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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第145話「十の、言葉」

魔王が——発って——二月半。





——荒野は——静かだった。







——だが——誠は。






——妙な、ことに——気づいていた。








「——アカリさん」






「——はい」






「——皆さん——最近——口数が——多く——ないですか」








「——多うございます」







——アカリが——即答した。







「——数えたんですか」






「——数えて——おります」








——彼は——帳面を——広げた。







「——同じ——言葉を——繰り返す——方が——増えて——おります」








「——同じ——言葉?」






「——はい」








——アカリは——静かに——言った。







「——ここ——一月で——十——ほど」






「——書いて——おきました」








「…………」







——誠は。






——帳面を——受け取った。









## 一つ目






*——「仲間を——傷つける——者は——許さぬ」*





*——アルフレート*








「——アルフレート様?」







——誠が——訝しんだ。







「——いつ——言いましたか」






「——先月です」








——アカリが——答えた。







「——荷運びの——最中に——ゴブリンの——方が——蹴られました」








「——誰にですか——!!」






「——地上から——来た——商人です」








——アカリは——静かに——言った。







「——"魔物が——道を——塞ぐな"、と」








「…………」







「——アルフレート様が——間に——入られました」








「——殴りましたか——!!」






「——殴られて——おりません」








——アカリは——首を——振った。







「——ただ——立って——おられました」






「——一刻」








「…………」







「——そして——"仲間を——傷つける——者は——許さぬ"、と」








「——それだけですか」






「——それだけです」








「——商人は?」






「——謝って——帰られました」








「…………」









## 二つ目






*——「今度の——人生は——本気で——生きる」*





*——レオン*








「——レオンさん?」







——誠が——顔を——上げた。







「——どこで——ですか」






「——学び舎です」








——アカリが——言った。







「——子どもに——聞かれたそうです」






「——何を——ですか」








「——"おじさんは——主人公?"、と」








「…………」







「——なんと——答えましたか」






「——"違う"、と」








「…………」







「——三十年——言い張って——おられましたのに」







——アカリは——静かに——言った。







「——それから——こう——続けられました」








「——なんと——ですか」







「——"一度目は——主人公の——つもりで——生きた"」








——アカリは——読み上げた。







「——"だが——世界は——滅んだ"」






「——"ゆえに——今度の——人生は——本気で——生きる"」








「…………」







「——子どもは——なんと——言いましたか」








「——"意味——分かんない"、と」







「——でしょうね」








「——ですが」







——アカリが——付け加えた。







「——その——子は——毎日——荷運びを——手伝って——おります」








「…………」









## 三つ目






*——「邪魔するなら——容赦せぬ」*





*——マギス*








「——マギスさん——物騒ですね」







——誠が——訝しんだ。







「——相手が——おります」








「——誰ですか」






「——ご自分です」








「…………え?」







「——訓練の、時です」








——アカリは——静かに——言った。







「——"派手に——やりたい"、と——思われたそうです」






「——癖で」








「…………」







「——ですが——派手に——やると——調子が——狂います」








「——揃わなく——なりますね」






「——さようです」








「——それで——ご自分に——ですか」






「——"邪魔するなら——容赦せぬ"、と」








「…………」







「——三十年——見栄で——生きて——こられた——方です」







——アカリは——ぽつり、と——言った。







「——それを——捨てるのは——難しいのでしょう」








「…………」









## 四つ目






*——「すべては——配下の——ために」*





*——ノワール*








「——首領——らしいですね」







——誠が——微笑んだ。







「——ですが——事情が——ございます」








「——なんですか」






「——八一八号様の、ことです」








「…………」







「——教会の——手伝いで——お疲れです」







——アカリは——静かに——言った。







「——組織の——仕事も——されて——おりました」








「——両方——ですか——!!」






「——さようです」








「——それで——首領は?」






「——組織の——仕事を——引き取られました」








——アカリは——帳面を——めくった。







「——ごみ拾いも——配給の——列も——予定表も」






「——全部——ご自分で」








「——首領が——ですか——!!」






「——さようです」








「——理由を——聞かれた、時に」







——アカリは——静かに——言った。







「——"すべては——配下の——ために"、と」








「…………」







「——格好つけてますね」






「——さようです」








「——でも——嬉しいです」









## 五つ目






*——「本が——ないなら——作れば——よい」*





*——ミネル*








「——ミネルさん?」







——誠が——顔を——上げた。







「——学び舎の、ことです」








——アカリが——言った。







「——魔物の——方々に——教える——本が——ございません」








「——ないんですか」






「——三十年——作って——おりませんので」








「…………」







「——ミネル様が——書いて——おられます」







——アカリは——静かに——言った。







「——毎晩」






「——何冊——ですか」








「——四十七冊——目です」








「——四十七——!?」






「——さようです」








「——いつからですか」






「——三年——前から」








「…………」







「——僕、知りませんでした」






「——言われませんので」








——アカリは——けろり、と——言った。







「——"本が——ないなら——作ればよい"、と——それだけ」








「…………」









## 六つ目






*——「生き残る——ためなら——何でも——やる」*





*——ジン*








「——ジンさん?」







——誠が——訝しんだ。







「——盗賊の——方ですね」






「——さようです」








「——何かの——時に——ですか」






「——崩落です」








——アカリは——静かに——言った。







「——先月——第九層で——通路が——崩れました」






「——聞いてません——!!」








「——半刻で——片付きましたので」







「——どうやって——ですか」








「——ジン様が——潜られました」







——アカリは——帳面を——見た。







「——瓦礫の——隙間から」






「——十二人——引き出されました」








「——危ないですね——!!」






「——止められました」








「——それで——なんと?」






「——"生き残る——ためなら——何でも——やる"、と」








「…………」







「——ご自分の、ことでは——ございません」







——アカリが——静かに——言った。







「——中の——十二人の、ことです」








「…………」









## 七つ目






*——「主役では——ない。影で——動く」*





*——カゲ*








「——カゲさん——らしいですね」







——誠が——微笑んだ。







「——ですが——事情が——ございます」








「——なんですか」






「——祝いの——席です」








——アカリは——言った。







「——月の——回収の、後に——催しが——ございました」






「——ありましたね」








「——カゲ様に——真ん中の——席を——用意しました」







「——当然です」








「——座られませんでした」








「…………」







「——なぜですか」






「——"主役では——ない"、と」








「——一番——遠くまで——行ったのに——!!」






「——さようです」








——アカリは——静かに——言った。







「——どこに——座られましたか」






「——厨の——裏です」








「…………」







「——子どもたちと——一緒に」








「…………」









## 八つ目






*——「まずは——安全——第一」*





*——赤*








「——赤さん?」







——誠が——顔を——上げた。







「——珍しいですね」






「——毎朝——申されて——おります」








「——毎朝——ですか」






「——里回りの——前に」








——アカリは——静かに——言った。







「——五人——揃って——申されます」






「——"まずは——安全——第一"、と」








「…………」







「——いつからですか」






「——三年——前です」








「——何かの——後ですか」






「——さようです」








——アカリは——帳面を——めくった。







「——里回りの——最中に——桃様が——倒れられました」








「——聞いてません——!!」






「——三日で——戻られましたので」








「…………」







「——それから、です」







——アカリは——静かに——言った。







「——毎朝——五人で——確かめて——から——出られます」








「…………」









## 九つ目






*——「謎が——あるなら——解いてみたい」*





*——一色*








「——一色さん——らしいですね」







——誠が——微笑んだ。







「——ですが——いつもと——違います」








「——何がですか」






「——今——追って——おられる——謎です」








「——月ですか」






「——違います」








——アカリは——首を——振った。







「——では——なんですか」






「——田中様です」








「…………え?」







——誠の——動きが——止まった。







「——三年——調べて——おられます」








——アカリは——静かに——言った。







「——なぜ——シャッフルに——かからぬのか」






「——なぜ——蘇生できぬのか」






「——なぜ——表示が——出ぬのか」








「…………」







「——分かりましたか」






「——分かりません」








「——では——なぜ——続けてるんですか」








「…………」







——アカリは。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——"あの、人が——先に——死んだら——困る"、と」








「…………」







「——それが——ご本人の——お言葉です」








「…………」







——誠は。






——帳面を——持つ——手を——止めた。









## 十






*——「いらっしゃい。今日も——いつもの——一皿を」*





*——ボンゴ*








「——ボンゴさん?」







——誠が——訝しんだ。







「——毎日——申されて——おります」








「——厨で——ですか」






「——さようです」








「——それは——挨拶では——ないですか」






「——さようです」








——アカリは——頷いた。







「——では——なぜ——書いたんですか」








「…………」







——アカリは。






——ぽつり、と——言った。








「——一番——多いからです」








「…………え?」







「——一日に——五千回——申されて——おります」








「——五千——!?」






「——三十年で——五千万を——超えます」








「…………」







——誠は。






——帳面を——見つめた。








「——アカリさん」






「——はい」






「——なぜ——これを——集めたんですか」








「…………」







——アカリは。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——数が——合わぬからです」








「——何がですか」






「——働きの——量です」








——彼は——別の——帳面を——出した。







「——十四万人で——できる——量を——超えて——おります」








「…………」







「——どれくらい——ですか」






「——一割五分」








「——多すぎますね」






「——さようです」








——アカリは——静かに——言った。







「——ですから——探して——おりました」






「——何を——ですか」








「——一割五分の——出所です」








「…………」







「——見つかりましたか」






「——見つかりました」








——アカリは——帳面を——閉じた。







「——これです」








「…………」







——誠は。






——十の——言葉を——見た。








「——言葉が——ですか」






「——さようです」








——アカリは——静かに——言った。







「——皆様——理由を——お持ちです」






「——理由の——ある——方は——余計に——働かれます」








「…………」







「——数字には——出ませんが」







——彼は——ぽつり、と——言った。







「——確かに——ございます」








「…………」









## そして






「——アカリさん」







——誠が——尋ねた。







「——はい」






「——あなたの——言葉は——ないんですか」








「…………」







——アカリは。






——固まった。







「——私は——数えるだけですので」








「——それが——言葉ですね」







「…………え?」








「——"数えるだけです"、って」







——誠は——微笑んだ。







「——六年——毎日——言ってます」








「…………」







「——書いて——おきます」







——誠は——ペンを——取った。







「——ご自分では——書けませんよね」








「…………」







——アカリは。






——顔を——覆った。









## 夜






——広場で。






——誠は——帳面を——読み返していた。








「——旦那」







——駄々丸が——並んだ。







「——駄々丸さん」






「——何を——読んで——おりやす」








「——皆さんの——口癖です」







——誠は——帳面を——渡した。








「——ほう」







——駄々丸は——めくった。







——そして——低く——笑った。








「——皆様——お変わりに——なりやしたね」







「——そうですか?」








「——三十年——前を——ご覧なせェ」







——駄々丸は——静かに——言った。







「——皆様——"俺が——主人公だ"、と——申されて——おりやした」








「…………」







「——今は——どうで——ござんす」








「…………」







——誠は。






——帳面を——見た。







——十の——言葉。







——どれにも。







——「俺」、が——なかった。








「…………」







「——本当ですね」








「——へえ」







——駄々丸は——扇子を——閉じた。







「——皆様——誰かの——ために——申されて——おりやす」








「…………」







「——旦那」






「——はい」






「——一つ——伺っても——ようござんすか」








「——どうぞ」






「——旦那の——口癖は——なんで——ござんしょう」








「…………」







——誠は。






——しばらく——考えて。






——そして——言った。








「——分かりません」







「——さようで——ござんすか」








——駄々丸は——にやり、と——した。







「——あっしは——存じて——おりやす」








「——なんですか」








「——"分けましょう"、で——ござんす」








「…………」







「——それと——もう一つ」








——駄々丸は——静かに——言った。







「——"お名前は"、で——ござんす」








「…………」







——誠は。






——空を——見上げた。







——そして——ぽつり、と——言った。








「——書いて——おいて——ください」






「——へえ」






「——僕、自分では——書けませんから」








「——承知しやした」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「アカリさんが、皆さんの口癖を集めてた。この一月で、十。……アルフレート様は、"仲間を傷つける者は許さぬ"。ゴブリンの方が商人に蹴られた時、間に入って、一刻、ただ立ってたそうだ。殴らずに。商人は謝って帰った。……レオンさんは、"今度の人生は本気で生きる"。子どもに、"おじさんは主人公?"、って聞かれて、"違う"、って答えた。三十年、言い張ってたのに。"一度目は主人公のつもりで生きた。だが世界は滅んだ"、って。……マギスさんは、"邪魔するなら容赦せぬ"。相手は、ご自分だった。派手にやりたくなる癖を、抑えてる。三十年、見栄で生きてきた方です。……ノワールさんは、"すべては配下のために"。八一八号さんが教会と組織の両方で疲れてたので、組織の仕事を全部、引き取ってた。ごみ拾いも配給の列も予定表も。格好つけてます。でも、嬉しいです。……ミネルさんは、"本がないなら作ればよい"。魔物の方々に教える本を、毎晩、書いてた。三年前から、四十七冊目。僕、知りませんでした。……ジンさんは、"生き残るためなら何でもやる"。先月、第九層の崩落で、瓦礫の隙間から潜って、十二人引き出した。ご自分のことじゃなくて、中の十二人のことでした。……カゲさんは、"主役ではない。影で動く"。祝いの席で真ん中の席を用意したのに、座らなかった。厨の裏で、子どもたちと一緒に食べてた。一番遠くまで行ったのに。……赤さんたちは、"まずは安全第一"。毎朝、五人揃って言ってから出る。三年前、里回りで桃さんが倒れてから。……一色さんは、"謎があるなら解いてみたい"。今、追ってる謎が、僕でした。三年、調べてる。理由は、"あの人が先に死んだら困る"、って。……ボンゴさんは、"いらっしゃい。今日もいつもの一皿を"。ただの挨拶ですけど、一日五千回。三十年で五千万を超えます。……なぜ集めたのか聞いたら、"数が合わぬからです。働きの量が、十四万人でできる量を、一割五分、超えております"、って。その出所を探してた。それが、これでした。"皆様、理由をお持ちです。理由のある方は、余計に働かれます。数字には出ませんが、確かにございます"、って。……あなたの言葉はないんですか、って聞いたら、固まってた。"私は数えるだけですので"。それが言葉ですね、って言って、書いておきました。ご自分では書けませんから。あの人、顔を覆ってた。……夜、駄々丸さんに帳面を見せたら、"皆様、お変わりになりやしたね。三十年前は、俺が主人公だ、と申されておりやした。今はどうで"、って。……見返したら、どれにも"俺"、がなかった。皆、誰かのために言ってた。……僕の口癖は、って聞かれて、分かりません、って答えたら、"あっしは存じております。分けましょう、と、お名前は、でござんす"、って。……書いておいてください、って頼みました。自分では書けませんから。じいちゃん。皆さん、変わりました」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。三十年——前には——誰も——持って——いなかった——十の——言葉が。




——いつ——誰から——生まれた——ものなのかを。


そして——そのすべてが——一人の——八百屋の——口癖から——枝分かれした——ものであることも。





——今は……まだ、書き留めた——本人しか——気づいて——いない。

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