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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第124話「里を、数える」

「——手分けします」





——誠が——広場に——紙を——貼った。







——そこには——里の——名が——並んでいた。







——赤い、順に。







——百二十七。








「——多いな」







——ミネルが——唸った。







「——多いです」








——誠は——認めた。







「——だから——僕——一人では——無理です」








「——では——どうする」






「——皆さんに——お願いします」








——誠は——広場を——見回した。







「——ただし——一つだけ——決まりを——作らせて——ください」








「——なんだ」






「——行った——人は——必ず——名前を——聞いて——きて——ください」








「…………」







「——全員、分です」








「——なぜだ」







——レオンが——尋ねると。






——誠は——静かに——答えた。








「——名前を——聞いたら——忘れられなく——なります」








「…………」







「——僕、ハラムを——二十年——忘れてました」







——誠は——うつむいた。







「——地図には——載ってたんです」






「——でも——地名でした」






「——人じゃ——ありませんでした」








「…………」







——広場が。






——静まった。








「——分かった」







——ミネルが——頷いた。







「——聞いて——くる」









——組が——編まれた。







——竜が——三十頭。






——一頭に——三人ずつ。







——書き取る——者。





——薬を——配る——者。





——飯を——運ぶ——者。








「——それと——一つ——足りません」







——アカリが——手を——挙げた。







「——なんだ」






「——帳面の——形が——揃って——おりません」








——帳簿の——男は——申し訳なさそうに——言った。







「——皆——好きに——書くと——後で——合わせられません」








「——それだ——!!」







——ミネルが——飛び上がった。







「——形を——決めろ——!!」






「——では——作ります」









——半日で。






——一枚の——雛形が——できあがった。








*——里の——名*





*——人の——数(今)*





*——人の——数(二十年——前)*





*——水の——有無*





*——食い物の——有無*





*——薬の——有無*





*——一番——困って——いること*





*——名前(全員)*








「——最後が——長すぎるぞ」







——ミネルが——渋い——顔を——した。







「——一番——大事です」







——誠が——きっぱりと——言った。









——出発の——朝。







「——三月で——回ります」







——誠が——皆に——告げた。







「——一組——四つの——里です」






「——無理は——しないで——ください」








「——では——行くぞ——!!」







——三十の——竜が——一斉に——飛び立った。









——だが。






——五日目に——最初の——報せが——届いた。








『——第十九番の——里……全滅』







——皆瀬が——伝えた。







「…………」








「——いつだ」







——ミネルが——低く——尋ねた。







『——三年——前、だって』








「——三年」







「…………」








——工房が。






——重く——沈んだ。








「——名前は——分かりましたか」







——誠が——尋ねると。






——皆瀬は——揺れた。








『——分からない』






『——誰も——おらんから』








「…………」







——誠は。






——長い、こと——黙って。






——そして——言った。








「——探して——ください」







『——何を?』






「——書いた——ものです」








——誠は——静かに——言った。







「——墓でも——柱でも——壁でも——いいです」






「——名前が——書いてある——ものを」








『……分かった』









——三日、後。







『——あった』







——皆瀬が——伝えた。







『——洞穴の——壁に……彫ってある』








「——何が——ですか」






『——名前』








『——たくさん』








「…………」







「——いくつ——ですか」








『——四百三十二』








「…………」







——誠は。






——その場に——座り込んだ。








「——最後の——一人が」







——彼は——かすれた——声で——言った。







「——全部——彫ったんですね」








『…………』







『——うん』








「…………」







「——写して——きて——ください」








——誠は——立ち上がった。







「——一つ——残らず」






「——うちの——壁に——彫ります」








「——待て、田中」







——ミネルが——止めた。







「——四百三十二だぞ」






「——彫ります」








「——壁が——足りぬ」






「——広げます」








「——他にも——全滅した——里が——あったら——どうする」








「…………」







——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——全部——彫ります」









——そして——三月。






——報せは——次々と——届いた。








*——第四番の里。生存——百二十。二十年前——八百。*





*——第十一番の里。生存——三百四十。二十年前——千五百。*





*——第十九番の里。全滅。*





*——第二十三番の里。全滅。*





*——第三十番の里。生存——七。*








「——七——!?」







——一色が——絶句した。







『——うん。……全員——年寄り』








「——連れて——きて——ください——!!」







——誠が——即座に——言った。







『——"動かん"、って』








「——なぜ——ですか」







『——"ここに——皆の——墓が——ある"、って』








「…………」







——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——分かりました」






「——よいのか」








「——僕、無理に——連れてきません」







——誠は——静かに——言った。







「——代わりに——弓を——立てましょう」








「——七人の——ために——か——!?」







——ミネルが——叫んだ。







「——七人の——ためです」








「——割に——合わぬ——!!」






「——合いません」








——誠は——けろり、と——認めた。







「——でも——僕、決めたんです」






「——何を——だ」








「——名前を——聞いた——人は——見捨てません」








「…………」







——ミネルは。






——ぐっ、と——言葉に——詰まった。









——三月の——終わり。







——全ての——組が——戻った。







——そして——アカリが——帳面を——合わせた。








——七日、かかった。







——そして。







「——出ました」







——彼は——紙を——机に——置いた。








「——読め」







——ミネルが——低く——言った。







「——はい」








——アカリは——静かに——読み上げた。








「——回った——里——百二十七」







「——うち——全滅——十九」







「——現在の——人口——合わせて——四万——二千——三百」







「——二十年——前の——人口——十六万——八千」








「…………」







——工房が。






——完全に——静まり返った。








「——十二万——六千」







——アカリは——顔を——上げた。







「——これが——失われた——数です」








「…………」







——誰も。






——声を——出さなかった。








「——それと——もう一つ」







——アカリが——続けた。







「——名前が——揃いました」








「——何人、分だ」






「——生きて——おられる——方が——四万——二千——三百」








——アカリは——静かに——言った。







「——亡くなった——方が——三万——八千——七百」








「——三万——!?」







——一色が——目を——見開いた。







「——なぜ——そんなに——分かるの——!?」








「——皆——彫って——おりました」







——アカリは——ぽつり、と——言った。







「——洞穴の——壁に」






「——どの——里も」








「…………」







「——誰も——教えて——おらぬのに」







——ミネルが——かすれた——声で——言った。







「——皆——同じことを——して——おったのか」








「——はい」








「…………」







——誠は。






——立ち上がった。








「——ルカ」






「——はい」






「——鑿を——用意しろ」








「——師匠。三万——八千——七百ですよ」







——ルカが——静かに——言った。







「——一人で——彫ったら——何十年——かかります」








「——分かってる」






「——でも——彫ります」








「——待って——ください」







——ルカは——首を——振った。







「——一人で、は——駄目です」






「——ルカ?」








「——師匠が——言ったんです」







——ルカは——真っ直ぐに——言った。







「——"一人では——無理です。だから——皆さんに——お願いします"、って」








「…………」







——誠は。






——ぽかん、と——した。







「——それ——三月——前の——僕だな」






「——はい」








「——お前——覚えてたのか」






「——書いてありますから」








——ルカは——帳面を——掲げた。








「…………」







——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——広場に——出た。








「——皆さーん——!!」







——彼は——声を——張り上げた。







「——お願いが——あります——!!」









——半年、後。







——弔いの——壁は。






——第五層の——広場を——ぐるり、と——囲んでいた。







——彫ったのは——数千人。







——地下の——者も。





——地上の——者も。





——鬼族も。魔族も。虫人族も。





——悪の組織も。





——怪獣も。








「——ガオ」







——ガオゴンは——鑿が——持てなかったので。






——石を——運んでいた。








「——ガオゴンさん。ありがとう——ございます」






「——ガオ——!」









——そして——完成の——日。







——四万——一千——四百——二十七の——名が。






——壁に——並んでいた。







——地下の——四百二十七と。






——各地の——三万——八千——七百と。






——そして——空見の爺さまと。








「…………」







——誠は。






——壁の——前に——立っていた。







——ゴードンが——隣に——立った。








「——田中殿」






「——ゴードンさん」






「——うちの——九百も——あるのか」








「——あります」







——誠が——指した。







「——この、あたりです」








「…………」







——ゴードンは。






——壁に——手を——当てて。






——そして——膝を——ついた。








「——すまん」







——彼は——泣いていた。







「——遅く——なった」








「…………」







——誠は。






——何も——言わずに——隣に——立っていた。









——その、夜。







「——旦那」







——駄々丸が——並んだ。







「——駄々丸さん」






「——えらい——壁に——なりやしたね」








「——はい」







——誠は——壁を——見上げた。







「——でも——これで——終わりじゃ——ないです」








「——と、申しやすと」






「——まだ——十八年——あります」








——誠は——静かに——言った。







「——このままだと——この、壁は——まだ——増えます」








「…………」







「——だから——増やさないように——します」








——誠は——顔を——上げた。







「——弓を——百二十七——立てます」








「——百二十七——!?」







——駄々丸が——目を——見開いた。







「——旦那。今——百一本で——ござんすよ」






「——知ってます」








「——衛星も——上げねば——なりやせん」






「——上げます」








「——両方は——無理じゃ——ござんせんか」








「…………」







——誠は。






——壁を——見上げた。







——四万——一千——四百——二十七の——名。







——その——全部を——誰かが——彫った。







——一人ずつ。








「——駄々丸さん」






「——へえ」






「——僕、二十年——間違えてました」








「——何をで?」







「——"星を——救えば——皆——助かる"、と——思ってました」








——誠は——静かに——言った。







「——でも——違いました」








「…………」







「——星を——救うまでに——皆——死ぬんです」








「…………」







「——だから——両方——やります」







——誠は——きっぱりと——言った。







「——できやすかね」






「——分かりません」








——誠は——正直に——言った。







「——でも——やらないと——絶対に——できません」








「…………」







——駄々丸は。






——煙管を——ふかして。






——そして——ぽつり、と——言った。








「——"種を——蒔かなきゃ——実らん"、で——ござんすね」








「——なんで——知ってるんですか」







「——さあ」








——駄々丸は——首を——かしげた。







「——どこかで——聞いた——気が——しやしてね」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「里回りを、手分けすることにした。百二十七の里。竜が三十頭、一頭に三人ずつ。決まりは一つだけ。行った人は、必ず、名前を聞いてくること。全員分。……なぜか、って聞かれたから、答えた。名前を聞いたら、忘れられなくなります。僕、ハラムを二十年、忘れてました。地図には載ってた。でも、地名でした。人じゃ、ありませんでした。……アカリさんが、"帳面の形が揃っておりません"、って。皆、好きに書くと、後で合わせられない。それで、雛形を作った。里の名、今の人数、二十年前の人数、水、食い物、薬、一番困っていること、そして、名前。最後が長すぎる、って言われたけど、一番、大事です。……五日目に、最初の報せ。第十九番の里、全滅。三年前に。……名前は分からない、って。誰もいないから。だから、探してもらった。墓でも柱でも壁でもいい、名前が書いてあるものを。……三日後、洞穴の壁に、彫ってあった。四百三十二。……最後の一人が、全部、彫ったんですね。……写してきてもらった。うちの壁に、彫ります、って言ったら、ミネルさんに止められた。四百三十二だぞ、って。彫ります。……三月で、全部の組が戻った。アカリさんが、七日かけて、合わせた。……回った里、百二十七。うち、全滅、十九。今の人口、四万二千三百。二十年前、十六万八千。……十二万六千。それが、失われた数。……そして、名前が、揃った。生きてる方が、四万二千三百。亡くなった方が、三万八千七百。……なぜそんなに分かるのか、って一色さんが聞いたら、"皆、彫っておりました。洞穴の壁に。どの里も"、って。……誰も教えてないのに、皆、同じことを、してた。……鑿を用意しろ、ってルカに言ったら、"一人では駄目です。師匠が言ったんです。一人では無理だから、皆さんにお願いします、って"。……三月前の僕でした。あの子、書いてありますから、って。……半年で、壁が、広場を囲んだ。彫ったのは、数千人。ガオゴンさんは、鑿が持てないので、石を運んでた。……四万一千四百二十七の名前。ゴードンさんが、うちの九百もあるのか、って。ありますよ、って指したら、膝をついて、"すまん。遅くなった"、って、泣いてた。……夜、駄々丸さんに、言った。僕、二十年、間違えてました。星を救えば皆助かる、と思ってた。でも、違った。星を救うまでに、皆、死ぬんです。……だから、両方やります。弓を百二十七、立てます。衛星も上げます。……できるかどうか、分かりません。でも、やらないと、絶対にできません。……駄々丸さんが、"種を蒔かなきゃ実らん、でござんすね"、って。なんで知ってるんですか、って聞いたら、"どこかで聞いた気がしやしてね"、って。じいちゃん。あの人、また、です」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。四万——一千——四百——二十七の——名を——刻んだ——この、壁が。




——やがて——三千の——別の——名を——迎えることに——なるのを。


そして——駄々丸が——「どこかで——聞いた」、と——言った——その、言葉を。




——誰が——どこで——聞いて——いたのかも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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