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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「世界征服より、まず薬草採取」

> これは——ごく——初め。

> 魔王が——まだ——地下に——馴染んで——いなかった——頃の——話である。






第九層。







——魔族の——住処。







——玉座に——腰かけた——魔王が。






——深い——ため息を——ついた。








「……暇だ」








——四天王が——顔を——見合わせた。








「——魔王様」







——炎の——将軍が——恐る恐る——言った。







「——世界征服は——九割八分——完了して——おりますが」








「——残りは」






「——勇者の——里です」








「——また——勇者か」






「——はい」






「——前も——勇者であった」






「——その——前も——勇者です」








「——飽きた」








「…………」







——四天王が——固まった。








「——世界征服は——一旦——休む」







——魔王が——立ち上がった。







「——えぇぇぇ——!?」








「——新しい、ことを——したい」







「——例えば——何を——ですか」








——氷の——将軍が——尋ねると。






——魔王は——真剣な——顔で——答えた。








「——働き手に——なる」








「…………はい?」







「——地下の——受付で——登録するのだ」








「——魔王様——ですよね?」






「——だから?」






「——討伐される——側です——!!」








「——だからこそ、だ」








——意味は——分からなかったが。






——本人は——ものすごく——納得していた。









## 受付






——翌朝。






——第五層の——受付は——賑わっていた。








「——次の——方——どうぞー——!」







——エリナが——呼んだ。








——ずしん。







——四本の——角。





——真紅の——巨躯。





——背に——広がる——影。







——魔王、だった。








「…………」







——広場が。






——静まり返った。







——誰も——動かなかった。








——魔王は——受付へ——歩いた。







「——登録を——お願いする」








「…………え?」







——エリナが。






——笑顔の——まま——固まった。








「——登録だ」






「——え?」






「——働き手の」








「……あの」






「——なんだ」






「——魔王様——ですよね」








「——うむ」






「——討伐——対象では」








「——今日は——違う」







「——今日は?」






「——今日は——求職者だ」








「…………」







——広場が——ざわめいた。








「——求職者——!?」






「——書類を——持って——おるぞ——!!」






「——しかも——封筒に——入って——おる——!!」









——エリナは。






——震える——手で——封を——開けた。








*——名:(空欄)*





*——齢:七百八十二*





*——職歴:魔王——三百二十年*





*——特技:滅びの——魔法/竜の——調教/城の——掃除*





*——趣味:畑いじり*





*——志望の——理由:見聞を——広めたい*








「…………」







——エリナは。






——思わず——吹き出した。







「——畑いじり?」






「——うむ」








——魔王は——真面目に——頷いた。







「——うちの——実は——よく——育つ」








「——かわいい……」






「——なんだと?」









——だが。






——エリナは——一つ——困った。








「——あの——お名前が」






「——うむ」






「——空欄なんですが」








「——ない」







——魔王は——けろり、と——言った。







「——ない、って」






「——七百年——"魔王"、で——通って——おった」








「…………」






「——ご不便では」






「——不便だ」








「——では——なぜ——つけないんですか」








——魔王は。






——しばらく——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——己で——つけると——虚しい」








「…………」







——エリナは。






——何も——言えなかった。








「——では——"魔王"、と——書いて——おきます」






「——それで——よい」









## 試験






「——本気か」







——賢者が——現れた。







「——無論だ」






「——世界征服は」






「——飽きた」








「——そんな——理由で——やめるな——!!」






「——休みも——なかった」








「——魔王に——休みは——ない——!!」






「——ゆえに——辞めた」









——賢者は——ため息を——ついた。







「——決まりゆえ——試験は——受けて——もらう」






「——望むところだ」









——まず——魔力の——測定。







——水晶に——軽く——触れた。







——ぴしっ。







——ばきっ。







——どごぉぉぉん——!!








——壁まで——吹き飛んだ。








「…………」






「——水晶、二十七個目」








——エリナが——帳面に——書いた。







「——そんなに?」






「——強い——方は——毎回——壊されます」








「——安心した」






「——安心しないで——ください」









——次に——力の——測定。







——木の——槌で——鐘を——叩く。







——ごん。







——鐘が——通路の——奥へ——消えた。







——三つ——数えた——後。







——ごぉぉぉん……








「——遠くで——鳴りましたね」






「——回収を——お願いします」









——速さの——測定。







「——始め——!!」







——魔王が——消えた。







——そして。







「——終わった」








「——始まりの——位置ですけど」







「——あ」








——速すぎて——一周して——戻っていた。









——最後に——筆記。







*——問:薬草を——三つ——挙げなさい*








「…………」







——魔王は——真剣に——考えた。







——一刻。







——そして——書いた。








*——滅びの——草*





*——呪いの——草*





*——人類——終了の——草*








「…………」






「——全部——毒草です」








「——草には——違いあるまい」






「——違います」






「——不合格か」






「——そこだけ——不合格です」









## 判定






*——戦闘の——力:甲の——上の——上の——上*





*——常識:己*








「——登録は——認める」







——賢者が——宣言した。







「——おお——!!」






「——ただし」








「——ただし?」






「——等級は——己だ」








「——えぇぇぇ——!?」







「——決まりだ」






「——魔王だぞ——!?」






「——新入りだ」








「——七百八十二だぞ——!?」






「——新入りは——新入りだ」









——だが。






——札を——受け取った——魔王は。






——じっと——それを——見つめていた。








*——名:魔王*





*——職:魔法使い*





*——等級:己*








「…………」






「——どうしました?」








「——生まれて——初めての——身分証だ」







——魔王は——ぼそり、と——言った。







「——七百八十二年——生きて——初めてだ」








「…………」







——広場が。






——少し——静かに——なった。









## 最初の——仕事






——魔王は——掲示板の——前に——立った。








*——猫を——探して——ください……銅貨——三枚*





*——薬草の——採取……銅貨——五枚*





*——荷運び……銅貨——四枚*








「——薬草に——する」







——魔王が——真剣な——顔で——言った。







「——なぜ——ですか」







——エリナが——尋ねると。






——魔王は——静かに——答えた。








「——先ほど——間違えたからだ」








「…………」







「——覚えて——おきたい」








「…………」







——広場の——者たちが。






——少し——感心した。








「——真面目な——魔王だな」






「——悪くない」









——だが——次の——瞬間。







——魔王が——地図を——見ながら——尋ねた。








「——ときに」






「——はい」






「——薬草は——光るのか」








「——光りません」






「——鳴くか」






「——鳴きません」








「——襲ってくるか」






「——ただの——草です」








「…………」







——魔王は。






——しばらく——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——世界征服より——難しそうだ」








——広場に——笑いが——広がった。









## その、日の——夕方






——魔王が——戻ってきた。







——手には——籠。







「——採ってきた」








「——お疲れ様です」







——エリナが——籠を——覗いた。







——そして——動きを——止めた。








「…………」






「——どうした」






「——多すぎます」








——籠には。






——薬草が——山のように——詰まっていた。







——依頼の——百倍は——ある。








「——多いのは——駄目か」






「——駄目じゃ——ないですけど」








——エリナは——困った——顔を——した。







「——報酬は——銅貨——五枚です」






「——構わぬ」








「——では——残りは」






「——配ってやれ」








——魔王は——けろり、と——言った。







「——薬が——足りぬ、と——聞いた」








「…………」







——エリナは。






——しばらく——黙って。






——そして——深く——頭を——下げた。








「——ありがとう——ございます」






「——礼は——要らぬ」








——魔王は——顔を——背けた。







「——暇だっただけだ」









## 夜






——荷運びから——戻った——誠が。






——薬草の——山を——見て——足を——止めた。








「——なんですか——これ」






「——魔王様が——採ってきたのよ」








「——魔王——!?」






「——今日——登録されたの」








——エリナが——けろり、と——言った。







「——等級は——己」






「——己——!?」








「——新入りだから」








「…………」







——誠は。






——薬草の——山を——見つめた。







——依頼の——百倍。







——報酬は——銅貨——五枚。








「——エリナ」






「——なに?」






「——明日——お礼に——行ってくる」








「——"礼は要らぬ"、って——言ってたわよ」







「——だから——行くんだ」








——誠は——籠を——一つ——手に——取った。







「——何を——持って——いくの」






「——芋を」








「——魔王様に?」






「——畑いじりが——趣味、って——書いてあったんだろう」








——誠は——微笑んだ。







「——なら——種芋も——持って——いこう」








「…………」







——エリナは。






——夫の——背中を——見送って。






——そして——ぽつり、と——言った。








「——あなた——魔王よ?」






「——お客さんだ」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「荷運びから戻ったら、薬草が、山になってた。エリナに聞いたら、魔王様が採ってきたって。今日、受付で、登録されたらしい。……履歴書を、封筒に入れて、持ってきたそうだ。齢、七百八十二。職歴、魔王三百二十年。特技が、滅びの魔法と、竜の調教と、城の掃除。趣味が、畑いじり。志望の理由が、"見聞を広めたい"。……エリナが、"畑いじり"、で吹き出したら、"うちの実はよく育つ"、って、真面目に返されたって。……でも、名前の欄が、空欄だったらしい。"ない。七百年、魔王で通っておった"、って。不便じゃないか、って聞いたら、"不便だ"、って。なぜつけないのか、聞いたら、"己でつけると、虚しい"、って。……エリナ、何も言えなかったそうだ。……試験は、水晶が二十七個目で、鐘が飛んでいって、速さの試験は、速すぎて一周して戻ってきてた。筆記で、薬草を三つ挙げろ、って言われて、一刻考えて、"滅びの草"、"呪いの草"、"人類終了の草"、って書いたって。全部、毒草です。"草には違いあるまい"、って。違います。……等級は、己。"魔王だぞ"、って抗議したけど、"新入りは新入りだ"、って。でも、札を受け取った時、じっと見つめて、"生まれて初めての身分証だ。七百八十二年生きて、初めてだ"、って。……最初の仕事に、薬草採取を選んだ。なぜか聞かれて、"先ほど間違えたからだ。覚えておきたい"、って。皆、感心してた。……でも、その後、"薬草は光るのか"、"鳴くか"、"襲ってくるか"、って聞いて、"ただの草です"、って言われて、"世界征服より難しそうだ"、って。皆、笑ってた。……で、夕方、依頼の百倍、採ってきた。報酬は銅貨五枚なのに。残りをどうするか聞いたら、"配ってやれ。薬が足りぬ、と聞いた"、って。……礼を言われたら、"礼は要らぬ。暇だっただけだ"、って、顔を背けたそうだ。……明日、お礼に行ってきます。芋と、種芋を、持って。畑いじりが趣味、って、書いてあったので。エリナが、"あなた、魔王よ"、って。……お客さんです。じいちゃん、変わったお客さんが、来ました」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。翌日——彼が——届けた——種芋が。




——七百八十二年——生きた——魔王の——最初の——友の——しるしに——なることを。


そして——「己で——つけると——虚しい」、と——言った——その——名が。




——いつか——誰かに——つけて——もらえる——日が——来ることも。





——今は……まだ、本人が——一番——諦めて——いる。

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