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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「種族、入れ替え祭り」

その日。





——人工太陽が——また——青く——なった。







「…………」







——広場の——全員が。






——一斉に——空を——見上げた。








「——嫌な——予感が——する」







——ミネルが——呟いた。







「——僕もです」








——そして——空に——文字が——浮かんだ。








*——【前回——好評に——つき】*





*——【種族——ランダム——シャッフル——イベント——開催】*








「——好評——だったのか——!!」







——ミネルが——絶叫した——その、時。







——ぴかっ。







——世界中が——光った。









## 混乱






——最初に——聞こえたのは。






——か細い——声、だった。








『——あの』







「——どなたですか」








——誠が——足元を——見ると。






——小さな——スライムが——ぷるん、と——揺れていた。








『——我だ』







「——魔王さん——!?」








『——うむ』







——魔王は——静かに——揺れた。







『——小さい』








「——小さいですね——!!」







『——角が——ない』








「——ないですね——!!」









——一方——その——皆瀬は。







「…………」







——人の——姿で——立っていた。







——しかも——手に——剣を——持っている。








「——皆瀬さん——!?」







「……重い」








——皆瀬は——ぼそり、と——言った。







「——身体が——重い」






「——勇者に——なってます——!!」








「……嫌」







——皆瀬は——剣を——落とした。







「——嫌ですか——!?」






「——溶けられない」








「——溶けたいんですか——!?」






「——溶けたい」









——広場は——大混乱に——なっていた。








「——グオオオ——!?」







——ガオゴンが——翼を——広げていた。







「——ガオゴンさん——!! 竜に——なってます——!!」








「——ガオ——!?」







——彼は——自分の——翼を——見た。







——そして。







——ばさり、と——羽ばたいた。








——ふわり。







——身体が——浮いた。








「…………」







「——ガオ……」








——ガオゴンは。






——ゆっくりと——空へ——上がっていった。







——そして。







「——ガオーーー——!!!」








——泣いていた。








「——四十八年——歩いてましたからね」







——誠が——ぽつり、と——言った。









——そして——藤原は。







「…………」







——広場の——隅で。






——動かなく——なっていた。








「——藤原さん——!?」







——誠が——駆け寄った。







——そこには。







——一人の——女が——立っていた。







——三十くらいの。






——見たことの——ない——顔、だった。








「…………」







「——あの」






「——うちや」








——女が——ぼそり、と——言った。







「——藤原さん——!?」






「——せや」








「——人に——なってます——!!」






「…………」








——藤原は。






——自分の——手を——じっと——見つめていた。







——そして。







——その場に——座り込んだ。








「——藤原さん——!?」






「——ええねん」








——彼女は——顔を——覆っていた。







「——三十年ぶりや」








「…………」







——誠は。






——何も——言わずに——隣に——座った。









## 悪の組織






——一方。






——広場の——一角では。







「——銀河を——守る——!!」






「——宇宙を——守る——!!」






「——平和を——守る——!!」








——黒ずくめが——全員。






——色とりどりの——衣に——なっていた。








「——皆——決めポーズを——取って——おります——!!」







——幹部が——報告した。







「——止めよ——!!」








——ノワールが——叫んだが。







「——首領——!! お召し物が——!!」






「——なんだと?」








——彼は——自分を——見下ろした。







——黒い——マントは——消え。






——真っ赤な——衣に——なっていた。








「…………」






「——似合って——おります——!!」








「——脱ぐ——!!」






「——脱げません——!!」









——そして——本物の——宇宙防衛隊は。







「——イーッ」







「…………」







——五人が——黒ずくめに——なって。






——整列していた。








「——赤さん——!?」






「——イーッ」








「——喋れないんですか——!?」






「——イー」








——赤は——首を——振った。







——「喋れるが——これしか——出ない」、という——意味、だった。








「——不便ですね——!!」






「——イーッ」








——だが。






——五人は——妙に——楽しそう、だった。








「——イーッ——!!」






「——イーーーッ——!!」








「——馴染むのが——早いです——!!」









## そして






——騒ぎが——一段落した——頃。







——ミネルが——ふと——気づいた。








「——待て」






「——どうしました?」






「——田中。お前は——何に——なった」








「——え?」







——誠は。






——自分を——見下ろした。








「——変わってません」








「…………」







——広場が。






——静まった。








「——また、か」






「——また、です」








「——前は——職業だった」







——ミネルが——低く——言った。







「——今度は——種族だぞ」






「——そうですね」








「——人間の——ままなのか」






「——たぶん」








——誠は——自分の——手を——見た。







「——普通です」








「…………」







——一色が。






——妙な——顔で——誠を——見ていた。








「——誠」






「——はい」






「——おかしいわよ」








「——そうですか?」






「——魔王も——竜も——怪獣も——スライムも——入れ替わったの」








——彼女は——広場を——指した。







「——種族の——垣根を——超えてよ」






「——それが——あなただけ——効かない」








「…………」







「——誠。あなた——本当に——人間?」








「…………」







——広場が。






——凍りついた。








「——一色さん」







——誠は——静かに——言った。







「——それ——僕も——時々——思います」








「…………」







「——でも——たぶん——人間です」







——誠は——けろり、と——言った。







「——なぜ——分かるの」






「——腹が——減るので」








「——それは——皆——そうよ——!!」









## 一日






——結局。






——その日は——妙な——一日に——なった。








——スライムに——なった——魔王は。






——地下水路で——大量の——水を——運んでいた。








『——楽だ』







「——楽ですか」






『——通れる。狭い——ところを』








『——それに——皆が——踏まぬように——歩く』







——魔王は——ぷるん、と——揺れた。







『——優しく——されるのは——初めてだ』








「…………」









——勇者に——なった——皆瀬は。






——広場の——隅で——うずくまっていた。








「——皆瀬さん。大丈夫ですか」







「……見られる」








——皆瀬は——ぼそり、と——言った。







「——見られる?」






「——人の——姿だと——皆が——顔を——見る」








「…………」







「——スライムの、時は——誰も——見なかった」







——皆瀬は——静かに——言った。







「——楽だった」








「——皆瀬さん」






「——なに」






「——僕、二十九年——見てましたよ」








「…………」







——皆瀬は。






——顔を——上げた。







——そして——初めて——笑った。








「——知ってる」









## 夜






——四刻の——闇。







——藤原は。






——まだ——広場に——座っていた。








「——藤原さん」







——誠が——麦茶を——差し出した。







「——おおきに」








——彼女は——両手で——受け取った。







——そして——じっと——それを——見つめた。








「——持てるわ」







「——はい」






「——湯呑みが——持てる」








「…………」







「——三十年——爪で——摘まんどった」







——藤原は——ぽつり、と——言った。







「——落とさんように——な」








「…………」







——誠は。






——何も——言えなかった。








「——田中くん」






「——はい」






「——明日——戻るんやろな」








「——たぶん」






「——せやろな」








——藤原は——麦茶を——飲んだ。







「——ええねん」






「——一日でも——嬉しかったわ」








「…………」







「——藤原さん」






「——なんや」






「——一つ——聞いても——いいですか」








「——なんや」






「——三十年——前」








——誠は——静かに——言った。







「——なぜ——なれなく——なったんですか」








「…………」







——藤原は。






——長い、こと——黙っていた。







——そして——ぽつり、と——言った。








「——星喰いの、時な」






「——はい」






「——うち——前に——出たやろ」








「——出ました」






「——あん、時な」








——藤原は——空を——見上げた。







「——"竜の——ままでええ"、って——思うたんや」








「…………え?」







「——人やと——守られへんかったからな」








——彼女は——静かに——言った。







「——竜やったら——守れる」






「——せやから——そう——願うた」








「…………」







「——そしたら——なれへんように——なった」








「…………」







——誠は。






——言葉が——出なかった。








「——後悔——してませんか」






「——してへん」








——藤原は——即答した。







「——三十年——弓を——引いてきた」






「——人やったら——引けへんかった」








「…………」







「——せやけどな」







——彼女は——湯呑みを——見た。







「——たまに——思い出すんや」






「——何を——ですか」








「——茶が——飲みたい、って」








「…………」







——誠は。






——ゆっくりと——立ち上がった。








「——藤原さん」






「——なんや」






「——待ってて——ください」








「——どこ——行くんや」






「——湯呑みを——作らせます」








「…………え?」







「——竜の——口に——合う——やつを」








——誠は——真剣な——顔で——言った。







「——三十年——気づきませんでした」






「——爪で——摘まんでたの——知ってたのに」








「——ええって——!!」






「——よくないです」









## 翌朝






*——【イベント——終了】*





*——【全員——元の——種族に——戻ります】*








「——戻った——!!」






「——角が——戻ったぞ——!!」








『——溶けられる』







——皆瀬が——安堵していた。








「——ガオ……」







——ガオゴンは。






——地面に——降りて——空を——見上げていた。








「——ガオゴンさん」






「——ガオ」








『——"また——歩く"、って』







——皆瀬が——通訳した。







「——寂しいですか」








「——ガオ」







『——"一度——飛べたから——ええ"、って』








「…………」









——そして——藤原は。






——五十メートルの——竜に——戻っていた。








「——藤原さん」






「——なんや」






「——できました」








——誠が——差し出したのは。






——鬼族が——一晩で——打った。






——巨大な——鉄の——器、だった。








「…………」






「——飲んで——みて——ください」








——藤原は。






——それを——口に——運んだ。







——爪で——摘まむ——必要が——なかった。








「…………」






「——どうですか」








「——うまい」







——藤原は——ぼそり、と——言った。







「——三十年ぶりに——落ち着いて——飲んだわ」








「…………」







「——田中くん」






「——はい」






「——あんた——ほんまに——変やわ」








「——よく——言われます」








「——皆——昨日の、ことで——騒いどるのに」







——藤原は——器を——撫でた。







「——あんただけ——湯呑み——作っとる」








「——八百屋ですから」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「人工太陽が、また青くなった。空に、"前回好評につき、種族ランダムシャッフルイベント開催"、って。好評だったのか、って、ミネルさんが絶叫してた。……魔王さんが、スライムに。小さくて、角がなくて、"我だ"、って、か細い声で。皆瀬さんは、勇者になって、剣を落として、"重い。溶けられない"、って。……ガオゴンさんは、竜になって、飛んだ。四十八年、歩いてた人が。空で、泣いてた。……藤原さんは、人になった。三十くらいの、見たことのない顔で、座り込んで、"三十年ぶりや"、って。……悪の組織の皆さんは、宇宙防衛隊になって、全員、決めポーズ。ノワールさんが、真っ赤な衣になって、"脱ぐ"、って言ったけど、脱げなかった。逆に、宇宙防衛隊の皆さんは、黒ずくめになって、"イーッ"、しか言えなくなってた。しかも、妙に、楽しそうだった。……僕は、変わらなかった。また、です。一色さんが、"魔王も竜も怪獣もスライムも入れ替わったのに、あなただけ効かない。あなた、本当に人間?"、って。……僕も、時々、思います。でも、たぶん人間です。腹が減るので。"それは皆そうよ"、って。……魔王さんは、スライムになって、水を運んでた。"楽だ。狭いところを通れる。それに、皆が踏まぬように歩く。優しくされるのは初めてだ"、って。……皆瀬さんは、"見られる。人の姿だと、皆が顔を見る。スライムの時は誰も見なかった"、って。僕、二十九年、見てましたよ、って言ったら、"知ってる"、って、初めて笑った。……夜、藤原さんが、まだ広場に座ってた。麦茶を渡したら、両手で受け取って、"持てるわ。湯呑みが持てる。三十年、爪で摘まんどった。落とさんように"、って。……それで、聞いた。三十年前、なぜなれなくなったんですか、って。……"星喰いの時、竜のままでええ、って思うたんや。人やと守られへん。竜やったら守れる。せやから、そう願うた。そしたら、なれへんようになった"、って。……後悔してませんか、って聞いたら、"してへん。三十年、弓を引いてきた。人やったら引けへんかった"、って。……"せやけど、たまに思い出すんや。茶が飲みたい、って"。……鬼族の皆さんに、頼んだ。竜の口に合う器を。一晩で、打ってくれた。……翌朝、皆、戻った。ガオゴンさんは、"一度飛べたからええ"、って。……藤原さんに、器を渡した。爪で摘まむ必要が、なかった。"うまい。三十年ぶりに、落ち着いて飲んだわ"、って。……"皆、昨日のことで騒いどるのに、あんただけ、湯呑み作っとる"、って。八百屋ですから。じいちゃん、三十年、気づきませんでした」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。藤原が——「竜の——ままで——ええ」、と——願った——その、日が。




——竜が——生まれなく——なった——年と——同じで——あったことを。


そして——願いを——叶えた——者が——誰で——あったのかも。





——今は……まだ、願った——本人すら——知らない。

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