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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「駄々丸、忍術を披露する」

きっかけは。





——一人の——子どもの——問い、だった。







「——おじちゃん——忍者?」








「…………」







——駄々丸が——顔を——上げた。







「——なぜ——さようなことを」






「——ジンおじちゃんが——言ってた——!!」








「——ジン様が?」






「——"あの、爺さんは——足音が——せぬ"、って——!!」








「…………」







——駄々丸は。






——しばらく——黙って。






——そして——扇子を——開いた。








「——さようで——ござんす」








「——ええーー——!!」







——子どもが——目を——輝かせた。







「——忍術——見せて——!!」








「——よろしゅう——ござんす」









## 高座






——噂は——半日で——広がった。







——高座の——前には——三万が——集まっていた。








「——多すぎませんか——!!」







——誠が——叫んだ。







「——忍術ですので」








——セレスが——けろり、と——言った。







「——実況も——しますね」






「——当然です——!!」









## 一、水遁






「——えー」







——駄々丸が——上がった。







「——本日は——忍術を——お目に——かけやす」








「——おおお——!!」







「——まずは——水遁の——術——!!」








「——水遁——!?」







——ミネルが——身を——乗り出した。







——ぽん——!!







——煙が——上がった。








「——消えたぞ——!!」







——だが——煙が——晴れると。







——大鍋が——置かれていた。








「…………」







「——本日の——水団で——ござんす」








「——すいとんかーーい——!!」







——広場が——絶叫した。








「——熱い——うちに——どうぞ」







——駄々丸が——椀を——配り始めた。








「——うまい——!!」






「——騙されたが——うまい——!!」








「——コメント——!!」






「——"やられた"、"腹減った"、って——!!」









## 二、火遁






「——続いて——火遁の——術——!!」







——ぼう——!!







——炎が——舞い上がった。








「——燃えるぞ——!!」






「——危ない——!!」








「——完成で——ござんす」







——炭火の——串焼き、だった。








「…………」







「——火加減が——絶妙で——ござんす」








「——料理か——!!」







——ボンゴが——立ち上がった。







「——待て——!! 焼き加減が——見事だ——!!」








「——恐れ入りやす」






「——弟子に——なれ——!!」








「——師匠が——弟子に——なるんですか——!!」









## 三、土遁






「——土遁の——術——!!」







——駄々丸が——地面に——潜った。








「——消えた——!!」






「——本物だ——!!」








——数を——数える——ほど、後。







——畑から——出てきた。







——大根を——抱えて。








「——採れたてで——ござんす」








「——収穫か——!!」







「——いい——大根ね」








——エリナが——受け取った。







「——エリナさん——!! 乗らないで——ください——!!」






「——今日の——夕飯に——するわ」









## 四、影分身






「——影分身の——術——!!」







——ぽん——!!







——十人に——増えた。








「——おおお——!!」






「——本物の——忍術だ——!!」








——だが——十人が——一斉に。






——蕎麦を——打ち始めた。








「…………」







「——昼時は——立て込みやすので」








「——蕎麦屋か——!!」







——ミネルが——絶叫した。







「——だが——速いです——!!」








——アカリが——帳面を——見た。







「——十倍の——速さで——ございます」






「——数えるな——!!」









## 五、手裏剣






「——手裏剣の——術——!!」







——しゅっ——!!







「——危ない——!!」








——客が——身構えた——が。







——串焼きが——飛んできて。






——皿に——突き刺さった。








「…………」







「——一本——追加で——ござんす」








「——危ない——配膳だ——!!」







——だが——ゴウが——立ち上がった。








「——待て——!!」






「——なんで——ござんす」








「——今の——投げ方は——見事だ——!!」







——彼は——真面目な——顔で——言った。







「——腰が——入って——おる——!!」






「——鍛錬の——賜物で——ござんす」








「——弟子に——なれ——!!」






「——また——ですか——!!」









## 六、変化






「——変化の——術——!!」







——ぽん——!!







——狸に——なった。








「——おおお——!!」






「——かわいい——!!」








——拍手が——起きた。







——そして——元に——戻った。








「——本日の——狸うどんで——ござんす」








「——関係——ない——!!」







——広場が——絶叫した。








「——関係——ござんす」







——駄々丸は——真面目な——顔で——言った。







「——どこがですか——!!」






「——気持ちが——狸で——ござんした」








「——ルナさんと——同じです——!!」







——誠が——叫んだ。







「——あら」








——ルナが——最前列で——微笑んでいた。







「——来てたんですか——!!」






「——偶然ですわ」









## 七、分身・落語編






「——続きまして——分身の——術——!!」







——ぽん——!!







——五人に——増えた。








「——また——増えた——!!」







——そして——五人が——一斉に。






——違う——噺を——始めた。








「——えー——ある、ところに——!!」






「——えー——昔——昔——!!」






「——えー——大工が——!!」






「——えー——魚屋が——!!」






「——えー——蕎麦屋が——!!」








「——どれを——聞けば——よいのだ——!!」







——ミネルが——頭を——抱えた。







「——お好きな——ものを」








「——選べるか——!!」








——だが。






——妙な、ことが——起きた。








「——おい——!!」







——鬼族が——叫んだ。







「——五つとも——落ちが——同じだぞ——!!」








「…………」







——五人が——同時に——言った。








「——"一本——曲がったくらいでは——家は——倒れねェ"」








「…………」







——広場が。






——静まった。








「——うまい——!!」







——誰かが——叫んだ。







「——五つ——別の——噺なのに——!!」






「——同じ——落ちだ——!!」








「——コメントが——!!」






「——"技術がすごい"、"泣いた"、って——!!」









## 八、空蝉






「——続いて——空蝉の——術で——ござんす」







「——それは——どういう——ものだ——!!」








「——ちょうど——参りやした」







——駄々丸が——扇子で——後ろを——指した。







——黒ずくめが——五人。








「——駄々丸殿——!!」







——赤が——叫んだ。







「——先月の——酒代を——!!」








「——借金取りか——!!」







——広場が——沸いた。







——ぽん——!!







——煙が——上がった。







——そして——晴れると。







——座布団だけが——残っていた。








「——消えた——!!」






「——どこへ——!!」








——天井の——梁から——声が——した。







「——本日は——休演で——ござんす」








「——出て——おるであろう——!!」







——赤が——絶叫した。







「——今——高座に——おったであろう——!!」








「——あれは——分身で——ござんす」







「——ずるい——!!」








「——ちなみに」







——ルナが——澄まして——言った。







「——利息が——ついて——おりますわ」








「——降りやす——!!」







——駄々丸が——即座に——降りてきた。








「——早い——!!」









## 九、忍び足






「——続いて——忍び足で——ござんす」







「——ジンさんの——得意技ですね」








——誠が——言うと。






——ジンが——最前列で——腕を——組んだ。








「——見せて——もらおう」






「——では」








——駄々丸が——高座を——降りた。







——そして——歩き始めた。







——三万の——客席を。







——誰にも——気づかれずに。







——一周して——高座に——戻った。








「——成功で——ござんす」








「…………」







「——いつ——始まるんです——!?」







——ミネルが——尋ねた。







「——もう——終わりやした」








「——見せろ——!!」






「——見えたら——忍び足では——ござんせん」








「…………」







「——正論だ——!!」








——だが——ジンが——低く——言った。







「——気づいて——おった」






「——ほう」








「——右から——回られたな」






「——さようで——ござんす」








——駄々丸が——にやり、と——した。







「——さすがで——ござんすね」






「——鈴を——外して——おいた」








「——ずるいです——!!」









## 十、口寄せ






「——では——最後で——ござんす」







——駄々丸が——扇子を——構えた。







「——究極の——奥義——!!」








「——おおお——!!」






「——口寄せの——術——!!」








——ぽん——!!







——煙が——上がった。







——そして——晴れると。







——そこに。







——老人が——立っていた。








「…………」







——広場が。






——静まり返った。








「——馬鹿者」







——老人が——低く——言った。







「——ネタ帳を——忘れて——おるぞ」








「…………」







——駄々丸の。






——扇子が——落ちた。








「…………」







「——師匠?」








「——それを——呼ぶ——術では——ござんせん——!!」







——彼は——絶叫した。








「——呼んだであろう」







——老人は——けろり、と——言った。







「——呼びやせん——!!」






「——出て——おる」








「…………」







——広場が。






——騒然と——なった。








「——本物か——!?」






「——出た——!!」






「——本当に——出た——!!」








「——待って——ください」







——誠が——前に——出た。







「——どちら様ですか」








「——師匠だ」







——老人が——言った。







「——こやつの、な」








「——駄々丸さんの——ですか」






「——うむ」








「…………」







——誠は。






——駄々丸を——見た。







——彼は——固まっていた。








「——駄々丸さん」






「…………」






「——ご存知ですか」








「…………」







——駄々丸は。






——ゆっくりと——頷いた。







「——覚えて——おりやす」








「…………」







「——三十年ぶりで——ござんす」








「…………」







——広場が。






——完全に——静まった。








「——本日は——何を——やる」







——老人が——尋ねた。







「…………」






「——決めて——おりやせん」








「——ならば——"時そば"、だ」







「——また——蕎麦で——ござんすか」








「——忍者であろう」







——老人は——けろり、と——言った。







「——まずは——水団から、だ」








「…………」







「——それ——順番が——逆で——ござんす——!!」








「——うおおおおお——!!」







——広場が——爆発した。









## 後で






——高座が——終わった——後。







「——駄々丸さん」







——誠が——尋ねた。







「——さっきの——方は」








「——消えやした」







——駄々丸は——静かに——言った。







「——煙と——一緒に、で——ござんす」








「——本物——だったんですか」






「——さあ」








——駄々丸は——首を——かしげた。







「——あっしが——呼んだ——覚えは——ござんせん」








「…………」







「——ですが」







——彼は——ぽつり、と——言った。







「——確かに——師匠で——ござんした」








「…………」







「——顔も——声も」







——駄々丸は——うつむいた。







「——"馬鹿者"、の——言い方も」








「…………」







——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——尋ねた。








「——駄々丸さん」






「——へえ」






「——お名前は——思い出しましたか」








「…………」







——駄々丸は。






——長い、こと——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——呼ばれやせんでした」








「——え?」






「——師匠は——あっしを——"馬鹿者"、と——しか——呼びやせん」








「…………」







「——三十年——前も——さようで——ござんした」







——彼は——低く——笑った。







「——変わって——おりやせん」








「…………」







「——駄々丸さん」






「——へえ」






「——それ——愛称ですね」








「…………」







——駄々丸は。






——顔を——上げた。







——そして——目元を——袖で——押さえた。








「——旦那は——ずるう——ござんすね」






「——八百屋ですから」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「子どもに、"おじちゃん、忍者?"、って聞かれて、駄々丸さんが、"さようでござんす"、って。ジンさんが、"あの爺さんは足音がせぬ"、と言ってたらしい。……半日で噂が広がって、三万集まった。……水遁の術で、煙が晴れたら大鍋。"本日の水団でござんす"。皆、絶叫してたけど、うまかった。……火遁で炭火の串焼き。ボンゴさんが、"焼き加減が見事だ。弟子になれ"、って。師匠が弟子になるんですか。……土遁で地面に潜って、畑から大根を持って出てきた。エリナが、"いい大根ね。今日の夕飯にするわ"、って。乗らないでください。……影分身で十人に増えて、全員で蕎麦を打ち始めた。"昼時は立て込みやすので"。アカリさんが、"十倍の速さでございます"、って数えてた。……手裏剣で串焼きが皿に刺さって、ゴウさんが、"腰が入っておる。弟子になれ"、って。また、です。……変化で狸になって、"本日の狸うどんでござんす"。関係ないです、って言ったら、"気持ちが狸でござんした"、って。ルナさんと同じです。あの人、最前列にいました。……分身で五人になって、五つ違う噺を同時に始めた。でも、落ちが五つとも同じだった。"一本曲がったくらいでは、家は倒れねェ"。……空蝉の術の時に、ちょうど赤さんたちが酒代の取り立てに来て、煙で消えて、梁の上から"本日は休演でござんす"、って。でも、ルナさんが"利息がついておりますわ"、って言ったら、即座に降りてきました。……忍び足で三万の客席を一周して、誰にも気づかれずに戻ってきた。ジンさんだけが、"右から回られたな"、って。鈴を外してたそうです。ずるいです。……そして、最後。口寄せの術。……煙が晴れたら、老人が立ってた。"馬鹿者。ネタ帳を忘れておるぞ"、って。……駄々丸さんの、師匠だった。あの人、扇子を落として、固まってた。三十年ぶりだ、って。……"本日は何をやる"、"決めておりやせん"、"ならば時そばだ"、"また蕎麦でござんすか"、"忍者であろう。まずは水団からだ"、で、広場が爆発した。……後で聞いたら、煙と一緒に消えたそうだ。呼んだ覚えはない、と。でも、確かに師匠だった。顔も声も、"馬鹿者"、の言い方も。……名前は思い出しましたか、って聞いたら、"呼ばれやせんでした。師匠はあっしを、馬鹿者、としか呼びやせん。三十年前もさようで。変わっておりやせん"、って。……それ、愛称ですね、って言ったら、袖で目元を押さえてました。じいちゃん。誰かが、呼んでくれたみたいです」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。誰も——呼んで——いない——はずの——師匠が。




——なぜ——あの——場に——現れたのかを。


そして——「ネタ帳を——忘れて——おるぞ」、という——その、一言が。




——何を——指して——いたのかも。





——今は……まだ、呼ばれた——本人しか——知らない。

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