閑話「職業、入れ替え祭り」
その日。
⸻
⸻
⸻
——人工太陽が——青く——なった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おい——! 色が——変わったぞ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——青い——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——涼しく——なりましたかね」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——空を——見上げて——呟いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——一色さん。何か——ありましたか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——何も——してないわ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一色は——訝しんだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——勝手に——変わったの」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——異変は——すぐに——現れた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——空に——文字が——浮かんだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
*——【職業——ランダム——シャッフル——イベント——開始】*
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——広場が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——静まり返った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なんだ——それは——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ミネルが——叫んだ——その、時。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ぴかっ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——地下じゅうが——光った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 混乱
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うわあああ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——最初に——叫んだのは——レオン、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——どうしました——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——見よ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼の——前に——板が——浮かんでいた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
*——職業:八百屋*
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おめでとう——ございます」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——拍手した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——喜べるか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——いい——仕事ですよ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——剣が——持てん——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——レオンが——絶望した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——大根なら——持てます」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——大根——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——広場は——大混乱に——なっていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——俺——料理人に——なった——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——ゴウ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——私は——狙撃手です——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
——セレス。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——我は——帳簿係だ」
⸻
⸻
⸻
⸻
——ノワール。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——私は——魔王です」
⸻
⸻
⸻
⸻
——アカリ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——アカリが。
⸻
⸻
⸻
⸻
——青ざめていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——私、無理です」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——落ち着いて——ください」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——世界征服なんて——できません——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——しなくて——いいです」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——本物の——魔王は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——じっと——板を——見つめていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
*——職業:受付*
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔王さん?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うむ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王は——ゆっくりと——立ち上がった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——受付に——座った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——次の——方——どうぞ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——早い——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——馴染むのが——早い——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——名を——書け」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王が——用紙を——差し出した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——威圧が——すごいです——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——書け」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——はい——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 適材適所
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが——妙なことに。
⸻
⸻
⸻
⸻
——うまく——回り始めた——組も——あった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うまい——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ゴウの——作った——汁が——絶賛されていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なぜだ——!! 俺は——初めて——作ったのだぞ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ゴウさん——毎日——麺を——打ってましたよね」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——鍛錬だ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——料理です」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ノワールの——帳簿も。
⸻
⸻
⸻
⸻
——恐ろしい——速さで——片付いていった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——終わった」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——早すぎます——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——アカリが——驚愕した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——三月、分ですよ——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——予定表を——書いて——おったからな」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それ——関係——ありますか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——数を——合わせるのは——同じだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——セレス。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——当たりました——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼女は——遠くの——的を——射抜いていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——初めてですよね——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——はい——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なぜ——当たるんですか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——二十年——遠くを——見てましたから——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——妙に——納得した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 悲劇
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが——悲劇も——起きた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——師匠——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ルカが——駆けてきた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——どうした」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——僕、これです——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
*——職業:魔王軍——首領*
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——どうすれば——いいんですか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ルカ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——静かに——湯呑みを——置いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——はい」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——今日の——空は——どうだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——え?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——測ったか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——あ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ルカは——帳面を——開いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——測ってません——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——行ってこい」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——でも——僕、魔王軍首領で——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——空は——変わらん」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ルカは。
⸻
⸻
⸻
⸻
——しばらく——固まって。
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——駆け出した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——行ってきます——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 誠
⸻
⸻
⸻
⸻
——騒ぎが——一段落した——頃。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ミネルが——ふと——気づいた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——待て」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——どうしました?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——田中。お前は——何に——なった」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——え?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——きょとん、と——した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——何も——出ませんでした」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………は?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——板が——出ないんです」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——けろり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——元から——出ないので」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——広場が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——静まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——待て」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ミネルの——声が——低くなった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——では——お前の——職は」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——八百屋です」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——変わって——おらぬのか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——変わってません」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誰も。
⸻
⸻
⸻
⸻
——何も——言わなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ちょっと——待って」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一色が——立ち上がった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——地下じゅう——全員——変わってるのよ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔族も——鬼族も——虫人族も」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そうみたいですね」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なぜ——あなただけ——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——機械の——調子が——悪いんじゃ——ないですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そんなわけ——ないでしょう——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが——誠は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——さほど——気に——していなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それより——皆さん」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼は——広場を——見回した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——困ってる——方——いますよね」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おる——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——私は——狙撃手など——できぬ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——僕、魔王軍首領です——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——では——決めましょう」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——紙を——広げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——何を——だ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——今日——一日の——やり方です」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——彼は——書いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
*——一、板は——見ない*
⸻
⸻
⸻
*——二、昨日と——同じ——仕事を——する*
⸻
⸻
⸻
*——三、できない——ことは——できる——人に——頼む*
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それだけ、か」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それだけです」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——けろり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——待て、田中」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ミネルが——止めた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——職が——変わったのだぞ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——板の——上で、ですよね」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なに?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——皆さんの——手は——変わってません」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——静かに——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ゴウさんは——二十年——麺を——打ってました」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ノワールさんは——二十年——数を——合わせてました」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——セレスさんは——二十年——遠くを——見てました」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——板が——変わっても」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——手は——変わりません」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——広場が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ざわり、と——した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——確かに」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ノワールが——ぼそり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——我は——さっき——帳簿を——三月、分——片付けた」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——初めてのはずだが——手が——覚えて——おった」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それです」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——微笑んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 夕
⸻
⸻
⸻
⸻
——結局。
⸻
⸻
⸻
⸻
——その日は——ほとんど——何も——変わらなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——弓は——上がった。
⸻
⸻
⸻
⸻
——配給は——配られた。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ルカは——空を——測った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——師匠——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——夕方。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ルカが——帳面を——持って——駆けてきた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——測れたか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——測れました——! 昨日と——同じです——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——よし」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それと——一つ——気づいたんですけど」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ルカが——空を——指した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——青いの——影の——布のせいです」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——え?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——布が——三枚——重なってるんです」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ルカは——帳面を——めくった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——薄いのが——重なると——色が——変わるみたいで」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——一色さーん——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——叫んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——半刻、後。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——本当だわ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一色が——頷いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——三枚——ずれて——重なってる」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——直しますか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——待って」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼女は——測り直した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——温度が——下がってるわ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——え?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——青い、方が——涼しいの」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——じゃあ——このままの、方が——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——このままの、方が——いいわ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——偶然ですね」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——偶然よ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 翌朝
⸻
⸻
⸻
⸻
——空に——また——文字が——浮かんだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
*——【職業——シャッフル——イベント——終了】*
⸻
⸻
⸻
*——【全員——元の——職業に——戻ります】*
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——戻った——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——助かった——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——残念です」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ゴウが——ぼそり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——料理、楽しかったのだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——今からでも——できますよ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なに?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——板が——何でも——作れます」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ゴウは。
⸻
⸻
⸻
⸻
——しばらく——考えて。
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——厨の、方へ——歩いていった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ボンゴ——!! 弟子に——してくれ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おう——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ミネルだけが。
⸻
⸻
⸻
⸻
——難しい——顔を——していた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——田中」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——はい」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——お前は——戻って——おらぬな」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——元から——変わってません」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それが——だ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ミネルは——低く——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——世界中が——入れ替わったのだぞ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔王も——竜も——怪獣も、だ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なぜ——お前だけ——外れた」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——少し——考えて。
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——じいちゃんが——言ってました」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なんとだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——"看板を——掛け替えても——中身は——変わらん"、って」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——だから——僕、掛け替える——看板が——なかったんだと——思います」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——にっこりと——笑った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——元から——八百屋しか——ないので」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ミネルは。
⸻
⸻
⸻
⸻
——長い、こと——黙って。
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——ぼそり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それは——答えに——なって——おらぬ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そうですか?」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うむ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ミネルは——空を——見上げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——だが——お前らしくは——ある」
⸻
⸻
⸻
⸻
その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
*「人工太陽が、青くなった。涼しくなったかな、と思ったら、空に、"職業ランダムシャッフルイベント開始"、って、出た。……地下じゅうが光って、皆の職業が、入れ替わった。……レオンさんが、八百屋になって、"剣が持てん"、って絶望してた。大根なら持てますよ、って言ったら、怒られた。ゴウさんが料理人、セレスさんが狙撃手、ノワールさんが帳簿係、アカリさんが魔王。アカリさん、"世界征服なんてできません"、って、青くなってた。しなくていいです。……魔王さんは、受付になって、すぐ座って、"次の方どうぞ"、って。馴染むのが、早い。……でも、妙なことに、うまく回った人も、いた。ゴウさんの汁が、絶賛されてた。毎日、麺を打ってましたから。ノワールさんは、三月分の帳簿を、一瞬で片付けた。予定表を書いてましたから。セレスさんは、初めてなのに、遠くの的を射抜いた。二十年、遠くを見てましたから。……ルカが、魔王軍首領になって、"どうすればいいんですか"、って駆け込んできたので、"今日の空はどうだ"、って聞いた。測ってませんでした。行ってこい、って。"でも、僕、魔王軍首領で"、"空は変わらん"、って。走っていきました。……僕は、何も出なかった。元から、板が出ないので。ミネルさんが、"世界中が変わってるのに、なぜお前だけ"、って。機械の調子が悪いんじゃないですか、って言ったら、怒られた。……それで、決まりを三つ、作った。板は見ない。昨日と同じ仕事をする。できないことは、できる人に頼む。……ミネルさんが、"職が変わったのだぞ"、って言うから、板の上で、ですよね、って答えた。皆さんの手は、変わってません。板が変わっても、手は変わりません。ノワールさんが、"確かに。手が覚えておった"、って。……結局、その日は、ほとんど何も、変わらなかった。弓は上がったし、配給は配られたし、ルカは空を測った。……そのルカが、"青いのは、影の布のせいです。三枚、重なってるんです"、って。一色さんが測ったら、本当だった。しかも、青い方が、涼しかった。このままの方がいい、って。偶然です。……翌朝、"イベント終了"、って出て、皆、戻った。ゴウさんが、"料理、楽しかったのだ"、って残念そうにしてたので、今からでもできますよ、って言ったら、ボンゴさんに弟子入りしてました。……ミネルさんが、"なぜ、お前だけ外れた"、って。じいちゃんの言葉を、言った。"看板を掛け替えても、中身は変わらん"。だから、僕、掛け替える看板が、なかったんだと思います。元から、八百屋しかないので。……"それは答えになっておらぬ。だが、お前らしくはある"、って。じいちゃん、変な一日でした」*
⸻
心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
⸻
⸻
——たとえ——空に——見えなくても。
⸻
⸻
⸻
まだこの時の誠は知らない。世界中の——職業を——入れ替えた——その、力が。
⸻
⸻
——なぜ——彼——一人だけを——素通りしたのかを。
そして——「掛け替える——看板が——なかった」、という——その、答えが。
⸻
⸻
——冗談では——なく——本当に——正しかったことも。
⸻
⸻
⸻
——今は……まだ、言った——本人が——一番——知らない。




