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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第142話「足りない、一つ」

集まった。





——三千——四百——十二。






——一つ——残らず。







——荒野は——歓声に——包まれていた。







——だが。







「…………」







——一色だけが。






——板を——睨んでいた。








「——一色さん?」







——誠が——気づいた。







「——どうしました」






「…………」








「——一色さん」






「——足りない」








「…………え?」







——歓声が。






——すう、と——引いた。








「——何が——ですか」






「——重さよ」








——一色は——紙を——差し出した。







「——三千——四百——十二——全部——集めたわ」






「——でも——月に——ならない」








「——なぜですか——!!」







——ミネルが——叫んだ。







「——計算では——足りたのだろう——!!」






「——足りてたの」








——一色は——うめいた。







「——でも——実際に——測ったら——九分九厘」






「——一厘——足りない」








「——一厘——!?」






「——ええ」








「——それくらい——よかろう——!!」






「——駄目なの——!!」








——一色が——声を——荒らげた。







「——半身と——一つに——なるには——完全で——ないと——駄目——!!」






「——一厘でも——欠けたら——繋がらない——!!」








「…………」







——荒野が。






——凍りついた。








「——探せばよい——!!」







——レオンが——叫んだ。







「——三千——四百——十三個目が——あるのだろう——!!」






「——ないわ」








——一色は——首を——振った。







「——ルカが——十七年——数えたのよ」






「——見落としは——ない」








「——では——一厘は——どこへ——行った——!!」








「…………」







——誰も。






——答えられなかった。









## 三日






——三日。






——荒野は——沈んでいた。








「——三十年——やって——一厘か」







——ミネルが——うめいた。







「——神様に——聞きましょう」







——誠が——言った。








『——聞いた』







——十二番が——揺れた。







『——"分からん"、って』








「——分からない?」






『——"砕けた——時のことは——覚えてへん"、って』








「…………」







『——"けど——一厘やろ"、って』







『——"どこかに——ある"、って』








「——どこですか——!!」







『——"それが——分かれば——苦労せん"、って』








「…………」









## アルフレート






——四日目。






——工房の——空気は——最悪、だった。








「——衛星で——探すしか——ないわ」







——一色が——うめいた。







「——十七年——かかるぞ——!!」






「——残りは——十一年よ——!!」








「——間に——合わぬではないか——!!」






「——分かってるわ——!!」








——そこへ。







——扉が——開いた。







「——おお。皆——おったか」








——アルフレート、だった。







——芋の——袋を——担いでいる。








「——アルフレート様」







——誠が——顔を——上げた。







「——今——取り込んでます」






「——知って——おる」








——彼は——袋を——下ろした。







「——一厘——足らぬのだろう」






「——はい」








「——大変だな」







「——大変です」








「…………」







——アルフレートは。






——腕を——組んで——考え込んだ。







——工房が——期待の——目で——見た。







——そして。








「——ときに——田中」






「——はい」






「——今日の——芋は——妙に——重かった」








「…………」







——工房が。






——固まった。








「——今——その、話ですか——!!」







——ミネルが——絶叫した。







「——重かったのだ」








——アルフレートは——真面目な——顔で——言った。







「——いつもの——五十袋が——重い」






「——レベルが——上がって——おらぬのか、と——思うた」








「——今は——月の——話です——!!」






「——月の——話だ」








「…………」







「——え?」







——誠が——顔を——上げた。








「——どういう——意味ですか」






「——いや」








——アルフレートは——首を——かしげた。







「——月が——集まったのだろう」






「——はい」








「——ならば——重くなるのでは——ないか」








「…………」







——一色が。






——動きを——止めた。







「——待って」






「——なんですか」








「——今——なんて——言ったの」







「——芋が——重い」








「——そこじゃ——ないわ——!!」






「——月が——集まったら——重くなる」








「…………」







——一色が。






——ゆっくりと——立ち上がった。








「——馬鹿な」






「——一色さん?」






「——待って。……計算する」








——彼女は——ペンを——掴んだ。







——そして——半刻、後。







「…………」








「——どうでしたか」






「——合ってる」








——一色は——かすれた——声で——言った。







「——え?」






「——重くなるのよ」








——彼女は——顔を——上げた。







「——月が——一箇所に——集まると——引く——力が——変わる」






「——地上の——ものが——ほんの——少し——重くなるの」








「——それが——どうしたのだ——!!」







——ミネルが——叫ぶと。






——一色は——机を——叩いた。








「——測れるのよ——!!」








「…………」







「——地上で——重さを——測れば——!!」







——彼女は——早口に——なった。







「——空に——どれだけ——集まったか——分かる——!!」






「——衛星より——正確に——!!」








「——それで——一厘が——見つかるのですか——!!」







——アカリが——尋ねた。







「——場所は——分からない」








——一色は——首を——振った。







「——でも——"どこに——ないか"、は——分かるわ」








「…………」







「——待って——ください」







——誠が——言った。







「——それ——ルカの——やり方ですね」








「——え?」






「——"ここには——ない"、と——分かれば——次を——探せます」








——誠は——微笑んだ。







「——あの子が——百日——やってました」








「…………」









## 測る






「——待て」







——ミネルが——訝しんだ。







「——だが——一厘だぞ」






「——地上の——重さの——変わりようなど——測れるのか」








「——測れないわ」







——一色が——認めた。







「——普通の——秤では——無理」








「——では——駄目では——ないか——!!」







「…………」








——だが——その、時。







「——私が——分かる」








——アルフレートが——言った。







「…………え?」







——工房が——振り返った。








「——毎日——五十袋——担いで——おる」







——彼は——けろり、と——言った。







「——三十年、な」








「…………」







「——分かるのですか——!?」







——アカリが——尋ねた。







「——分かる」








——アルフレートは——頷いた。







「——今日は——重い」






「——昨日より、な」








「…………」







——一色が。






——アルフレートに——詰め寄った。








「——いつから——!?」






「——三日——前だ」








「——月が——集まった——日ね——!!」






「——そうなるな」








「——毎日——測って——!!」






「——測って——おる」








「——記録は——!?」






「——ない」








「——なぜ——!!」






「——書いた、ことが——ない」








「——書きなさい——!!」









## ルカ






「——僕が——書きます」







——ルカが——手を——挙げた。







「——アルフレート様の——横に——ついて——毎日——記録します」








「——どう——書くのだ」







——ミネルが——尋ねた。







「——"重い"、"軽い"、しか——言えぬぞ」








「——それで——十分です」







——ルカは——けろり、と——言った。







「——なぜだ——!!」






「——同じ、が——続けば——違う、が——分かります」








「…………」







「——空見の——爺さまに——教わりました」









## 半年






——半年。






——ルカは——毎日——書き続けた。








*——第一日 重い*





*——第二日 同じ*





*——第三日 同じ*








「——同じばかりだな」







——ミネルが——覗いた。







「——いいんです」








——ルカは——静かに——言った。







「——同じ、が——続いてます」






「——つまり——一厘は——動いてません」








「…………」









——だが——百八十日目。







「——アルフレート様?」







——ルカが——気づいた。







「——今日は——どうですか」






「——む」








——アルフレートは——袋を——担ぎ直した。







「——妙だ」






「——何がですか——!!」








「——軽い」








「…………」







「——一色さーん——!!」







——ルカが——駆け出した。









## 発見






——三日、かけて。






——一色は——計算した。








「——分かったわ」







「——何がですか——!!」






「——一厘が——動いたの」








——彼女は——顔を——上げた。







「——どこへ——ですか——!!」






「——遠ざかった」








「——遠ざかった?」






「——ええ」








——一色は——図を——描いた。







「——一厘は——止まってなかったの」






「——ゆっくり——動いてた」








「——では——今——どこに——!!」







——ミネルが——叫ぶと。






——一色は——ペンを——止めた。








「——星から——離れていってる」







「…………」








「——三十年——かけて」







——彼女は——静かに——言った。







「——だから——誰も——見つけられなかった」








「——追えますか——!!」







——誠が——尋ねた。







「——追えるわ」








——一色は——頷いた。







「——場所は——計算で——出る」






「——でも——問題が——一つ」








「——なんですか」






「——遠すぎるの」








——彼女は——渋い——顔を——した。







「——カゲさんの——二輪でも——届かない」






「——ヒカルさんでも——無理」








「…………」







——工房が——沈んだ。







——だが。







「——ときに」








——アルフレートが——口を——開いた。







「——なんですか」






「——腹が——減った」








「——今——ですか——!!」







——ミネルが——絶叫した。







「——減ったのだ」








「——後に——して——ください——!!」






「——待て」








——アルフレートは——真面目な——顔で——言った。







「——重要な、ことだ」






「——重要では——ありません——!!」








「——いや」







——彼は——首を——振った。







「——遠くへ——行くなら——飯が——要るであろう」








「…………」







「——それは——そうですが」






「——どれくらい——要る」








「——一色さん?」







——誠が——尋ねると。






——一色は——計算した。








「——往復で——三月」







「——三月——!?」








「——ならば——飯が——要るな」







——アルフレートが——頷いた。







「——空気も——三月、分か」








「——無理よ——!!」







——一色が——叫んだ。







「——袋が——何千——要ると——思ってるの——!!」








「…………」







——アルフレートは。






——しばらく——考えて。






——そして——言った。








「——ときに——一色殿」






「——何——!!」






「——魔王殿は——息を——するのか」








「…………」







——工房が。






——完全に——止まった。








「…………」







「——え?」








——一色が。






——ゆっくりと——顔を——上げた。







「——今——なんて」






「——魔王殿だ」








——アルフレートは——けろり、と——言った。







「——あやつは——不死身であろう」






「——息を——せずとも——死なぬのでは——ないか」








「…………」







——工房が。






——凍りついた。







——そして。







「——魔王さーん——!!!」








——一色が——絶叫して——飛び出した。









## 確認






「——せぬ」







——魔王は——けろり、と——答えた。







「——息を——してないんですか——!?」






「——して——おる」








「——どっちですか——!!」






「——癖で——して——おる」








——魔王は——静かに——言った。







「——だが——止めても——死なぬ」








「——どれくらい——ですか——!!」






「——試した、ことが——ない」








「——なぜ——!!」






「——止める——理由が——なかった」








「…………」







「——千年——ですか」







——誠が——尋ねると。






——魔王は——頷いた。








「——七百八十二年、な」








「…………」







「——魔王さん」







——誠が——静かに——言った。







「——お願いが——あります」








「——分かって——おる」







——魔王は——立ち上がった。







「——行けば——よいのだろう」








「——三月です——!!」






「——構わぬ」








「——一人——ですよ——!!」






「——七百年——一人であった」








「…………」







——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——猫を——連れて——いって——ください」








「…………は?」







——魔王が——きょとん、と——した。







「——猫は——息を——するぞ」






「——皆瀬さんです」








「…………」







『——わたし?』







——十二番が——揺れた。








「——皆瀬さんは——息を——しますか」






『——しない』








「——では——お願いします」







——誠は——微笑んだ。







「——三月——喋り相手が——要ります」








「…………」







——魔王が。






——顔を——背けた。







「——要らぬ」






『——行く』








「——要らぬと——言うて——おる」






『——行く』








「…………」







「——好きに——せよ」









## 出発






——一月、後。






——魔王が——空へ——上がった。







——ヒカルに——運ばれて。






——そこから——先は——一人で。








「——魔王さん——!!」







——誠が——見送った。







「——なんだ」






「——三月、後に——待ってます」








「——うむ」






「——それと」








——誠は——包みを——渡した。







「——なんだ、これは」






「——芋です」








「——我は——食わずとも——死なぬ」






「——知ってます」








——誠は——微笑んだ。







「——でも——三月です」






「——何か——食べたく——なります」








「…………」







——魔王は。






——包みを——受け取って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——八百屋」






「——はい」






「——七百八十二年——生きて——な」








「…………」







「——旅に——出る、時に——飯を——持たされた、ことは——ない」








「…………」







「——行ってくる」









## 見送り






——魔王が——消えた——後。







「——アルフレート様」







——誠が——言った。







「——なんだ」






「——ありがとう——ございました」








「——何がだ」






「——気づいて——くださって」








「——芋が——重かっただけだ」







——アルフレートは——けろり、と——言った。







「——それが——大事でした」








「——そうか」







——彼は——袋を——担ぎ直した。







「——ときに——田中」






「——はい」








「——今日の——飯は——なんだ」








「——そこ——ですか」






「——大事な、ことだ」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「集まったのに、一色さんが、"足りない"、って。重さが、九分九厘。一厘、足りない。半身と一つになるには、完全でないと駄目。一厘でも欠けたら、繋がらない。……三千四百十三個目は、ない。ルカが十七年、数えたので、見落としはない。……三日、沈んだ。神様に聞いても、"分からん。砕けた時のことは覚えてへん。けど、一厘やろ。どこかにある"、って。……四日目、アルフレート様が芋を担いで入ってきて、"ときに田中、今日の芋は妙に重かった"、って。……ミネルさんが、"今その話ですか"、って絶叫したけど、あの人、"月の話だ"、って。……"月が集まったのだろう。ならば重くなるのではないか"、って。……一色さんが固まって、半刻計算して、"合ってる"、って。月が一箇所に集まると、引く力が変わって、地上のものがほんの少し重くなる。……つまり、地上で重さを測れば、空にどれだけ集まったか分かる。衛星より正確に。……"どこにないか"、が分かるわけです。ルカのやり方でした。……でも、一厘は普通の秤では測れない。そしたら、アルフレート様が、"私が分かる。毎日五十袋、三十年、担いでおる"、って。……ルカが横について、毎日、記録した。"重い"、"同じ"、"同じ"。半年、同じが続いた。……でも、百八十日目に、"軽い"、って。……一色さんが三日かけて計算して、一厘が動いてた、と分かった。星から離れていってる。三十年かけて、ゆっくり。だから誰も見つけられなかった。……でも、遠すぎて、カゲさんの二輪でもヒカルさんでも届かない。……そしたら、アルフレート様が、"腹が減った"、って。ミネルさんが絶叫したけど、"遠くへ行くなら飯が要るであろう。空気も三月分か"、って。……無理よ、袋が何千要ると思ってるの、って一色さんが叫んだら——"ときに一色殿、魔王殿は息をするのか"、って。……工房が、完全に止まりました。……魔王さん、"癖でしておる。だが止めても死なぬ。試したことがない。止める理由がなかった"、って。……お願いします、って言ったら、"分かっておる。行けばよいのだろう。七百年、一人であった"、って。……皆瀬さんに、一緒に行ってもらうことにした。息をしないので。"要らぬ"、って言いながら、"好きにせよ"、って。……出発の時、芋を渡した。"我は食わずとも死なぬ"、って言うから、知ってます、でも三月です、何か食べたくなります、って。……"七百八十二年生きて、旅に出る時に飯を持たされたことはない"、って。……アルフレート様に礼を言ったら、"芋が重かっただけだ"、って。それが大事でした。……"ときに田中、今日の飯はなんだ"、って。そこですか。じいちゃん。あの人、いつもです」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。三十年——かけて——星から——離れて——いった——最後の——一厘が。




——なぜ——一つだけ——他と——違う——動きを——して——いたのかを。


そして——それを——迎えに——行った——魔王が。




——そこで——何を——見つけるのかも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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