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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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426/553

第139話「太鼓と、足音」

三千——四百——十二。





——全部——網に——掛かった。







——だが。







「——ここからが——難物ですわ」







——一色が——図を——広げた。







「——掛かっただけ、では——駄目なんですか」








「——駄目よ」







——彼女は——首を——振った。







「——網は——ただの——袋なの」






「——一箇所に——寄せないと——月に——ならない」








「——的に——引くんですよね」






「——ええ」








「——では——問題は」






「——一斉に、なの」








——一色は——渋い——顔を——した。







「——三千——四百——十二を——同時に——引かないと」






「——ばらばらに——散るわ」








「——同時——ですか」






「——一つでも——遅れたら——駄目」








「…………」







——工房が——沈んだ。








「——誰が——引くのだ」







——ミネルが——尋ねた。







「——魔術師よ」








——一色が——答えた。







「——何人だ」






「——三千——四百——十二人」








「——一つに——一人か——!!」






「——ええ」








「——おらぬぞ——!!」







——ミネルが——叫んだ。







「——千二百しか——おらぬ——!!」








「——増やせますか」







——誠が——尋ねると。






——マギスが——首を——振った。








「——魔法を——使える——者は——限られる」






「——三千は——無理だ」








「…………」









## 魔物






——だが——その、時。







「——あの」







——ウーが——手を——挙げた。







「——ウーさん?」






「——おれたち——つかえる」








「…………え?」







——工房が——静まった。







「——魔法を——ですか——!?」








「——ウ」







——ウーは——頷いた。







「——みんな——つかえる」








「——なぜ——言わなかったんですか——!!」







——ミネルが——絶叫した。








「——きかれへんかった」








「——それ——藤原さんの——口癖です——!!」






「——うつった」








「…………」







「——何人——使えますか」







——誠が——尋ねると。






——ウーは——けろり、と——言った。








「——じゅうまん」








「——全員——!?」






「——ウ」








「——なぜ——ですか」






「——まもの、だから」








「…………」







——一色が。






——机に——突っ伏した。







「——考えて——なかった」






「——一色さん?」








「——魔物は——魔力で——できてるのよ」







——彼女は——うめいた。







「——当たり前だったわ」









## 訓練






——三千——四百——十二人が——選ばれた。







——人が——千二百。






——魔物が——二千二百十二。








「——一人——一つ、です」







——ルカが——台帳を——配った。







「——自分の——受け持ちの——名前を——覚えて——ください」








「——名前?」






「——破片に——名前が——あります」








——ルカは——静かに——言った。







「——番号じゃ——ありません」






「——名前で——覚えて——ください」








「…………」







——一人の——ゴブリンが——札を——見た。








*——第千八百四十番*





*——「セイラ」*





*——ハラムの里 八歳で死亡*








「…………」







「——八歳」








——彼は——ぼそり、と——言った。







「——おれ——この、子——しらん」






「——はい」








「——でも——ひくのか」






「——はい」








「…………」







——ゴブリンは。






——札を——握りしめた。








「——おぼえる」









## 問題






——だが——訓練は——難航した。








「——揃わぬ——!!」







——マギスが——頭を——抱えた。







「——千二百までは——揃うのだ——!!」






「——だが——三千を——超えると——崩れる——!!」








「——なぜですか」






「——後ろまで——太鼓が——聞こえぬ——!!」








「…………」







——誠は。






——荒野を——見回した。







——三千——四百——十二人の——列。







——端から——端まで——半里は——ある。








「——駄々丸さん」






「——へえ」






「——届きますか」








「——届きやせん」







——駄々丸は——あっさりと——認めた。







「——太鼓を——増やしますか」






「——駄目で——ござんす」








「——なぜですか」






「——二つに——なると——ずれやす」








——駄々丸は——扇子を——広げた。







「——調子は——一つで——ないと——いけやせん」








「…………」







「——では——どうしますか」








「…………」







——駄々丸は。






——煙管を——ふかして。






——長い、こと——考えた。







——そして——ぽつり、と——言った。








「——旦那」






「——はい」






「——音でなくても——よろしいので——ござんすか」








「——え?」






「——調子が——伝わりゃ——なんでも——ようござんす」








「…………」







——誠は。






——しばらく——考えて。






——そして——顔を——上げた。








「——ガオゴンさん——!!」








「——ガオ?」







——六丈の——怪獣が——首を——かしげた。








「——歩けますか——!!」






「——ガオ——!!」








「——列の——横を——ゆっくり——歩いて——ください——!!」







「——ガオ?」








「——一歩ずつ——同じ——速さで——!!」








「…………」







——駄々丸が。






——扇子を——止めた。







「——旦那」






「——はい」






「——足音で——ござんすか」








「——はい」







——誠は——頷いた。







「——六丈です」






「——地面が——揺れます」








「…………」







「——耳で——聞こえなくても」







——誠は——静かに——言った。







「——足の——裏で——分かります」








「…………」







——駄々丸は。






——長い、こと——黙って。






——そして——ぽん、と——膝を——打った。








「——恐れ入りやした」









## 稽古






「——ガオゴンさん」







——駄々丸が——見上げた。







「——ガオ」






「——これから——調子を——お教えしやす」








「——ガオ——!!」







——怪獣が——身構えた。








「——難しゅう——ござんせん」







——駄々丸は——扇子を——打った。







——とん。とん。とん。







「——この——調子で——歩いて——くだせェ」








「——ガオ——!!」







——ずしん。







——ずしん。







——ずしん。








「——おお——!!」







——列の——後ろから——声が——上がった。







「——分かるぞ——!!」






「——足元が——揺れる——!!」








「——聞こえますか——!!」







——誠が——叫ぶと。







「——聞こえぬ——!!」






「——だが——分かる——!!」









——だが。






——問題が——あった。








「——ガオ……」







——半刻で——ガオゴンが——止まった。







「——どうしました——!?」








『——"疲れた"、って』







——皆瀬が——通訳した。








「——半刻で——ですか——!?」






「——ガオ」








『——"同じ——速さで——歩くのが——難しい"、って』








「…………」







「——本番は——どれくらい——要りますか」







——誠が——一色に——尋ねた。







「——三刻」








「——六倍ですね」






「——ええ」








「…………」







——ガオゴンが。






——うつむいた。








「——ガオ……」







『——"すまない"、って』








「——謝らないで——ください」







——誠が——言った。







「——ガオ」






『——"四十八年——歩いてきた"、って』








『——"だが——町を——踏まないように——歩いてただけだ"、って』







『——"同じ——速さでは——歩いてない"、って』








「…………」









## 駄々丸






——だが——駄々丸は——動じなかった。








「——ガオゴンさん」






「——ガオ」






「——一つ——伺いやす」








「——ガオ?」






「——町を——踏まねェように——歩く、時」








——駄々丸は——静かに——言った。







「——何を——見て——おりやした」








「…………」







——ガオゴンは。






——しばらく——考えて。






——そして——鳴いた。








「——ガオ」






『——"足元"、って』








「——さようで——ござんすか」







——駄々丸は——頷いた。







「——では——今日から——空を——見て——くだせェ」








「——ガオ——!?」







「——踏みます——!!」







——誠が——叫んだ。








「——踏みやせん」







——駄々丸は——けろり、と——言った。







「——なぜですか——!!」






「——四十八年——やって——おられやす」








——彼は——扇子を——閉じた。







「——足が——覚えて——おりやしょう」








「…………」







「——足元を——見るから——疲れるんで——ござんす」







——駄々丸は——静かに——言った。







「——考えねェ、方が——揃いやす」








「…………」







——ガオゴンは。






——長い、こと——黙って。






——そして——ゆっくりと——空を——見上げた。








——ずしん。







——ずしん。







——ずしん。








「…………」







——揺れが。






——揃っていた。








「——揃って——おる——!!」







——マギスが——叫んだ。







「——さっきより——正確だ——!!」








「——ガオ——!?」







——本人が——一番——驚いていた。









## 三刻






——一月、後。






——ガオゴンは——三刻——歩けるように——なった。








「——できました——!!」







——ルカが——記録した。







「——ガオ——!!」








——だが。






——駄々丸が——首を——振った。








「——まだで——ござんす」







「——なぜですか——!!」








「——一人では——保ちやせん」







——駄々丸は——静かに——言った。







「——三刻の——うち——一度でも——躓いたら」






「——そこで——終わりで——ござんす」








「…………」







「——では——どうしますか」








「——あっしが——横に——つきやす」







——駄々丸は——太鼓を——抱えた。







「——歩きながら——ですか——!?」






「——へえ」








「——三刻——ですよ——!!」






「——叩きやす」








「——駄々丸さん——お歳です——!!」







——誠が——叫んだ。







「——旦那も——でござんしょう」








「…………」







「——それに、ねェ」







——駄々丸は——低く——笑った。







「——あっしゃァ——太鼓しか——できやせん」






「——ここで——叩かねェで——どうしやす」








「…………」









## 予行






——予行が——行われた。







——三千——四百——十二人が——並び。






——その——横を——ガオゴンが——歩く。






——足元には——駄々丸。








「——始めやす——!!」







——とん。







——ずしん。







——とん。







——ずしん。








「——揃って——おる——!!」






「——後ろまで——届いた——!!」









——一刻。






——二刻。







——そして——二刻半。







「…………」







——駄々丸の——手が。






——止まった。








「——駄々丸さん——!?」







——誠が——駆け寄った。







——彼は——膝を——ついていた。








「……いけやせん」







「——駄々丸さん——!!」








「——腕が——上がりやせん」







——彼は——自分の——腕を——見た。







「——歳で——ござんすね」








「…………」







——荒野が。






——静まった。








「——ガオ」







——ガオゴンが——足を——止めていた。







『——"待ってる"、って』








「——歩いて——くだせェ」







——駄々丸が——言った。







「——ガオ」








『——"太鼓が——ないと——分からない"、って』








「…………」







——駄々丸は。






——うつむいた。








「——申し訳——ござんせん」








「…………」









## 弟子






——だが——その、時。







——列から——一人——出てきた。







——ゴブリン、だった。








「——師匠」







「…………」








——駄々丸が。






——顔を——上げた。







「——おや」






「——おれ——たたける」








「——え?」







——誠が——驚いた。







「——教えて——たんですか——!?」








「——へえ」







——駄々丸は——けろり、と——言った。







「——半年——前から——弟子を——取って——おりやす」








「——何人——ですか」






「——三十人で——ござんす」








「——三十——!?」







「——あっしも——歳ですからねェ」








——駄々丸は——静かに——言った。







「——いつか——叩けなく——なりやす」






「——その——日が——今日、だったんで——ござんしょう」








「…………」







「——おい」







——駄々丸が——ゴブリンに——撥を——渡した。







「——ウ」






「——名を——なんと——申しやしたか」








「——ギバ」






「——ギバさん」








——駄々丸は——微笑んだ。







「——お願いしやす」






「——ウ——!!」









——とん。







——太鼓が——鳴った。







——ずしん。







——ガオゴンが——歩き出した。








「——揃って——おる——!!」







——マギスが——叫んだ。







「——師匠と——同じだ——!!」








「…………」







——駄々丸は。






——それを——座って——聞いていた。







——そして——ぽつり、と——言った。








「——上手く——なりやしたね」








「…………」







——誠は。






——隣に——座った。








「——駄々丸さん」






「——へえ」






「——三十人——教えたんですね」








「——へえ」






「——いつから——考えてたんですか」








「…………」







——駄々丸は。






——低く——笑った。







「——空見の——爺さまで——ござんすよ」








「…………」







「——あの——お方が——最期に——弟子を——お取りに——なりやした」







——駄々丸は——静かに——言った。







「——見えなく——なる——前に、で——ござんす」








「…………」







「——あっしも——真似を——しやした」








「…………」







——誠は。






——深く——頭を——下げた。








「——ありがとう——ございます」






「——礼は——要りやせん」








——駄々丸は——首を——振った。







「——それより——旦那」






「——はい」








「——一つ——気になる、ことが——ござんして」







「——なんですか」








「——あっしゃァ——なぜ——太鼓が——叩けるんで——ござんしょう」








「…………え?」







——誠が——顔を——上げた。







「——落語家ですよね」






「——へえ」








「——寄席の——太鼓が——あるんじゃ——ないですか」







「——ござんす」








——駄々丸は——頷いた。







「——ですがねェ」






「——はい」








「——あっしゃァ——習った——覚えが——ござんせん」








「…………」







——誠の。






——動きが——止まった。








「——気づいたら——叩けて——おりやした」







——駄々丸は——ぼそり、と——言った。







「——三十年——前から、で——ござんす」








「…………」







「——妙で——ござんしょう」








「…………」







——誠は。






——空を——見上げた。







——そして——ぽつり、と——言った。








「——駄々丸さん」






「——へえ」






「——今——聞かないで——おきます」








「…………」







「——なぜで——ござんす」








「——本番の——後に——聞きます」







——誠は——微笑んだ。







「——今——聞いたら——手が——狂います」








「…………」







——駄々丸は。






——長い、こと——黙って。






——そして——低く——笑った。








「——旦那は——鋭う——ござんすね」






「——八百屋ですから」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「網に掛かっただけでは、駄目だった。一箇所に寄せないと、月にならない。しかも、三千四百十二を、同時に引かないと、ばらばらに散る。……魔術師が三千四百十二人、要る。千二百しかいない。……そしたら、ウーさんが、"おれたち つかえる"、って。魔物は全員、魔法が使える。なぜ言わなかったのか聞いたら、"きかれへんかった"、って。藤原さんの口癖です。"うつった"、って。……一色さんが机に突っ伏して、"魔物は魔力でできてるのよ。当たり前だったわ"、って。……人が千二百、魔物が二千二百十二。一人一つ。破片の名前を覚えてもらった。番号じゃなくて、名前で。……ゴブリンの人が、"セイラ。八歳。おれ、この子、しらん"、って。でも、"おぼえる"、って、札を握ってた。……でも、揃わなかった。三千を超えると、後ろまで太鼓が届かない。太鼓を増やしても、二つになるとずれる。調子は一つでないといけない。……駄々丸さんが、"音でなくてもよろしいので。調子が伝わりゃ、なんでもようござんす"、って。……それで、ガオゴンさんに、列の横を一歩ずつ同じ速さで歩いてもらうことにした。六丈だから、地面が揺れる。耳で聞こえなくても、足の裏で分かる。……駄々丸さんが、"恐れ入りやした"、って。……でも、半刻で疲れてしまった。"同じ速さで歩くのが難しい"、って。四十八年歩いてきたけど、町を踏まないように歩いてただけで、同じ速さでは歩いてない、って。……そこで駄々丸さんが、"町を踏まねェように歩く時、何を見ておりやした"、"足元"、"では今日から空を見てくだせェ"、って。踏みます、って叫んだけど、"踏みやせん。四十八年やっておられやす。足が覚えておりやしょう。足元を見るから疲れるんで。考えねェ方が揃いやす"、って。……本当に、揃った。しかも、前より正確だった。本人が一番、驚いてた。……一月で、三刻歩けるようになった。でも、駄々丸さんが、"一人では保ちやせん"、って、横につくことにした。三刻、叩き続ける。お歳です、って言ったら、"旦那もでござんしょう"、って。……"あっしゃァ、太鼓しかできやせん。ここで叩かねェでどうしやす"、って。……予行で、二刻半で、手が止まった。膝をついて、"腕が上がりやせん。歳でござんすね"、って。……そしたら、列からゴブリンのギバさんが出てきて、"おれ、たたける"、って。……駄々丸さん、半年前から弟子を三十人、取ってた。"あっしも歳ですからねェ。いつか叩けなくなりやす。その日が今日だったんでござんしょう"、って。……撥を渡して、"お願いしやす"、って。ギバさんの太鼓で、ガオゴンさんが歩いた。師匠と同じだ、って。……なぜ弟子を取ったのか聞いたら、"空見の爺さまでござんすよ。あのお方が最期に弟子をお取りになりやした。見えなくなる前に。あっしも真似をしやした"、って。……それから、あの人が、妙なことを言った。"あっしゃァ、なぜ太鼓が叩けるんでござんしょう。習った覚えがござんせん。気づいたら叩けておりやした。三十年前から"、って。……今は、聞かないでおきました。本番の後に聞きます。今聞いたら、手が狂います。……"旦那は鋭うござんすね"、って。八百屋ですから。じいちゃん。あの人、もうすぐ、分かってしまいます」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。三十年——前から——習わずに——叩けた——太鼓が。




——誰の——手で——覚えられた——ものなのかを。


そして——本番の——後に——それを——聞く——ことが。




——どういう——ことに——なるのかも。





——今は……まだ、叩いて——いる——本人が——一番——恐れて——いる。

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