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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第133話「紫の、日」

その朝。





——人工太陽が——紫に——なった。







「…………」







——広場の——全員が。






——一斉に——空を——見上げた。








「——また——祭りか」







——ミネルが——ぼやいた。







「——次は——何が——入れ替わるのだ」






「——楽しみですね」








——セレスが——札を——構えた。







「——皆さーん——! 本日は——第三回——!!」









——だが。






——空に——文字は——浮かばなかった。








「…………」







「——出ませんね」






「——うむ」








——妙な——沈黙が——降りた。







——そして。







——ルカが——高台から——駆け下りてきた。








「——師匠——!!」






「——どうした——!」






「——地平線が——動いてます——!!」








「…………え?」







「——黒いのが——寄せてきてます——!!」








——誠は。






——高台に——駆け上がった。







——そして——絶句した。








「…………」







——荒野が。






——黒く——埋まっていた。







——数え切れない。







——動いている。







——こちらへ。








「——一色さーん——!!」









## 数






「——衛星から——見えるわ」







——一色が——板を——並べた。







「——何ですか——あれ」






「——魔物よ」








「——魔物——!?」







——ミネルが——飛び上がった。







「——三十年——出て——おらんぞ——!!」






「——知ってるわ」








——一色は——渋い——顔を——した。







「——暑すぎて——全部——死んだはずなの」








「——では——なぜ——!!」






「——分からない」








「——数は——どれくらいですか」







——誠が——尋ねると。






——一色は——顔を——上げた。








「——数え切れない」






「——概算でも——!!」






「——十万を——超えてる」








「…………」







——工房が。






——凍りついた。








「——種類は?」






「——全部よ」








——一色は——板を——切り替えた。







「——先頭が——小物」






「——スライム。ゴブリン。コボルト。狼。大鼠。蝙蝠。蜂」






「——それと——動く——死体」








「——その——後ろは」






「——中どころね」








——彼女は——指した。







「——オーク。トロール。オーガ。蜥蜴人。鳥女」






「——牛頭。土人形。獅子鷲」








「——さらに——後ろは——!!」







「…………」








——一色は。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——飛竜。竜。悪魔。死霊術士」






「——不死鳥。合成獣。巨獣。海魔」








「…………」







「——それと——骨。幽鬼。怨霊」







——彼女は——静かに——続けた。







「——死の——騎士。吸血鬼」






「——そして——死霊王」








「…………」







——誰も。






——声を——出さなかった。








「——精霊も——おります」







——アカリが——別の——板を——見て——言った。







「——火。水。風。土」






「——それと——大精霊が——四体」








「——精霊まで——か——!!」







——ミネルが——うめいた。








「——待って」







——一色の——手が——止まった。







「——一色さん?」






「——一番——後ろに——大きいのが——いる」








「——何ですか」






「——八体」








——彼女は——かすれた——声で——言った。







「——山より——大きい」








「…………」







「——古代の——竜」







——一色は——読み上げた。







「——偽の——魔王」





「——堕ちた——天使」





「——世界樹の——守り手」





「——深海の——王」





「——巨神」





「——終わりの——蛇」







——そして。







「——虚無の——王」








「…………」







——工房が。






——完全に——静まり返った。








「——偽の——魔王?」







——魔王が——訝しんだ。







「——我は——ここに——おるぞ」






「——だから——"偽"、なんでしょう」








「——腹立たしい」









## 判断






「——到着まで——どれくらいですか」







——誠が——尋ねた。







「——三日」








「——短いですね」






「——ええ」








「——では——決めましょう」







——誠は——紙を——広げた。







「——何をだ——!!」








「——守る——ものの——順番です」








「…………」







「——待て、田中」







——ミネルが——訝しんだ。







「——まず——迎え撃つ——策では——ないのか」






「——それは——皆さんが——考えて——ください」








——誠は——けろり、と——言った。







「——僕、戦えませんので」






「——では——何を——する——!!」








「——弓です」







——誠は——地図を——広げた。







「——百五十三本」






「——一本でも——止まったら——影が——消えます」








「…………」







「——それと——網の——工房」







——誠は——続けた。







「——二年——かけて——織った——ものです」






「——燃えたら——終わりです」








「——待って」







——一色が——板を——見た。







「——おかしいわ」






「——何がですか」








「——真っ直ぐ——来てる」







——彼女は——線を——引いた。







「——この、広場に」






「——寄り道してない」








「…………」







「——途中に——里が——いくつも——あるのに?」







「——素通りしてるわ」








「…………」







——誠は。






——じっと——地図を——見つめた。







——そして——ぽつり、と——言った。








「——狙われてますね」








「——何が、だ」






「——ここが」









## 三日






——三日で——支度が——された。







——だが——それは。






——妙な——支度、だった。








「——なぜ——皆——荷を——運んで——おるのだ——!!」







——カゲが——叫んだ。







「——避難です」








——誠が——答えた。







「——戦わぬのか——!!」






「——戦う——方は——戦って——ください」








——誠は——けろり、と——言った。







「——僕は——逃がします」








「…………」







「——それと——一つ——お願いが——あります」








「——なんだ——!!」






「——広場を——空にします」








「——なぜだ——!!」






「——狙いが——ここだからです」








——誠は——静かに——言った。







「——誰も——いなければ——誰も——死にません」








「——だが——壊されるぞ——!!」






「——建て直せます」








「…………」







「——弔いの——壁は——!?」







——ルカが——叫んだ。







「——四万——一千——四百——二十七の——名前が——!!」








「…………」







——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——写しは——あるか」






「——あります——!! 三部——!!」








「——なら——持って——逃げろ」






「——壁は——!?」






「——彫り直す」








——誠は——きっぱりと——言った。







「——何度でも」









## 一日目






——魔物が——到着した。







——広場は——空、だった。







——だが——荒野には。






——皆が——並んでいた。








「——来るぞ——!!」







——レオンが——剣を——構えた。







「——シュワッ——!!」








——ヒカルが——立ち上がった。







——四十メートル。







——その——隣に——藤原。






——五十メートル。







——そして——竜が——三十七頭。








「——見よ——!!」







——ノワールが——マントを——翻した。







「——怪人部隊——三百——!!」






「——イーーーッ——!!」








「——魔王軍——一万二千——!!」







——四天王が——並んだ。







「——鬼族——五千——!!」






「——魔術師——千二百——!!」








「——怪獣軍団——出動——!!」







——キャベゴンたちが——前に——出た。







「——ガオ——!!」








——ガオゴンも。








「——宇宙防衛隊——!!」






「——出動——!!」








「——変身——!!」







——カゲが——構えた。







——だが——何も——起きなかった。








「——すでに——変身しておった——!!」






「——毎回——それですね」









## 戦






——衝突は——凄まじかった。







——だが。







「——弱い——!?」







——レオンが——訝しんだ。







「——妙に——弱いぞ——!!」








「——こちらが——強く——なったのだ——!!」







——ゴウが——叫んだ。







「——三十年——鍛えたからな——!!」








——確かに。






——小物は——一掃されていった。







——中どころも——押し返した。







——上級すら。








「——竜が——落ちた——!!」






「——藤原殿が——やった——!!」








「——本物の——竜を——舐めんなや——!!」









——だが。






——八体は——別、だった。








「——効かぬ——!!」







——レオンが——弾き飛ばされた。







「——魔法も——通らぬ——!!」








——マギスが——うめいた。







「——シュワッ——!!」







——ヒカルの——光線が——直撃したが。







——巨神は——揺らぎもしなかった。








「…………」







「——おかしい」







——ミネルが——後方で——呟いた。







「——何がですか」








「——あやつら——攻撃して——おらぬ」








「…………え?」







——誠が——顔を——上げた。







「——見よ」








——確かに。






——八体は——歩いているだけ、だった。







——攻撃を——受けても。






——ただ——真っ直ぐ。







——広場の、方へ。








「…………」







「——誠——!!」







——一色が——駆けてきた。







「——何ですか——!!」






「——調べたわ——!!」








——彼女は——紙を——突き出した。







「——あの——八体——魔力の——反応が——ないの——!!」








「——ない?」






「——空っぽよ——!!」








——一色は——早口に——なった。







「——生きてない——!!」






「——動いてるけど——中身が——ないの——!!」








「…………」







——誠は。






——ゆっくりと——八体を——見た。







——古代の——竜。





——偽の——魔王。





——堕ちた——天使。





——世界樹の——守り手。





——深海の——王。





——巨神。





——終わりの——蛇。





——虚無の——王。







——どれも。






——「そういう——ものが——いそうな——形」、を——していた。








「——一色さん」






「——何——!!」






「——あれ——作り物じゃ——ないですか」








「…………」







——一色が。






——固まった。







「——誰が——!?」






「——分かりません」








「——何のために——!?」






「——それも——分かりません」








——誠は——静かに——言った。







「——でも——一つだけ——分かります」






「——何——!!」








「——皆さん——楽しそうです」








「…………は?」







——一色が——振り返った。







——荒野では。







「——おおおお——!!」






「——三十年ぶりだ——!!」






「——腕が——鳴るわ——!!」






「——イーーーッ——!!」








「…………」







「——楽しそうね」






「——楽しそうです」









## 気づき






——夜。






——八体は——広場の——手前で——止まった。







——そして——動かなく——なった。








「——止まったぞ——!!」






「——なぜだ——!!」








「——一色さん」







——誠が——呼んだ。







「——今——何時ですか」






「——え?」








「——闇が——始まる——時間ですよね」








「…………」







——一色が。






——空を——見上げた。







——人工太陽は——紫の——まま。






——だが——影の——布が——広がっていた。








「——影に——入ると——止まるの?」






「——たぶん」








——誠は——静かに——言った。







「——僕、思うんですけど」






「——何——!!」








「——あれ——僕たちを——試してませんか」








「…………」







——荒野が。






——静まった。








「——十万——出して」







——誠は——数えた。







「——小物から——順に——出して」






「——最後に——効かないのを——八体——出して」






「——そして——影で——止まる」








「…………」







「——強さを——測ってるみたいです」








「——誰が——!!」








「…………」







——誠は。






——空を——見上げた。







「——皆瀬さん」








『——なに』







「——十一号さんに——聞いて——ください」








『——なに』






「——"今——見てますか"、って」








『…………』







——十二番が。






——長い、こと——揺れていた。







——そして。







『——"見てる"、って』








「…………」







「——もう一つ——聞いて——ください」








『——なに』






「——"あれ——あなたが——出しましたか"、って」








『…………』







——長い——沈黙が——あった。







——そして。







『——返事が——ない』








「——切れましたか」






『——ううん』








——十二番は——ぽつり、と——言った。







『——黙ってる』








「…………」







——誠は。






——長い、こと——空を——見上げていた。







——そして——ぽつり、と——言った。








「——答えでしたね」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「人工太陽が、紫になった。また祭りか、と皆で待ってたけど、文字が出なかった。……ルカが、"地平線が動いてます"、って。高台に上がったら、荒野が、黒く埋まってた。……魔物だった。三十年、出てなかったのに。暑すぎて全部死んだはずなのに。……十万を超えてた。小物から上級まで、全部。精霊まで。……そして、一番後ろに、山より大きいのが八体。古代の竜、偽の魔王、堕ちた天使、世界樹の守り手、深海の王、巨神、終わりの蛇、そして、虚無の王。……魔王さんが、"偽の魔王? 我はここにおるぞ"、って、腹を立ててた。……三日で来る、というので、守るものの順番を決めた。弓、百五十三本。網の工房。……ミネルさんに、"まず迎え撃つ策では"、って言われたけど、それは皆さんが考えてください。僕、戦えませんので。僕は、逃がします。……広場は、空にした。狙いがここだから。誰もいなければ、誰も死にません。……ルカが、"弔いの壁は"、って。写しは三部あります。なら持って逃げろ、壁は彫り直す、何度でも、って。……一日目。皆、強かった。三十年、鍛えてたので。小物も中どころも上級も、押し返した。……でも、八体だけ、効かなかった。魔法も、ヒカルさんの光線も、通らなかった。……そこでミネルさんが、"あやつら、攻撃しておらぬ"、って。確かに、歩いてるだけだった。……一色さんが調べたら、あの八体、魔力の反応がなかった。空っぽ。生きてない。動いてるけど、中身がない。……あれ、作り物じゃないですか、って言った。誰が、何のために、は分からない。でも、一つだけ分かる。皆さん、楽しそうでした。三十年ぶりだ、腕が鳴るわ、って。……夜、八体が、広場の手前で止まった。影に入った瞬間だった。……あれ、僕たちを試してませんか、って言った。十万出して、小物から順に出して、最後に効かないのを八体出して、そして影で止まる。強さを、測ってるみたいです。……皆瀬さんに、十一号さんへ聞いてもらった。"今、見てますか"、って。"見てる"、って。……もう一つ。"あれ、あなたが出しましたか"、って。……返事が、なかった。切れたのか聞いたら、"ううん。黙ってる"、って。……答えでした。じいちゃん。誰かが、僕たちを、測ってます」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。十万の——魔物と——八体の——空っぽの——巨体が。




——何を——測る——ために——放たれたのかを。


そして——その——結果が。




——測った——者に——とって——どれほど——予想外で——あったのかも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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