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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第132話「十二の、皆瀬」

分かれる——日が——来た。





——広場には——人が——集まっていた。







「——皆瀬さん」







——誠が——しゃがんだ。







「——本当に——いいんですか」








『——いい』







——皆瀬は——ぷるん、と——揺れた。







『——でも——一つだけ』








「——なんですか」






『——名前を——つけて』








「…………え?」







『——十二個に』







——皆瀬は——静かに——言った。







『——全部——同じ——名前だと』






『——どれが——どれか——分からない』








「…………」







「——一つずつ——つけるんですか」






『——うん』








『——でも——皆瀬は——残して』







——皆瀬は——ぼそり、と——言った。







『——それだけは——嫌』








「——分かりました」







——誠は——頷いた。







「——じゃあ——皆瀬——一号から——十二号で」








『——安易』






「——駄目ですか」






『——いい』








——皆瀬は——揺れた。







『——皆瀬が——十二個——いる』






『——それが——いい』









## 分離






——それは——静かな——出来事、だった。







——皆瀬の——身体が。






——ゆっくりと——分かれていく。







——一つ。





——二つ。





——三つ。







——そして——十二。








「…………」







——広場が——静まり返っていた。








『——できた』







——十二個が——同時に——揺れた。







「——うわあ——!!」







——広場が——沸いた。








「——皆瀬さん——!! どれが——本体ですか——!!」







——セレスが——尋ねると。






——十二個が——同時に——答えた。








『——全部』








「——怖い——!!」






『——ひどい』









——だが。






——一つだけ。






——動きが——鈍い——ものが——あった。








「——皆瀬さん?」







——誠が——覗き込んだ。







『……なに』








「——元気——ないですね」






『——十二番』








——その——小さな——一つは——ぼそり、と——言った。







『——最後だから——余りで——できた』






『——一番——小さい』








「…………」







「——一番——小さいと——困るんですか」








『——魔力が——一番——少ない』







『——だから——一番——遠くには——行けない』








「…………」







——誠は。






——しばらく——考えて。






——そして——言った。








「——十二番さん」






『——なに』






「——地上に——残って——もらえませんか」








『…………え?』







「——一番——大事な——役目です」








——誠は——真剣に——言った。







『——なに』






「——地上と——空を——繋ぐ——最初の——一つです」








『…………』







「——ここが——切れたら——全部——止まります」








『…………』







——十二番は。






——しばらく——揺れて。






——そして——言った。








『——本当?』






「——本当です」








——誠は——微笑んだ。







「——それに——毎日——一番——喋れます」








『…………』







『——それは——いい』









## 打ち上げ






——十一個が——空へ——上げられた。







——竜の——鱗の——殻に——入れて。






——一つずつ。








「——第一号——到着——!!」







——青が——板を——見た。







「——繋がってますか——!!」








『——聞こえる』







——地上の——十二番が——揺れた。







『——一号が——喋ってる』








「——なんて——言ってますか——!!」






『——"高い"、って』








「——おおお——!!」







——広場が——沸いた。









——三月、かけて。






——十一個が——配置された。







——星から——遠ざかる——順に。






——一号から——十一号まで。








「——一番——遠いのは——何号ですか」







——誠が——尋ねた。







「——十一号だ」








——青が——答えた。







「——月の——道の——手前まで——行って——おる」








「——そこから——先は?」






「——届かぬ」








「——ヒカルさん——一人ですね」






「——うむ」









## 試験






——魔力の——中継ぎが——試された。







「——魔術師——千二百人——配置——完了——!!」







——マギスが——叫んだ。







「——駄々丸師匠——!!」






「——へえ」








——とん。







——太鼓が——鳴った。







——とん。とん。とん。








「——一番——!!」






「——二番——!!」






「——三番——!!」








——魔力が——順に——繋がっていく。







——そして——最後の——一人が——放つと。







『——来た』







——地上の——十二番が——揺れた。








『——上げる』








「——一号——!!」






「——二号——!!」






「——三号——!!」








——空を——伝って——いく。







——見えない——ものが。






——確かに——上へ——上へ、と。








「——十号——!!」






「——十一号——!!」








——そして。







「——シュワッ——!!」







——空の——遥か——上で。






——ヒカルの——胸が——光った。








「——届いた——!!」







——青が——絶叫した。







「——魔力が——届いて——おる——!!」








「——うおおおお——!!」







——荒野が——爆発した。









## だが






——三日、後。






——問題が——起きた。








『——七号が——喋らない』







——十二番が——言った。







「——え?」






『——昨日から』








「——壊れたんですか——!?」






『——ううん』








——十二番は——揺れた。







『——生きてる』






『——でも——喋らない』








「…………」







「——当番は——誰ですか」








「——私だ」







——ゴウが——手を——挙げた。







「——ちゃんと——話しましたか」






「——話した——!!」








「——何を——ですか」






「——"今日も——鍛えたか"、と——!!」








「…………」







「——他には」






「——"野菜を——食うて——おるか"、と——!!」








「——それ——スライムに——聞いても——!!」






「——駄目か——!?」








『——嫌だった』







——十二番が——ぽつり、と——言った。







「——ほら——!!」








「——では——何を——話せばよい——!!」







——ゴウが——うろたえた。








「……あの」







——アカリが——手を——挙げた。







「——なんだ」






「——私が——代わっても——よろしいですか」








「——できるのか——!?」






「——数を——読み上げます」








「——数——!?」







——ゴウが——絶句した。







「——それは——退屈では——ないか——!!」








『——聞きたい』







——十二番が——揺れた。







『——七号も——聞きたい、って』








「——なぜだ——!!」






『——静かだから』








「…………」









——翌日から。






——アカリが——七号の——当番に——なった。








「——では——本日の——出納を——申し上げます」







——彼は——静かに——読み上げた。







「——芋——四千——二百——袋」






「——麦——千——八百——俵」






「——布——六百——枚」






「——鉄——三十——貫」








『——七号が——喋った』







——十二番が——揺れた。







「——なんと?」






『——"明日も——お願いします"、って』








「——承知しました」







——アカリは——深く——頭を——下げた。








「——なぜ——それが——いいのだ——!!」







——ゴウが——納得——いかない——顔を——した。








「——たぶん」







——誠が——静かに——言った。







「——毎日——同じだからです」








「…………」







「——空の——上って——何も——ないんです」







——誠は——空を——見上げた。







「——毎日——同じことを——聞けると」






「——地上が——ちゃんと——動いてる、って——分かります」








『——それ』







——十二番が——揺れた。







『——七号が——"それ"、って』









## 当番






——十二人の——当番が——決まった。








*——一号……ルカ(空の——記録を——読む)*





*——二号……セレス(実況の——様子を——話す)*





*——三号……エリナ(畑の——話)*





*——四号……ミネル(学問の——話。長い)*





*——五号……一色(計算の——話。もっと——長い)*





*——六号……ノワール(予定表を——読む)*





*——七号……アカリ(出納を——読む)*





*——八号……八一八号(「イーッ」のみ)*





*——九号……ボンゴ(献立を——言う)*





*——十号……ガイアス(武勇伝。毎回——同じ)*





*——十一号……駄々丸(噺を——一席)*





*——十二号……誠(何でも)*








「——八号は——大丈夫ですか」







——誠が——心配すると。






——十二番が——揺れた。








『——一番——人気』








「——なぜですか——!?」






『——短いから』








「…………」






「——四号と——五号は?」








『——寝てる』








「——聞いて——ください——!!」









## 十号






——だが——妙な、ことが——起きた。








『——十号が——泣いてる』







——ある日——十二番が——言った。







「——え?」






『——ガイアスの——話で』








「——武勇伝で——ですか」






『——うん』








「——なぜですか」








『…………』







『——毎回——同じ——話だから』








「…………」







『——でも——今日』







——十二番は——静かに——言った。







『——最後が——違った』








「——なんて——言ったんですか」








『——"この——話を——聞いてくれる——者は"』







『——"お前が——初めてだ"、って』








「…………」







——誠は。






——広場の、方を——見た。







——ガイアスが——一人。






——空を——見上げていた。








「——ガイアスさん」






「——おお、田中か」








「——十号さんが——喜んでました」







「——そうか」








——ガイアスは——ぼそり、と——言った。







「——あやつはな」






「——はい」






「——同じ——話を——三十回——聞いても——嫌がらぬ」








「…………」







「——向こうの——世界ではな」







——ガイアスは——空を——見上げた。







「——皆——三回目で——逃げた」








「…………」







「——だから——毎日——語って——おる」







——彼は——低く——笑った。







「——飽きられるまで、な」








「——飽きないと——思います」







——誠が——言った。







「——なぜ——分かる」






「——皆瀬さん——"同じ"、が——好きなので」








「…………」







——ガイアスは。






——しばらく——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——ならば——明日も——語ろう」









## 十一号






——そして——ある夜。







『——十一号が——変なことを——言ってる』







——十二番が——揺れた。







「——なんて——ですか」








『——"誰か——おる"、って』








「…………」







——誠の。






——動きが——止まった。








「——どこにですか」






『——"もっと——遠く"、って』








「——月の——道の——裏側ですか」






『——"もっと——先"』








「…………」







「——神様——じゃ——ないんですか」








『——"違う"、って』







『——"神様の——声は——知ってる"、って』








「…………」







——誠は。






——空を——見上げた。







——星が——出ている。








「——十一号さん」






『——なに』






「——その——誰かは——何を——してますか」








『…………』







『——"見てる"、って』








「——何を——ですか」








『…………』







『——"こっち"』








「…………」







——広場が。






——静まり返った。








「——皆瀬さん」







——誠は——静かに——言った。







「——十一号さんに——伝えて——ください」








『——なに』






「——"怖かったら——降りてきて——いいです"、って」








『…………』







『——"大丈夫"、って』








「——本当ですか」






『——"見られるのは——慣れてる"、って』








「…………」







『——"三十年——見られてた"、って』








「…………」







——誠は。






——長い、こと——空を——見上げていた。






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「皆瀬さんが、十二個に分かれた。分かれる前に、"名前をつけて。全部同じだと、どれがどれか分からない"、って。でも、"皆瀬は残して。それだけは嫌"、って。だから、皆瀬一号から十二号。安易、って言われたけど、"皆瀬が十二個いる。それがいい"、って。……分かれたら、一つだけ、小さいのがいた。十二番。"最後だから余りでできた。魔力が一番少ない。だから、一番遠くには行けない"、って。……だから、地上に残ってもらった。一番大事な役目です、って。地上と空を繋ぐ最初の一つ。ここが切れたら、全部止まります。それに、毎日、一番喋れます、って言ったら、"それはいい"、って。……十一個を、空へ上げた。三月かかった。一番遠い十一号は、月の道の手前まで。そこから先は、ヒカルさん一人。……魔力の中継ぎは、成功した。千二百人が繋いで、十二番が受けて、一号から十一号へ。そしてヒカルさんの胸が、光った。……でも、三日後、七号が喋らなくなった。当番のゴウさんが、"今日も鍛えたか"、"野菜を食うておるか"、って話しかけてたらしい。スライムに聞いても。"嫌だった"、って。……アカリさんが代わって、出納を読み上げた。芋四千二百袋、麦千八百俵、布六百枚、鉄三十貫。……七号が、"明日もお願いします"、って。なぜそれがいいのか、ってゴウさんが言うから、毎日同じだからです、って答えた。空の上は何もない。毎日同じことを聞けると、地上がちゃんと動いてる、って分かります。……当番が十二人、決まった。八号の八一八号さんは、"イーッ"、しか言わないのに、一番人気。短いから。四号のミネルさんと五号の一色さんの時は、寝てるらしい。聞いてください。……十号が、泣いた日があった。ガイアスさんの武勇伝。毎回同じ話なのに。でも、その日、最後が違った。"この話を聞いてくれる者は、お前が初めてだ"、って。……ガイアスさんに聞いたら、"向こうの世界では、皆、三回目で逃げた。だから毎日語っておる。飽きられるまで"、って。飽きないと思います。皆瀬さん、"同じ"、が好きなので。……そして、ある夜。十一号が、"誰かおる"、って。もっと遠く、月の道の裏側より、もっと先。神様じゃない。"神様の声は知ってる"、って。……その誰かは、"見てる"、って。何を、って聞いたら、"こっち"、って。……怖かったら降りてきていいです、って伝えたら、"大丈夫。見られるのは慣れてる。三十年、見られてた"、って。じいちゃん。誰かが、います」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。十一号が——感じた——「もっと——先に——おる——誰か」、が。




——三十年——彼らを——見続けて——きた——者と——同じで——あることを。


そして——皆瀬が——「見られるのは——慣れてる」、と——言った——その、意味も。





——今は……まだ、言った——本人しか——分かって——いない。

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