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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「決め台詞、大会」

きっかけは。





——セレスの——一言、だった。







「——決め台詞の——大会を——やりましょう——!!」







「——なぜですか」








——誠が——尋ねると。






——彼女は——板を——掲げた。








「——虚空の——皆さんの——ご要望です——!!」







「——どんな——ですか」






「——"転移者の——決め台詞が——聞きたい"、って——!!」








「…………」







「——皆さん——喜ぶと——思います」







——誠は——ため息を——ついた。







「——嫌な——予感が——しますけど」









## 開催






——広場に——高座が——組まれた。







——出場者は——十人。







——観客は——十万を——超えていた。








「——多すぎます——!!」







——誠が——絶叫した。







「——魔物の——皆さんも——来られました——!!」








「——ウ——!!」







——ウーが——最前列に——座っていた。







「——ウーさん——仕事は」






「——きょうは——やすみ」








「——勝手に——決めないで——ください——!!」









## 一番手






「——では——始めます——!!」







——セレスが——札を——掲げた。







「——一番——ゴウさん——!!」








「——おう——!!」







——武闘家が——上がった。







——そして——構えた。








「——お前は——もう——死んで——おる」








「…………」







——広場が。






——静まり返った。








「——物騒です——!!」







——誠が——叫んだ。







「——決め台詞だ——!!」








「——コメント——読みます——!!」







——セレスが——板を——見た。







「——"きた"、"世代"、"ひでぶ"、って——!!」








「——分かる——者が——おるか——!!」







——ゴウが——身を——乗り出した。







「——多いです——!!」








「——うおおお——!!」









——だが。






——カゲが——手を——挙げた。








「——待て」






「——なんだ——!!」






「——貴殿は——誰も——殺して——おらぬであろう」








「…………」







「——三十年——だ」







——カゲが——静かに——言った。







「——一人も」








「…………」







——ゴウは。






——しばらく——黙って。






——そして——ぼそり、と——言い直した。








「——お前は——もう——食うて——おる」








「…………」







「——意味が——変わりました——!!」







「——健康の——話だ——!!」








「——コメントが——!!」






「——"急に——優しい"、"好き"、って——!!」









## 二番手






「——二番——ミネルさん——!!」







「——うむ」








——賢者が——上がった。







「——これは——若い——頃の——ものだ」







——彼は——咳払いした。








「——"生殺与奪の——権を——他人に——握らせるな"——!!」








「…………」







「——おおお——!!」







——広場が——沸いた。








「——ミネルさん——格好いいです——!!」







——セレスが——叫んだ。







「——そうであろう——!!」








——だが——誠が——首を——かしげた。








「——ミネルさん」






「——なんだ」






「——それ——三十年——守ってませんよね」








「…………」







「——なんだと?」






「——神様に——握らせっぱなしです」








「…………」







——広場が。






——どっ、と——笑った。








「——うるさい——!!」







——ミネルが——顔を——赤くした。







「——だが——今は——違うぞ——!!」








「——そうですね」







——誠が——微笑んだ。







「——今は——こっちから——手紙を——出してます」








「——それは——お前だ——!!」









## 三番手






「——三番——一色さん——!!」







「——私も——出るの——!?」








「——名簿に——ございます——!!」







「——書いた——覚えが——ないわ——!!」








——だが——彼女は——上がった。







——そして——しばらく——考えて。







「——"憧れは——理解から——最も——遠い——感情だ"」








「…………」







——広場が。






——静まった。








「——深いです——!!」







——セレスが——叫んだ。







「——コメントも——"急に——刺さる"、って——!!」








「——一色さん」







——誠が——尋ねた。







「——どういう——意味ですか」






「——そのままよ」








——一色は——静かに——言った。







「——憧れてる——うちは——分からないの」






「——分かろうと——した、時に——初めて——近づく」








「…………」







「——誰に——ですか」






「——あなたよ」








「…………え?」







——誠が——固まった。







「——三十年——前は——憧れてたの」








——一色は——顔を——背けた。







「——"すごい——人だ"、って」






「——でも——分かって——なかった」








「…………」







「——今は?」






「——分かってきたわ」








——彼女は——ぼそり、と——言った。







「——ただの——面倒くさい——八百屋よ」








「——ひどいです——!!」







——広場が——笑った。









## 四番手






「——四番——ジンさん——!!」







「…………」








——盗賊が——ぬるり、と——現れた。







「——いつから——そこに——!?」







——セレスが——飛び上がった。








「——最初から」






「——気づきませんでした——!!」








「——クセに——なってんだ」







——ジンが——ぼそり、と——言った。







「——音——殺して——歩くの」








「…………」







「——格好いい——!!」







——広場が——沸いた。








「——コメント——大変です——!!」






「——"優勝"、"渋い"、って——!!」








「…………」







——だが——ジンは。






——気まずそうに——うつむいた。








「——ジンさん?」






「——今は——違う」








「——え?」






「——足音を——立てるように——して——おる」








——彼は——ぼそり、と——言った。







「——なぜですか」






「——皆が——驚くからだ」








「…………」







「——ゴブリンの——子どもが——泣いた」







——ジンは——静かに——言った。







「——後ろに——立って——おったからだ」








「…………」







「——それから——鈴を——つけた」








——彼は——腰の——鈴を——鳴らした。







——ちりん。








「…………」







「——盗賊の——意味が——ないです——!!」






「——構わぬ」









## 五番手






「——五番——アルフレートさん——!!」







「——うむ」








——元・大英雄が——上がった。







——芋の——袋を——担いだまま。








「——降ろして——ください——!!」






「——仕事中だ」








「…………」







——彼は——咳払いした。







「——"諦めたら——そこで——試合——終了だぞ"」








「…………」







「——いい——言葉です——!!」







——セレスが——叫んだ。







「——コメントも——"名言"、って——!!」








「——だが——な」







——アルフレートが——付け加えた。







「——私は——五回——諦めた」








「…………」







「——五回——死んだからな」







——彼は——けろり、と——言った。







「——だが——試合は——終わらなんだ」








「…………」







「——ゆえに——言い直す」








——アルフレートは——袋を——担ぎ直した。







「——"諦めても——試合は——終わらぬ"」








「…………」







「——"周りが——続けて——おるからな"」








「…………」







——広場が。






——しん、と——なった。








「——コメントが——止まりました——!!」







——セレスが——言った。







——そして。







「——一斉に——"泣いた"、って——!!」









## 六番手






「——六番——グランデルさん——!!」







「——おうよ——!!」








——鬼族が——上がった。







——そして——胸を——張った。








「——ワシが——来たァ——!!」








「…………」







「——それだけですか——!!」






「——それだけだァ——!!」








「——短い——!!」






「——だが——効くゥ——!!」








——グランデルは——けろり、と——言った。







「——崩落の、時にな」






「——これを——言うと——皆——泣き止むゥ——!!」








「…………」







「——本当ですか」






「——本当だァ——!!」








「——三十年——やっとるゥ——!!」







——彼は——胸を——叩いた。







「——瓦礫の——下に——聞こえるようにな——!!」








「…………」







「——コメント——!!」






「——"泣いた"、"デカい声には——意味が——ある"、って——!!」








「——うおおお——!!」







——グランデルが——泣き出した。








「——泣くの——早いです——!!」









## 七番手






「——七番——カゲさん——!!」







「——うむ」








——仮面の——男が——上がった。







「——私の——ものは——短い」







——彼は——静かに——言った。








「——"立って——歩け。前へ——進め"」








「…………」







——広場が。






——静まった。








「——渋いです——!!」






「——コメントも——"名台詞"、って——!!」








「——だが——な」







——カゲが——付け加えた。







「——これは——私が——言われた——言葉だ」








「…………え?」







「——向こうの——世界で——な」








——彼は——静かに——言った。







「——死んだ——後に——動けなく——なった、時だ」








「…………」







「——誰が——言ったんですか」







——誠が——尋ねると。






——カゲは——ぼそり、と——言った。








「——覚えて——おらぬ」








「…………」







「——だが——立った」







——彼は——顔を——上げた。







「——ゆえに——今——言うて——回って——おる」








「…………」









## 八番手






「——八番——レオンさん——!!」







「——待って——おった——!!」








——光の勇者が——飛び上がった。







——そして——拳を——突き上げた。








「——俺は——世界一の——勇者に——なる——!!」








「…………」







「——出ました——!!」







——セレスが——叫んだ。







「——三十年ぶりです——!!」








「——待て」







——ミネルが——訝しんだ。







「——お前——"主人公では——ない"、と——言うたであろう」








「——言うた」







——レオンは——けろり、と——言った。







「——だが——勇者には——なる」








「——違うのか——!?」






「——違う」








——彼は——静かに——言った。







「——主人公は——一人だ」






「——だが——勇者は——何人——おってもよい」








「…………」







——広場が。






——静まった。








「——コメントが——!!」






「——"それは——盲点"、"かっこいい"、って——!!」








「——だろう——!!」







——レオンが——胸を——張った。







「——ゆえに——皆——勇者に——なれ——!!」








「——ウ——!!」







——ウーが——手を——挙げた。







「——おれも——なれるか」








「——なれる——!!」







——レオンが——即答した。







「——ウ——!!」









## 九番手






「——九番——ノワールさん——!!」







「——うむ」








——首領が——マントを——翻した。







「——我は——決めて——おる」







——彼は——指を——突きつけた。








「——"世界の——頂に——立つのは——我だ"——!!」








「——おおお——!!」






「——首領——!!」






「——イーーーッ——!!」








「——コメント——!!」







——セレスが——読んだ。







「——"予定表は"、って——!!」








「…………」







「——来月——三日だ——!!」








「——"やっぱり"、って——!!」







「——うるさい——!!」









## 十番手






「——十番——ガオゴンさん——!!」







「——ガオ——!?」








——怪獣が——きょとん、と——した。







「——出場者に——なってます——!!」






「——ガオ……」








『——"聞いてない"、って』







——皆瀬が——通訳した。








「——お願いします——!!」






「——ガオ——!!」








——ガオゴンは。






——しばらく——考えて。






——そして——胸を——張った。








「——ガオーー——!!」








「…………」







「——通訳を——!!」








『——"ワクワクする"、って』








「…………」







「——それだけですか——!!」






『——"それだけ"、って』








「——なぜ——ワクワクするんですか——!!」







——誠が——尋ねると。






——ガオゴンは——広場を——見回した。








「——ガオ」







『——"皆が——おる"、って』








「…………」







『——"四十八年——一人だった"、って』







『——"今は——十万——おる"、って』








「…………」







『——"だから——毎朝——ワクワクする"、って』








「…………」







——広場が。






——完全に——静まった。







——そして。







「——うおおおおお——!!」








——十万が——立ち上がった。







「——ガオゴン——!!」






「——優勝だ——!!」






「——イーーーッ——!!」








「——ガオ——!?」







——本人が——一番——驚いていた。









## 結果






「——では——結果です——!!」







——セレスが——板を——掲げた。







「——虚空の——皆さんの——投票です——!!」








「——第三位——カゲさん——!!」







「——うむ」








「——第二位——アルフレートさん——!!」







「——芋は——どうした」








「——担いだままです——!!」








「——そして——第一位——!!」







——セレスが——間を——取った。







「——ガオゴンさん——!!」








「——ガオーー——!!」







——広場が——沸いた。








「——理由が——書いてあります——!!」







——セレスが——読んだ。







「——"一番——短いのに——一番——伝わった"、って——!!」








「…………」







「——それと——!!」






「——"決め台詞って——こういうこと"、って——!!」








「…………」







——ガオゴンは。






——高座の——上で——うつむいていた。







——そして——ぽつり、と——鳴いた。








「——ガオ……」







『——"泣いてない"、って』








「——泣いてますね」






『——"泣いてない"』









## 最後






「——最後に——!!」







——セレスが——叫んだ。







「——飛び入りが——ございます——!!」








「——誰ですか」






「——田中さんです——!!」








「——聞いてません——!!」






「——虚空の——ご要望です——!!」








「…………」







——誠は。






——渋々——上がった。







——十万が——見ている。








「——僕、決め台詞——ないんですけど」







「——何か——お願いします——!!」








「…………」







——誠は。






——しばらく——考えて。






——そして——ぺこり、と——頭を——下げた。








「——いらっしゃいませ」








「…………」







「——それだけですか——!!」







——セレスが——叫んだ。







「——それだけです」








——誠は——けろり、と——言った。







「——八百屋ですから」








「…………」







——広場が。






——妙に——静かに——なった。








「——コメントが——!!」







——セレスが——板を——見た。







「——なんて——ありますか」








「…………」







——彼女の——手が。






——止まった。








「——セレスさん?」






「——"三十年——それだった"、って」








「…………」







「——"毎日——聞いてた"、って」








「…………」







「——それと——!!」







——セレスが——顔を——上げた。







「——"優勝"、って——!!」








「——ガオゴンさんです——!!」







——誠が——叫んだ。







「——決まってます——!!」








「——ガオ——!!」







——ガオゴンが——首を——振っていた。








『——"あんたが——優勝"、って』








「——譲らないで——ください——!!」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「セレスさんが、決め台詞の大会をやりたい、と。虚空の皆さんのご要望だそうだ。……ゴウさんが、"お前はもう死んでおる"、って。物騒です。カゲさんに、"貴殿は誰も殺しておらぬであろう。三十年、一人も"、って言われて、"お前はもう食うておる"、に言い直してた。意味が変わりました。……ミネルさんが、"生殺与奪の権を他人に握らせるな"、って。格好いいけど、三十年、神様に握らせっぱなしですよね、って言ったら、怒られた。……一色さんが、"憧れは理解から最も遠い感情だ"、って。誰にですか、って聞いたら、"あなたよ。三十年前は憧れてたの。でも分かってなかった。今は、ただの面倒くさい八百屋よ"、って。ひどいです。……ジンさんが、"クセになってんだ、音殺して歩くの"。格好よかったけど、今は鈴をつけてる。ゴブリンの子どもが泣いたから。盗賊の意味がないです。……アルフレート様が、"諦めたらそこで試合終了だぞ"、って。でも、"私は五回諦めた。五回死んだからな。だが試合は終わらなんだ"、って。……それで、言い直された。"諦めても試合は終わらぬ。周りが続けておるからな"。……コメントが止まって、それから一斉に、"泣いた"、って。……グランデルさんが、"ワシが来たァ"。短いけど、崩落の時に言うと皆、泣き止むそうだ。瓦礫の下に聞こえるように。三十年、やってる。本人が先に泣いてました。……カゲさんが、"立って歩け。前へ進め"。でも、これは自分が言われた言葉だ、って。死んだ後、動けなくなった時に。誰が言ったかは覚えてない。でも立った。だから今、言って回ってる。……レオンさんが、"俺は世界一の勇者になる"。主人公じゃないと言ったのに、って聞かれて、"主人公は一人だ。だが勇者は何人おってもよい"、って。ウーさんが、"おれもなれるか"、"なれる"、って。……ノワールさんが、"世界の頂に立つのは我だ"。コメントに"予定表は"、って言われて、"来月三日だ"、って。……ガオゴンさんが、"ワクワクする"、って。それだけ。なぜか聞いたら、"皆がおる。四十八年、一人だった。今は十万おる。だから毎朝ワクワクする"、って。……十万が、立ち上がった。優勝でした。理由は、"一番短いのに一番伝わった"、"決め台詞ってこういうこと"、って。本人、泣いてないと言い張ってました。……最後に、なぜか僕も上げられた。決め台詞なんてないので、"いらっしゃいませ"、って言った。……そしたら、"三十年それだった"、"毎日聞いてた"、って。じいちゃん。皆さん、いい台詞を持ってます」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。虚空の——者たちが——「三十年——毎日——聞いてた」、と——書いた——その、言葉を。




——彼らが——なぜ——覚えて——いたのかを。


そして——「いらっしゃいませ」、が。




——この、世界で——最も——多く——発せられた——言葉であることも。





——今は……まだ、数えた——者しか——知らない。

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