表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
420/447

第135話「十万の、働き口」

イベントが——終わって——三日。





——魔物は——帰らなかった。







「——なぜ——おるのだ」







——ミネルが——訝しんだ。







「——飯が——あるからです」








——誠が——けろり、と——言った。







「——それだけか——!!」






「——それだけです」









——だが——問題は——山積み、だった。








「——田中様」







——アカリが——帳面を——広げた。







「——このままでは——三月で——底を——つきます」








「——三月——!?」






「——十万は——多うございます」








——彼は——静かに——言った。







「——一日で——芋が——一万——袋です」








「——うちの——蔵は?」






「——空です」








「…………」







「——だから——言うたのだ——!!」







——ミネルが——叫んだ。







「——養えぬぞ——!!」






「——養います」








「——どうやってだ——!!」






「——働いて——もらいます」









## だが






——それは——簡単では——なかった。








「——言葉が——通じません——!!」







——鬼族の——親方が——頭を——抱えた。







「——"そこを——押さえろ"、と——言うても——分からぬ——!!」








「——皆瀬さんは?」






『——十二人、しか——いない』








——十二番が——揺れた。







『——十一人は——空』






『——地上は——わたし——一人』








「——十万に——一人ですか」






『——無理』








「…………」







——工房が——沈んだ。







——そして——三日。







——答えは——出なかった。









## 四日目






——ルカが——駆けてきた。








「——師匠——!!」






「——どうした」






「——書けました——!!」








「——何がだ」






「——ウーさんが——!!」








「——誰だ——それは」






「——オーガの——方です——!!」








——ルカは——帳面を——広げた。







——そこには。







——太い——線で——書かれた——記録が——あった。








*——今日の空 雲なし 風よわい*








「…………」







「——書けるのか——!?」







——ミネルが——飛び上がった。







「——三日——教えたら——覚えました——!!」








——ルカは——興奮していた。







「——ミネルさんが——教えたんです——!!」






「——私は——三日——付き合っただけだ——!!」








「——待って——ください」







——誠が——静かに——言った。







「——ウーさん——文字を——知ってたんですか」






「——知りませんでした——!!」








「——三日で——覚えたんですか」






「——はい——!!」








「…………」







——誠は。






——じっと——帳面を——見つめた。







——そして——ぽつり、と——言った。








「——賢いんですね」








「…………」







——工房が。






——静まった。








「——待て、田中」







——ミネルの——声が——変わった。







「——それは——まずいぞ」






「——なぜですか」








「——我らは——三十年」







——彼は——低く——言った。







「——あやつらを——"獣"、だと——思うて——おった」








「…………」







「——だが——三日で——文字を——覚える」







——ミネルは——うめいた。







「——人の——子でも——三月は——かかる」








「…………」







「——では——なぜ——三十年——喋らなかったんでしょう」







——誠が——尋ねた。







「——分からぬ」








「——聞きましょう」









## ウー






——荒野で。






——オーガが——炭を——握っていた。








「——ウーさん」






「——ウ」






「——一つ——伺っても——いいですか」








「——ウウ」







——ウーは——炭で——書いた。








*——どうぞ*








「——ウーさんたちは——喋れますか」








「…………」







——ウーは。






——しばらく——考えて。






——そして——書いた。








*——じぶんたちの ことばなら*








「——じゃあ——僕たちの——言葉は」








*——ならった ことが ない*








「…………」







「——教わったら——喋れますか」








*——たぶん*








「…………」







——誠は。






——長い、こと——黙って。






——そして——尋ねた。








「——三十年」






「——ウ」






「——誰も——教えに——来ませんでしたか」








「…………」







——ウーは。






——ゆっくりと——書いた。








*——だれも こなかった*








「…………」







*——三百年 こなかった*








「…………」







——荒野が。






——静まり返った。








「——三百年」







——ミネルが——かすれた——声で——言った。







「——では——ずっと」








「…………」







——誠は。






——深く——頭を——下げた。








「——すみませんでした」







「——ウ?」








「——僕たち——一度も——聞きに——行きませんでした」








「…………」







——ウーは。






——しばらく——誠を——見て。






——そして——書いた。








*——おれたちも いかなかった*








「…………」







*——おなじだ*








「…………」







——誠は。






——顔を——上げた。








「——ウーさん」






「——ウ」






「——お願いが——あります」








*——なんだ*







「——先生に——なって——ください」








*——…………*







*——おれが?*








「——はい」







——誠は——真剣に——言った。







「——十万に——言葉を——教えるのは——僕たちには——無理です」






「——でも——ウーさんなら——できます」








*——おれは 三日 ならっただけだ*








「——三日で——覚えました」







——誠は——微笑んだ。







「——なら——教えられます」








「…………」







——ウーは。






——長い、こと——黙って。






——そして——書いた。








*——やる*









## 学び舎






——荒野に——学び舎が——できた。







——といっても——布を——張っただけの——ものだが。








「——ウ——!!」







——ウーが——板に——文字を——書いた。








*——めし*








「——ギ——!!」






「——ウウ——!!」








——最初の——生徒は——五十人、だった。







——一月、後には——五百人に——なった。







——三月、後には——五千人。








「——増えすぎでは——ないか——!!」







——ミネルが——驚いた。







「——先生も——増えてます」








——ルカが——帳面を——見た。







「——覚えた——方が——次を——教えてます」






「——三百人ほど——先生に——なりました」








「…………」







「——虫人族と——同じですね」







——誠が——微笑んだ。









## 半年






——半年、後。







「——おはよう——ございます」







——ゴブリンが——挨拶した。







「…………」








——誠は。






——その場で——固まった。








「——喋った——!?」






「——はい」








——ゴブリンは——けろり、と——言った。







「——習いましたので」








「…………」







「——お名前は」






「——ギバと——申します」








「——ギバさん」







——誠は——深く——頭を——下げた。







「——はじめまして」






「——はじめまして」









——そして——一年、後。






——荒野は——変わっていた。








「——第百五十四番の——弓——完成——!!」







——オークの——親方が——叫んだ。







「——早いですね——!!」






「——手が——多いですからな——!!」








「——第百五十五番も——組み上がりました——!!」







——トロールが——報告した。








「——並行——ですか——!?」






「——五本——同時に——やって——おります」








「…………」







——誠は。






——荒野を——見回した。







——鬼族と——オークが——並んで——梁を——担いでいる。







——魔族と——ゴブリンが——一緒に——飯を——食っている。







——そして——竜と——ワイバーンが——同じ——空を——飛んでいる。








「——一色さん」






「——何?」






「——数字は——どうですか」








「——待って」







——一色が——帳面を——めくった。







——そして——顔を——上げた。








「——鉄の——打ち上げが——三倍に——なったわ」







「——三倍——!?」








「——四年——だったのが」







——彼女は——静かに——言った。







「——一年半で——終わる」








「…………」







「——それと——網も」







——虫人族の——長が——現れた。







「——蜘蛛の——魔物が——十万——おりましたので」








「——え?」






「——糸を——出します」








——長は——けろり、と——言った。







「——うちの——三倍——太い——糸を」








「…………」







「——網は——いつ——できますか」






「——半年で」








「——二年——かかる、はずでした——!!」






「——半年です」









## 表






——一色が——新しい——表を——貼った。








*——網:半年*





*——鉄:一年半*





*——的の——形成:二年*





*——破片の——回収(前半):三年*







*——合計:七年*








「——七年——!?」







——ミネルが——絶叫した。







「——十三年——だったのだぞ——!!」






「——十万——増えたもの」








——一色は——けろり、と——言った。







「——残りは——十四年です」







——アカリが——静かに——言った。







「——七年——余ります」








「…………」







——工房が。






——ざわめいた。








「——七年——余るのか——!!」






「——ええ」








「——ならば——後半も——探せる——!!」







——ミネルが——立ち上がった。







「——神を——月に——戻さぬ——道を——だ——!!」








「…………」







——誠は。






——じっと——表を——見つめていた。







——そして——ぽつり、と——言った。








「——一色さん」






「——何?」






「——魔物が——来なかったら——どうなってましたか」








「——え?」






「——十三年——かかってましたよね」








「——そうね」







「——残りは——一年です」








「…………」







「——探す——時間が——ありませんでした」








「…………」







——工房が。






——静まった。








「——待て、田中」







——ミネルの——顔が——強張った。







「——まさか——お前」






「——分かりません」








——誠は——首を——振った。







「——でも——妙です」






「——何がだ——!!」








「——三十年——出なかった——魔物が」







——誠は——静かに——言った。







「——ちょうど——手が——足りない——時に——十万——来ました」








「…………」







「——それと——三日——シャッフルが——ありました」








——誠は——続けた。







「——あれが——なかったら——僕たち——殺し合ってました」








「…………」







「——都合が——よすぎませんか」








「…………」







——誰も。






——答えられなかった。









## 夜






「——皆瀬さん」







——誠が——空を——見上げた。







『——なに』






「——十一号さんに——聞いて——ください」








『——なに』






「——"魔物を——寄越したのは——あなたですか"、って」








『…………』







——長い——沈黙が——あった。







——そして。







『——"寄越してへん"、って』








「——本当ですか」






『——"ほんまや"、って』








「——じゃあ——誰が」








『…………』







『——"開けただけや"、って』








「…………」







——誠の。






——動きが——止まった。








「——何を——ですか」








『…………』







『——"扉"、って』








「…………」







「——どこの——ですか」








『…………』







『——"あいつらが——三十年——閉じ込められとった——ところや"、って』








「…………」







——誠は。






——長い、こと——黙って。






——そして——言った。








「——誰が——閉じ込めたんですか」








『…………』







『——返事が——ない』








「——黙ってますか」






『——うん』








「…………」







——誠は。






——空を——見上げた。







——月が——一つ。







——そして——見えない——どこかに。






——三千——四百——十二の——欠片。








「——皆瀬さん」






『——なに』






「——もう一つだけ」








『——なに』






「——"ありがとうございます"、って——伝えて——ください」








『…………』







『——いいの?』








「——いいです」







——誠は——微笑んだ。







「——扉を——開けて——くれたので」








『…………』







『——伝えた』








「——返事は」








『…………』







『——"礼を——言われるとは——思わんかった"、って』






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「魔物が、帰らなかった。飯があるから。……でも、アカリさんが、"このままでは三月で底をつきます。一日で芋が一万袋です"、って。……働いてもらいます、って言ったけど、言葉が通じなかった。皆瀬さんは地上に一人だけ。十万に一人は、無理。……三日、詰まった。……四日目、ルカが駆けてきて、"書けました"、って。オーガのウーさんが、三日で文字を覚えてた。……人の子でも三月かかる、ってミネルさんが。三十年、"獣"、だと思ってた、って。……だから、聞きに行った。喋れますか、って。"じぶんたちの ことばなら"、"ならった ことが ない"、"たぶん"、って書いてくれた。……三十年、誰も教えに来ませんでしたか、って聞いたら——"だれも こなかった"、"三百年 こなかった"、って。……すみませんでした、僕たち一度も聞きに行きませんでした、って謝ったら、"おれたちも いかなかった"、"おなじだ"、って。……先生になってください、って頼んだ。十万に教えるのは僕たちには無理です。でも、ウーさんならできます、って。"おれは 三日 ならっただけだ"、"三日で覚えました。なら教えられます"。……"やる"、って。……学び舎ができた。生徒が五十人から五百人、三月で五千人。覚えた人が、次を教えてる。先生が三百人になった。虫人族と、同じです。……半年後、ゴブリンに、"おはようございます"、って挨拶された。固まりました。お名前を聞いたら、ギバさん、って。はじめまして、って言い合いました。……一年後、荒野が変わってた。鬼族とオークが梁を担いで、魔族とゴブリンが飯を食って、竜とワイバーンが同じ空を飛んでる。……鉄の打ち上げが三倍。四年が一年半に。網も、蜘蛛の魔物が十万いて、うちの三倍太い糸を出すので、二年が半年に。……全部で七年。十三年だったのが。残りが十四年だから、七年、余ります。……ミネルさんが、"ならば後半も探せる。神を月に戻さぬ道を"、って。……でも、僕、気になった。魔物が来なかったら、十三年かかって、残り一年でした。探す時間が、ありませんでした。……三十年出なかった魔物が、ちょうど手が足りない時に、十万来た。しかも、三日、シャッフルがあった。あれがなかったら、殺し合ってました。……都合が、よすぎませんか。……夜、十一号さんに聞いた。"魔物を寄越したのはあなたですか"、って。"寄越してへん"、って。じゃあ誰が、って聞いたら、"開けただけや"、って。……何を、って聞いたら、"扉"。どこの、って聞いたら、"あいつらが三十年閉じ込められとったところや"、って。……誰が閉じ込めたんですか、って聞いたら、黙られた。……最後に、"ありがとうございます"、って伝えてもらった。扉を開けてくれたので。……"礼を言われるとは思わんかった"、って。じいちゃん。あの人、たぶん、悪い人じゃ、ないです」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。十万の——魔物が——三十年——閉じ込められて——いた——場所が。




——どこで——あったのかを。


そして——その——扉を——閉めた——者が。




——なぜ——それを——したのかも。





——今は……まだ、開けた——者しか——知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ