## 第七話「氷の、将軍」


——地下。







——巨大な——氷柱が——立っている。







——その——中に。







——男が——眠っていた。








——初めて——顔が——見える。







——優しい——顔、だった。







——怖くは——ない。








「——相変わらず——寝顔だけは——よいな」







——イグニスが——言った。







「——おーい——!! 起きろー——!!」








——ゼフィールが——叫んだ。







——反応は——ない。







——ガイウスは——黙って——魔法陣を——補修していた。








「…………」







——誰も——説明しない。








「——会議が——始まらぬぞ」







——ゼフィールが——氷に——向かって——言った。







——静かな——地下で。






——三人が——少しだけ——笑った。







---


## 第八話「約束」


——昔。






——四天王——就任の——式。







——若い——四人が——杯を——掲げていた。








「——毎月——会議を——しよう——!!」






「——全員——出席だ——!!」






「——約束だぞ——!!」






「——うむ」









——現在。







——会議の——間。






——三人。






——空席——一つ。







——誰も——座らない。








「——来月こそ、な」







——ゼフィールが——言った。







「——ああ」






——イグニスが——頷いた。







「——待とう」






——ガイウスが——言った。









——地下。







——眠る——男の——魔法陣が。







——ほんの——少しだけ——光った。







---


## 第九話「三十年、欠席の理由」


——きっかけは——誠、だった。







「——一つ——伺っても——いいですか」







——彼が——魔王に——尋ねた。







「——なんだ」






「——氷の——将軍さんは——どちらに——おられますか」








「…………」







——魔王の——動きが。






——止まった。







「——なぜ——聞く」






「——三十年——会ってません」








——誠は——静かに——言った。







「——名簿にも——ありません」








「…………」







——魔王は。






——長い、こと——黙って。






——そして——言った。








「——古い——記録が——ある」









——三十年——前。







——星喰いの——戦いの——最中。







——勇者の——一人が——禁呪を——放とうと——した。








*——「永久凍土封印」*







——世界——そのものを——凍らせる——魔法、だった。







——止める——手は——なかった。







——一つを——除いて。








「——俺なら——受け止められる——!!」







——氷の——将軍グレイシアが——叫んだ。







「——やめよ——!!」






「——他に——誰が——おる——!!」








——そして——彼は。






——自ら——封印の——核に——なった。








「…………」







「——目覚めれば——どうなりますか」







——誠が——尋ねた。







「——封印が——崩れる」








——魔王は——静かに——言った。







「——世界が——再び——凍り始める」








「…………」







「——だから——起こさぬ」








「…………」







——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——尋ねた。








「——魔王さん」






「——なんだ」






「——では——なぜ——"欠席"、と——書き続けるんですか」








「…………」







「——"死亡"、でも——"離脱"、でも——ないんですね」








「…………」







——魔王は。






——長い、こと——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——まだ——仲間だからだ」








「…………」







「——それだけだ」







---


## 第十話「四人目の、席」


——いつもの——会議。







「——氷の——将軍は」







——魔王が——尋ねた。







——三人が——揃って——笑った。








「——欠席です」






「——またも——さぼりですな」






「——困った——奴だ」








——会議は——十五を——数える——ほどで——終わった。









——帰り道。






——三人は——地下へ——向かった。







——イグニスが——封印の——温度を——整える。






——ゼフィールが——静かな——風を——送る。






——ガイウスが——魔法陣を——補修する。







——そして——三人で——空いた——椅子を——囲んだ。







——茶を——四つ——用意して。








「——今日の——議題な」







——ゼフィールが——空席に——向かって——言った。







「——お前が——おらぬから——また——決まらなんだぞ」








「…………」







——返事は——ない。







——それでも。







——四人——分の——茶だけは。






——三十年——毎月——欠かさず——用意されていた。








---


## そして






——ある日。






——地下に——四人目の——客が——来た。








「——八百屋?」







——ゼフィールが——驚いた。







「——お邪魔します」








——誠は——氷柱を——見上げた。







——そして——深く——頭を——下げた。








「——初めまして」







「——聞こえぬぞ」








——イグニスが——言った。







「——構いません」







——誠は——静かに——言った。







「——田中誠と——申します」






「——八百屋を——やっております」








「…………」







「——それと——一つ——お伝えします」







——彼は——帳面を——開いた。







「——グレイシアさん」








「…………」







——三人が。






——動きを——止めた。








「——名を——書きました」







——誠が——言った。







「——どこに——だ」








「——名簿です」







——彼は——帳面を——掲げた。







「——十四万——三百——十三人目です」








「…………」







「——待て」







——ガイウスが——かすれた——声で——言った。







「——あれは——生きて——おる——者の——名簿であろう」






「——そうです」








「——では——なぜ——!!」






「——生きておられますよね」








「…………」







——地下が。






——静まり返った。








「——桃さんに——診て——いただきました」







——誠は——静かに——言った。







「——脈が——あるそうです」






「——ゆっくりですが——確かに」








「…………」







——イグニスが。






——顔を——覆った。








「——三十年」







——彼は——かすれた——声で——言った。







「——誰も——診に——来なんだ」








「——すみませんでした」







——誠が——頭を——下げた。







「——僕たち——知りませんでした」








「…………」







「——それと——もう一つ」







——誠は——顔を——上げた。







「——なんだ」






「——年に——一度——診に——来ます」








「…………」







「——名簿に——載った——方は——皆——そうしてますので」








「…………」







——ゼフィールが。






——ぽつり、と——言った。







「——八百屋」






「——はい」






「——茶を——飲んで——いくか」








「——いただきます」









——四つ——用意されていた——茶が。






——五つに——なった。







——三十年で——初めての、ことだった。






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「四天王の会議に、三十年ぶりに全員が揃う予定だった。でも、氷の将軍が、また欠席だった。誰も驚かなかった。魔王さんが、"今日は全員揃った気分であった"、って。議事録の備考が、"いつものこと"。……炎のイグニスさんは、実は暑がりだった。千年、言えなかったらしい。シャッフルで氷属性になった日に、"涼しい。眠い。腹が減った。鎧が熱くない。息が楽だ"、って。翌日、昼まで寝て、"生き返った"、って。……風のゼフィールさんが送風の道具を作ったら、魔王城が飛んだ。イグニスさんだけ、"涼しい"、って喜んでました。……大地のガイウスさんは、規約を全部覚えてる。なぜか聞かれて、"昔、四人で作った"、って。あの人、少しだけ笑ってた。魔王さんは、一つも覚えてないそうです。……会議の間に、一つだけ空席がある。誰も座らせない。花が挿してあって、毎日掃除されて、椅子が磨かれてる。"来るかもしれぬ"、"毎日ですか"、"毎日だ"、って。……欠席理由を書け、と言われて出てきた届が、"寒いので"、"暑いので"、"眠いので"。日付は全部、三十年前のものでした。誰も気づいてない。……氷の将軍さんは、地下の氷柱の中で眠ってた。三十年前、勇者の禁呪を止めるために、自ら封印の核になった。目覚めれば、世界が凍り始める。……だから起こさない。でも、"死亡"、でも、"離脱"、でもなく、"欠席"、と書き続けてる。なぜか聞いたら、魔王さんが、"まだ仲間だからだ。それだけだ"、って。……三人は、会議の後、毎月、地下へ行く。温度を整えて、風を送って、魔法陣を直して、空いた椅子を囲んで、茶を四つ用意する。三十年、欠かさず。……僕も、行きました。桃さんに診てもらったら、脈があった。ゆっくりだけど、確かに。……だから、名簿に書きました。グレイシアさん。十四万三百十三人目です。生きておられますよね、って言ったら、イグニスさんが顔を覆って、"三十年、誰も診に来なんだ"、って。……年に一度、診に来ます、って言った。名簿に載った方は、皆そうしてますので。……ゼフィールさんが、"茶を飲んでいくか"、って。……四つだった茶が、五つになりました。じいちゃん。まだ、仲間だそうです」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。三十年——眠り続けて——いる——氷の——将軍が。




——名簿に——書かれた——その、日から。





——脈を——ほんの——少し——速めたことを。


そして——それに——最初に——気づくのが。




——年に——一度——診に——来る——者に——なることも。





——今は……まだ、誰も——測って——いない。

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