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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「世界征服より、層の世話が難しい」

> これは——ごく——初め。

> 悪の組織が——まだ——「監視部隊」に——なる——前の——話である。






暗黒教団デスクロウ——秘密基地。







——地下——第十一層の——最奥。






——赤い——灯りの——下に。






——黒ずくめが——整列していた。








「——首領——!!」






「——なんだ」






「——本年の——世界征服の——計画で——ございます——!!」








「——申せ」









——幹部が——資料を——開いた。








「——策の——一——!! 巨大な——機体で——町を——襲撃——!!」







「——却下」








「——なぜ——ですか——!!」






「——道が——壊れる」








「——はい」






「——直す——者が——困る」








「…………」








「——策の——二——!! 怪人部隊で——蔵を——占領——!!」







「——却下」








「——また——ですか——!!」






「——蔵番も——暮らしの——ために——働いて——おる」








「…………」








「——策の——三——!! 地下じゅうに——恐怖を——!!」








——首領は——首を——振った。







「——恐怖では——世は——よく——ならん」








「…………」







——部下たちが——驚いた。







「——首領——!?」






「——近頃な」








——首領は——ぼそり、と——言った。







「——悪事より——善行の、方が——面白い」








「——首領——!!!」









## 噂






——実は——首領は。






——第七層で——有名、だった。








——朝。







——通路に——落ちている——ごみを——見る。







「…………」







——拾う。







——袋へ。








「——あら——黒いの」







——通りかかった——おばあさんが——言った。







「——おはようございます」






「——いつも——ありがとうねえ」









——広場。






——壊れた——縁台。







「——これは——危ういな」







——道具を——取り出す。






——直す。








「——悪の——おじさん——優しい——!!」







——子どもが——言うと。






——首領は——顔を——背けた。








「——優しくは——ない」






「——ついでだ」









——崩落が——あった——日。







「——怪人部隊——!!」






「——はっ——!!」






「——直せ——!!」








「——破壊では——なく——修理で——ございますか——!?」






「——当然だ」









——第七層では——いつしか——こう——噂された。








「——悪の——首領なのに——層一番の——善人だ」






「——むしろ——役所より——働いて——おる」









## 世話役






——そして——ある日。







——第七層の——世話役が——引退する、ことに——なった。







——後任を——決める——寄合。








*——候補*





*——一、大商人*





*——二、元・役人*





*——三、商店街の——顔役*





*——四、ブラックノア*








「…………」







——全員が——固まった。







「——なぜ——四番目が——おるのだ」






「——住民から——推された」








「——票を——見せろ——!!」








——紙が——広げられた。







——一位。







——ブラックノア。








「——なぜ——!?」







「——理由が——書いて——ある」








*——「毎朝——掃除して——おられる」*





*——「子どもの——相談に——乗って——くださる」*





*——「崩落の、時——一番——早く——来た」*





*——「配給を——無駄に——せぬ」*





*——「悪の——組織なのに——ちゃんと——説明する」*








「——最後の——一行が——妙だ——!!」






「——だが——事実だ」









——こうして。






——首領の——ところに——使いが——来た。








「——世話役に——なって——いただきたく」







「…………」









## 緊急会議






「——首領——!!」






「——お断りください——!!」






「——世話役に——なれば——悪の——組織では——なくなります——!!」








——首領は——腕を——組んだ。







「…………」






「——首領?」








「——世界征服より——難しそうだ」








「——受ける——気ですね——!?」









## 就任






——黒い——マント。






——面。






——そして——世話役の——腕章。







——住民が——拍手した。








「——似合わぬ——!!」






「——だが——安心する——!!」









## 最初の——仕事






「——帳簿を——見せよ」







——首領が——言った。







「——お願いします」








——資料を——めくる。







——数を——数える——ほど、後。







——面の——奥で——目が——光った。








「——これは……」






「——いかが——なさいました」








「——無駄が——多い」







——首領は——低く——言った。







「——この——請けを——見直す」






「——はい」






「——通路の——普請の——値が——高すぎる」






「——はい」








「——怪しい」









——翌日。







「——へへへ——! 世話役など——ちょろい——!!」







——請負の——男が——笑っていた。







——その、時。







——ずしり。








「——契約書を——見せて——もらおう」







「——ひっ——!!」








——男は——後ずさった。







「——あ、あんたは——悪の——首領だろう——!!」








「——だから——分かるのだ」







——首領は——静かに——言った。







「——悪い——者の——考える、ことは」








「…………」









——七日、後。







——第七層の——出納が——大幅に——改善した。







——配給が——増えた。







——住民が——喜んだ。








「——首領……」







——幹部が——おずおずと——言った。







「——なんだ」






「——世界征服より——うまく——いって——おりませんか」








「…………」






「——言うな」









## 問題






——だが——数日、後。






——第五層と——第九層から——文が——届いた。








*——「貴殿の——手腕を——見込み」*





*——「全層——世話役——寄合への——出席を——請う」*








「——全層……」







「——首領——!! これは——好機です——!!」







——幹部が——興奮した。







「——何の——好機だ」






「——世界征服の——!!」








「——違う」







——首領は——静かに——言った。







「——全部の——層を——よくする——寄合だ」








「…………」









## 寄合






——寄合の——席で。






——首領は——初めて——誠と——会った。








「——八百屋の——田中です」







——男は——頭を——下げた。







「——第五層の——世話を——しております」








「——ブラックノアだ」






「——第七層の——世話役である」








「——存じてます」







——誠が——微笑んだ。







「——第七層の——配給、増えたそうですね」






「——無駄を——削っただけだ」








「——すごいです」






「——礼は——要らぬ」









——寄合は——荒れた。







「——第三層に——多く——回しすぎだ——!!」






「——うちは——人が——多い——!!」






「——第十一層は——見捨てられて——おる——!!」








「…………」







——首領は。






——黙って——聞いていた。







——そして——ぼそり、と——呟いた。








「——世界征服の、方が——楽だな」








「——なぜですか」







——隣の——誠が——尋ねると。






——首領は——低く——言った。








「——征服は——反対されぬ」







「——え?」






「——力で——押せば——通る」








——首領は——荒れる——席を——見た。







「——だが——これは——通らぬ」






「——皆——それぞれ——正しいからだ」








「…………」







——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——首領」






「——なんだ」






「——決めましょうか」








「——何を——だ」






「——先に——決まりを——作るんです」








——誠は——紙を——広げた。







「——今——揉めてるのは——毎回——一から——話してるからです」






「——先に——決まりが——あれば——揉めません」








「…………」







——首領の——動きが。






——止まった。







「——どんな——決まりだ」






「——一つ目は——決まってます」








——誠は——にっこりと——笑った。







「——"一番——困ってる——ところから"、です」








「…………」







——席が。






——ぴたり、と——静まった。








「——それは——数えられるのか」







——首領が——尋ねた。







「——数えます」








——誠は——きっぱりと——言った。







「——僕、四百十二軒——回ってますから」






「——第七層も——回らせて——ください」








「…………」







——首領は。






——長い、こと——誠を——見ていた。







——そして——ぼそり、と——言った。








「——八百屋」






「——はい」






「——貴殿は——世界征服を——した、ことが——あるか」








「——ないです」






「——そうか」








——首領は——腕を——組んだ。







「——なぜ——ですか」






「——向いて——おると——思うたのだ」








「——嫌ですよ」






「——なぜだ」








「——征服したら——直さないと——いけませんよね」







——誠は——けろり、と——言った。







「——道も——井戸も——畑も」






「——面倒です」








「…………」







——首領は。






——しばらく——黙って。






——そして——初めて——低く——笑った。








「——同じ、ことを——考えて——おった」






「——え?」






「——なんでも——ない」









## その、夜






——秘密基地。







——首領は——一人。






——机に——向かっていた。








「——首領?」







——幹部が——覗き込んだ。







「——何を——書いて——おられます」






「——決まりだ」








「——何の——ですか」






「——我らの、だ」








——首領は——筆を——止めずに——言った。







「——あの——八百屋が——言うたのだ」






「——"先に——決まりが——あれば——揉めぬ"、と」








「…………」







——幹部が——紙を——覗いた。







——そこには。







——まだ——一行しか——書かれて——いなかった。








*——第一条 世界平和の——ために——結託する*








「——首領——!!」







——幹部が——絶叫した。







「——第一条から——おかしいです——!!」








「——うるさい」







——首領は——顔を——背けた。







「——まだ——書き始めた、ところだ」






「——何条まで——書く——おつもりで——!?」








「——二十だ」






「——多い——!!」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「全層の寄合に、出た。第七層の世話役が、代わってた。……悪の組織の首領さんだった。ブラックノアさん。住民から推されて、一位だったらしい。理由が、"毎朝掃除している"、"子どもの相談に乗ってくれる"、"崩落の時、一番早く来た"、"配給を無駄にせぬ"、そして——"悪の組織なのに、ちゃんと説明する"。……最後の一行が、妙だけど、事実らしい。……最初の仕事で、帳簿を見て、"無駄が多い"、"通路の普請の値が高すぎる"、"怪しい"、って。翌日、請負の人のところに、行ったそうだ。"あんたは悪の首領だろう"、って言われて、"だから分かるのだ。悪い者の考えることは"、って。……七日で、第七層の配給が、増えた。……寄合は、荒れた。第三層に多すぎる、うちは人が多い、第十一層は見捨てられてる、って。……首領さんが、"世界征服の方が楽だな"、って、呟いた。なぜか聞いたら、"征服は反対されぬ。力で押せば通る。だが、これは通らぬ。皆、それぞれ、正しいからだ"、って。……だから、提案した。先に、決まりを作りませんか、って。毎回、一から話してるから、揉める。先に決まりがあれば、揉めません。……一つ目は、"一番困ってるところから"、で、どうですか、って。数えられるのか、って聞かれたから、数えます、って答えた。僕、四百十二軒、回ってますから。第七層も、回らせてください、って。……そしたら、"貴殿は世界征服をしたことがあるか"、って。ないです。"向いておると思うたのだ"、って。嫌ですよ、って言った。征服したら、道も井戸も畑も、直さないといけない。面倒です。……首領さん、しばらく黙って、それから、低く笑って、"同じことを考えておった"、って。何がですか、って聞いたら、"なんでもない"、って。……じいちゃん。悪の組織の人、いい人でした」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。この、夜——首領が——書き始めた——たった——一行が。




——やがて——二十条に——なり。





——魔王軍と——結ばれ。





——そして——二十一条目に——彼自身の——名が——入ることを。


そして——「先に——決まりが——あれば——揉めない」、という——その、一言を。




——言った——本人が——すっかり——忘れて——しまうことも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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