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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「聖女様の、初恋」

それは。





——あまりにも——偶然、だった。







——聖女ルナが。






——珍しく——地上に——出た——日、である。








「——たまには——空気を——吸いませんとね」







——四百年——地下と——教会を——往復するだけの——暮らし、だった。









——広場に——出た——その、時。







——騒ぎが——起きていた。








「——悪党——発見——!!」






「——覚悟——!!」








——見れば。






——黒ずくめが——一人。






——数人がかりで——袋叩きに——されていた。








「——イ——!? イーッ——!?」








「…………」







——ルナは。






——足を——止めた。








——黒ずくめは。






——一切——抵抗しなかった。







——避けもしない。






——殴り返しもしない。







——ただ——両手で——頭を——庇って。






——蹲っていた。








「…………」







——ルナは。






——じっと——それを——見ていた。








——四百年。







——彼女は——数え切れぬ——ほどの——人間を——見てきた。







——殴られれば——殴り返す。






——追い詰められれば——喚く。






——治せば——値切る。







——それが——人、だった。







——だが。







「…………」







——その——男は。






——最後まで——手を——上げなかった。









「——待て——!!」







——誰かが——駆けつけた。







「——その、方は——違います——!!」








——騒ぎは——収まった。






——例に、よって——冤罪、だった。







——英雄たちが——気まずそうに——謝り。






——そして——散っていった。








「——イ……」







——黒ずくめは。






——一人——広場に——残された。







——ふらつきながら——立ち上がろうとして。






——そして——よろけた。








「——お待ちなさい」







——ルナが——歩み寄った。







「——イ?」








——彼女は——手を——かざした。







——柔らかい——光が——溢れた。







——ヒール——特盛。







——五百二十ゴールドの——品、である。








——傷が——一瞬で——消えた。








「…………」







——黒ずくめは。






——自分の——身体を——確かめて。






——そして。







——深く——頭を——下げた。








「——イーッ」








「…………」







——その、瞬間。







——ルナの——中で。






——四百年——動かなかった——何かが。







——ぐらり、と——傾いた。








「…………」







「——あの」






「——イ?」








「——お代は——結構ですわ」








「——イーッ——!?」







——黒ずくめが——慌てた。







——そして——懐から——財布を——出した。







——中身は——銅貨——数枚、だった。








「——イー……」







——彼は——申し訳なさそうに——それを——差し出した。








「…………」







——ルナは。






——その——手を——じっと——見た。







——五百二十ゴールドの——治療に。






——銅貨——数枚を——差し出す——手。







——それでも——払おうと——する——手。








「…………」







「——お名前は」








「——イーッ」







——彼は——胸の——番号を——指した。







——八一八。








「——八一八号さん」






「——イーッ——!!」








——嬉しそう、だった。








「…………」







——ルナは。






——その場から——動けなかった。









## 地下教会






——その、夜。







「——聖女様?」







——秘書の——シスターが——首を——かしげた。







「——金貨を——数えて——おられませんが」








「…………」







——ルナは。






——金貨の——山の——前で——座り込んで。






——ぼんやりと——していた。








「——聖女様——!?」






「——ねえ」






「——はい」








「——"イー"、って——どういう——意味かしら」








「…………は?」







——シスターが——固まった。







「——たぶん——"ありがとう"、ですわね」







——ルナは——ぽつり、と——言った。







「——あの——言い方は——きっと——そうですわ」








「——聖女様。何が——ございました」







「——別に」








——ルナは——顔を——背けた。







——そして——ぼそり、と——言った。








「——明日から——蘇生を——五千五百に——戻しますわ」








「…………え?」







——シスターが。






——目を——見開いた。







「——四百年で——初めての——値下げです——!!」






「——気分ですの」








「——聖女様——!?」






「——言わないで」









## 通い






——それから。






——ルナは——地上へ——出るように——なった。







——ほぼ——毎日、である。








「——あら——八一八号さん」






「——イーッ——!」








「——偶然ですわね」






「——イー?」








——ちなみに——五日——連続、である。








「——聖女様」







——シスターが——小声で——言った。







「——偶然が——多すぎます」






「——黙って——なさい」









——だが。






——見ていると——分かった。







——八一八号は。






——毎日——同じことを——していた。








——朝。






——通路の——ごみを——拾う。







——昼。






——配給の——列を——整える。







——夕。






——並べぬ——者の——家を——回る。








「——イーッ」







——荷を——置いて。






——頭を——下げて。






——去る。







——名乗りもしない。








「…………」







——ルナは。






——それを——物陰から——見ていた。








「——聖女様」






「——なあに」






「——お声を——かけては」








「——無理ですわ」







——ルナが——即答した。







「——なぜです」






「——わたくし——金の——話しか——した、ことが——ありませんの」








「…………」







「——四百年ですわ」







——ルナは——うつむいた。







「——"お布施は"、しか——言えませんの」








「…………」









## きっかけ






——転機は——ある日——訪れた。







——八一八号が。






——教会の——前に——立っていた。








「——イーッ」







「——あら——!?」








——ルナが——飛び上がった。







「——ど、どうなさいましたの——!?」








——八一八号は。






——小さな——包みを——差し出した。








「——イー」







「——これは?」








——開けると。






——銅貨が——山ほど——入っていた。







——数えると——五百二十枚。








「…………」







「——イーッ」








——彼は——深く——頭を——下げた。







——半年——かけて——貯めた——ものだった。








「…………」







——ルナは。






——包みを——持ったまま——動かなかった。








「——あの、時の——お代——ですの?」






「——イーッ」








「——結構だと——申しましたでしょう」






「——イー」








——彼は——首を——振った。







——「ただでは——いけない」、という——意味、だった。








「…………」







——ルナの。






——目から——涙が——落ちた。








「——イ——!? イーッ——!?」







——八一八号が——慌てた。







「——違いますの」








——ルナは——袖で——顔を——拭った。







「——四百年——初めてですの」






「——イー?」








「——払ってくださった——方が」







——彼女は——ぽつり、と——言った。







「——皆——値切りますの」






「——それか——踏み倒しますの」








「…………」







「——あなたが——初めてですわ」








「…………」







——八一八号は。






——しばらく——考えて。






——そして。







——懐から——もう一つ——包みを——出した。








「——イー」







「——これは?」








——開けると。






——干し芋が——二本——入っていた。








「…………」






「——イーッ」








——「一緒に——食べませんか」、という——意味、だった。








「…………」







——ルナは。






——教会の——階段に——腰を——下ろした。







「——いただきますわ」









## 三年後






——祝言は——広場で——挙げられた。







「——おめでとう——!!」






「——イーッ——!!」






「——イーーーッ——!!」








——デスクロウ——総出、だった。







「——首領。泣いて——おられますな」







「——泣いて——おらぬ」








——ノワールが——顔を——背けた。







「——あやつは——七度——冤罪に——遭った」






「——それでも——毎日——広場に——立って——おった」







「——報われたのだ」








「——泣いて——おられます」






「——うるさい」









——誠も——列に——並んでいた。







「——ルナさん。おめでとう——ございます」







「——あら」








——ルナが——にっこりと——笑った。







「——八百屋さん」






「——お幸せに」








「——ありがとう——ございます」







——彼女は——頭を——下げて。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——あの、時」






「——はい」






「——"金貨は——役に——立たない"、と——おっしゃいましたわね」








「——すみません。出すぎました」






「——いいえ」








——ルナは——首を——振った。







「——正しかったですわ」






「——え?」








「——あの、人」







——彼女は——八一八号を——見た。







「——金貨を——一枚も——持って——おりませんの」








「…………」







「——それでも——生きて——おられますの」







——ルナは——微笑んだ。







「——四百年——気づきませんでしたわ」









## 変化






——結婚して——半年。







——妙な、ことが——起きた。








「——イーッ——!!」







——八一八号が——手を——かざすと。






——傷が——治ったのである。








「——あら——!?」







「——イ——!?」








——本人が——一番——驚いていた。








「——なぜですの——!?」






「——イー……」








——分からない、らしい。







——さらに——一年、後。







——蘇生まで——できるように——なった。








「——おかしいですわ——!!」







——ルナが——絶叫した。







「——わたくし——四百年——かかりましたのに——!!」






「——イー」








——八一八号は——申し訳なさそうに——頭を——下げた。








「——謝らないで——くださいまし——!!」









——ちなみに——聖女業は。






——すっかり——様変わりした。








*——【本日の——回復——料金】*





*——ヒール(小)……三ゴールド*





*——ヒール(大)……五ゴールド*





*——完全回復……十ゴールド*





*——死者蘇生……応相談*







*——※お支払いが——難しい——方は——お申し出ください*





*——※分割も——承ります*








「——安い——!!」






「——聖女様——どうされた——!!」








「——気分ですの」







——ルナは——澄まして——言った。









## だが






——半年、後。






——誠が——教会を——訪ねると。







——妙な——札が——増えていた。








*——【聖女——資金——運用所】*





*——ご融資——承ります*





*——十日で——一割*








「…………」







「——ルナさん」






「——あら」






「——これ——なんですか」








「——資金の——運用ですわ」







——ルナは——にっこりと——笑った。







「——十日で——一割、って」






「——良心的でしょう?」








「——高いです——!!」






「——治療は——安く——しましたのよ」








——ルナは——けろり、と——言った。







「——ですが——教会の——維持費は——要りますの」






「——それに——四百年——貯めた——元手が——ございますし」








「——治療で——稼がない——分を——!?」






「——不労収入は——大事ですわ」








「…………」







——誠は。






——遠い——目を——した。








「——八一八号さんは——何て——言ってますか」







「——イー」








——奥から——顔を——出した——八一八号が。






——困った——顔で——首を——振った。








「——反対されてますよね」






「——ええ」








——ルナは——素直に——認めた。







「——毎日——止められて——おりますわ」






「——やめないんですか」








「——やめませんわ」







——ルナは——きっぱりと——言った。







「——なぜですか」








「——あの、人が——いつか——困った、時」







——彼女は——静かに——言った。







「——金貨で——助けられますでしょう」








「…………」







「——あの、人は——一枚も——持って——おりませんもの」








「…………」







——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——ため息を——ついた。








「——利息、下げませんか」






「——嫌ですわ」








「——せめて——十日で——半分に」






「——考えて——おきますわ」








「——それ——やらないやつです」






「——あら」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「聖女ルナさんが、結婚した。相手は、悪の組織の八一八号さん。……きっかけは、四年前だそうだ。冤罪で袋叩きにされてる八一八号さんを、ルナさんが見かけた。あの人、一切、抵抗しなかった。避けも、殴り返しもせずに、ただ蹲ってた。……それで、ヒール特盛をかけたら、"イーッ"、って頭を下げられた。それだけで、全部、分かったそうだ。……その後、半年かけて、銅貨を五百二十枚、貯めて、払いに来たらしい。"結構だと申しましたでしょう"、って言っても、首を振って。ただでは、いけない、って。……ルナさん、泣いたって。四百年で、初めて、払ってくださった方だから。皆、値切るか、踏み倒すか、だったって。……それから、干し芋を二本、出されて、一緒に食べたそうだ。……祝言は、広場で。デスクロウ総出だった。ノワールさんが、泣いてないと言い張りながら、泣いてた。"あやつは七度、冤罪に遭った。それでも毎日、広場に立っておった。報われたのだ"、って。……ルナさんに、おめでとうございます、と言ったら、"あの時、金貨は役に立たない、とおっしゃいましたわね。正しかったですわ。あの人、金貨を一枚も持っておりませんの。それでも、生きておられますの。四百年、気づきませんでしたわ"、って。……ちなみに、半年後、八一八号さんが、ヒールを使えるようになった。一年後には、蘇生まで。ルナさんが、"わたくし、四百年かかりましたのに"、って絶叫してた。八一八号さんは、申し訳なさそうに、頭を下げてた。謝らないでください。……治療の値段は、ものすごく、安くなった。ヒール小が三ゴールド。"お支払いが難しい方はお申し出ください"、"分割も承ります"、って書いてある。……でも、教会に行ったら、変な札が増えてた。"聖女資金運用所。十日で一割"。……高いです、って言ったら、"治療は安くしましたのよ。不労収入は大事ですわ"、って。……八一八号さんは、毎日、止めてるらしい。やめないんですか、って聞いたら、"やめませんわ。あの人がいつか困った時、金貨で助けられますでしょう。あの人は一枚も持っておりませんもの"、って。……利息を下げませんか、って言ったら、"考えておきますわ"、って。それ、やらないやつです。じいちゃん、いい話でした。最後だけ、変ですけど」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。四百年——蘇生の——値を——上げ続けた——聖女が。




——なぜ——たった一度の——「イーッ」、で——下げたのかを。


そして——四百年——誰にも——言わなかった——その、理由を。




——彼女が——初めて——打ち明ける——相手が。





——言葉を——持たぬ——男に——なることも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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