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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第125話「二十六本」

「——弓を——二十六本——増やします」





——誠が——工房で——言った。







「——待て」







——一色が——即座に——止めた。







「——それ——衛星と——同時に——やるの?」






「——はい」








「——無理よ」







——彼女は——きっぱりと——言った。







「——人が——足りない」






「——鉄も——足りない」






「——竜も——足りない」








「——分けましょう」







——誠が——言った。







「——また——それか」








——ミネルが——ぼやいた。







「——だが——聞こう」









——誠は——紙を——広げた。








「——足りない——ものを——三つ——並べます」








*——一、人*





*——二、鉄*





*——三、竜*








「——一つずつ——潰します」






「——潰せるのか」








「——まず——人です」







——誠は——別の——紙を——出した。







「——里回りで——分かったことが——あります」






「——なんだ」








「——四万——二千——三百人」







——誠は——静かに——言った。







「——皆さん——生きてます」








「…………」







——工房が。






——ぴたり、と——静まった。








「——待って」







——一色が——目を——見開いた。







「——あの、人たちに——手伝わせるの?」






「——お願いします」








「——無理よ——!!」







——一色が——声を——荒らげた。







「——皆——痩せてるの——!!」






「——洞穴から——出られないのよ——!!」








「——知ってます」







——誠は——頷いた。







「——だから——先に——飯を——運びます」






「——それは——もう——やってるでしょう——!!」








「——足りてません」







——誠は——きっぱりと——言った。







「——今は——月に——一度です」






「——毎日に——します」








「——毎日——!?」







——ミネルが——飛び上がった。







「——百二十七の——里に——毎日、だと——!?」






「——竜が——足りぬ——!!」








「——三つ目に——繋がります」







——誠が——微笑んだ。









## 竜






——竜の里。







「——三十では——足らぬ、と」







——長が——腕を——組んだ。







「——はい」






「——いくつ——要る」








「——百」








「——おらぬ」







——長は——即答した。







「——我らは——三十七頭だ」






「——飛べぬ——者を——除けば——三十」








「…………」







——誠は。






——しばらく——考えて。






——そして——尋ねた。








「——長さん。竜は——増えないんですか」








「…………」







——長の——動きが。






——止まった。







「——妙な、ことを——聞くな」






「——すみません」








「——増えぬ」







——長は——低く——言った。







「——二百年——一頭も——生まれて——おらぬ」








「——二百年——!?」







——誠が——目を——見開いた。







「——なぜ——ですか」






「——分からぬ」








——長は——首を——振った。







「——ある、時から——ぱたりと——止まった」








「…………」







——誠は。






——じっと——考え込んだ。







——そして。







「——長さん。もう一つ——伺っても——いいですか」







「——なんだ」






「——名前を——つけ始めて——何か——変わりましたか」








「…………」







——長は。






——ゆっくりと——顔を——上げた。







「——なぜ——それを——聞く」






「——なんとなくです」








「…………」







——長は——長い、こと——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——変わった」








「——何が——ですか」






「——喋るように——なった」








「…………え?」







「——我らは——名を——持たなんだ」







——長は——静かに——言った。







「——ゆえに——互いを——呼ぶ、ことが——なかった」






「——気配で——分かるからな」








「——でも——今は?」






「——呼ぶ」








——長は——里を——見回した。







「——"テツ"、"アサ"、"ネム"、とな」






「——呼べば——返事を——する」






「——返事を——すれば——話が——始まる」








「…………」







「——二百年——静かな——里であった」







——長は——ぼそり、と——言った。







「——今は——うるさい」








「——嫌ですか」






「——嫌では——ない」









——その、時。






——岩棚の——奥から——声が——した。








「——長」







——飛べぬ——竜の——一頭、だった。







「——どうした」






「——翼が——動く」








「…………」







——里が。






——静まり返った。








「——なんだと?」






「——ほんの——少しだ」








——その——竜は——申し訳なさそうに——言った。







「——飛べは——せぬ」






「——だが——動く」








「——見せよ——!!」








——翼が。






——わずかに——持ち上がった。







「…………」







——長は。






——長い、こと——それを——見つめて。






——そして——誠を——見た。








「——八百屋」






「——はい」






「——こやつに——名は——あるか」








「——長さんが——つけられたはずです」







——誠が——答えると。






——長は——ぼそり、と——言った。








「——ホシミだ」








「——星見、ですか」






「——空見の——爺の——弟子であったからな」








「…………」







「——ホシミ」







——長が——呼んだ。







「——うむ」






「——毎日——動かせ」








「——承知」









## 帰り道






「——藤原さん」







——竜の——背で。






——誠が——尋ねた。







「——なんや」






「——竜が——二百年——生まれてないの——知ってましたか」








「——知っとった」







——藤原は——けろり、と——言った。







「——なぜ——言わなかったんですか」






「——聞かれへんかったし」








「——またですか」






「——それに、な」








——藤原は——少し——ためらって。






——そして——言った。








「——うちも——生まれとらんのや」








「…………え?」







「——うち——元は——人やろ」








——藤原は——静かに——言った。







「——竜に——なったんや」






「——二百年——前に」








「…………」







——誠は。






——固まった。







「——二百年——前」






「——せや」








「——竜が——生まれなく——なった——年ですよね」








「…………」







——藤原は。






——答えなかった。







——長い——沈黙の——後。








「——田中くん」






「——はい」






「——それ以上は——聞かんといて」








「…………」







——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——分かりました」






「——すまん」








「——でも——一つだけ」







——誠は——顔を——上げた。







「——なんや」






「——いつか——聞きますね」








「…………」







——藤原は。






——長い、こと——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——待っとくわ」









## 鉄






——工房に——戻ると。






——アカリが——帳面を——広げていた。








「——田中様。鉄の、件ですが」






「——足りませんよね」








「——足ります」








「…………え?」







——誠が——目を——見開いた。







「——足りるんですか——!?」






「——余って——おります」








——アカリは——けろり、と——言った。







「——なぜ——ですか——!!」






「——数えたからです」








——彼は——紙を——差し出した。







「——各地の——鉄の——出入りを——全部——書きました」






「——そうしたら——三箇所で——止まって——おりました」








「——止まってた?」






「——運ぶ——者が——おらぬのです」








——アカリは——申し訳なさそうに——言った。







「——掘っては——おります」






「——ですが——積んだまま、です」








「——どれくらい——ですか」






「——三年、分」








「——三年——!?」







——ミネルが——絶叫した。







「——なぜ——誰も——気づかなんだ——!!」






「——誰も——数えて——おりませんでしたので」








「…………」







——工房が。






——気まずく——静まった。








「——アカリさん」







——誠が——深く——頭を——下げた。







「——ありがとう——ございます」






「——数えただけです」








「——それが——一番——難しいんです」









## 人






——そして——最後の——問題。







「——人が——足りぬ」







——ミネルが——うめいた。







「——四万——二千——三百」








——誠が——言った。







「——だが——皆——痩せて——おる」






「——だから——飯を——先に——運びます」








「——竜が——足りぬと——言うたであろう——!!」







「——一つ——考えました」








——誠が——地図を——広げた。







「——竜が——毎日——回るのは——無理です」






「——でも——中継ぎを——作れば——どうですか」








「——中継ぎ?」






「——うちの——荷車と——同じです」








——誠は——地図に——印を——つけた。







「——四百軒——回る、時」






「——最初は——全部——積んで——出てました」






「——でも——今は——途中に——置き場を——作ってます」








「…………」







——一色が。






——ゆっくりと——顔を——上げた。







「——蔵を——作るのね」






「——はい」








「——竜は——蔵まで——運ぶだけ」







——一色は——早口に——なった。







「——蔵から——里までは——里の——人が——取りに——行く」






「——それなら——竜は——月に——一度で——済むわ」








「——だが——里の——者は——歩けぬぞ——!」







——ミネルが——反論した。







「——影が——ないからな——!」








「——だから——蔵に——影を——作ります」







——誠が——言った。







「——弓を——蔵の——近くに——立てるんです」








「…………」







——工房が。






——静まった。








「——待って」







——一色が——立ち上がった。







「——それ——一つで——二つ——片付くわ」






「——そうですね」








「——蔵の——影で——里の——人が——動けるように——なる」






——彼女は——早口に——なった。







「——動けるように——なれば——手伝える」






「——手伝えれば——弓が——増える」






「——弓が——増えれば——さらに——影が——増える」








「——回り始めますね」







——誠が——微笑んだ。








「——最初の——一本は?」







——ミネルが——尋ねた。







「——一番——赤い——ところです」








——誠は——地図を——指した。







「——第一番の——里」






「——生き残りは——四十二人です」








「…………」







「——名前は——全部——聞いてます」







——誠は——帳面を——掲げた。







「——だから——行きます」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「弓を、二十六本、増やすことにした。一色さんに、"無理よ。人も鉄も竜も足りない"、って。だから、分けた。足りないものを、三つ並べて、一つずつ、潰す。……まず、竜。長さんに、百頭要る、と言ったら、"おらぬ。我らは三十七頭だ"、って。それで、聞いてみた。竜は増えないんですか、って。……"増えぬ。二百年、一頭も生まれておらぬ"、って。ある時から、ぱたりと止まった、って。……もう一つ、聞いた。名前をつけ始めて、何か変わりましたか、って。長さん、しばらく黙って、"変わった。喋るようになった"、って。名がないと、互いを呼ばない。呼べば返事がある。返事があれば、話が始まる。……"二百年、静かな里であった。今はうるさい"、って。嫌ですか、って聞いたら、"嫌ではない"、って。……その時、飛べない竜の一頭が、"翼が動く"、って。ほんの少しだけど、確かに、動いてた。長さんが、名前を聞いてきたので、長さんがつけたはずです、って答えたら、"ホシミだ。空見の爺の弟子であったからな"、って。……帰り道、藤原さんに聞いた。竜が二百年生まれてないの、知ってましたか、って。"知っとった。聞かれへんかったし"、って。またです。……それから、"うちも生まれとらんのや。元は人やろ。竜になったんや。二百年前に"、って。……二百年前。竜が生まれなくなった年です、って言ったら、答えてくれなかった。"それ以上は、聞かんといて"、って。……分かりました、って言った。でも、いつか聞きますね、って。"待っとくわ"、って。……工房に戻ったら、アカリさんが、"鉄は足ります。余っております"、って。各地の出入りを全部書いたら、三箇所で止まってた。掘ってはいるけど、運ぶ人がいなくて、積んだまま。三年分。……なぜ誰も気づかなかったのか、って、ミネルさんが叫んでたけど、誰も、数えてなかったんです。……最後に、人。四万二千三百人、生きてます。でも、痩せてるし、洞穴から出られない。だから、飯を先に運ぶ。でも、竜が足りない。……それで、中継ぎの蔵を作ることにした。うちの荷車と、同じです。竜は蔵まで、里の人は蔵まで、取りに行く。……でも、影がないと歩けない。だから、蔵の近くに、弓を立てる。……一色さんが、"それ、一つで二つ片付くわ"、って。蔵の影で、里の人が動けるようになる。動ければ手伝える。手伝えれば弓が増える。弓が増えれば影が増える。……回り始めます。……最初の一本は、第一番の里。一番赤いところ。生き残り、四十二人。名前は、全部、聞いてます。だから、行きます。じいちゃん、また、出かけます」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。竜が——二百年——生まれて——いない、ことと。




——藤原が——二百年——前に——竜に——なった、ことが。





——同じ——一つの——出来事で——あったことを。


そして——「いつか——聞きますね」、と——言った——その、約束が。




——果たされる——日に。





——彼が——何を——知る、ことに——なるのかも。





——今は……まだ、待って——いる——本人しか——知らない。

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