第139話「太鼓と、足音」
三千——四百——十二。
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——全部——網に——掛かった。
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——だが。
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「——ここからが——難物ですわ」
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——一色が——図を——広げた。
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「——掛かっただけ、では——駄目なんですか」
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「——駄目よ」
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——彼女は——首を——振った。
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「——網は——ただの——袋なの」
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「——一箇所に——寄せないと——月に——ならない」
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「——的に——引くんですよね」
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「——ええ」
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「——では——問題は」
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「——一斉に、なの」
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——一色は——渋い——顔を——した。
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「——三千——四百——十二を——同時に——引かないと」
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「——ばらばらに——散るわ」
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「——同時——ですか」
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「——一つでも——遅れたら——駄目」
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「…………」
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——工房が——沈んだ。
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「——誰が——引くのだ」
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——ミネルが——尋ねた。
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「——魔術師よ」
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——一色が——答えた。
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「——何人だ」
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「——三千——四百——十二人」
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「——一つに——一人か——!!」
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「——ええ」
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「——おらぬぞ——!!」
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——ミネルが——叫んだ。
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「——千二百しか——おらぬ——!!」
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「——増やせますか」
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——誠が——尋ねると。
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——マギスが——首を——振った。
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「——魔法を——使える——者は——限られる」
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「——三千は——無理だ」
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「…………」
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## 魔物
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——だが——その、時。
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「——あの」
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——ウーが——手を——挙げた。
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「——ウーさん?」
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「——おれたち——つかえる」
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「…………え?」
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——工房が——静まった。
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「——魔法を——ですか——!?」
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「——ウ」
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——ウーは——頷いた。
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「——みんな——つかえる」
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「——なぜ——言わなかったんですか——!!」
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——ミネルが——絶叫した。
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「——きかれへんかった」
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「——それ——藤原さんの——口癖です——!!」
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「——うつった」
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「…………」
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「——何人——使えますか」
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——誠が——尋ねると。
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——ウーは——けろり、と——言った。
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「——じゅうまん」
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「——全員——!?」
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「——ウ」
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「——なぜ——ですか」
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「——まもの、だから」
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「…………」
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——一色が。
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——机に——突っ伏した。
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「——考えて——なかった」
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「——一色さん?」
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「——魔物は——魔力で——できてるのよ」
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——彼女は——うめいた。
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「——当たり前だったわ」
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## 訓練
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——三千——四百——十二人が——選ばれた。
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——人が——千二百。
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——魔物が——二千二百十二。
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「——一人——一つ、です」
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——ルカが——台帳を——配った。
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「——自分の——受け持ちの——名前を——覚えて——ください」
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「——名前?」
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「——破片に——名前が——あります」
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——ルカは——静かに——言った。
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「——番号じゃ——ありません」
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「——名前で——覚えて——ください」
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「…………」
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——一人の——ゴブリンが——札を——見た。
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*——第千八百四十番*
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*——「セイラ」*
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*——ハラムの里 八歳で死亡*
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「…………」
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「——八歳」
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——彼は——ぼそり、と——言った。
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「——おれ——この、子——しらん」
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「——はい」
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「——でも——ひくのか」
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「——はい」
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「…………」
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——ゴブリンは。
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——札を——握りしめた。
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「——おぼえる」
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## 問題
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——だが——訓練は——難航した。
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「——揃わぬ——!!」
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——マギスが——頭を——抱えた。
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「——千二百までは——揃うのだ——!!」
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「——だが——三千を——超えると——崩れる——!!」
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「——なぜですか」
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「——後ろまで——太鼓が——聞こえぬ——!!」
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「…………」
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——誠は。
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——荒野を——見回した。
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——三千——四百——十二人の——列。
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——端から——端まで——半里は——ある。
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「——駄々丸さん」
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「——へえ」
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「——届きますか」
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「——届きやせん」
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——駄々丸は——あっさりと——認めた。
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「——太鼓を——増やしますか」
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「——駄目で——ござんす」
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「——なぜですか」
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「——二つに——なると——ずれやす」
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——駄々丸は——扇子を——広げた。
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「——調子は——一つで——ないと——いけやせん」
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「…………」
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「——では——どうしますか」
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「…………」
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——駄々丸は。
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——煙管を——ふかして。
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——長い、こと——考えた。
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——そして——ぽつり、と——言った。
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「——旦那」
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「——はい」
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「——音でなくても——よろしいので——ござんすか」
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「——え?」
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「——調子が——伝わりゃ——なんでも——ようござんす」
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「…………」
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——誠は。
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——しばらく——考えて。
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——そして——顔を——上げた。
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「——ガオゴンさん——!!」
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「——ガオ?」
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——六丈の——怪獣が——首を——かしげた。
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「——歩けますか——!!」
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「——ガオ——!!」
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「——列の——横を——ゆっくり——歩いて——ください——!!」
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「——ガオ?」
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「——一歩ずつ——同じ——速さで——!!」
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「…………」
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——駄々丸が。
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——扇子を——止めた。
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「——旦那」
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「——はい」
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「——足音で——ござんすか」
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「——はい」
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——誠は——頷いた。
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「——六丈です」
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「——地面が——揺れます」
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「…………」
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「——耳で——聞こえなくても」
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——誠は——静かに——言った。
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「——足の——裏で——分かります」
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「…………」
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——駄々丸は。
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——長い、こと——黙って。
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——そして——ぽん、と——膝を——打った。
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「——恐れ入りやした」
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## 稽古
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「——ガオゴンさん」
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——駄々丸が——見上げた。
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「——ガオ」
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「——これから——調子を——お教えしやす」
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「——ガオ——!!」
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——怪獣が——身構えた。
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「——難しゅう——ござんせん」
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——駄々丸は——扇子を——打った。
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——とん。とん。とん。
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「——この——調子で——歩いて——くだせェ」
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「——ガオ——!!」
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——ずしん。
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——ずしん。
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——ずしん。
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「——おお——!!」
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——列の——後ろから——声が——上がった。
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「——分かるぞ——!!」
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「——足元が——揺れる——!!」
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「——聞こえますか——!!」
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——誠が——叫ぶと。
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「——聞こえぬ——!!」
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「——だが——分かる——!!」
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——だが。
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——問題が——あった。
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「——ガオ……」
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——半刻で——ガオゴンが——止まった。
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「——どうしました——!?」
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『——"疲れた"、って』
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——皆瀬が——通訳した。
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「——半刻で——ですか——!?」
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「——ガオ」
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『——"同じ——速さで——歩くのが——難しい"、って』
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「…………」
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「——本番は——どれくらい——要りますか」
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——誠が——一色に——尋ねた。
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「——三刻」
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「——六倍ですね」
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「——ええ」
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「…………」
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——ガオゴンが。
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——うつむいた。
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「——ガオ……」
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『——"すまない"、って』
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「——謝らないで——ください」
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——誠が——言った。
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「——ガオ」
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『——"四十八年——歩いてきた"、って』
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『——"だが——町を——踏まないように——歩いてただけだ"、って』
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『——"同じ——速さでは——歩いてない"、って』
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「…………」
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## 駄々丸
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——だが——駄々丸は——動じなかった。
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「——ガオゴンさん」
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「——ガオ」
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「——一つ——伺いやす」
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「——ガオ?」
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「——町を——踏まねェように——歩く、時」
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——駄々丸は——静かに——言った。
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「——何を——見て——おりやした」
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「…………」
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——ガオゴンは。
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——しばらく——考えて。
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——そして——鳴いた。
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「——ガオ」
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『——"足元"、って』
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「——さようで——ござんすか」
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——駄々丸は——頷いた。
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「——では——今日から——空を——見て——くだせェ」
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「——ガオ——!?」
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「——踏みます——!!」
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——誠が——叫んだ。
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「——踏みやせん」
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——駄々丸は——けろり、と——言った。
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「——なぜですか——!!」
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「——四十八年——やって——おられやす」
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——彼は——扇子を——閉じた。
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「——足が——覚えて——おりやしょう」
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「…………」
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「——足元を——見るから——疲れるんで——ござんす」
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——駄々丸は——静かに——言った。
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「——考えねェ、方が——揃いやす」
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「…………」
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——ガオゴンは。
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——長い、こと——黙って。
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——そして——ゆっくりと——空を——見上げた。
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——ずしん。
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——ずしん。
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——ずしん。
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「…………」
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——揺れが。
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——揃っていた。
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「——揃って——おる——!!」
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——マギスが——叫んだ。
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「——さっきより——正確だ——!!」
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「——ガオ——!?」
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——本人が——一番——驚いていた。
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## 三刻
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——一月、後。
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——ガオゴンは——三刻——歩けるように——なった。
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「——できました——!!」
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——ルカが——記録した。
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「——ガオ——!!」
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——だが。
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——駄々丸が——首を——振った。
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「——まだで——ござんす」
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「——なぜですか——!!」
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「——一人では——保ちやせん」
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——駄々丸は——静かに——言った。
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「——三刻の——うち——一度でも——躓いたら」
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「——そこで——終わりで——ござんす」
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「…………」
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「——では——どうしますか」
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「——あっしが——横に——つきやす」
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——駄々丸は——太鼓を——抱えた。
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「——歩きながら——ですか——!?」
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「——へえ」
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「——三刻——ですよ——!!」
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「——叩きやす」
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「——駄々丸さん——お歳です——!!」
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——誠が——叫んだ。
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「——旦那も——でござんしょう」
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「…………」
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「——それに、ねェ」
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——駄々丸は——低く——笑った。
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「——あっしゃァ——太鼓しか——できやせん」
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「——ここで——叩かねェで——どうしやす」
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「…………」
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## 予行
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——予行が——行われた。
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——三千——四百——十二人が——並び。
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——その——横を——ガオゴンが——歩く。
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——足元には——駄々丸。
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「——始めやす——!!」
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——とん。
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——ずしん。
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——とん。
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——ずしん。
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「——揃って——おる——!!」
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「——後ろまで——届いた——!!」
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——一刻。
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——二刻。
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——そして——二刻半。
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「…………」
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——駄々丸の——手が。
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——止まった。
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「——駄々丸さん——!?」
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——誠が——駆け寄った。
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——彼は——膝を——ついていた。
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「……いけやせん」
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「——駄々丸さん——!!」
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「——腕が——上がりやせん」
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——彼は——自分の——腕を——見た。
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「——歳で——ござんすね」
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「…………」
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——荒野が。
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——静まった。
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「——ガオ」
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——ガオゴンが——足を——止めていた。
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『——"待ってる"、って』
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「——歩いて——くだせェ」
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——駄々丸が——言った。
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「——ガオ」
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『——"太鼓が——ないと——分からない"、って』
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「…………」
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——駄々丸は。
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——うつむいた。
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「——申し訳——ござんせん」
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「…………」
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## 弟子
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——だが——その、時。
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——列から——一人——出てきた。
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——ゴブリン、だった。
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「——師匠」
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「…………」
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——駄々丸が。
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——顔を——上げた。
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「——おや」
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「——おれ——たたける」
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「——え?」
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——誠が——驚いた。
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「——教えて——たんですか——!?」
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「——へえ」
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——駄々丸は——けろり、と——言った。
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「——半年——前から——弟子を——取って——おりやす」
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「——何人——ですか」
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「——三十人で——ござんす」
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「——三十——!?」
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「——あっしも——歳ですからねェ」
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——駄々丸は——静かに——言った。
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「——いつか——叩けなく——なりやす」
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「——その——日が——今日、だったんで——ござんしょう」
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「…………」
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「——おい」
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——駄々丸が——ゴブリンに——撥を——渡した。
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「——ウ」
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「——名を——なんと——申しやしたか」
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「——ギバ」
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「——ギバさん」
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——駄々丸は——微笑んだ。
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「——お願いしやす」
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「——ウ——!!」
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——とん。
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——太鼓が——鳴った。
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——ずしん。
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——ガオゴンが——歩き出した。
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「——揃って——おる——!!」
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——マギスが——叫んだ。
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「——師匠と——同じだ——!!」
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「…………」
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——駄々丸は。
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——それを——座って——聞いていた。
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——そして——ぽつり、と——言った。
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「——上手く——なりやしたね」
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「…………」
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——誠は。
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——隣に——座った。
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「——駄々丸さん」
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「——へえ」
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「——三十人——教えたんですね」
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「——へえ」
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「——いつから——考えてたんですか」
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「…………」
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——駄々丸は。
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——低く——笑った。
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「——空見の——爺さまで——ござんすよ」
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「…………」
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「——あの——お方が——最期に——弟子を——お取りに——なりやした」
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——駄々丸は——静かに——言った。
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「——見えなく——なる——前に、で——ござんす」
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「…………」
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「——あっしも——真似を——しやした」
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「…………」
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——誠は。
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——深く——頭を——下げた。
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「——ありがとう——ございます」
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「——礼は——要りやせん」
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——駄々丸は——首を——振った。
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「——それより——旦那」
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「——はい」
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「——一つ——気になる、ことが——ござんして」
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「——なんですか」
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「——あっしゃァ——なぜ——太鼓が——叩けるんで——ござんしょう」
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「…………え?」
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——誠が——顔を——上げた。
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「——落語家ですよね」
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「——へえ」
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「——寄席の——太鼓が——あるんじゃ——ないですか」
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「——ござんす」
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——駄々丸は——頷いた。
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「——ですがねェ」
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「——はい」
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「——あっしゃァ——習った——覚えが——ござんせん」
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「…………」
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——誠の。
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——動きが——止まった。
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「——気づいたら——叩けて——おりやした」
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——駄々丸は——ぼそり、と——言った。
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「——三十年——前から、で——ござんす」
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「…………」
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「——妙で——ござんしょう」
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「…………」
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——誠は。
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——空を——見上げた。
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——そして——ぽつり、と——言った。
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「——駄々丸さん」
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「——へえ」
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「——今——聞かないで——おきます」
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「…………」
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「——なぜで——ござんす」
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「——本番の——後に——聞きます」
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——誠は——微笑んだ。
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「——今——聞いたら——手が——狂います」
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「…………」
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——駄々丸は。
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——長い、こと——黙って。
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——そして——低く——笑った。
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「——旦那は——鋭う——ござんすね」
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「——八百屋ですから」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
*「網に掛かっただけでは、駄目だった。一箇所に寄せないと、月にならない。しかも、三千四百十二を、同時に引かないと、ばらばらに散る。……魔術師が三千四百十二人、要る。千二百しかいない。……そしたら、ウーさんが、"おれたち つかえる"、って。魔物は全員、魔法が使える。なぜ言わなかったのか聞いたら、"きかれへんかった"、って。藤原さんの口癖です。"うつった"、って。……一色さんが机に突っ伏して、"魔物は魔力でできてるのよ。当たり前だったわ"、って。……人が千二百、魔物が二千二百十二。一人一つ。破片の名前を覚えてもらった。番号じゃなくて、名前で。……ゴブリンの人が、"セイラ。八歳。おれ、この子、しらん"、って。でも、"おぼえる"、って、札を握ってた。……でも、揃わなかった。三千を超えると、後ろまで太鼓が届かない。太鼓を増やしても、二つになるとずれる。調子は一つでないといけない。……駄々丸さんが、"音でなくてもよろしいので。調子が伝わりゃ、なんでもようござんす"、って。……それで、ガオゴンさんに、列の横を一歩ずつ同じ速さで歩いてもらうことにした。六丈だから、地面が揺れる。耳で聞こえなくても、足の裏で分かる。……駄々丸さんが、"恐れ入りやした"、って。……でも、半刻で疲れてしまった。"同じ速さで歩くのが難しい"、って。四十八年歩いてきたけど、町を踏まないように歩いてただけで、同じ速さでは歩いてない、って。……そこで駄々丸さんが、"町を踏まねェように歩く時、何を見ておりやした"、"足元"、"では今日から空を見てくだせェ"、って。踏みます、って叫んだけど、"踏みやせん。四十八年やっておられやす。足が覚えておりやしょう。足元を見るから疲れるんで。考えねェ方が揃いやす"、って。……本当に、揃った。しかも、前より正確だった。本人が一番、驚いてた。……一月で、三刻歩けるようになった。でも、駄々丸さんが、"一人では保ちやせん"、って、横につくことにした。三刻、叩き続ける。お歳です、って言ったら、"旦那もでござんしょう"、って。……"あっしゃァ、太鼓しかできやせん。ここで叩かねェでどうしやす"、って。……予行で、二刻半で、手が止まった。膝をついて、"腕が上がりやせん。歳でござんすね"、って。……そしたら、列からゴブリンのギバさんが出てきて、"おれ、たたける"、って。……駄々丸さん、半年前から弟子を三十人、取ってた。"あっしも歳ですからねェ。いつか叩けなくなりやす。その日が今日だったんでござんしょう"、って。……撥を渡して、"お願いしやす"、って。ギバさんの太鼓で、ガオゴンさんが歩いた。師匠と同じだ、って。……なぜ弟子を取ったのか聞いたら、"空見の爺さまでござんすよ。あのお方が最期に弟子をお取りになりやした。見えなくなる前に。あっしも真似をしやした"、って。……それから、あの人が、妙なことを言った。"あっしゃァ、なぜ太鼓が叩けるんでござんしょう。習った覚えがござんせん。気づいたら叩けておりやした。三十年前から"、って。……今は、聞かないでおきました。本番の後に聞きます。今聞いたら、手が狂います。……"旦那は鋭うござんすね"、って。八百屋ですから。じいちゃん。あの人、もうすぐ、分かってしまいます」*
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——たとえ——空に——見えなくても。
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まだこの時の誠は知らない。三十年——前から——習わずに——叩けた——太鼓が。
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——誰の——手で——覚えられた——ものなのかを。
そして——本番の——後に——それを——聞く——ことが。
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——どういう——ことに——なるのかも。
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——今は……まだ、叩いて——いる——本人が——一番——恐れて——いる。




