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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第136話「閉じ込めた、者」

「——気に——なるのだ」





——ミネルが——帳面を——閉じた。







「——何がですか」






「——扉だ」








——彼は——低く——言った。







「——十万を——三十年——閉じ込めて——おいた——場所が——ある」






「——それが——どこか——分からぬ」








「——聞きましょう」







——誠が——言った。







「——誰にだ」






「——ウーさんです」









## ウーの、話






——学び舎の——裏で。






——ウーは——炭を——置いた。








「——ウーさん。三十年——どこに——いましたか」








「…………」







——ウーは。






——しばらく——黙って。






——そして——ゆっくりと——喋った。







——半年で——覚えた——言葉、だった。








「——した」







「——下?」






「——ずっと——した」








——ウーは——地面を——指した。







「——地下、ですか」






「——ちがう」








——彼は——首を——振った。







「——もっと——した」








「…………」







「——第十一層より——下ですか」







——誠が——尋ねると。






——ウーは——頷いた。








「——ずっと——した」






「——あつくない」








「…………」







——ミネルが。






——動きを——止めた。







「——待て」






「——なんですか」








「——第十一層の——下には——何も——ないぞ」







——彼は——低く——言った。







「——三十年——前に——掘った」






「——岩盤に——当たって——止めたのだ」








「…………」







「——ウーさん」






「——ウ」






「——広かったですか」








「——ひろい」







——ウーは——頷いた。







「——十万——はいる」








「——飯は?」






「——ない」








「…………」







「——では——どうやって——三十年——!!」







——ミネルが——叫ぶと。






——ウーは——ぽつり、と——言った。








「——へった」








「…………」







「——さいしょ——ひゃくまん」








「…………」







——学び舎の——裏が。






——静まり返った。








「——百万」







——誠が——かすれた——声で——言った。







「——ウ」








——ウーは——頷いた。







「——いまは——じゅうまん」








「…………」







——誰も。






——声を——出さなかった。









## 誰が






「——ウーさん」







——誠が——静かに——尋ねた。







「——扉は——誰が——閉めましたか」








「…………」







——ウーは。






——長い、こと——黙った。







——そして——言った。








「——おれたちだ」








「…………え?」







——誠が——固まった。







「——自分で——ですか」






「——ウ」








「——なぜ——ですか——!!」







——ミネルが——叫んだ。








「…………」







——ウーは。






——炭を——手に——取った。







——言葉では——足りない、と——思ったらしい。







——そして——書いた。








*——あつかった*





*——にげた*





*——したに にげた*








「…………」







*——ひとも にげてきた*








「…………」







——誠は。






——息を——呑んだ。








「——人も、ですか」






「——ウ」








*——おなじ あなに にげた*







*——ころしあった*








「…………」







——学び舎の——裏が。






——凍りついた。








*——ひとが まけた*








「…………」







*——おれたちが くった*








「…………」







——誰も。






——動かなかった。








*——それで*







——ウーは——書き続けた。








*——おれたちが とびらを しめた*








「…………」







「——なぜ——ですか」







——誠が——尋ねると。






——ウーは——炭を——止めた。







——そして——ゆっくりと——書いた。








*——また くうから*








「…………」







*——うえに でたら また くう*







*——はらが へってるから*








「…………」







——誠は。






——その場に——座り込んだ。








*——だから しめた*







*——なかから*








「…………」







「——三十年——ですか」






「——ウ」








「——九十万——減るまで、ですか」







「——ウ」








「…………」







——ミネルが。






——顔を——覆った。








「——ウーさん」







——誠が——顔を——上げた。







「——ウ」






「——今回は——なぜ——出てきたんですか」








「…………」







——ウーは。






——空を——見上げた。







——影の——帯が——広がっている。








*——こえが した*








「——声?」








*——「そろそろ でてもええ」*








「…………」







*——「うえに めしが ある」*








「…………」







「——信じたんですか」








*——しんじてない*








——ウーは——首を——振った。







*——でも もう しぬから*







*——じゅうまんも あと いちねんだった*








「…………」







*——どうせ しぬなら*







*——うえで しのうと おもった*








「…………」







——誠は。






——長い、こと——動けなかった。








「——ウーさん」






「——ウ」






「——一つだけ——聞かせて——ください」








「——ウ」






「——なぜ——広場を——目指したんですか」








「…………」







——ウーは。






——ゆっくりと——書いた。








*——かげが いちばん こいから*








「…………」







*——そこで しねば すずしい*








「…………」







——誠は。






——顔を——覆った。








「——田中殿?」






「——すみません」








——彼は——声を——押し殺していた。







「——ちょっと」








「…………」







——ウーは。






——太い——手で——誠の——背を——さすった。







——そして——ぼそり、と——言った。








「——めしが——あった」








「…………」







「——うそじゃ——なかった」








「…………」









## 報告






——工房に——戻ると。






——誠は——皆に——伝えた。








「——百万——だったそうです」







「…………」








「——九十万——減りました」







——誠は——静かに——言った。







「——三十年——かけて」








「…………」







——工房が。






——重く——沈んだ。








「——それと——一つ——分かりました」







——誠は——続けた。







「——なんだ」






「——地下に——逃げた——人が——いたそうです」








「…………」







「——第十一層より——下に」








「——待て」







——ミネルが——訝しんだ。







「——我らは——第十一層までしか——知らぬ」






「——なら——別の——人たちです」








「——どこの——者だ——!!」






「——分かりません」








「——アカリさん——!!」







——一色が——叫んだ。







「——三十年——前の——人口は——分かる——!?」








「——分かります」







——アカリが——帳面を——めくった。







「——ですが——一つ——合わぬ——数が——ございます」








「——なんですか」






「——記録に——ない——地域が——三つ」








——彼は——静かに——言った。







「——三十年——前の——地図には——ございます」






「——ですが——今の——地図には——ございません」








「…………」







「——人口は——どれくらいですか」








「——合わせて——四万」








「…………」







——工房が。






——静まり返った。








「——四万」







——誠が——ぽつり、と——言った。







「——僕たち——数えてませんでした」








「…………」







「——弔いの——壁に——ないんですね」






「——ございません」








「…………」







——誠は。






——ゆっくりと——立ち上がった。








「——掘りましょう」








「——なんだと?」






「——第十一層の——下です」








「——待て、田中——!!」







——ミネルが——止めた。







「——今——それどころでは——ないぞ——!!」






「——七年——余ってます」








「——だが——!!」






「——ミネルさん」








——誠は——静かに——言った。







「——四万人です」








「…………」







「——名前も——分かりません」







——誠は——うつむいた。







「——三十年——気づきませんでした」








「…………」







「——せめて——数えたいです」








「…………」







——ミネルは。






——長い、こと——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——分かった」






「——ミネルさん」






「——だが——一つ——条件が——ある」








「——なんですか」






「——私も——行く」









## 掘る






——第十一層の——最奥。







——三十年——前に——止まった——岩盤が——あった。








「——ここだ」







——鬼族の——親方が——叩いた。







「——硬いですか」






「——三十年——前は——歯が——立たなんだ」








「——今は?」






「——道具が——変わった」








——親方は——にやり、と——した。







「——それに——手が——多い」








「——ウ——!!」







——後ろで——オーガが——十人——並んでいた。








「——ウーさん——手伝って——くれるんですか」






「——ウ」








「——ありがとう——ございます」






「——みちは——おぼえてる」









——七日、かけて。






——岩盤が——抜けた。








「——抜けたぞ——!!」







——冷たい——風が——吹き上げてきた。







「——涼しい——!?」






「——地下は——涼しいのだ」









——降りると。






——そこは——広大な——空洞、だった。







——灯りを——掲げると。







「…………」








——皆が。






——足を——止めた。








——骨が。







——一面に——広がっていた。








「…………」







「——数え切れぬ」







——ミネルが——かすれた——声で——言った。








「——数えます」







——誠が——言った。







「——九十万——だぞ——!!」






「——人も——います」








「…………」









## 壁






——だが。






——奥へ——進んだ——時。







——ルカが——立ち止まった。








「——師匠」






「——どうした」






「——壁を——見て——ください」








——灯りを——近づけると。







——そこには。







——文字が——彫られていた。







——数え切れぬ——ほどの。








「…………」







「——名前です」








——ルカが——ぽつり、と——言った。







「…………」







——誠は。






——壁に——手を——当てた。







——ずっと——奥まで——続いている。








「——ルカ」






「——はい」






「——数えられるか」








「——数えます」









——三月、かかった。







「——出ました」







——ルカが——帳面を——置いた。







「——いくつだ」








「——三万——九千——八百——十二」








「…………」







「——四万——には——足りぬな」







——ミネルが——低く——言った。







「——百八十八人——足りません」








——アカリが——静かに——言った。







「——最後の——百八十八人を——彫る——者が——おらなかったのでしょう」








「…………」







——空洞が。






——静まり返った。








「——ウーさん」







——誠が——尋ねた。







「——この——壁を——知ってましたか」








「——ウ」






「——なぜ——壊さなかったんですか」








「…………」







——ウーは。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——だれかが」






「——ほりに——くると——おもった」








「…………」







「——三十年——ですか」






「——ウ」








「——待ってたんですか」






「——ウ」








「…………」







——誠は。






——深く——頭を——下げた。








「——遅くなりました」







「——ウ」








——ウーは——首を——振った。







——そして——ぽつり、と——言った。








「——きた」







「——え?」






「——それで——いい」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「扉のことを、ウーさんに聞いた。半年で、あの人、喋れるようになってた。……"した"、"ずっと した"、って。地下より、もっと下。第十一層の下。三十年前に岩盤で止めたところ。……広さは、十万入る。飯は、ない。では、どうやって三十年、って聞いたら、"へった"、って。……"さいしょ ひゃくまん"。……九十万、減ってた。……扉は誰が閉めたのか、聞いたら、"おれたちだ"、って。自分で。……理由を、炭で書いてくれた。"あつかった。にげた。したに にげた"。"ひとも にげてきた"。"おなじ あなに にげた"。"ころしあった"。"ひとが まけた"。"おれたちが くった"。……"それで おれたちが とびらを しめた"。……なぜ、と聞いたら、"また くうから"。"うえに でたら また くう"。"はらが へってるから"。"だから しめた。なかから"。……三十年。九十万、減るまで。……今回なぜ出てきたのか聞いたら、"こえが した"、"そろそろ でてもええ"、"うえに めしが ある"、って。信じたのか聞いたら、"しんじてない"。"でも もう しぬから"。"じゅうまんも あと いちねんだった"。"どうせ しぬなら うえで しのうと おもった"、って。……なぜ広場を目指したのか聞いたら、"かげが いちばん こいから"。"そこで しねば すずしい"、って。……座り込んでしまいました。ウーさんが、背中をさすってくれて、"めしが あった"、"うそじゃ なかった"、って。……工房で報告したら、アカリさんが、"記録にない地域が三つございます。三十年前の地図にはございます。今の地図にはございません。人口は合わせて四万"、って。……僕たち、数えてませんでした。弔いの壁にも、ない。……掘りましょう、って言った。七年、余ってます。四万人です。名前も分かりません。せめて、数えたいです。……ミネルさんが、"分かった。だが条件がある。私も行く"、って。……七日で岩盤が抜けた。ウーさんたちが手伝ってくれた。"みちは おぼえてる"、って。……降りたら、骨が、一面に。……そして、奥の壁に、文字が彫ってあった。数え切れないほど。……ルカが三月かけて数えた。三万九千八百十二。四万には、百八十八、足りない。最後の百八十八人を彫る者が、いなかったのでしょう、って。……ウーさんに、なぜ壁を壊さなかったのか聞いたら、"だれかが ほりに くると おもった"、って。三十年、待ってた。……遅くなりました、って謝ったら、首を振って、"きた"、"それで いい"、って。じいちゃん。壁が、また、増えます」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。三万——九千——八百——十二の——名を——壁に——彫った——者たちが。




——最後まで——何を——待って——いたのかを。


そして——彫る——者が——いなく——なった——最後の——百八十八人が。




——どこに——葬られて——いるのかも。





——今は……まだ、誰も——見つけて——いない。

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