第146話「帰ってきた、魔王」
三月が——過ぎた。
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——魔王は——戻らなかった。
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「——三月——ちょうどです」
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——アカリが——帳面を——閉じた。
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「——遅れて——おるな」
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——ミネルが——空を——見上げた。
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「——皆瀬さん——!!」
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——誠が——呼んだ。
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「——十二番——聞こえますか——!!」
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『——聞こえない』
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——地上の——十二番が——揺れた。
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『——遠すぎる』
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「——一緒に——行った——皆瀬さんは」
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『——分からない』
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「…………」
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——工房が——沈んだ。
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「——十日——待とう」
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——ミネルが——言った。
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「——それでも——戻らなんだら」
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「——迎えに——行きます」
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——誠が——即答した。
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「——誰が——行くのだ——!!」
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「——僕です」
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「——お前は——息を——するであろう——!!」
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「——袋を——持っていきます」
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「——三月、分か——!!」
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「——なんとかします」
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「——なんとか——なるか——!!」
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## 十日目
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——荒野に——皆が——集まっていた。
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——空を——見上げて。
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「——見えぬな」
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「——ルカ——!!」
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——誠が——呼んだ。
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「——見えるか——!!」
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「——見えません——!!」
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——高台から——声が——返った。
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「——では——行きます」
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——誠が——立ち上がった——その、時。
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「——待て——!!」
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——ルカが——叫んだ。
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「——何か——見えます——!!」
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「——どこだ——!!」
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「——真上です——!!」
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——皆が——空を——見上げた。
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——小さな——点が——一つ。
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——ゆっくりと——大きくなっていく。
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「——落ちて——おるぞ——!!」
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——ミネルが——叫んだ。
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「——ヒカルさん——!!」
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「——シュワッ——!!」
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——巨人が——飛び上がった。
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——そして——受け止めた。
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「…………」
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——降りてきた——手の——中に。
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——魔王が——いた。
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「——魔王さん——!!」
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——誠が——駆け寄った。
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「…………」
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——魔王は——動かなかった。
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「——魔王さん——!!」
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「——騒ぐな」
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「…………」
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——低い——声が——した。
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「——生きてますか——!!」
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「——死なぬと——言うたであろう」
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——魔王は——ゆっくりと——身を——起こした。
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「——だが——疲れた」
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「——お疲れ様です——!!」
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——誠が——頭を——下げた。
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「——一厘は——!!」
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「…………」
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——魔王は。
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——手を——開いた。
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——そこには。
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——何も——なかった。
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「…………」
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——荒野が。
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——凍りついた。
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「——取れなかったんですか」
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——誠が——静かに——尋ねた。
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「——取らなんだ」
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「…………え?」
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「——取れたのですか——!!」
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——一色が——叫んだ。
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「——取れた」
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——魔王は——頷いた。
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「——だが——取らなんだ」
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「——なぜですか——!!」
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「…………」
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——魔王は。
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——長い、こと——黙って。
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——そして——言った。
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「——あれは——月では——ない」
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「…………」
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「——どういう——意味ですか」
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「——見せる」
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——魔王が——皆瀬を——呼んだ。
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『——うつす』
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——一緒に——行った——皆瀬が——揺れた。
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——そして——光が——広がった。
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## 映ったもの
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——荒野の——空に。
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——景色が——浮かんだ。
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——暗い。
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——星が——散っている。
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——そして——その——中に。
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——小さな——石が——一つ。
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「——あれが——一厘ですか」
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「——うむ」
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「——普通の——石ですね」
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「——よく——見よ」
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——皆瀬が——光を——絞った。
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——石が——大きく——映った。
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——そして。
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「…………」
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——荒野が。
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——完全に——静まり返った。
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——石の——表面に。
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——文字が——彫られていた。
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「…………」
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「——ルカ——!!」
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——誠が——叫んだ。
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「——読めるか——!!」
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「——読めます——!!」
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——ルカが——駆けてきた。
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——そして——目を——凝らした。
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「…………」
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「——なんて——書いてある——!!」
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「…………」
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——ルカの。
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——手が——震え始めた。
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「——ルカ?」
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「——師匠」
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「——なんだ」
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「——名前です」
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「…………」
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「——誰の——ですか」
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——アカリが——尋ねた。
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「——分かりません」
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——ルカは——首を——振った。
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「——でも——たくさん——あります」
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「——いくつ——ですか」
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「——数え切れません」
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「…………」
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## 魔王の、話
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「——一月——かけて——近づいた」
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——魔王が——静かに——語り始めた。
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「——そして——見た」
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「…………」
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「——最初は——傷だと——思うた」
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——彼は——ぼそり、と——言った。
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「——だが——近づくと——文字であった」
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「——誰が——彫ったんですか」
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「——分からぬ」
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——魔王は——首を——振った。
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「——だが——古い」
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「——どれくらい——ですか」
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「——我より——古い」
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「…………」
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——荒野が。
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——ざわめいた。
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「——七百八十二年——より——ですか——!!」
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——ミネルが——叫んだ。
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「——うむ」
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「——では——なぜ——月の——破片に——!!」
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「——それが——分からぬ」
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——魔王は——静かに——言った。
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「——ゆえに——取らなんだ」
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「——どういう——ことですか」
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——誠が——尋ねると。
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——魔王は——彼を——見た。
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「——八百屋」
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「——はい」
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「——貴殿なら——どうする」
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「…………え?」
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「——名の——彫られた——石を——見つけた、時だ」
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——魔王は——低く——言った。
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「——黙って——持ち帰るか」
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「…………」
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——誠は。
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——しばらく——黙って。
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——そして——言った。
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「——読みます」
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「——さようであろう」
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——魔王は——頷いた。
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「——ゆえに——我は——読んで——参った」
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「——読めたんですか——!!」
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「——半分ほどな」
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——魔王は——ぼそり、と——言った。
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「——二月——かけた」
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「——それで——遅れたんですね」
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「——うむ」
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「…………」
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「——魔王さん」
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——誠が——深く——頭を——下げた。
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「——ありがとう——ございます」
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「——礼は——要らぬ」
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——魔王は——顔を——背けた。
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「——それより——聞け」
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「——はい」
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「——妙な、ことが——ある」
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## 妙なこと
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「——名の——中に——見た——ものが——あった」
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——魔王が——静かに——言った。
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「——見た——もの?」
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「——うむ」
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——彼は——皆瀬に——合図した。
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——光が——一箇所を——拡大した。
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「——ルカ——!!」
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「——読みます——!!」
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——ルカが——目を——凝らした。
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——そして。
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「…………」
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——彼の——顔から。
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——血の気が——引いた。
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「——どうした——!!」
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「——師匠」
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——ルカは——かすれた——声で——言った。
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「——なんだ」
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「——"空見の——爺さま"、って——書いてあります」
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「…………」
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——荒野が。
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——凍りついた。
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「——馬鹿な——!!」
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——ミネルが——叫んだ。
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「——あの——名は——お前が——つけたのだろう——!!」
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「——僕が——つけました——!!」
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「——いつだ——!!」
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「——二十七年——前です——!!」
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「——では——なぜ——七百年——前の——石に——!!」
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「…………」
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——誰も。
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——答えられなかった。
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「——それだけでは——ない」
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——魔王が——低く——言った。
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「——他にも——ですか——!!」
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「——うむ」
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——彼は——皆瀬に——合図した。
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——別の——箇所が——映った。
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「——読みます」
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——ルカが——震える——声で——言った。
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「——"ハラムの里"」
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「——"ゴードン"」
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「——"サディム"」
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「——"セイラ"」
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「…………」
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「——待って——ください」
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——誠が——立ち上がった。
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「——それ——全部——僕が——聞いた——名前です」
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「…………」
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「——十七年——前からです」
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——彼は——かすれた——声で——言った。
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「——僕が——里を——回って——聞いた——名前です」
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「…………」
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——荒野が。
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——完全に——静まり返った。
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「——魔王さん」
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——誠が——尋ねた。
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「——なんだ」
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「——いくつ——読みましたか」
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「——半分だ」
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「——数は——!!」
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「…………」
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——魔王は。
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——静かに——言った。
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「——二万——三千ほどだ」
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「…………」
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「——アカリさん——!!」
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——誠が——叫んだ。
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「——名簿は——!!」
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「——ございます——!!」
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——アカリが——分厚い——束を——抱えてきた。
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「——照らして——ください——!!」
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## 照合
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——七日、かかった。
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——ルカと——アカリと——五百人の——弟子が。
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——一つずつ——照らし合わせた。
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——そして——八日目の——朝。
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「——出ました」
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——アカリが——帳面を——置いた。
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「——どうだ——!!」
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「——二万——三千——四百——十二」
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——彼は——静かに——言った。
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「——全部——名簿に——ございます」
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「…………」
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「——全部——か——!?」
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「——一つ——残らず」
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「…………」
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——工房が。
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——凍りついた。
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「——それと——一つ——ございます」
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——アカリが——付け加えた。
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「——なんですか」
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「——順番です」
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「——順番?」
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「——彫られた——順が」
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——アカリは——静かに——言った。
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「——田中様が——お聞きに——なった——順と——同じです」
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「…………」
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——誠は。
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——動けなかった。
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「——一番——最初は」
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「——ハラムの里の——ゴードン様です」
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「…………」
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「——十七年——前に——広場で——聞かれました」
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「…………」
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——工房が。
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——静まり返った。
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「——では」
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——ミネルが——かすれた——声で——言った。
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「——あの——石は」
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「——書き足されて——おります」
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——アカリが——静かに——言った。
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「——十七年——かけて」
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「…………」
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「——誰がだ——!!」
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「…………」
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——誰も。
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——答えられなかった。
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## 神
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——その、夜。
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——誠は——地上に——上がった。
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「——神様」
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——彼は——呼びかけた。
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「——聞きたいことが——あります」
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『——繋がった』
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——十二番が——揺れた。
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「——あの——石を——ご存知ですか」
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『…………』
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『——"知らん"、って』
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「——本当ですか」
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『——"ほんまや"、って』
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「…………」
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「——では——もう一つ」
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——誠は——静かに——言った。
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「——あの、石——月の——一部ですか」
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『…………』
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——長い——沈黙が——あった。
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——そして。
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『——"違う"、って』
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「…………」
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「——では——なぜ——重さが——足りないんですか」
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『…………』
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『——"ワイの——半身が——一厘——足らんのは"』
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『——"別の——理由や"、って』
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「——なんですか——!!」
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『…………』
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『——"言えん"、って』
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「——なぜですか——!!」
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『…………』
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『——"まだ——早い"、って』
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「…………」
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——誠は。
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——空を——見上げた。
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——そして——ぽつり、と——言った。
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「——神様」
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『——"なんや"』
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「——あの、石」
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『…………』
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「——誰かが——僕たちの——名前を——書いてます」
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『…………』
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「——十七年——かけて」
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——誠は——静かに——言った。
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「——僕が——聞いた——順に」
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『…………』
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「——心当たりは——ありませんか」
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『…………』
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——長い——沈黙が——あった。
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——そして。
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『——"ある"、って』
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「…………」
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「——誰ですか」
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『…………』
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『——"見とる——奴や"、って』
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「…………」
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——誠の。
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——動きが——止まった。
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「——十一号さんが——言ってた——方ですか」
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『——"せや"、って』
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「——なぜ——書くんですか」
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『…………』
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『——"知らん"、って』
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「…………」
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『——まだ——ある』
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「——なんですか」
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『——"けどな"』
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『——"ワイの——名前も——書いてある"、って』
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「…………」
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——誠は。
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——空を——見上げたまま。
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——長い、こと——動かなかった。
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「——神様」
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『——"なんや"』
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「——お名前——あるんですか」
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『…………』
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『——"あった"、って』
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「…………」
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「——忘れたんですか」
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『——"忘れた"、って』
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「…………」
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——誠は。
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——しばらく——黙って。
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——そして——言った。
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「——読みに——行きます」
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『…………』
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『——"何を"、って』
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「——神様の——名前です」
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『…………』
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「——書いてあるんですよね」
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『…………』
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『——返事が——ない』
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「——切れましたか」
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『——ううん』
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——十二番は——ぽつり、と——言った。
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『——泣いてる』
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
*「魔王さんが、十日遅れて戻ってきた。ヒカルさんが受け止めた。……でも、手の中には、何もなかった。取れなかったのか聞いたら、"取らなんだ"、って。……"あれは月ではない"、と。……皆瀬さんが映してくれた。小さな石。よく見たら、表面に文字が彫ってあった。……ルカが読んで、"名前です。数え切れません"、って。……魔王さんが、一月かけて近づいて、二月かけて半分読んだ。だから遅れた。彫られたのは、魔王さんより古い、って。七百八十二年より前。……なぜ取らなかったのか聞かれて、あの人が僕に、"貴殿ならどうする。名の彫られた石を見つけた時に、黙って持ち帰るか"、って。……読みます、って答えた。"さようであろう。ゆえに我は読んで参った"、って。……そして、妙なことがあった。名の中に、"空見の爺さま"、があった。二十七年前に、僕がつけた名前です。七百年前の石に。……それだけじゃなかった。"ハラムの里"、"ゴードン"、"サディム"、"セイラ"。全部、僕が聞いた名前でした。……七日かけて照合した。二万三千四百十二。全部、名簿にあった。一つ残らず。……しかも、彫られた順が、僕が聞いた順と同じだった。一番最初は、ゴードンさん。十七年前、広場で聞いた方です。……書き足されてる。十七年かけて。誰かが。……夜、神様に聞いた。あの石をご存知ですか、って。"知らん"、って。月の一部ですか、って。"違う"、って。……では、なぜ一厘足りないのか。"別の理由や"、"言えん"、"まだ早い"、って。……それで、言った。誰かが僕たちの名前を書いてます。十七年かけて、僕が聞いた順に。心当たりはありませんか、って。……"ある"、って。誰ですか、って聞いたら、"見とる奴や"、って。十一号さんが言ってた方でした。なぜ書くのか聞いたら、"知らん"、って。……そして、"けどな、ワイの名前も書いてある"、って。……お名前あるんですか、って聞いた。"あった"、って。忘れたんですか、って。"忘れた"、って。……読みに行きます、って言った。何を、って聞かれて、神様の名前です、って答えた。書いてあるんですよね、って。……返事が、なかった。皆瀬さんが、"切れてない。泣いてる"、って。じいちゃん。あの人、名前が、あったそうです」*
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——たとえ——空に——見えなくても。
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まだこの時の誠は知らない。七百年——より——古い——石に。
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——なぜ——十七年——分の——名が——書き足されて——いるのかを。
そして——その——石を——彫って——いる——者が。
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——いつから——この、世界を——見て——いたのかも。
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——今は……まだ、彫って——いる——本人しか——知らない。




