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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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425/447

第138話「二年、十回」

回収は——二年——続いた。





——月に——一度。






——網を——上げ。






——ヒカルが——広げ。






——そして——引き寄せる。








「——第七回——三百二十——!!」






「——第八回——二百九十——!!」








「——減って——おるな」







——ミネルが——帳面を——見た。







「——近い——ものから——取ってますから」








——一色が——静かに——言った。







「——残りは——遠い——ものばかり」









——そして——第十回。







「——百四十——!!」







——皆瀬——一号が——伝えた。







「——合計は——!!」








「——二千——四百——三十——です」







——アカリが——読み上げた。







「——残りは——九百——八十二」








「——七割か——!!」







——ミネルが——立ち上がった。







「——上出来だ——!!」








「——一色さん」







——誠が——尋ねた。







「——的は——どうですか」








「——できてるわ」







——彼女は——板を——見た。







「——鉄と——合わせて——山——一つ、分」






「——もう——自分で——引き始めてる」








「——本当ですか——!?」






「——ええ」








——一色は——微笑んだ。







「——雪だるまが——転がり始めたわ」









## 残り






——だが——問題は——ここから、だった。








「——九百——八十二」







——一色が——図を——広げた。







「——全部——月の——道の——裏側」






「——網が——届かないわ」








「——どれくらい——遠いんですか」






「——十一号の——三倍」








「…………」







「——ヒカルさんは——行けますか」








——誠が——空に——尋ねると。






——皆瀬が——揺れた。








『——"行ける"、って』







『——"けど——帰れない"、って』








「——魔力を——送っても——ですか」








『——"届かない"、って』







『——"十一号より——先は——中継ぎが——ない"』








「…………」







——工房が——沈んだ。








「——皆瀬さんを——もう一つ——上げられませんか」







——誠が——言うと。






——十二番が——揺れた。








『——無理』






「——なぜですか」






『——もう——分けられない』








——十二番は——ぽつり、と——言った。







『——十二が——限界』






『——これ以上——分けたら——消える』








「——では——駄目です」







——誠が——即座に——言った。









## カゲ






——三日、詰まった。







——そして——四日目。







——カゲが——工房に——現れた。








「——私が——行く」







「…………え?」








——誠が——顔を——上げた。







「——カゲさん?」






「——中継ぎだ」








——カゲは——静かに——言った。







「——十一号の——先に——私が——立つ」






「——魔力を——受けて——ヒカルに——渡す」








「——待って——ください——!!」







——一色が——止めた。







「——カゲさん——飛べないでしょう——!!」






「——飛べぬ」








「——では——どうやって——!!」






「——運んで——もらう」








——カゲは——けろり、と——言った。







「——誰に——ですか」






「——ヒカルに、だ」








「…………」







「——待って——ください」







——誠が——遮った。







「——カゲさんも——帰れなく——なりますよね」








「——うむ」






「——駄目です」








「——田中」







——カゲは——静かに——言った。







「——聞け」






「——聞きません」








「——聞け」








——彼は——覆面の——奥から——誠を——見た。








「——私はな」






「…………」






「——もう——身体が——衣と——一つに——なって——おる」








「…………」







——誠が。






——固まった。







「——知って——おったな」






「…………」








「——藤原殿から——聞いたであろう」







「——すみません」








「——構わぬ」







——カゲは——首を——振った。







「——だが——一つ——訂正が——ある」






「——なんですか」








「——私は——衣と——一つに——なった、のでは——ない」







——彼は——静かに——言った。







「——中の——人間が——死んだのだ」








「…………」







——工房が。






——凍りついた。








「——どういう——意味ですか」







「——向こうの——世界でな」








——カゲは——ぽつり、と——言った。







「——私は——一度——死んだ」








「…………」







「——だが——変身が——解けなんだ」







——彼は——低く——言った。







「——動き続けたのだ」






「——中身が——死んだ——まま——な」








「…………」







——誰も。






——声を——出さなかった。








「——だから——私は——もう——死んで——おる」







——カゲは——静かに——言った。







「——帰れぬ、と——言われても——困らぬ」








「…………」







「——困ります」







——誠が——言った。








「——なぜだ」






「——毎日——芋を——運んでもらってます」








「——他の——者が——おる」






「——カゲさんが——一番——速いです」








「…………」







「——それに」







——誠は——続けた。







「——子どもたちが——待ってます」








「…………」







——カゲの——動きが。






——止まった。








「——毎日——"変身して"、って——言われてますよね」







「——うむ」






「——毎日——"もう——変身しておる"、って——答えてますよね」








「——うむ」






「——あれ——楽しみに——してます」








「…………」







——カゲは。






——長い、こと——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——卑怯だぞ、田中」






「——八百屋ですから」









## 別の道






「——では——どうする——!!」







——ミネルが——叫んだ。







「——九百——八十二が——残るぞ——!!」








「——考えます」







——誠が——言った。







「——五年——ありますから」








「——だが——手が——ないぞ——!!」








「——一つ——あります」







——カゲが——ぽつり、と——言った。







「——なんですか」






「——二輪だ」








「…………え?」







「——あれは——本来——飛べる」








——カゲは——静かに——言った。







「——飛べるんですか——!?」






「——向こうの——世界では——な」








「——なぜ——飛ばないんですか——!!」






「——燃料が——足らぬ」








——彼は——渋い——顔を——した。







「——地を——走るのが——精一杯だ」








「——一色さん——!!」







——誠が——叫んだ。







「——燃料を——増やせませんか——!!」








「——待って」







——一色が——計算を——始めた。







——そして——半刻、後。








「——増やせるわ」







「——本当ですか——!?」








「——でも——駄目」







——彼女は——首を——振った。







「——なぜですか」






「——空気が——ないの」








「…………」







「——燃やすには——空気が——要るわ」







——一色は——静かに——言った。







「——上には——ないの」








「…………」







——工房が——沈んだ。







——そして。







「——待って——ください」








——誠が——顔を——上げた。







「——空気を——持って——いけませんか」








「…………」







——一色が。






——固まった。







「——なんて?」






「——袋に——詰めるんです」








——誠は——けろり、と——言った。







「——うち——芋を——袋で——運びます」






「——空気も——同じじゃ——ないですか」








「…………」







「——同じじゃ——ないわ——!!」







——一色が——叫んだ——が。







「——待って」








——彼女は——止まった。







「——同じ、かも」






「——え?」








「——竜の——鱗の——殻が——あるわ——!!」







——一色が——立ち上がった。







「——熱にも——強くて——軽い——!!」






「——あれに——空気を——詰めれば——!!」








「——できますか——!!」






「——計算するわ——!!」









## 一年






——一年、かけて。






——二輪は——作り変えられた。







——竜の——鱗の——殻を——纏い。






——背に——空気の——袋を——三十——積んで。








「——重いぞ」







——カゲが——跨った。







「——走れますか」






「——走らぬ」








——彼は——けろり、と——言った。







「——飛ぶのだ」









——試験の——日。







「——行くぞ——!!」







——ごおおおお——!!







——二輪が——地を——離れた。








「——飛んだ——!!」






「——本当に——飛んだ——!!」








「——高さは——!!」







——一色が——叫んだ。







『——一号を——通過』








『——三号——通過』







『——七号——通過』








「——速い——!!」






「——竜より——速いと——言うたであろう——!!」








『——十一号——通過』








「…………」







——荒野が。






——静まり返った。







——十一号より——先。







——誰も——行った、ことの——ない——場所。








「——皆瀬さん——!!」







——誠が——叫んだ。







「——見えますか——!!」








『——見えない』







『——でも——聞こえる』








「——なんて——言ってますか——!!」








『…………』







『——"見える"、って』








「——何がですか——!!」








『——"星が——いっぱい"』








「…………」







『——"きれいだ"、って』








「…………」







——荒野が。






——静まっていた。









## 中継ぎ






——だが——問題は——残っていた。








「——空気は——どれくらい——保ちますか」







——誠が——尋ねた。







「——三十袋で——半日だ」








——カゲが——答えた。







「——往復は?」






「——ぎりぎりだ」








「——では——止まる——時間が——ありません」







「——うむ」








「——中継ぎに——なれませんね」






「——ならぬ」








「…………」







——工房が——沈んだ——が。







「——待て」








——カゲが——言った。







「——中継ぎに——なる——必要が——あるか」








「——え?」






「——運べば——よいのだろう」








「——何を——ですか」






「——空気を、だ」








「…………」







——一色が。






——ゆっくりと——顔を——上げた。







「——待って」






「——なんですか」








「——ヒカルさんは——空気が——要るの?」







——彼女は——空に——尋ねた。








『——"要らない"、って』







『——"魔力だけ"』








「——なら——魔力を——運べばいいわ——!!」







——一色が——叫んだ。







「——魔力を——運ぶ——!?」








「——魔石よ——!!」







——彼女は——早口に——なった。







「——魔力を——石に——溜められる——!!」






「——それを——カゲさんが——運ぶの——!!」








「——できますか——!!」






「——できるわ——!!」








「——だが——一度に——どれくらいだ」







——ミネルが——尋ねた。







「——三十袋の——代わりに——魔石を——積めば」








——一色は——計算した。







「——ヒカルさんの——帰り、分は——足りるわ」








「——では——空気は——!?」






「——半分に——減らす」








「——カゲさんが——帰れませんよね——!!」







——誠が——叫ぶと。






——カゲは——けろり、と——言った。








「——ヒカルに——掴んで——もらう」








「…………」







「——え?」






「——あやつは——四十丈だ」








——カゲは——静かに——言った。







「——私を——掴んで——飛べば——よい」








「——そんな——雑な——!!」






「——シュワッ——!!」








『——"できる"、って』








「——できるんですか——!?」







『——"荷物と——同じだ"、って』








「——荷物——!!」







——カゲが——うめいた。









## 決行






——半年、後。






——第十一回の——回収が——始まった。








「——カゲさん」







——誠が——見送った。







「——なんだ」






「——気を——つけて——ください」








「——うむ」






「——それと」








——誠は——後ろを——指した。







——広場には——子どもたちが——並んでいた。








「——おじさーん——!!」






「——変身して——!!」








「…………」







——カゲは。






——腰の——帯に——手を——かけて。






——そして——言った。








「——もう——変身して——おる——!!」







「——えー——!!」






「——ずるい——!!」








「——ふん——!!」







——彼は——低く——笑った。







「——行ってくる——!!」









——ごおおおお——!!







——二輪が——空へ——消えた。








『——十一号——通過』







『——先へ——出た』








「——ヒカルさんは——!!」







『——後を——追ってる』









——半刻。







——荒野は——静まり返っていた。







——そして。







『——着いた』








「——本当ですか——!!」







『——"見える"、って』








「——何がですか——!!」








『…………』







『——"光ってる"、って』








「…………」







『——"九百——八十二"』







『——"全部——光ってる"、って』








「…………」







——誠は。






——空を——見上げた。







——何も——見えない。







——だが——確かに——そこに——ある。








「——網を——広げて——ください——!!」







『——広げてる』









——一刻。







——そして。







『——掛かった』








「——いくつですか——!!」







『…………』







『——九百——八十二』








「…………」







——荒野が。






——凍りついた。








「——全部——!?」







『——全部』








「——うおおおおおお——!!!」







——荒野が——爆発した。








「——三千——四百——十二——!!」






「——全部——揃った——!!」






「——イーーーッ——!!」









## 帰還






——だが。






——誠は——喜んで——いなかった。








「——皆瀬さん——!!」






「——お二人は——!!」








『…………』







『——帰ってる』








「——無事ですか——!!」







『…………』








『——カゲが——喋らない』








「…………」







——誠の。






——顔色が——変わった。







「——空気が——切れたんですか——!!」








『——分からない』







『——ヒカルが——掴んでる』








「——急いで——ください——!!」









——半刻、後。






——荒野に——ヒカルが——降りてきた。







——手に——二輪を——掴んだまま。








「——カゲさん——!!」







——誠が——駆け寄った。







——二輪から——降ろされた——カゲは。







——動かなかった。








「——カゲさん——!!」






「…………」








「——ルナさん——!!」







——誠が——叫んだ。







「——すでに——おりますわ」








——ルナが——手を——かざした。







——だが。







「…………」







「——ルナさん?」








「——効きませんわ」







——彼女は——かすれた——声で——言った。







「——なぜですか——!!」






「——この、方」








——ルナは——手を——止めた。







「——最初から——死んで——おられますの」








「…………」







——荒野が。






——静まり返った。








「——では——どうすれば——!!」







「——分かりませんわ」








「…………」







——誠は。






——カゲの——横に——座り込んだ。







——そして——ぽつり、と——言った。








「——カゲさん」






「…………」






「——子どもたちが——待ってます」








「…………」







「——毎日——聞くんです」







——誠は——うつむいた。







「——"変身して"、って」








「…………」







「——答えて——ください」








「…………」







——長い——沈黙が——あった。







——そして。







「…………ふん」








「…………」







「——もう」








——カゲの——手が——動いた。







「——変身して——おる」








「——カゲさん——!!」







——誠が——飛びついた。







「——騒ぐな」








——カゲは——ゆっくりと——起き上がった。







「——止まって——おっただけだ」






「——止まる、って——なんですか——!!」








「——空気が——切れると——止まるのだ」







——彼は——けろり、と——言った。







「——だが——死なぬ」






「——すでに——死んで——おるからな」








「——先に——言って——ください——!!」






「——忘れて——おった」









## 夜






——広場で。






——子どもたちが——集まっていた。








「——おじさーん——!!」






「——おかえりー——!!」








「——ただいまだ——!!」







——カゲが——胸を——張った。







「——変身して——!!」








「——もう——変身して——おる——!!」







「——えー——!!」








「…………」







——誠は。






——それを——遠くから——見ていた。








「——シュワ」







——ヒカルが——首を——下ろした。







「——ヒカルさん」






「——シュワッ」








『——"星が——きれいだった"、って』








「——そうですか」






「——シュワ」








『——"久しぶりに——見た"、って』








「…………」







「——ヒカルさん」






「——シュワ?」






「——ありがとう——ございました」








「——シュワッ」







『——"地球を——守るのが——役目だ"、って』








「——ここ——地球じゃ——ないですよ」







「——シュワ」








『——"知ってる"、って』







『——"だが——似てる"、って』








「…………」







——誠は。






——空を——見上げた。







——三千——四百——十二。







——全部——集まった。






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「二年で、十回。二千四百三十、集まった。残りは九百八十二。全部、月の道の裏側。網が届かない。……ヒカルさんは行けるけど、帰れない。魔力を送っても、十一号より先は中継ぎがない。……皆瀬さんに、もう一つ分けられないか聞いたら、"無理。十二が限界。これ以上分けたら消える"、って。なら駄目です。……そこへ、カゲさんが、"私が行く。中継ぎだ"、って。飛べないでしょう、って言ったら、"ヒカルに運んでもらう"、って。……帰れなくなりますよね、って言ったら、あの人、"聞け。私はもう身体が衣と一つになっておる"、って。……でも、訂正が、あった。"衣と一つになったのではない。中の人間が死んだのだ"、と。向こうの世界で一度死んだのに、変身が解けなくて、動き続けた。中身が死んだまま。……だから、"私はもう死んでおる。帰れぬと言われても困らぬ"、って。……困ります、って言った。毎日、芋を運んでもらってます。一番速いです。それに、子どもたちが待ってます。毎日、"変身して"、って言われて、"もう変身しておる"、って答えてる。あれ、楽しみにしてます、って。……"卑怯だぞ、田中"、って。八百屋ですから。……代わりに、カゲさんが、"二輪は本来飛べる。燃料が足らぬだけだ"、って。一色さんが、"増やせる。でも上に空気がない"、って。……空気を持っていけませんか、って言った。うち、芋を袋で運びます。空気も同じじゃないですか、って。……一色さんが、"同じじゃないわ"、って叫んで、それから、"同じ、かも"、って止まった。竜の鱗の殻に、空気を詰める。……一年で、二輪が飛ぶようになった。試験で、十一号を通過した。誰も行ったことのない場所。……"星がいっぱい"、"きれいだ"、って。……でも、空気が半日しか保たない。中継ぎにはなれない。そしたらカゲさんが、"中継ぎになる必要があるか。運べばよいのだろう。空気を"、って。……ヒカルさんは空気が要らない。魔力だけ。だから、魔石を運ぶことにした。空気を半分に減らして。帰りは、ヒカルさんに掴んでもらう。"荷物と同じだ"、って言われて、カゲさんが、"荷物"、って、うめいてた。……半年後、決行。子どもたちが、"変身して"、って。"もう変身しておる"、"えー"、"ふん。行ってくる"、って。……十一号を通過して、先へ出て、半刻で着いた。"光ってる"、"九百八十二"、"全部光ってる"、って。……網を広げて、一刻。……全部、掛かった。九百八十二、全部。……三千四百十二、揃いました。……でも、帰りに、カゲさんが喋らなくなった。降ろしたら、動かなかった。ルナさんが、"効きませんわ。この方、最初から死んでおられますの"、って。……座り込んで、話しかけた。子どもたちが待ってます。毎日、変身して、って聞くんです。答えてください、って。……そしたら、"ふん。もう、変身しておる"、って。……"止まっておっただけだ。空気が切れると止まる。だが死なぬ。すでに死んでおるからな"、って。先に言ってください。"忘れておった"、って。……夜、ヒカルさんが、"星がきれいだった。久しぶりに見た"、って。……礼を言ったら、"地球を守るのが役目だ"、って。ここ、地球じゃないですよ、って言ったら、"知ってる。だが、似てる"、って。じいちゃん。全部、集まりました」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。「ここは——地球では——ない。だが——似てる」、という——ヒカルの——その、言葉が。




——何と——何を——比べた——上での——ものだったのかを。


そして——彼が——星の——外で——見た——「いっぱいの——星」、の——中に。




——彼の——故郷が——あったのかどうかも。





——今は……まだ、誰も——確かめて——いない。

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