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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第134話「二日目」

夜が——明けた。





——八体は——影の——中で——止まった——まま、だった。







「——動かぬな」







——ミネルが——望遠の——筒を——覗いた。







「——止まってから——一晩です」







——ルカが——記録した。








「——他の——連中は?」






「——半分ほど——残って——おります」








——アカリが——帳面を——めくった。







「——ですが——妙です」






「——何が——ですか」








「——一晩で——三割——減って——おります」







——彼は——静かに——言った。







「——誰も——戦って——おりませんのに」








「…………」







「——見に——行きましょう」









## 荒野






——そこには。






——妙な——光景が——広がっていた。








「…………」







——魔物が。






——倒れていた。







——だが——傷は——なかった。








「——なんだ——これは」







——ミネルが——覗き込んだ。







「——斬られて——おらぬ」






「——焼かれても——おらぬ」








「——一色さん」







——誠が——呼んだ。







「——見て——ください」








——一色は——ゴブリンの——一体を——調べた。







——そして——顔を——上げた。








「——痩せてる」







「——え?」






「——飢えてるわ」








——彼女は——静かに——言った。







「——骨と——皮」






「——長い、こと——食べてない」








「…………」







——誠は。






——周りを——見回した。







——確かに。







——どの——魔物も。






——骨が——浮いていた。








「——三十年——どこに——いたんでしょう」







——誠が——呟いた。







「——なんだと?」






「——死んだと——思ってました」








——誠は——静かに——言った。







「——でも——生きてました」






「——三十年——どこかで」








「…………」







「——飢えながら」








「…………」







——荒野が。






——静まり返った。









## 二日目






——戦は——続いた。







——だが——皆の——動きが——鈍かった。








「——どうした——!!」







——レオンが——叫んだ。







「——手が——止まって——おるぞ——!!」








「——いや……」







——ゴウが——うめいた。







「——軽いのだ」






「——軽い?」








「——殴った——時の——手応えが——な」







——彼は——自分の——拳を——見た。







「——中身が——ない」








「…………」







「——それに——な」







——ガイアスが——低く——言った。







「——あやつら——向かってこぬ」








「——なんだと?」






「——見よ」








——確かに。






——魔物は——広場の、方へ——歩くだけ、だった。







——斬られても。






——焼かれても。







——反撃を——しない。








「…………」







「——誠——!!」







——一色が——駆けてきた。







「——分かったわ——!!」








「——何がですか」






「——あの、連中——広場に——用が——あるんじゃ——ない——!!」








「…………え?」







「——通り道なの——!!」








——彼女は——地図を——広げた。







「——広場の——向こうに——何が——ある——!?」








「…………」







——誠は。






——地図を——見た。







——そして——動きを——止めた。








「——影です」








「…………」







「——広場の——真上が——一番——影が——濃いです」







——誠は——空を——見上げた。







「——三十年——一度も——切れてません」








「…………」







「——一色さん」






「——何——!!」






「——あの、人たち」








——誠は——ぽつり、と——言った。







「——逃げてきたんじゃ——ないですか」








「…………」







——荒野が。






——凍りついた。








「——馬鹿な——!!」







——ミネルが——叫んだ。







「——魔物だぞ——!!」






「——三十年——暑かったんです」








——誠は——静かに——言った。







「——僕たちも——地下に——潜りました」






「——あの、人たちは——潜れなかったんです」








「…………」







「——止めて——ください——!!」







——誠が——叫んだ。







「——全員——手を——止めて——ください——!!」








「——待て、田中——!!」







——レオンが——止めた。







「——確かめて——おらぬぞ——!!」






「——確かめます」








——誠は——荷車を——引いてきた。







「——何を——する——!!」






「——芋を——出します」








「——なんだと——!?」






「——腹が——減ってるなら——食べます」








——誠は——けろり、と——言った。







「——襲いに——来たなら——襲います」






「——どっちか——分かります」








「——死ぬぞ——!!」






「——たぶん——死にません」








「——たぶんか——!!」









## 芋






——誠は。






——荒野の——真ん中に——荷車を——置いた。







——そして——芋を——積み上げた。








「——皆さーん——!!」







——彼は——魔物の——群れに——向かって——叫んだ。







「——飯です——!!」








「…………」







——荒野が。






——静まり返った。







——誰も——動かなかった。







——魔物も。






——味方も。








「——田中殿——!!」







——鬼族が——叫んだ。







「——下がって——ください——!!」






「——下がりません」









——一刻。







——何も——起きなかった。







——二刻。







——動かない。








「——駄目だ——!!」







——ミネルが——叫んだ。







「——戻れ、田中——!!」








——だが——その、時。







——群れの——中から。






——小さな——影が——一つ。







——ふらり、と——出てきた。








「…………」







——ゴブリン、だった。







——痩せこけた。






——子ども、だった。








「…………」







——誠は。






——ゆっくりと——しゃがんだ。







——そして——芋を——一つ——差し出した。








「——どうぞ」








「…………」







——ゴブリンの——子は。






——じっと——それを——見て。






——そして——ひったくった。







——齧った。







——皮ごと。








「…………」







「——ゆっくり——食べて——ください」







——誠が——言うと。






——その——子は——手を——止めて。






——そして——後ろを——振り返った。








「——ギ」








「…………」







——群れが。






——動いた。








「——構えよ——!!」







——レオンが——叫んだ——が。







「——待って——ください」







——誠が——手を——挙げた。








——魔物たちは。






——荷車を——囲んだ。







——そして。







——芋を——食べ始めた。








「…………」







——荒野が。






——静まり返っていた。








「——足りません——!!」







——誠が——叫んだ。







「——もっと——持ってきて——ください——!!」








「——正気か——!!」







——ミネルが——絶叫した。







「——十万——いるのだぞ——!!」






「——四万——二千——三百人——養ってます」








——誠は——けろり、と——言った。







「——十万も——できます」









## 混乱






——広場は——騒然と——なった。








「——魔物に——飯を——やるのか——!!」






「——うちの——家族を——食った——連中だぞ——!!」








——反対の——声が——上がった。







——誠は——それを——止めなかった。








「——分かります」







——彼は——静かに——言った。







「——なら——なぜ——!!」






「——三十年——前の、話です」








「——忘れられるか——!!」






「——忘れなくて——いいです」








——誠は——首を——振った。







「——でも——一つだけ——聞いて——ください」








「…………」







「——あの——中に」







——誠は——荒野を——指した。







「——三十年——前に——生まれてない——子が——います」








「…………」







「——その、子は——何も——してません」








「…………」







——広場が。






——静まった。








「——ですが——田中殿」







——一人の——老人が——言った。







「——養えば——増えますぞ」






「——増えます」








——誠は——認めた。







「——なら——!!」






「——だから——決まりを——作ります」








——彼は——紙を——広げた。








*——一、飯は——配る*





*——二、ただし——働いて——もらう*





*——三、人を——襲った——者は——即——追放*








「——働かせるのか——!?」






「——はい」








「——何を——だ——!!」







——誠は——荒野を——見た。







——十万。







——そして——言った。








「——弓を——引いて——もらいます」








「…………」







——広場が。






——固まった。








「——十万——ですぞ」







——老人が——かすれた——声で——言った。







「——はい」






「——弓は——今——百五十三」








「——はい」






「——十万——おれば」








「——三百は——建ちます」







——誠が——言った。








「…………」







「——待って」







——一色が——計算を——始めた。







——そして——半刻、後。








「——四年」







「——何がですか」






「——鉄を——上げる——期間よ」








——彼女は——顔を——上げた。







「——十二年、だったのが——四年に——なるわ」








「…………」







——広場が。






——ざわめいた。








「——八年——縮むのか——!?」






「——そうなるわ」








「…………」







——老人は。






——長い、こと——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——わしの——孫は——あやつらに——食われた」







「…………」








「——だが——な」







——彼は——荒野を——見た。







「——ひ孫は——まだ——生きて——おる」








「…………」







「——八年——縮むなら」







——老人は——静かに——言った。







「——ひ孫が——見られる」








「…………」







「——飯を——やれ」









## 三日目






——荒野に——鍋が——並んだ。







——ボンゴが——腕を——まくった。








「——十万——分だ——!!」






「——足りますか——!!」






「——足らぬ——!! だが——やる——!!」








「——我も——手伝う——!!」







——ノワールが——現れた。







「——首領——!?」






「——三百人——分は——毎日——作って——おる」








「——魔王も——な」







——魔王が——並んだ。







「——爆発しませんよね——!?」






「——せぬ」









——そして——魔物たちは。






——列を——作った。







——誰かが——教えた——わけでも——ないのに。








「——並んで——おる——!?」







——ミネルが——絶句した。







「——魔王殿の——呪いか——!?」






「——かけて——おらぬ」








——魔王は——首を——振った。







「——では——なぜ——!!」






「——腹が——減って——おるからであろう」








「…………」









## そして






——夕方。






——八体が——動いた。








「——来るぞ——!!」







——皆が——身構えた——が。







「…………」








——八体は。






——後ろを——向いた。







——そして——歩き去っていった。








「…………」







「——帰った?」






「——帰ったわね」








「——なぜだ——!!」







——ミネルが——叫んだ。







「——一戦も——交えずに——!!」








「…………」







——誠は。






——それを——見送っていた。







——そして——ぽつり、と——言った。








「——測り終わったんだと——思います」








「——何を——だ」






「——僕たちの——強さです」








——誠は——静かに——言った。







「——でも——たぶん」






「——測りたかったのは——それじゃ——ないです」








「——では——何だ——!!」








「…………」







——誠は。






——荒野を——見回した。







——十万の——魔物が——並んで——飯を——待っている。







——その——横で。






——魔王と——悪の首領が——鍋を——かき混ぜている。








「——こっちだと——思います」








「…………」







「——皆瀬さん」







——誠が——呼んだ。







『——なに』






「——十一号さん——何か——言ってますか」








『…………』







『——一つだけ』








「——なんですか」








『——"驚いてる"、って』








「…………」







——誠は。






——空を——見上げた。







——そして——微笑んだ。








「——そうですか」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「朝、八体は影の中で止まったままだった。でも、他の魔物が、一晩で三割減ってた。誰も戦ってないのに。……見に行ったら、倒れてるのに、傷がなかった。一色さんが調べて、"痩せてる。飢えてるわ。骨と皮。長いこと食べてない"、って。……三十年、どこにいたんでしょう。死んだと思ってました。でも、生きてた。飢えながら。……二日目、皆の動きが鈍かった。ゴウさんが、"軽いのだ。殴った時の手応えが。中身がない"、って。ガイアスさんが、"あやつら、向かってこぬ"、って。斬られても焼かれても、反撃しない。ただ、広場の方へ歩くだけ。……一色さんが、"広場に用があるんじゃない。通り道なの"、って。広場の向こうに何がある、って聞かれて——影でした。広場の真上が、一番濃い。三十年、一度も切れてない。……あの人たち、逃げてきたんじゃないですか、って言った。三十年、暑かった。僕たちは地下に潜った。あの人たちは、潜れなかった。……止めてください、って叫んだ。確かめてない、って言われたので、荷車を引いて、荒野の真ん中に芋を積んだ。腹が減ってるなら食べます。襲いに来たなら襲います。どっちか分かります。……二刻、何も起きなかった。でも、群れの中から、痩せたゴブリンの子が、ふらり、と出てきて、芋を、皮ごと齧った。……そして、後ろを振り返って、"ギ"、って。……皆、荷車を囲んで、食べ始めた。……足りません、もっと持ってきてください、って叫んだ。十万いるのだぞ、って言われたけど、四万二千三百人、養ってます。十万も、できます。……広場は荒れた。"うちの家族を食った連中だぞ"、って。分かります。忘れなくていいです。でも、あの中に、三十年前に生まれてない子がいます。その子は、何もしてません。……老人が、"養えば増えますぞ"、って。増えます。だから、決まりを作った。飯は配る。ただし働いてもらう。人を襲った者は即追放。……何をさせるのか、って聞かれて、弓を引いてもらいます、って答えた。十万おれば、三百は建ちます。……一色さんが計算して、"鉄を上げる期間が、十二年から四年に縮むわ"、って。……老人が、"わしの孫はあやつらに食われた。だが、ひ孫はまだ生きておる。八年縮むなら、ひ孫が見られる。飯をやれ"、って。……三日目、荒野に鍋が並んだ。ボンゴさんとノワールさんと魔王さんが作った。魔物は、誰も教えてないのに、列を作った。呪いか、って聞かれて、魔王さんが、"かけておらぬ。腹が減っておるからであろう"、って。……夕方、八体が、後ろを向いて、歩き去った。一戦も交えずに。……測り終わったんだと思います。でも、測りたかったのは、強さじゃない。……こっちだと思います。魔王と悪の首領が、魔物のために鍋をかき混ぜてるところです。……皆瀬さんに、十一号さんが何か言ってるか聞いたら、"驚いてる"、って。じいちゃん。そうですか」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。「驚いてる」、と——伝えられた——その、一言が。




——測って——いた——者に——とって——どういう——意味を——持つのかを。


そして——十万の——魔物を——養う、という——この——決断が。




——この、世界の——理を——もう一度——揺らすことも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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