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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「昭和が、降ってきた」

その日。





——空が——裂けた。







「——また、か」







——広場の——者たちは——もう——驚かなかった。







「——受付は——あっちだよー——!」








——だが。






——今回は——様子が——違った。








「——シュワッ——!!」







——降りてきたのは。






——四十メートルの——巨人、だった。







——銀色。





——赤い——線。





——胸に——光る——赤い——玉。








「——うわああ——!!」






「——でかい——!!」








——そして——その——足元に。






——もう一人。







——黒い——身体。





——大きな——複眼。





——腰に——奇妙な——帯。








「——待てぇ——!! 悪の——組織——!!」








「…………」







——広場が。






——静まり返った。








「——呼んだか——!?」







——ノワールが——顔を——出した。








「——いた——!!」







——仮面の——男が——身構えた。







「——貴様が——首領か——!!」






「——うむ」








「——覚悟——!!」






「——待って——ください——!!」








——誠が——割って——入った。









## 受付






「——まず——麦茶を——どうぞ」







「——飲んで——おる——場合か——!!」






「——飲んで——ください」








——仮面の——男は。






——渋々——湯呑みを——受け取った。







——そして——飲もうとして——手が——止まった。








「…………」






「——どうしました?」








「——口が——ない」








「…………」







——彼は——自分の——顔を——触った。







「——脱げぬ——!?」








「——脱げないんですか」






「——脱げぬ——!!」








——彼は——うろたえた。







「——いつもは——変身が——解けるのだ——!!」






「——解けませんね」








「——シュワッ——!?」







——巨人も——自分を——確かめていた。







「——あの、方は?」






「——三分で——戻るはずだ——!!」








「——胸の——玉が——光ってますけど」






「——それは——時間切れの——合図だ——!!」








——だが。






——三分——経っても。






——半刻——経っても。







——巨人は——巨人の——ままだった。








「——シュワ……」







——彼は——その場に——座り込んだ。







「——大丈夫ですか——!?」








「——シュワッ——!!」







——だが——妙なことに。






——彼は——元気そう、だった。








「——エネルギーが——切れて——おらぬ——!?」







——仮面の——男が——驚いた。







「——シュワッ——!!」






「——なんだと——!? 逆に——満ちて——おる——!?」









## 説明






「——たぶん——魔力です」







——一色が——測りながら——言った。







「——魔力?」






「——この、世界の——力よ」








——彼女は——帳面を——閉じた。







「——お二人とも——ものすごい——量を——持ってるわ」






「——特に——大きい、方」








「——シュワッ——!?」







「——たぶん——三分の——制限は——なくなってます」








「——なんだと——!?」







——仮面の——男が——飛び上がった。







「——ずっと——戦えるのか——!?」






「——たぶん」








「——だが——戻れぬのだろう——!?」






「——たぶん」








「…………」







——二人が——沈黙した。









## 名前






「——お名前を——伺っても——いいですか」







——誠が——尋ねると。






——仮面の——男は——胸を——張った。








「——名乗る——ほどの——者では——ない——!!」







「——困ります」






「——ぬう」








「——ここでは——名前が——ないと——札が——作れません」







——エリナが——用紙を——差し出した。







「——札?」






「——働き手の——札です」








「——働くのか——!?」






「——皆さん——働いておられます」








——エリナは——広場を——指した。







——そこには。







——黒ずくめが——ごみを——拾い。






——魔王が——猫を——撫で。






——怪獣が——畑を——耕していた。








「…………」







「——待て」







——仮面の——男が——指を——差した。







「——あれは——悪の——組織では——ないのか——!!」






「——そうですよ」








「——なぜ——ごみを——拾って——おる——!!」






「——第三条です」








「——なんだ——それは——!!」






「——僕、何も——聞いてません」









——結局。






——名前は——誠が——つけた。








「——巨人の、方は——ヒカルさん、で——どうですか」







「——シュワッ——!!」








——嬉しそう、だった。







「——喜んでますね」






「——なぜ——分かる——!?」








「——なんとなく」








「——仮面の、方は——カゲさん、で」







「——安易だ——!!」






「——分かりやすい、方が——いいです」









## 仕事






——だが——二人は——困っていた。








「——我らは——戦う——ことしか——できぬ」







——カゲが——うつむいた。







「——だが——ここには——敵が——おらぬ」








「——悪の——組織は——いますよ」







——誠が——言った。







「——ごみを——拾って——おるではないか——!!」






「——魔王も——います」








「——猫を——撫でて——おる——!!」






「——怪獣も——います」








「——畑を——耕して——おる——!!」







——カゲは——絶望的な——顔を——した。







「——我らは——何を——すればよい——!!」








「…………」







——誠は。






——ヒカルを——見上げた。







——四十メートル。







——そして——ふと——言った。








「——ヒカルさん。飛べますか」







「——シュワッ——!!」








「——どこまで——ですか」






「——シュワ——!!」








「——"宇宙まで"、だそうだ」







——カゲが——通訳した。








「…………」







——誠の。






——動きが——止まった。








「——今——なんて?」






「——宇宙だ」








「——一色さーん——!!」







——誠が——絶叫した。









## 検証






——半刻、後。






——工房は——騒然と——なっていた。








「——本当に——上がれるの——!?」







——一色が——詰め寄った。







「——シュワッ——!!」






「——"いつも——やって——おる"、だそうだ」








「——どれくらいの——高さまで——!?」






「——シュワ——!!」






「——"星の——外まで"」








「…………」







——工房が。






——凍りついた。








「——待って」







——一色が——震え始めた。







「——それ——本当なら」






「——破片を——直接——取りに——行けるわ——!!」








「——なんだと——!?」







——ミネルが——飛び上がった。







「——的が——要らぬのか——!?」






「——待って。落ち着いて」








——一色は——計算を——始めた。







——そして——半刻、後。








「——駄目ね」







「——なぜだ——!!」








「——三千——四百——十二よ」







——一色は——首を——振った。







「——一つずつ——運んだら——何百年——かかるわ」








「…………」







「——ですが」







——アカリが——手を——挙げた。







「——なんだ」






「——網を——張るのは——どなたが——なさいますか」








「…………」







——工房が。






——ぴたり、と——静まった。








「——考えて——なかったわ」







——一色が——呟いた。







「——矢で——上げる——つもりだった」






「——ですが——広げるのは——誰が」








「…………」







「——ヒカルさん——!!」







——誠が——見上げた。







「——網を——空で——広げられますか——!!」








「——シュワッ——!!」






「——"できる"、だそうだ」








「——うおおおお——!!」







——工房が——沸いた。









## だが






——カゲが——妙に——静かだった。








「——カゲさん?」






「…………」








——彼は——うつむいていた。







「——どうしました?」








「——私は——役に——立たぬ」







——カゲは——ぼそり、と——言った。







「——え?」






「——飛べぬ」








——彼は——自分の——手を——見た。







「——大きくも——なれぬ」






「——できるのは——蹴ることだけだ」








「…………」







——誠は。






——しばらく——考えて。






——そして——尋ねた。








「——カゲさん。乗り物は——ありますか」







「——ある」








——カゲは——顔を——上げた。







「——だが——ここでは——燃料が——ない」






「——どんな——乗り物ですか」








「——二輪だ」







「——速いですか」






「——速い」








「——どれくらい——ですか」






「——竜より——速い」








「…………」







——誠は。






——ゆっくりと——アカリを——見た。








「——アカリさん」






「——はい」






「——今——一番——困ってるの——何ですか」








「——運びです」







——アカリは——即答した。







「——百五十三の——里に——毎日——飯を——運んで——おります」






「——竜が——足りて——おりません」








「——カゲさん——!!」







——誠が——振り返った。







「——なんだ——!!」






「——燃料——作りましょう」








「——できるのか——!?」






「——一色さんが——なんとかします」








「——勝手に——決めないで——!!」









## 半年後






——荒野を。






——黒い——二輪が——走っていた。








——ごおおおお——!!







「——速い——!!」






「——竜より——速いぞ——!!」








「——荷は——どれくらい——積めますか——!!」







——誠が——叫ぶと。






——カゲは——後ろの——荷台を——指した。








「——芋——三十——袋だ——!!」






「——竜の——十分の一ですね」








「——だが——三倍——速い——!!」






——カゲが——胸を——張った。







「——それに——休まぬ——!!」








「——休んで——ください」






「——休まぬ——!!」









——ちなみに。






——ヒカルは——網の——訓練を——していた。








「——シュワッ——!!」







——巨大な——布を——空で——広げる。







「——上手——!!」






「——一発で——できた——!!」








「——シュワ——!!」







——彼は——照れていた。









## 夜






——天井の——穴から。






——藤原が——首を——伸ばした。








「——田中くん」






「——藤原さん」






「——あの——二人な」








「——中に——人が——入ってるんですよね」







——誠が——先に——言うと。






——藤原は——きょとん、と——した。








「——知っとったんか」






「——なんとなく」








「——ふうん」







——藤原は——低く——言った。







「——せやけど——あの、二人はな」






「——はい」








「——ちょっと——違うねん」








「——違う?」






「——他の——連中は——着ぐるみや」








——藤原は——静かに——言った。







「——脱げるけど——脱げへんだけや」






「——でも——あの、二人は」








「…………」







「——身体に——なっとる」








「…………」







——誠は。






——固まった。







「——どういう——意味ですか」






「——中と——外が——一つに——なっとる」








——藤原は——ぽつり、と——言った。







「——もう——戻られへん」








「…………」







「——本人は?」






「——知っとるやろな」








「…………」







——誠は。






——広場の、方を——見た。







——そこでは。







——カゲが——子どもたちに——囲まれていた。








「——おじさん——変身して——!!」






「——ふん——! よかろう——!!」








——彼は——腰の——帯に——手を——かけて。






——そして——動きを——止めた。








「…………」






「——おじさん?」








「——すまぬ」







——彼は——ぼそり、と——言った。







「——もう——変身して——おる」








「——えー——!!」






「——ずっと——変身してるの——!?」








「——うむ」







——カゲは——静かに——言った。







「——ずっと、だ」








「——かっこいい——!!」






「——ずるい——!!」








「…………」







——カゲは。






——しばらく——黙って。






——そして——低く——笑った。








「——ずるい、か」






「——うん——!!」








「——そう——だな」







——彼は——子どもの——頭を——撫でた。







「——ずるい、かも——しれぬ」








「…………」







——誠は。






——それを——遠くから——見ていた。








「——田中くん」






「——はい」






「——言うんか」








「——言いません」







——誠は——首を——振った。







「——本人が——言ってませんから」








「——せやな」







——藤原は——ぼそり、と——言った。







「——それに」








——誠は——静かに——言った。







「——僕、藤原さんにも——言いませんでした」








「…………」







「——三十年——待ちました」







——誠は——微笑んだ。







「——だから——あの、方々も——待ちます」








「…………」







——藤原は。






——長い、こと——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——あんた——ほんまに——気が——長いわ」






「——八百屋ですから」






「——それ——関係——あるんか」








「——あります」







——誠は——けろり、と——言った。







「——種を——蒔いてから——実るまで——待つのが——仕事です」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「また、降ってきた。四十メートルの銀色の巨人と、黒い仮面の男。悪を追ってきたらしい。……仮面の方が、麦茶を飲もうとして、"口がない"、って。脱げないみたいです。いつもは変身が解けるのに、解けない。巨人の方も、三分で戻るはずが、半刻経っても、戻らなかった。……でも、一色さんが測ったら、二人とも、ものすごい魔力を持ってた。三分の制限は、なくなってるみたいです。ずっと戦える。でも、戻れない。……名前を、つけた。巨人がヒカルさん、仮面がカゲさん。安易だ、って言われたけど、分かりやすい方がいいです。……二人とも、"戦うことしかできぬ。だが敵がおらぬ"、って困ってた。悪の組織はごみを拾ってるし、魔王は猫を撫でてるし、怪獣は畑を耕してるので。……そこで、ヒカルさんに、飛べますか、って聞いた。"宇宙まで"、って。……網を張る役が、決まってなかったんです。一色さんが、"考えてなかったわ"、って。ヒカルさんが、"できる"、って。訓練したら、一発で、広げてました。……カゲさんは、"私は役に立たぬ。飛べぬ。大きくもなれぬ。できるのは蹴ることだけだ"、って、うつむいてた。だから、乗り物を聞いたら、二輪があって、竜より速い、って。……燃料を、一色さんに作ってもらった。勝手に決めないで、って怒られた。……半年後、荒野を、黒い二輪が走ってる。芋三十袋しか積めないけど、竜の三倍、速い。しかも、休まない。休んでください、って言っても、"休まぬ"、って。……夜、藤原さんが、"あの二人、中に人が入っとる"、って。知ってました。……でも、"ちょっと違うねん。他の連中は着ぐるみで、脱げるけど脱げへんだけ。でも、あの二人は、身体になっとる。中と外が一つになっとる。もう、戻られへん"、って。……本人は、知ってるらしい。……広場で、子どもに、"変身して"、って言われて、カゲさんが、腰に手をかけて、止まってた。"すまぬ。もう変身しておる"、って。子どもが、"ずるい"、って言ったら、"ずるい、かもしれぬ"、って、低く笑ってた。……言うんか、って藤原さんに聞かれたけど、言いません。本人が言ってませんから。それに、僕、藤原さんにも言いませんでした。三十年、待ちました。だから、あの方々も、待ちます。……"あんた、ほんまに気が長いわ"、って。八百屋ですから。種を蒔いてから実るまで待つのが、仕事です。じいちゃん、また、増えました」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。「もう——変身して——おる」、と——言った——男が。




——何を——引き換えに——それを——選んだのかを。


そして——網を——広げる——ために——空へ——上がる——巨人が。




——星の——外で——何を——見る、ことに——なるのかも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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