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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第128話「妙な、影」

十二基の——目で。





——空の——隅々を——調べる。






——それは——気の——遠くなる——作業、だった。








「——広すぎるわ」







——一色が——初日に——音を——上げた。







「——空って——どこまで——あるんですか」






「——分からない」








——彼女は——首を——振った。







「——見える——限りは——ある」






「——その——先も——たぶん——ある」








「…………」







「——では——どこから——探すのだ」







——ミネルが——尋ねた。








「——分けましょう」







——誠が——言った。







「——また——それか」








「——月が——消えた——場所は——分かりますよね」







——誠は——続けた。







「——星の——反対側です」






「——それは——分かる」








「——じゃあ——そこから——探しませんか」








「——なぜだ」






「——ものは——落とした——ところの——近くに——ありますから」








——誠は——けろり、と——言った。







「——うちで——鍵を——なくした、時も——そうです」








「——星の——話だぞ——!!」






「——同じだと——思います」









——こうして。






——十二の——目が——星の——裏側に——向けられた。








「——見えるか」







——ミネルが——尋ねた。







「——何も——ありません」







——青が——板を——睨んだ。







「——真っ暗です」








「——やはり——消えたのか」






「——待って——ください」








——誠が——止めた。







「——なんだ」






「——真っ暗、って——どういう——意味ですか」








「——何も——ない、ということだ」






「——違うと——思います」








——誠は——首を——振った。







「——"光って——ないもの"、は——見えませんよね」








「…………」







——一色が。






——ゆっくりと——顔を——上げた。







「——待って」






「——一色さん」








「——石は——光らないわ」







——彼女は——早口に——なった。







「——でも——日の——光を——受ければ——見える」






「——月と——同じよ」








「——では——なぜ——見えぬ——!」







——ミネルが——叫んだ。







「——小さすぎるからです」








——ルカが——ぽつり、と——言った。







「…………」







——一同が——振り返った。








「——なんだと?」






「——空見の——爺さまが——言ってました」








——ルカは——帳面を——めくった。







「——"小さい——ものは——見えぬのでは——ない"」






「——"動いて——おらぬから——見えぬのだ"、と」








「——どういう、意味だ」







「——爺さまは——毎日——同じ——空を——見てました」








——ルカは——静かに——言った。







「——同じ、だから——違いが——分かった、って」






「——星は——動きます」






「——動く——ものは——見つけられます」








「…………」







——一色が。






——立ち上がった。







「——それよ——!!」






「——え?」








「——同じ——場所を——毎日——写すの——!!」







——彼女は——早口に——なった。







「——そして——重ねて——見比べる——!!」






「——動いた——ものだけが——ずれるわ——!!」








「——できますか——!」







——誠が——青を——見た。







「——できる」








——青は——頷いた。







「——だが——手間だ」






「——どれくらい——ですか」






「——毎日——写して——毎日——見比べる」








「——何日——ですか」






「——分からぬ」








「——僕、やります」







——ルカが——手を——挙げた。







「——ルカ」






「——十六年——毎日——空を——見てます」








——彼は——けろり、と——言った。







「——一つ——増えるだけです」









## 半年






——ルカは——毎日——写した。







——同じ——場所を。






——同じ——刻限に。







——そして——重ねて——見比べた。








「——今日も——同じです」







「——そうか」








——三十日。






——六十日。






——百日。








「——ルカ」







——ある日——誠が——尋ねた。







「——疲れてないか」






「——疲れてません」








——ルカは——けろり、と——言った。







「——同じ、なのが——面白いんです」






「——面白いのか」








「——はい」







——ルカは——板を——並べた。







「——百日——全部——同じです」






「——ということは——ここには——何も——ない、ってことです」








「——それは——駄目な、ことじゃ——ないのか」






「——違います」








——ルカは——微笑んだ。







「——"ここには——ない"、と——分かりました」






「——だから——次の——場所を——探せます」








「…………」







——誠は。






——弟子の——横顔を——見た。







——三十七に——なっていた。








「——ルカ」






「——はい」






「——お前——爺さまに——似てきたな」








「——そうですか?」






「——ああ」








——誠は——微笑んだ。







「——"同じ"、を——喜ぶ、ところが」









## 二百日目






——それは——唐突に——起きた。








「…………」







——ルカの——手が。






——止まった。








「——どうした」






「…………」








——ルカは。






——二枚の——板を——何度も——見比べていた。







——そして。







「——師匠」






「——なんだ」






「——ずれてます」








「…………」







——工房が。






——凍りついた。








「——なんだと——!?」







——ミネルが——飛んできた。







「——どこだ——!!」






「——ここです」








——ルカが——板の——隅を——指した。







——ほんの——小さな——点、だった。








「——見えぬぞ——!!」






「——重ねて——ください」








——二枚を——重ねると。







——確かに。







——一つだけ。







——わずかに——位置が——違っていた。








「…………」







「——動いてる」







——一色が——かすれた——声で——言った。








「——星では——ないのか」






「——星は——こんなに——速く——動かないわ」








「——では——なんだ——!!」






「——分からない」








「——調べます」







——ルカが——言った。









## 一年






——ルカは——その——点を——追い続けた。







——そして——一年、後。







「——分かりました」







——彼は——工房に——帳面を——持ってきた。








「——何が——だ」






「——一つじゃ——ありません」








「…………え?」







「——たくさん——あります」








——ルカは——板を——広げた。







——そこには。







——無数の——点が——書き込まれていた。








「…………」







「——いくつだ」







——ミネルが——低く——尋ねた。







「——まだ——数えてる——途中です」








——ルカは——静かに——言った。







「——今——千を——超えました」








「——千——!?」







——工房が——騒然と——なった。








「——なんだ——それは——!!」






「——分かりません」








——ルカは——首を——振った。







「——でも——一つ——妙な、ことが——あります」






「——なんだ」








「——全部——同じ——道を——回ってます」








「…………」







——一色が。






——固まった。







「——待って」






「——一色さん?」








「——同じ——道?」






「——はい」








——ルカは——図を——描いた。







「——ばらばらに——散ってません」






「——一本の——輪の——上に——並んでます」








「…………」







——一色は。






——その——図を——じっと——見つめて。






——そして——震え始めた。








「——一色さん?」






「——これ」








——彼女は——かすれた——声で——言った。







「——月の——道よ」








「…………」







——工房が。






——完全に——静まり返った。








「——なんだと?」






「——二つ目の——月が——回ってた——道」








——一色は——記録を——引っ張り出した。







「——二十九年——前の——記録が——残ってる」






「——合わせて——みるわ」









——三日。







——そして——四日目の——朝。







「——合った」







——一色が——ぽつり、と——言った。








「——完全に?」






「——完全に」








——彼女は——顔を——上げた。







——目が——赤かった。








「——誠」






「——はい」






「——月は——消えてない」








「…………」







「——砕けたのよ」








「…………」







——誰も。






——声を——出さなかった。








「——そして——まだ——そこに——ある」







——一色は——静かに——言った。







「——二十九年——同じ——道を——回り続けてる」








「…………」







——誠は。






——ゆっくりと——立ち上がった。








「——一色さん」






「——何?」






「——全部——足したら」








——彼の——声が——震えていた。







「——月に——なりますか」








「…………」







——一色は。






——ペンを——取った。







「——数えるわ」






「——ルカ——! 全部の——大きさを——測って——!!」








「——はい——!!」









## 半年






——ルカが——数え終えたのは。






——半年、後、だった。








「——終わりました」







——彼は——分厚い——帳面を——机に——置いた。







「——いくつだ」








「——三千——四百——十二」








「…………」







——一色が。






——計算を——始めた。







——工房は——静まり返っていた。







——誰も——動かなかった。








——一刻。






——二刻。







——そして。







——一色が——ペンを——置いた。








「…………」







「——どうだ——!!」







——ミネルが——叫んだ。







「——一色さん——!!」








「…………」







——一色は。






——顔を——上げた。







——そして——言った。








「——足りる」








「…………」







「——全部——集めたら」







——彼女の——声が——震えていた。







「——二つ目の——月に——なるわ」








「…………」







——工房が。






——凍りついた。







——そして。








「——うおおおおおお——!!!」







——爆発した。








「——あるのか——!!」






「——月が——まだ——あるのか——!!」






「——イーッ——!!」









——だが。






——誠だけが。






——動かなかった。








「——田中?」







——ミネルが——気づいた。







「——喜ばぬのか」








「…………」







——誠は。






——じっと——帳面を——見つめていた。







——そして——ぽつり、と——言った。








「——神様」







「——なんだ?」








「——知ってたんでしょうか」








「…………」







——工房が。






——静まった。








「——あの、人——"使い切った"、って——言いました」







——誠は——静かに——言った。







「——でも——砕けて——残ってました」






「——二十九年——ずっと」








「…………」







「——知らなかったなら——いいんです」







——誠は——うつむいた。







「——でも——知ってて——黙ってたなら」








「…………」







「——なぜでしょうね」








「…………」







——誰も。






——答えられなかった。









——その、夜。






——誠は——地上に——上がった。







——影の——下。






——月が——一つ——出ている。








「——神様」







——彼は——呼びかけた。







「——見つけました」








——返事は——ない。








「——三千——四百——十二です」







——誠は——静かに——言った。







「——全部——足したら——月に——なるそうです」








「…………」







「——一つだけ——聞かせて——ください」







——誠は——顔を——上げた。







「——知ってましたか」








「…………」







——長い——沈黙が——あった。







——そして。







——足元で。







——皆瀬が——ぷるん、と——揺れた。








『——来た』







「——読んで——ください」








『——ええと……一言だけ』








「…………」







『——"知っとった"』








「…………」







——誠は。






——空を——見上げたまま。






——動かなかった。








『——まだ——ある』







「——読んで——ください」








『——"けど——お前らには——拾えん、思うとった"』








「…………」







『——"すまん"』








「…………」







——誠は。






——長い、こと——黙って。






——そして——言った。








「——皆瀬さん」






『——なに?』






「——返事を——送って——ください」








『——うん』








「——"謝らなくて——いいので"」







——誠は——静かに——言った。







「——"拾いに——行きます"」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「十二の目で、空を調べることにした。でも、広すぎる。だから、分けた。月が消えた場所——星の反対側——から探す。ものは、落としたところの近くにありますから。うちで鍵をなくした時も、そうです。……でも、真っ暗で、何も見えなかった。やはり消えたのか、って。……でも、"真っ暗、ってどういう意味ですか"、って聞いた。光ってないものは、見えませんよね、って。……一色さんが、"石は光らない。でも日の光を受ければ見える。月と同じ"、って。じゃあ、なぜ見えないのか。……ルカが、"小さすぎるからです"、って。空見の爺さまが言ってたそうだ。"小さいものは見えぬのではない。動いておらぬから見えぬのだ"、って。……同じ場所を毎日写して、重ねて見比べる。動いたものだけが、ずれる。……ルカが、"僕、やります。十六年、毎日、空を見てます。一つ増えるだけです"、って。……百日、同じだった。疲れてないか聞いたら、"同じ、なのが面白いんです。ここには何もない、と分かりました。だから、次の場所を探せます"、って。……あの子、爺さまに似てきました。……二百日目。ルカが、"ずれてます"、って。ほんの小さな点だった。……そこから一年。ルカが、"一つじゃありません。たくさんあります"、って。千を超えた、って。……しかも、"全部、同じ道を回ってます。ばらばらに散ってません。一本の輪の上に並んでます"、って。……一色さんが、震え始めた。"これ、月の道よ。二つ目の月が回ってた道"、って。二十九年前の記録と、合わせたら、完全に、合った。……月は、消えてなかった。砕けてた。そして、まだ、そこにあった。二十九年、同じ道を、回り続けてた。……全部足したら月になりますか、って聞いた。一色さんが、ルカに全部の大きさを測らせて——半年で、三千四百十二。……計算して、二刻。"足りる。全部集めたら、二つ目の月になるわ"、って。……皆、爆発してた。でも、僕は、動けなかった。……神様、知ってたんでしょうか。あの人、"使い切った"、って言った。でも、砕けて、残ってた。二十九年、ずっと。……夜、地上で、聞いた。知ってましたか、って。……返事が、来た。"知っとった"。……"けど、お前らには拾えん、思うとった"。"すまん"、って。……返事を、送った。"謝らなくていいので、拾いに行きます"、って。じいちゃん。月は、あります」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。三千——四百——十二の——破片を。




——本当に——拾い集める、ことに——なる——日々が。





——どれほど——長い——ものに——なるのかを。


そして——その——一つ——一つに。




——名が——つけられる、ことに——なるのも。





——今は……まだ、誰も——考えて——いない。

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