第138話「二年、十回」
回収は——二年——続いた。
⸻
⸻
⸻
——月に——一度。
⸻
⸻
⸻
⸻
——網を——上げ。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ヒカルが——広げ。
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——引き寄せる。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——第七回——三百二十——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——第八回——二百九十——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——減って——おるな」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ミネルが——帳面を——見た。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——近い——ものから——取ってますから」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一色が——静かに——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——残りは——遠い——ものばかり」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——第十回。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——百四十——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——皆瀬——一号が——伝えた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——合計は——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——二千——四百——三十——です」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——アカリが——読み上げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——残りは——九百——八十二」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——七割か——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ミネルが——立ち上がった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——上出来だ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——一色さん」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——尋ねた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——的は——どうですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——できてるわ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼女は——板を——見た。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——鉄と——合わせて——山——一つ、分」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——もう——自分で——引き始めてる」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——本当ですか——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ええ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一色は——微笑んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——雪だるまが——転がり始めたわ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 残り
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが——問題は——ここから、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——九百——八十二」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一色が——図を——広げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——全部——月の——道の——裏側」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——網が——届かないわ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——どれくらい——遠いんですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——十一号の——三倍」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ヒカルさんは——行けますか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——空に——尋ねると。
⸻
⸻
⸻
⸻
——皆瀬が——揺れた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"行ける"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"けど——帰れない"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔力を——送っても——ですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"届かない"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"十一号より——先は——中継ぎが——ない"』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——工房が——沈んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——皆瀬さんを——もう一つ——上げられませんか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——言うと。
⸻
⸻
⸻
⸻
——十二番が——揺れた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——無理』
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なぜですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
『——もう——分けられない』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——十二番は——ぽつり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——十二が——限界』
⸻
⸻
⸻
⸻
『——これ以上——分けたら——消える』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——では——駄目です」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——即座に——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## カゲ
⸻
⸻
⸻
⸻
——三日、詰まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——四日目。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲが——工房に——現れた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——私が——行く」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………え?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——顔を——上げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——カゲさん?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——中継ぎだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲは——静かに——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——十一号の——先に——私が——立つ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔力を——受けて——ヒカルに——渡す」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——待って——ください——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一色が——止めた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——カゲさん——飛べないでしょう——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——飛べぬ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——では——どうやって——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——運んで——もらう」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲは——けろり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——誰に——ですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ヒカルに、だ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——待って——ください」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——遮った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——カゲさんも——帰れなく——なりますよね」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うむ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——駄目です」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——田中」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲは——静かに——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——聞け」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——聞きません」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——聞け」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼は——覆面の——奥から——誠を——見た。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——私はな」
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——もう——身体が——衣と——一つに——なって——おる」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——固まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——知って——おったな」
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——藤原殿から——聞いたであろう」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——すみません」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——構わぬ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲは——首を——振った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——だが——一つ——訂正が——ある」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なんですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——私は——衣と——一つに——なった、のでは——ない」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼は——静かに——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——中の——人間が——死んだのだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——工房が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——凍りついた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——どういう——意味ですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——向こうの——世界でな」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲは——ぽつり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——私は——一度——死んだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——だが——変身が——解けなんだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼は——低く——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——動き続けたのだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——中身が——死んだ——まま——な」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誰も。
⸻
⸻
⸻
⸻
——声を——出さなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——だから——私は——もう——死んで——おる」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲは——静かに——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——帰れぬ、と——言われても——困らぬ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——困ります」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なぜだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——毎日——芋を——運んでもらってます」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——他の——者が——おる」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——カゲさんが——一番——速いです」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それに」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——続けた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——子どもたちが——待ってます」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲの——動きが。
⸻
⸻
⸻
⸻
——止まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——毎日——"変身して"、って——言われてますよね」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うむ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——毎日——"もう——変身しておる"、って——答えてますよね」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うむ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——あれ——楽しみに——してます」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲは。
⸻
⸻
⸻
⸻
——長い、こと——黙って。
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——ぼそり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——卑怯だぞ、田中」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——八百屋ですから」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 別の道
⸻
⸻
⸻
⸻
「——では——どうする——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ミネルが——叫んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——九百——八十二が——残るぞ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——考えます」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——五年——ありますから」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——だが——手が——ないぞ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——一つ——あります」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲが——ぽつり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なんですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——二輪だ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………え?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——あれは——本来——飛べる」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲは——静かに——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——飛べるんですか——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——向こうの——世界では——な」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なぜ——飛ばないんですか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——燃料が——足らぬ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼は——渋い——顔を——した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——地を——走るのが——精一杯だ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——一色さん——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——叫んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——燃料を——増やせませんか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——待って」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一色が——計算を——始めた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——半刻、後。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——増やせるわ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——本当ですか——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——でも——駄目」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼女は——首を——振った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なぜですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——空気が——ないの」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——燃やすには——空気が——要るわ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一色は——静かに——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——上には——ないの」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——工房が——沈んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——待って——ください」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——顔を——上げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——空気を——持って——いけませんか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一色が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——固まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なんて?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——袋に——詰めるんです」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——けろり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うち——芋を——袋で——運びます」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——空気も——同じじゃ——ないですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——同じじゃ——ないわ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一色が——叫んだ——が。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——待って」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼女は——止まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——同じ、かも」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——え?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——竜の——鱗の——殻が——あるわ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一色が——立ち上がった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——熱にも——強くて——軽い——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——あれに——空気を——詰めれば——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——できますか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——計算するわ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 一年
⸻
⸻
⸻
⸻
——一年、かけて。
⸻
⸻
⸻
⸻
——二輪は——作り変えられた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——竜の——鱗の——殻を——纏い。
⸻
⸻
⸻
⸻
——背に——空気の——袋を——三十——積んで。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——重いぞ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲが——跨った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——走れますか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——走らぬ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼は——けろり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——飛ぶのだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——試験の——日。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——行くぞ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ごおおおお——!!
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——二輪が——地を——離れた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——飛んだ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——本当に——飛んだ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——高さは——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一色が——叫んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——一号を——通過』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——三号——通過』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——七号——通過』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——速い——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——竜より——速いと——言うたであろう——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——十一号——通過』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——荒野が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——静まり返った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——十一号より——先。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誰も——行った、ことの——ない——場所。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——皆瀬さん——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——叫んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——見えますか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——見えない』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——でも——聞こえる』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なんて——言ってますか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『…………』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"見える"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——何がですか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"星が——いっぱい"』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"きれいだ"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——荒野が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——静まっていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 中継ぎ
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが——問題は——残っていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——空気は——どれくらい——保ちますか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——尋ねた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——三十袋で——半日だ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲが——答えた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——往復は?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ぎりぎりだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——では——止まる——時間が——ありません」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うむ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——中継ぎに——なれませんね」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ならぬ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——工房が——沈んだ——が。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——待て」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲが——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——中継ぎに——なる——必要が——あるか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——え?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——運べば——よいのだろう」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——何を——ですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——空気を、だ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一色が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ゆっくりと——顔を——上げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——待って」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なんですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ヒカルさんは——空気が——要るの?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼女は——空に——尋ねた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"要らない"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"魔力だけ"』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なら——魔力を——運べばいいわ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一色が——叫んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔力を——運ぶ——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔石よ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼女は——早口に——なった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔力を——石に——溜められる——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それを——カゲさんが——運ぶの——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——できますか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——できるわ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——だが——一度に——どれくらいだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ミネルが——尋ねた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——三十袋の——代わりに——魔石を——積めば」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一色は——計算した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ヒカルさんの——帰り、分は——足りるわ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——では——空気は——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——半分に——減らす」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——カゲさんが——帰れませんよね——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——叫ぶと。
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲは——けろり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ヒカルに——掴んで——もらう」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——え?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——あやつは——四十丈だ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲは——静かに——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——私を——掴んで——飛べば——よい」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そんな——雑な——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——シュワッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"できる"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——できるんですか——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"荷物と——同じだ"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——荷物——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲが——うめいた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 決行
⸻
⸻
⸻
⸻
——半年、後。
⸻
⸻
⸻
⸻
——第十一回の——回収が——始まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——カゲさん」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——見送った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なんだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——気を——つけて——ください」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うむ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それと」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——後ろを——指した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——広場には——子どもたちが——並んでいた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おじさーん——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——変身して——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲは。
⸻
⸻
⸻
⸻
——腰の——帯に——手を——かけて。
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——もう——変身して——おる——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——えー——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ずるい——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ふん——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼は——低く——笑った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——行ってくる——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ごおおおお——!!
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——二輪が——空へ——消えた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——十一号——通過』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——先へ——出た』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ヒカルさんは——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——後を——追ってる』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——半刻。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——荒野は——静まり返っていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——着いた』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——本当ですか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"見える"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——何がですか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『…………』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"光ってる"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"九百——八十二"』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"全部——光ってる"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——空を——見上げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——何も——見えない。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが——確かに——そこに——ある。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——網を——広げて——ください——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——広げてる』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一刻。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——掛かった』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——いくつですか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『…………』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——九百——八十二』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——荒野が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——凍りついた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——全部——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——全部』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うおおおおおお——!!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——荒野が——爆発した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——三千——四百——十二——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——全部——揃った——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——イーーーッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 帰還
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが。
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——喜んで——いなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——皆瀬さん——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——お二人は——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『…………』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——帰ってる』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——無事ですか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『…………』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——カゲが——喋らない』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠の。
⸻
⸻
⸻
⸻
——顔色が——変わった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——空気が——切れたんですか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——分からない』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——ヒカルが——掴んでる』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——急いで——ください——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——半刻、後。
⸻
⸻
⸻
⸻
——荒野に——ヒカルが——降りてきた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——手に——二輪を——掴んだまま。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——カゲさん——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——駆け寄った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——二輪から——降ろされた——カゲは。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——動かなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——カゲさん——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ルナさん——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——叫んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——すでに——おりますわ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ルナが——手を——かざした。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ルナさん?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——効きませんわ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼女は——かすれた——声で——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なぜですか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——この、方」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ルナは——手を——止めた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——最初から——死んで——おられますの」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——荒野が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——静まり返った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——では——どうすれば——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——分かりませんわ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲの——横に——座り込んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——ぽつり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——カゲさん」
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——子どもたちが——待ってます」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——毎日——聞くんです」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——うつむいた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——"変身して"、って」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——答えて——ください」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——長い——沈黙が——あった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………ふん」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——もう」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲの——手が——動いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——変身して——おる」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——カゲさん——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——飛びついた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——騒ぐな」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲは——ゆっくりと——起き上がった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——止まって——おっただけだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——止まる、って——なんですか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——空気が——切れると——止まるのだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼は——けろり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——だが——死なぬ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——すでに——死んで——おるからな」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——先に——言って——ください——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——忘れて——おった」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 夜
⸻
⸻
⸻
⸻
——広場で。
⸻
⸻
⸻
⸻
——子どもたちが——集まっていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おじさーん——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おかえりー——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ただいまだ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——カゲが——胸を——張った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——変身して——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——もう——変身して——おる——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——えー——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——それを——遠くから——見ていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——シュワ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ヒカルが——首を——下ろした。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ヒカルさん」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——シュワッ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"星が——きれいだった"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そうですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——シュワ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"久しぶりに——見た"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ヒカルさん」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——シュワ?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ありがとう——ございました」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——シュワッ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"地球を——守るのが——役目だ"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ここ——地球じゃ——ないですよ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——シュワ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"知ってる"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
『——"だが——似てる"、って』
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——空を——見上げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——三千——四百——十二。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——全部——集まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
*「二年で、十回。二千四百三十、集まった。残りは九百八十二。全部、月の道の裏側。網が届かない。……ヒカルさんは行けるけど、帰れない。魔力を送っても、十一号より先は中継ぎがない。……皆瀬さんに、もう一つ分けられないか聞いたら、"無理。十二が限界。これ以上分けたら消える"、って。なら駄目です。……そこへ、カゲさんが、"私が行く。中継ぎだ"、って。飛べないでしょう、って言ったら、"ヒカルに運んでもらう"、って。……帰れなくなりますよね、って言ったら、あの人、"聞け。私はもう身体が衣と一つになっておる"、って。……でも、訂正が、あった。"衣と一つになったのではない。中の人間が死んだのだ"、と。向こうの世界で一度死んだのに、変身が解けなくて、動き続けた。中身が死んだまま。……だから、"私はもう死んでおる。帰れぬと言われても困らぬ"、って。……困ります、って言った。毎日、芋を運んでもらってます。一番速いです。それに、子どもたちが待ってます。毎日、"変身して"、って言われて、"もう変身しておる"、って答えてる。あれ、楽しみにしてます、って。……"卑怯だぞ、田中"、って。八百屋ですから。……代わりに、カゲさんが、"二輪は本来飛べる。燃料が足らぬだけだ"、って。一色さんが、"増やせる。でも上に空気がない"、って。……空気を持っていけませんか、って言った。うち、芋を袋で運びます。空気も同じじゃないですか、って。……一色さんが、"同じじゃないわ"、って叫んで、それから、"同じ、かも"、って止まった。竜の鱗の殻に、空気を詰める。……一年で、二輪が飛ぶようになった。試験で、十一号を通過した。誰も行ったことのない場所。……"星がいっぱい"、"きれいだ"、って。……でも、空気が半日しか保たない。中継ぎにはなれない。そしたらカゲさんが、"中継ぎになる必要があるか。運べばよいのだろう。空気を"、って。……ヒカルさんは空気が要らない。魔力だけ。だから、魔石を運ぶことにした。空気を半分に減らして。帰りは、ヒカルさんに掴んでもらう。"荷物と同じだ"、って言われて、カゲさんが、"荷物"、って、うめいてた。……半年後、決行。子どもたちが、"変身して"、って。"もう変身しておる"、"えー"、"ふん。行ってくる"、って。……十一号を通過して、先へ出て、半刻で着いた。"光ってる"、"九百八十二"、"全部光ってる"、って。……網を広げて、一刻。……全部、掛かった。九百八十二、全部。……三千四百十二、揃いました。……でも、帰りに、カゲさんが喋らなくなった。降ろしたら、動かなかった。ルナさんが、"効きませんわ。この方、最初から死んでおられますの"、って。……座り込んで、話しかけた。子どもたちが待ってます。毎日、変身して、って聞くんです。答えてください、って。……そしたら、"ふん。もう、変身しておる"、って。……"止まっておっただけだ。空気が切れると止まる。だが死なぬ。すでに死んでおるからな"、って。先に言ってください。"忘れておった"、って。……夜、ヒカルさんが、"星がきれいだった。久しぶりに見た"、って。……礼を言ったら、"地球を守るのが役目だ"、って。ここ、地球じゃないですよ、って言ったら、"知ってる。だが、似てる"、って。じいちゃん。全部、集まりました」*
⸻
心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
⸻
⸻
——たとえ——空に——見えなくても。
⸻
⸻
⸻
まだこの時の誠は知らない。「ここは——地球では——ない。だが——似てる」、という——ヒカルの——その、言葉が。
⸻
⸻
——何と——何を——比べた——上での——ものだったのかを。
そして——彼が——星の——外で——見た——「いっぱいの——星」、の——中に。
⸻
⸻
——彼の——故郷が——あったのかどうかも。
⸻
⸻
⸻
——今は……まだ、誰も——確かめて——いない。




