第135話「十万の、働き口」
イベントが——終わって——三日。
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——魔物は——帰らなかった。
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「——なぜ——おるのだ」
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——ミネルが——訝しんだ。
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「——飯が——あるからです」
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——誠が——けろり、と——言った。
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「——それだけか——!!」
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「——それだけです」
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——だが——問題は——山積み、だった。
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「——田中様」
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——アカリが——帳面を——広げた。
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「——このままでは——三月で——底を——つきます」
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「——三月——!?」
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「——十万は——多うございます」
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——彼は——静かに——言った。
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「——一日で——芋が——一万——袋です」
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「——うちの——蔵は?」
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「——空です」
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「…………」
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「——だから——言うたのだ——!!」
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——ミネルが——叫んだ。
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「——養えぬぞ——!!」
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「——養います」
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「——どうやってだ——!!」
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「——働いて——もらいます」
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## だが
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——それは——簡単では——なかった。
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「——言葉が——通じません——!!」
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——鬼族の——親方が——頭を——抱えた。
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「——"そこを——押さえろ"、と——言うても——分からぬ——!!」
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「——皆瀬さんは?」
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『——十二人、しか——いない』
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——十二番が——揺れた。
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『——十一人は——空』
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『——地上は——わたし——一人』
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「——十万に——一人ですか」
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『——無理』
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「…………」
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——工房が——沈んだ。
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——そして——三日。
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——答えは——出なかった。
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## 四日目
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——ルカが——駆けてきた。
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「——師匠——!!」
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「——どうした」
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「——書けました——!!」
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「——何がだ」
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「——ウーさんが——!!」
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「——誰だ——それは」
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「——オーガの——方です——!!」
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——ルカは——帳面を——広げた。
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——そこには。
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——太い——線で——書かれた——記録が——あった。
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*——今日の空 雲なし 風よわい*
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「…………」
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「——書けるのか——!?」
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——ミネルが——飛び上がった。
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「——三日——教えたら——覚えました——!!」
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——ルカは——興奮していた。
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「——ミネルさんが——教えたんです——!!」
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「——私は——三日——付き合っただけだ——!!」
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「——待って——ください」
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——誠が——静かに——言った。
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「——ウーさん——文字を——知ってたんですか」
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「——知りませんでした——!!」
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「——三日で——覚えたんですか」
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「——はい——!!」
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「…………」
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——誠は。
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——じっと——帳面を——見つめた。
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——そして——ぽつり、と——言った。
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「——賢いんですね」
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「…………」
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——工房が。
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——静まった。
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「——待て、田中」
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——ミネルの——声が——変わった。
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「——それは——まずいぞ」
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「——なぜですか」
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「——我らは——三十年」
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——彼は——低く——言った。
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「——あやつらを——"獣"、だと——思うて——おった」
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「…………」
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「——だが——三日で——文字を——覚える」
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——ミネルは——うめいた。
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「——人の——子でも——三月は——かかる」
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「…………」
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「——では——なぜ——三十年——喋らなかったんでしょう」
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——誠が——尋ねた。
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「——分からぬ」
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「——聞きましょう」
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## ウー
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——荒野で。
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——オーガが——炭を——握っていた。
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「——ウーさん」
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「——ウ」
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「——一つ——伺っても——いいですか」
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「——ウウ」
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——ウーは——炭で——書いた。
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*——どうぞ*
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「——ウーさんたちは——喋れますか」
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「…………」
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——ウーは。
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——しばらく——考えて。
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——そして——書いた。
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*——じぶんたちの ことばなら*
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「——じゃあ——僕たちの——言葉は」
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*——ならった ことが ない*
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「…………」
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「——教わったら——喋れますか」
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*——たぶん*
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「…………」
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——誠は。
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——長い、こと——黙って。
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——そして——尋ねた。
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「——三十年」
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「——ウ」
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「——誰も——教えに——来ませんでしたか」
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「…………」
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——ウーは。
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——ゆっくりと——書いた。
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*——だれも こなかった*
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「…………」
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*——三百年 こなかった*
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「…………」
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——荒野が。
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——静まり返った。
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「——三百年」
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——ミネルが——かすれた——声で——言った。
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「——では——ずっと」
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「…………」
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——誠は。
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——深く——頭を——下げた。
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「——すみませんでした」
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「——ウ?」
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「——僕たち——一度も——聞きに——行きませんでした」
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「…………」
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——ウーは。
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——しばらく——誠を——見て。
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——そして——書いた。
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*——おれたちも いかなかった*
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「…………」
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*——おなじだ*
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「…………」
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——誠は。
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——顔を——上げた。
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「——ウーさん」
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「——ウ」
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「——お願いが——あります」
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*——なんだ*
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「——先生に——なって——ください」
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*——…………*
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*——おれが?*
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「——はい」
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——誠は——真剣に——言った。
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「——十万に——言葉を——教えるのは——僕たちには——無理です」
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「——でも——ウーさんなら——できます」
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*——おれは 三日 ならっただけだ*
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「——三日で——覚えました」
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——誠は——微笑んだ。
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「——なら——教えられます」
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「…………」
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——ウーは。
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——長い、こと——黙って。
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——そして——書いた。
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*——やる*
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## 学び舎
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——荒野に——学び舎が——できた。
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——といっても——布を——張っただけの——ものだが。
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「——ウ——!!」
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——ウーが——板に——文字を——書いた。
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*——めし*
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「——ギ——!!」
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「——ウウ——!!」
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——最初の——生徒は——五十人、だった。
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——一月、後には——五百人に——なった。
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——三月、後には——五千人。
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「——増えすぎでは——ないか——!!」
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——ミネルが——驚いた。
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「——先生も——増えてます」
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——ルカが——帳面を——見た。
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「——覚えた——方が——次を——教えてます」
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「——三百人ほど——先生に——なりました」
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「…………」
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「——虫人族と——同じですね」
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——誠が——微笑んだ。
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## 半年
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——半年、後。
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「——おはよう——ございます」
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——ゴブリンが——挨拶した。
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「…………」
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——誠は。
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——その場で——固まった。
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「——喋った——!?」
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「——はい」
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——ゴブリンは——けろり、と——言った。
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「——習いましたので」
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「…………」
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「——お名前は」
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「——ギバと——申します」
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「——ギバさん」
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——誠は——深く——頭を——下げた。
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「——はじめまして」
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「——はじめまして」
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——そして——一年、後。
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——荒野は——変わっていた。
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「——第百五十四番の——弓——完成——!!」
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——オークの——親方が——叫んだ。
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「——早いですね——!!」
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「——手が——多いですからな——!!」
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「——第百五十五番も——組み上がりました——!!」
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——トロールが——報告した。
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「——並行——ですか——!?」
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「——五本——同時に——やって——おります」
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「…………」
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——誠は。
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——荒野を——見回した。
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——鬼族と——オークが——並んで——梁を——担いでいる。
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——魔族と——ゴブリンが——一緒に——飯を——食っている。
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——そして——竜と——ワイバーンが——同じ——空を——飛んでいる。
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「——一色さん」
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「——何?」
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「——数字は——どうですか」
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「——待って」
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——一色が——帳面を——めくった。
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——そして——顔を——上げた。
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「——鉄の——打ち上げが——三倍に——なったわ」
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「——三倍——!?」
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「——四年——だったのが」
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——彼女は——静かに——言った。
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「——一年半で——終わる」
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「…………」
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「——それと——網も」
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——虫人族の——長が——現れた。
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「——蜘蛛の——魔物が——十万——おりましたので」
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「——え?」
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「——糸を——出します」
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——長は——けろり、と——言った。
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「——うちの——三倍——太い——糸を」
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「…………」
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「——網は——いつ——できますか」
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「——半年で」
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「——二年——かかる、はずでした——!!」
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「——半年です」
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## 表
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——一色が——新しい——表を——貼った。
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*——網:半年*
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*——鉄:一年半*
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*——的の——形成:二年*
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*——破片の——回収(前半):三年*
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*——合計:七年*
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「——七年——!?」
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——ミネルが——絶叫した。
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「——十三年——だったのだぞ——!!」
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「——十万——増えたもの」
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——一色は——けろり、と——言った。
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「——残りは——十四年です」
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——アカリが——静かに——言った。
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「——七年——余ります」
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「…………」
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——工房が。
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——ざわめいた。
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「——七年——余るのか——!!」
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「——ええ」
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「——ならば——後半も——探せる——!!」
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——ミネルが——立ち上がった。
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「——神を——月に——戻さぬ——道を——だ——!!」
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「…………」
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——誠は。
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——じっと——表を——見つめていた。
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——そして——ぽつり、と——言った。
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「——一色さん」
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「——何?」
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「——魔物が——来なかったら——どうなってましたか」
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「——え?」
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「——十三年——かかってましたよね」
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「——そうね」
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「——残りは——一年です」
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「…………」
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「——探す——時間が——ありませんでした」
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「…………」
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——工房が。
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——静まった。
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「——待て、田中」
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——ミネルの——顔が——強張った。
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「——まさか——お前」
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「——分かりません」
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——誠は——首を——振った。
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「——でも——妙です」
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「——何がだ——!!」
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「——三十年——出なかった——魔物が」
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——誠は——静かに——言った。
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「——ちょうど——手が——足りない——時に——十万——来ました」
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「…………」
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「——それと——三日——シャッフルが——ありました」
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——誠は——続けた。
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「——あれが——なかったら——僕たち——殺し合ってました」
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「…………」
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「——都合が——よすぎませんか」
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「…………」
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——誰も。
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——答えられなかった。
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## 夜
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「——皆瀬さん」
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——誠が——空を——見上げた。
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『——なに』
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「——十一号さんに——聞いて——ください」
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『——なに』
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「——"魔物を——寄越したのは——あなたですか"、って」
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『…………』
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——長い——沈黙が——あった。
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——そして。
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『——"寄越してへん"、って』
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「——本当ですか」
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『——"ほんまや"、って』
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「——じゃあ——誰が」
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『…………』
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『——"開けただけや"、って』
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「…………」
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——誠の。
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——動きが——止まった。
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「——何を——ですか」
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『…………』
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『——"扉"、って』
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「…………」
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「——どこの——ですか」
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『…………』
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『——"あいつらが——三十年——閉じ込められとった——ところや"、って』
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「…………」
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——誠は。
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——長い、こと——黙って。
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——そして——言った。
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「——誰が——閉じ込めたんですか」
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『…………』
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『——返事が——ない』
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「——黙ってますか」
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『——うん』
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「…………」
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——誠は。
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——空を——見上げた。
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——月が——一つ。
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——そして——見えない——どこかに。
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——三千——四百——十二の——欠片。
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「——皆瀬さん」
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『——なに』
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「——もう一つだけ」
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『——なに』
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「——"ありがとうございます"、って——伝えて——ください」
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『…………』
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『——いいの?』
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「——いいです」
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——誠は——微笑んだ。
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「——扉を——開けて——くれたので」
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『…………』
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『——伝えた』
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「——返事は」
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『…………』
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『——"礼を——言われるとは——思わんかった"、って』
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
*「魔物が、帰らなかった。飯があるから。……でも、アカリさんが、"このままでは三月で底をつきます。一日で芋が一万袋です"、って。……働いてもらいます、って言ったけど、言葉が通じなかった。皆瀬さんは地上に一人だけ。十万に一人は、無理。……三日、詰まった。……四日目、ルカが駆けてきて、"書けました"、って。オーガのウーさんが、三日で文字を覚えてた。……人の子でも三月かかる、ってミネルさんが。三十年、"獣"、だと思ってた、って。……だから、聞きに行った。喋れますか、って。"じぶんたちの ことばなら"、"ならった ことが ない"、"たぶん"、って書いてくれた。……三十年、誰も教えに来ませんでしたか、って聞いたら——"だれも こなかった"、"三百年 こなかった"、って。……すみませんでした、僕たち一度も聞きに行きませんでした、って謝ったら、"おれたちも いかなかった"、"おなじだ"、って。……先生になってください、って頼んだ。十万に教えるのは僕たちには無理です。でも、ウーさんならできます、って。"おれは 三日 ならっただけだ"、"三日で覚えました。なら教えられます"。……"やる"、って。……学び舎ができた。生徒が五十人から五百人、三月で五千人。覚えた人が、次を教えてる。先生が三百人になった。虫人族と、同じです。……半年後、ゴブリンに、"おはようございます"、って挨拶された。固まりました。お名前を聞いたら、ギバさん、って。はじめまして、って言い合いました。……一年後、荒野が変わってた。鬼族とオークが梁を担いで、魔族とゴブリンが飯を食って、竜とワイバーンが同じ空を飛んでる。……鉄の打ち上げが三倍。四年が一年半に。網も、蜘蛛の魔物が十万いて、うちの三倍太い糸を出すので、二年が半年に。……全部で七年。十三年だったのが。残りが十四年だから、七年、余ります。……ミネルさんが、"ならば後半も探せる。神を月に戻さぬ道を"、って。……でも、僕、気になった。魔物が来なかったら、十三年かかって、残り一年でした。探す時間が、ありませんでした。……三十年出なかった魔物が、ちょうど手が足りない時に、十万来た。しかも、三日、シャッフルがあった。あれがなかったら、殺し合ってました。……都合が、よすぎませんか。……夜、十一号さんに聞いた。"魔物を寄越したのはあなたですか"、って。"寄越してへん"、って。じゃあ誰が、って聞いたら、"開けただけや"、って。……何を、って聞いたら、"扉"。どこの、って聞いたら、"あいつらが三十年閉じ込められとったところや"、って。……誰が閉じ込めたんですか、って聞いたら、黙られた。……最後に、"ありがとうございます"、って伝えてもらった。扉を開けてくれたので。……"礼を言われるとは思わんかった"、って。じいちゃん。あの人、たぶん、悪い人じゃ、ないです」*
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——たとえ——空に——見えなくても。
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まだこの時の誠は知らない。十万の——魔物が——三十年——閉じ込められて——いた——場所が。
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——どこで——あったのかを。
そして——その——扉を——閉めた——者が。
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——なぜ——それを——したのかも。
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——今は……まだ、開けた——者しか——知らない。




