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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第126話「第一番の、里」

第一番の里は。





——世界で——最も——赤い——場所、だった。







「——降りるで」







——藤原が——高度を——下げた。







——眼下には。







——白い——大地しか——なかった。








「——建物が——ありませんね」







——誠が——呟いた。







「——溶けたんや」








——藤原が——低く——言った。







「——溶けた——!?」






「——石が——な」








「…………」







——一色が。






——口を——押さえた。









——地下への——入り口は。






——岩の——割れ目、だった。







——降りると。






——熱気が——顔を——打った。








「——暑い——!!」







——ミネルが——うめいた。







「——地下なのに——!!」






「——上が——灼けてるからです」








——誠は——奥へ——進んだ。









——そこに。






——四十二人が——いた。







——皆——横に——なっていた。








「…………」







「——立てる——者が——おらぬのか」







——ミネルが——かすれた——声で——言った。








「——動くと——暑いのだ」







——一人が——目だけを——開けて——言った。







「——だから——寝て——おる」








「…………」







——誠は。






——帳面を——開いた。







——三月——前に——書き取った——名簿、である。








「——サディムさん」







——彼が——呼ぶと。






——横たわっていた——男が——顔を——上げた。








「…………」






「——なぜ——俺の——名を」








「——三月——前に——伺いました」







——誠は——静かに——言った。







「——覚えてて——くださいましたか」








「…………」







——サディムは。






——ゆっくりと——身を——起こした。








「——あの、時の——八百屋か」






「——はい」






「——また——来たのか」








「——弓を——立てに——来ました」








「…………」







——洞穴が。






——ざわめいた。








「——弓?」






「——影を——作る——やつか?」






「——本当か?」








「——本当です」







——誠が——頷いた。







「——半年——かかります」






「——それまでは——飯を——運びます」








「…………」







——サディムは。






——長い、こと——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——なぜ——うちなのだ」








「——え?」






「——四十二人だぞ」








——彼は——低く——言った。







「——もっと——人の——多い——里が——あるだろう」






「——そちらから——やれば——よい」








「…………」







——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——二十年——それを——やってました」








「…………」







「——"人の——多い——ところから"、って」







——誠は——静かに——言った。







「——それで——ここは——二十年——後回しに——なりました」








「…………」







「——だから——今度は——逆に——します」







——彼は——顔を——上げた。







「——一番——困ってる——ところからです」








「…………」







——サディムは。






——顔を——覆った。









## 建造






——だが——建造は——難航した。








「——四半刻——保ちません——!!」







——鬼族が——地上から——降りてきた。







「——どれくらいだ」






「——十を——数える——ほどで——限界です——!!」








「——十——!?」







——ミネルが——絶句した。







「——それでは——何も——できんぞ——!!」








「——温度を——測ったわ」







——一色が——帳面を——閉じた。







「——ハラムの——倍」






「——人が——立って——おれる——限界を——超えてる」








「…………」







——工事は——止まった。








「——どうする、田中」







——ミネルが——尋ねた。







「——考えます」








——誠は——洞穴の——入り口に——座り込んだ。







——そして——空を——見上げた。







——白い——空。






——影が——ない。








(——影が——ないから——建てられない)






(——建てられないから——影が——できない)







「…………」








「——旦那」







——駄々丸が——隣に——座った。







「——駄々丸さん」






「——堂々巡りで——ござんすね」








「——はい」







——誠は——ため息を——ついた。







「——影が——先か——弓が——先か」








「——鶏と——卵で——ござんすな」







「——そうですね」









——だが——その、時。







——誠が。






——ふと——顔を——上げた。








「——駄々丸さん」






「——へえ」






「——影って——ここで——作らないと——駄目ですかね」








「——と、申しやすと」







「——別の——ところから——持ってこられませんか」








「…………」







——駄々丸が。






——煙管を——止めた。








「——一色さーん——!!」







——誠が——立ち上がった。







「——何——!?」






「——一番——近い——弓は——どこですか——!!」








「——ええと」







——一色が——地図を——広げた。







「——第六十番の——弓ね」






「——遠いですか」






「——竜で——二刻」








「——その——弓の——影、こっちに——ずらせませんか」








「…………は?」







——一色が。






——固まった。







「——待って」






「——できませんか」








「——できる」







——一色は——早口に——なった。







「——狙う——位置を——変えればいいだけよ」






「——でも——第六十番の——里が——暑くなるわ」








「——何番目ですか」






「——赤さで——四十七番目」








「——聞いてみましょう」









## 頼み






——第六十番の里。







——誠は——里長の——前で——頭を——下げた。








「——影を——半年——貸して——いただけませんか」








「…………は?」







——里長が——目を——見開いた。







「——貸す、とは——どういう、ことだ」








「——影を——第一番の——里に——ずらします」







——誠は——正直に——言った。







「——半年——こちらは——影が——なくなります」








「——ふざけるな——!!」







——若い——男が——叫んだ。







「——うちも——やっと——影を——もらったのだぞ——!!」






「——三年——前だ——!!」








「——知ってます」







——誠は——頷いた。







「——知ってて——言うのか——!!」






「——はい」








「…………」







——洞穴が——荒れた。








「——皆さん」







——誠は——帳面を——開いた。







「——これ——第一番の——里の——名簿です」








「——何だと?」






「——四十二人です」








——誠は——静かに——読み上げ始めた。







「——サディムさん」






「——マイヤさん」






「——トゥーレさん」






「——ハーンさん」








「——待て——!!」







——若い——男が——遮った。







「——何を——して——おる——!!」






「——名前を——読んでます」








「——なぜだ——!!」








「——皆さんに——覚えて——いただきたいからです」







——誠は——顔を——上げた。







「——僕、二十年——名前を——知りませんでした」






「——だから——後回しに——できました」








「…………」







「——皆さんに——同じ——思いを——して——ほしく——ないんです」








「…………」







——洞穴が。






——静まり返った。








「——続けて——いいですか」







「…………」







——誰も——止めなかった。








「——ラーミさん」






「——ノアさん」






「——セイラさん。八歳です」








「…………」







——一人の——おかみさんが。






——顔を——覆った。








「——八歳……」








「——皆さん——立てません」







——誠は——静かに——言った。







「——動くと——暑いので——寝てるそうです」








「…………」







——長い——沈黙が——あった。







——そして。







「……貸す」







——里長が——ぽつり、と——言った。








「——長——!!」






「——貸す」








——里長は——立ち上がった。







「——うちは——三年——影が——あった」






「——あちらは——二十年——なかった」







「——半年くらい——貸せる」








「…………」







「——ただし——条件が——ある」







——里長が——誠を——見た。







「——なんですか」






「——うちの——者も——連れて——行け」








「…………え?」







「——弓を——建てるのだろう」







——里長は——きっぱりと——言った。







「——うちには——動ける——者が——おる」






「——あちらには——おらぬ」








「——ですが——皆さんも——まだ——」






「——三年——飯を——食うた」








——里長は——低く——言った。







「——動ける」








「…………」







——誠は。






——深く——頭を——下げた。








「——ありがとう——ございます」






「——礼は——要らぬ」








——里長は——顔を——背けた。







「——順番が——回ってきただけだ」









## 半年






——影が——移された——日。







——第一番の里の——上に。






——二十年ぶりの——影が——落ちた。








「…………」







——洞穴から。






——人が——這い出してきた。







——そして——空を——見上げた。








「——暗い」







——サディムが——呟いた。







「——空が——暗い」








「…………」







——誰も。






——何も——言わなかった。







——ただ——皆——地面に——座り込んで。







——影の——中に——いた。









——そして——建造が——始まった。







——第六十番の里からは——三十人が——来ていた。








「——おい——! そっちを——押さえろ——!」






「——おう——!」








——第一番の里の——者も。






——少しずつ——起き上がっていった。








「——俺も——やる」







——サディムが——立ち上がった。







「——無理は——しないで——ください」






「——飯を——食うた」








——彼は——ぼそり、と——言った。







「——三月——毎日——食うた」






「——だから——動ける」








「…………」









——五月目。






——櫓が——組み上がった。








「——最後の——梁だ——!!」







——鬼族が——叫んだ。








「——待て——!!」







——誠が——止めた。







「——どうした——!」






「——上に——誰が——いますか——!!」








「——四人だ——!!」






「——足場を——確かめて——ください——!!」








「——確かめた——!!」






「——もう一度——!!」








「…………」







——鬼族は。






——何も——言わずに——もう一度——確かめた。







——そして——降りてきた。








「——一本——腐っとった」







「…………」







——誠は。






——その場に——座り込んだ。








「——田中殿?」






「——すみません」








——誠は——顔を——覆った。







「——ちょっと——足が」








「…………」







——鬼族は。






——何も——言わずに——隣に——座った。









## 完成






——半年、後。






——第百二本目の——弓が——立った。







——誰も——落ちなかった。








「——点火——!!」







——矢が——伸び。






——布が——広がり。







——そして。







——第一番の里に。






——自分たちの——影が——落ちた。








「——うおおおお——!!」







——四十二人と——三十人が——抱き合っていた。








「——サディムさん——!!」







——誠が——呼ぶと。






——彼は——振り返った。








「——八百屋」






「——おめでとう——ございます」








「…………」







——サディムは。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——次は——どこだ」








「——え?」






「——次に——建てる——里だ」








——サディムは——真剣な——顔で——言った。







「——俺たちも——行く」








「…………」







「——三年——飯を——食えば——動ける」







——彼は——第六十番の里の——者たちを——見た。







「——そう——教わった」








「…………」







——誠は。






——深く——頭を——下げた。








「——お願いします」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「第一番の里に、行った。世界で一番、赤いところ。上から見たら、建物が、なかった。藤原さんが、"溶けたんや。石がな"、って。……洞穴に降りたら、地下なのに、暑かった。四十二人、全員、横になってた。"動くと暑いのだ。だから寝ておる"、って。……名簿を開いて、サディムさん、って呼んだら、顔を上げて、"なぜ俺の名を"、って。三月前に伺いました、って。……弓を立てに来ました、って言ったら、"なぜ、うちなのだ。四十二人だぞ。もっと人の多い里があるだろう"、って。……二十年、それをやってました。だから、ここは二十年、後回しになりました。今度は、逆にします。一番困ってるところからです、って。あの人、顔を、覆ってた。……でも、建造は、無理だった。地上は、十を数えるほどで限界。ハラムの倍。人が立っていられる限界を超えてた。……影がないから建てられない。建てられないから影ができない。堂々巡り。……そこで、思いついた。影を、別のところから持ってこられませんか、って。一番近い第六十番の弓の狙いを変えれば、こっちに影が来る。……第六十番の里に、頼みに行った。半年、影を貸してください、って。若い人が、"ふざけるな。うちもやっと影をもらったのだぞ。三年前だ"、って。知ってます。知ってて言うのか、って。はい。……それで、名簿を読んだ。サディムさん、マイヤさん、トゥーレさん。……"何をしておる"、って止められたけど、続けた。皆さんに、覚えていただきたいんです。僕、二十年、名前を知りませんでした。だから、後回しにできました。皆さんに、同じ思いをしてほしくないんです、って。……セイラさん、八歳です、って読んだら、おかみさんが、顔を覆ってた。……長さんが、"貸す。うちは三年、影があった。あちらは二十年、なかった。半年くらい、貸せる"、って。しかも、条件が、"うちの者も連れて行け。三年、飯を食うた。動ける"、って。……影が移った日、第一番の里の人が、洞穴から這い出してきて、空を見上げて、"暗い。空が暗い"、って。皆、影の中に、座り込んでた。……建造には、第六十番から三十人。第一番の人も、少しずつ、起き上がった。サディムさんが、"飯を食うた。三月、毎日。だから動ける"、って。……五月目、最後の梁の時、足場を確かめてもらった。一本、腐ってた。……座り込んでしまいました。すみません、足が。……半年で、百二本目が、立った。誰も、落ちませんでした。……サディムさんが、"次はどこだ。俺たちも行く。三年飯を食えば動ける。そう教わった"、って。……じいちゃん。回り始めました」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。「影を——半年——貸して——ください」、という——この——頼み方が。




——やがて——世界中で——繰り返される、ことに——なるのを。


そして——助けられた——里が——次の——里へ——向かう——この、連なりが。




——二十六本の——弓を——十二年では——なく——七年で——建てさせることも。





——今は……まだ、誰も——数えて——いない。

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