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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「職業、入れ替え祭り」

その日。





——人工太陽が——青く——なった。







「——おい——! 色が——変わったぞ——!」






「——青い——!」








「——涼しく——なりましたかね」







——誠が——空を——見上げて——呟いた。







「——一色さん。何か——ありましたか」






「——何も——してないわ」








——一色は——訝しんだ。







「——勝手に——変わったの」









——異変は——すぐに——現れた。







——空に——文字が——浮かんだ。








*——【職業——ランダム——シャッフル——イベント——開始】*








「…………」







——広場が。






——静まり返った。








「——なんだ——それは——!!」







——ミネルが——叫んだ——その、時。







——ぴかっ。







——地下じゅうが——光った。









## 混乱






「——うわあああ——!!」







——最初に——叫んだのは——レオン、だった。







「——どうしました——!?」






「——見よ——!!」








——彼の——前に——板が——浮かんでいた。








*——職業:八百屋*








「…………」






「——おめでとう——ございます」








——誠が——拍手した。







「——喜べるか——!!」






「——いい——仕事ですよ」








「——剣が——持てん——!!」







——レオンが——絶望した。







「——大根なら——持てます」






「——大根——!!」









——広場は——大混乱に——なっていた。








「——俺——料理人に——なった——!!」






——ゴウ。







「——私は——狙撃手です——!!」






——セレス。







「——我は——帳簿係だ」






——ノワール。







「——私は——魔王です」






——アカリ。








「…………」







——アカリが。






——青ざめていた。







「——私、無理です」






「——落ち着いて——ください」








「——世界征服なんて——できません——!!」






「——しなくて——いいです」









——そして——本物の——魔王は。






——じっと——板を——見つめていた。








*——職業:受付*








「…………」






「——魔王さん?」






「——うむ」








——魔王は——ゆっくりと——立ち上がった。







——そして——受付に——座った。








「——次の——方——どうぞ」








「——早い——!!」






「——馴染むのが——早い——!!」








「——名を——書け」







——魔王が——用紙を——差し出した。







「——威圧が——すごいです——!!」






「——書け」






「——はい——!!」









## 適材適所






——だが——妙なことに。






——うまく——回り始めた——組も——あった。








「——うまい——!!」







——ゴウの——作った——汁が——絶賛されていた。







「——なぜだ——!! 俺は——初めて——作ったのだぞ——!!」








「——ゴウさん——毎日——麺を——打ってましたよね」







——誠が——言った。







「——鍛錬だ——!!」






「——料理です」








「…………」









——ノワールの——帳簿も。






——恐ろしい——速さで——片付いていった。








「——終わった」







「——早すぎます——!!」







——アカリが——驚愕した。







「——三月、分ですよ——!?」






「——予定表を——書いて——おったからな」








「——それ——関係——ありますか」






「——数を——合わせるのは——同じだ」









——そして——セレス。







「——当たりました——!!」







——彼女は——遠くの——的を——射抜いていた。







「——初めてですよね——!?」






「——はい——!!」








「——なぜ——当たるんですか——!!」






「——二十年——遠くを——見てましたから——!!」








「…………」







——誠は。






——妙に——納得した。









## 悲劇






——だが——悲劇も——起きた。








「——師匠——!!」







——ルカが——駆けてきた。







「——どうした」






「——僕、これです——!!」








*——職業:魔王軍——首領*








「…………」






「——どうすれば——いいんですか——!!」








「——ルカ」







——誠は——静かに——湯呑みを——置いた。







「——はい」






「——今日の——空は——どうだ」








「——え?」






「——測ったか」








「——あ」







——ルカは——帳面を——開いた。







「——測ってません——!!」






「——行ってこい」








「——でも——僕、魔王軍首領で——!!」






「——空は——変わらん」








「…………」







——ルカは。






——しばらく——固まって。






——そして——駆け出した。








「——行ってきます——!!」









## 誠






——騒ぎが——一段落した——頃。







——ミネルが——ふと——気づいた。








「——待て」






「——どうしました?」






「——田中。お前は——何に——なった」








「——え?」







——誠は。






——きょとん、と——した。







「——何も——出ませんでした」








「…………は?」







「——板が——出ないんです」








——誠は——けろり、と——言った。







「——元から——出ないので」








「…………」







——広場が。






——静まった。








「——待て」







——ミネルの——声が——低くなった。







「——では——お前の——職は」






「——八百屋です」








「——変わって——おらぬのか」






「——変わってません」








「…………」







——誰も。






——何も——言わなかった。








「——ちょっと——待って」







——一色が——立ち上がった。







「——地下じゅう——全員——変わってるのよ」






「——魔族も——鬼族も——虫人族も」








「——そうみたいですね」






「——なぜ——あなただけ——!?」








「——機械の——調子が——悪いんじゃ——ないですか」








「——そんなわけ——ないでしょう——!!」









——だが——誠は。






——さほど——気に——していなかった。








「——それより——皆さん」







——彼は——広場を——見回した。







「——困ってる——方——いますよね」








「——おる——!!」






「——私は——狙撃手など——できぬ——!!」






「——僕、魔王軍首領です——!!」








「——では——決めましょう」







——誠が——紙を——広げた。







「——何を——だ」






「——今日——一日の——やり方です」









——そして——彼は——書いた。








*——一、板は——見ない*





*——二、昨日と——同じ——仕事を——する*





*——三、できない——ことは——できる——人に——頼む*








「…………」






「——それだけ、か」








「——それだけです」







——誠は——けろり、と——言った。







「——待て、田中」








——ミネルが——止めた。







「——職が——変わったのだぞ」






「——板の——上で、ですよね」








「——なに?」






「——皆さんの——手は——変わってません」








——誠は——静かに——言った。







「——ゴウさんは——二十年——麺を——打ってました」






「——ノワールさんは——二十年——数を——合わせてました」






「——セレスさんは——二十年——遠くを——見てました」








「——板が——変わっても」






「——手は——変わりません」








「…………」







——広場が。






——ざわり、と——した。








「——確かに」







——ノワールが——ぼそり、と——言った。







「——我は——さっき——帳簿を——三月、分——片付けた」






「——初めてのはずだが——手が——覚えて——おった」








「——それです」







——誠が——微笑んだ。









## 夕






——結局。






——その日は——ほとんど——何も——変わらなかった。







——弓は——上がった。






——配給は——配られた。






——ルカは——空を——測った。








「——師匠——!!」







——夕方。






——ルカが——帳面を——持って——駆けてきた。








「——測れたか」






「——測れました——! 昨日と——同じです——!」








「——よし」






「——それと——一つ——気づいたんですけど」








——ルカが——空を——指した。







「——青いの——影の——布のせいです」








「——え?」






「——布が——三枚——重なってるんです」








——ルカは——帳面を——めくった。







「——薄いのが——重なると——色が——変わるみたいで」








「——一色さーん——!!」







——誠が——叫んだ。








——半刻、後。







「——本当だわ」







——一色が——頷いた。







「——三枚——ずれて——重なってる」






「——直しますか」








「——待って」







——彼女は——測り直した。







「——温度が——下がってるわ」






「——え?」






「——青い、方が——涼しいの」








「——じゃあ——このままの、方が——!?」






「——このままの、方が——いいわ」








「——偶然ですね」






「——偶然よ」









## 翌朝






——空に——また——文字が——浮かんだ。








*——【職業——シャッフル——イベント——終了】*





*——【全員——元の——職業に——戻ります】*








「——戻った——!!」






「——助かった——!!」








「——残念です」







——ゴウが——ぼそり、と——言った。







「——料理、楽しかったのだ」








「——今からでも——できますよ」







——誠が——言った。







「——なに?」






「——板が——何でも——作れます」








「…………」







——ゴウは。






——しばらく——考えて。






——そして——厨の、方へ——歩いていった。








「——ボンゴ——!! 弟子に——してくれ——!!」






「——おう——!!」









——だが。






——ミネルだけが。






——難しい——顔を——していた。








「——田中」






「——はい」






「——お前は——戻って——おらぬな」








「——元から——変わってません」







「——それが——だ」








——ミネルは——低く——言った。







「——世界中が——入れ替わったのだぞ」






「——魔王も——竜も——怪獣も、だ」







「——なぜ——お前だけ——外れた」








「…………」







——誠は。






——少し——考えて。






——そして——言った。








「——じいちゃんが——言ってました」






「——なんとだ」








「——"看板を——掛け替えても——中身は——変わらん"、って」








「…………」







「——だから——僕、掛け替える——看板が——なかったんだと——思います」







——誠は——にっこりと——笑った。







「——元から——八百屋しか——ないので」








「…………」







——ミネルは。






——長い、こと——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——それは——答えに——なって——おらぬ」






「——そうですか?」








「——うむ」







——ミネルは——空を——見上げた。







「——だが——お前らしくは——ある」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「人工太陽が、青くなった。涼しくなったかな、と思ったら、空に、"職業ランダムシャッフルイベント開始"、って、出た。……地下じゅうが光って、皆の職業が、入れ替わった。……レオンさんが、八百屋になって、"剣が持てん"、って絶望してた。大根なら持てますよ、って言ったら、怒られた。ゴウさんが料理人、セレスさんが狙撃手、ノワールさんが帳簿係、アカリさんが魔王。アカリさん、"世界征服なんてできません"、って、青くなってた。しなくていいです。……魔王さんは、受付になって、すぐ座って、"次の方どうぞ"、って。馴染むのが、早い。……でも、妙なことに、うまく回った人も、いた。ゴウさんの汁が、絶賛されてた。毎日、麺を打ってましたから。ノワールさんは、三月分の帳簿を、一瞬で片付けた。予定表を書いてましたから。セレスさんは、初めてなのに、遠くの的を射抜いた。二十年、遠くを見てましたから。……ルカが、魔王軍首領になって、"どうすればいいんですか"、って駆け込んできたので、"今日の空はどうだ"、って聞いた。測ってませんでした。行ってこい、って。"でも、僕、魔王軍首領で"、"空は変わらん"、って。走っていきました。……僕は、何も出なかった。元から、板が出ないので。ミネルさんが、"世界中が変わってるのに、なぜお前だけ"、って。機械の調子が悪いんじゃないですか、って言ったら、怒られた。……それで、決まりを三つ、作った。板は見ない。昨日と同じ仕事をする。できないことは、できる人に頼む。……ミネルさんが、"職が変わったのだぞ"、って言うから、板の上で、ですよね、って答えた。皆さんの手は、変わってません。板が変わっても、手は変わりません。ノワールさんが、"確かに。手が覚えておった"、って。……結局、その日は、ほとんど何も、変わらなかった。弓は上がったし、配給は配られたし、ルカは空を測った。……そのルカが、"青いのは、影の布のせいです。三枚、重なってるんです"、って。一色さんが測ったら、本当だった。しかも、青い方が、涼しかった。このままの方がいい、って。偶然です。……翌朝、"イベント終了"、って出て、皆、戻った。ゴウさんが、"料理、楽しかったのだ"、って残念そうにしてたので、今からでもできますよ、って言ったら、ボンゴさんに弟子入りしてました。……ミネルさんが、"なぜ、お前だけ外れた"、って。じいちゃんの言葉を、言った。"看板を掛け替えても、中身は変わらん"。だから、僕、掛け替える看板が、なかったんだと思います。元から、八百屋しかないので。……"それは答えになっておらぬ。だが、お前らしくはある"、って。じいちゃん、変な一日でした」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。世界中の——職業を——入れ替えた——その、力が。




——なぜ——彼——一人だけを——素通りしたのかを。


そして——「掛け替える——看板が——なかった」、という——その、答えが。




——冗談では——なく——本当に——正しかったことも。





——今は……まだ、言った——本人が——一番——知らない。

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