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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話:怪獣ですが、Gランク冒険者になりました!

> これは——ハラムの弓を——建てる——半年ほど——前の——話である。






第五層の——受付。







——朝から——人が——並んでいた。







「——次の——方——どうぞー——!!」







——エリナが——呼んだ。







——誠が——里回りに——出ている——間。






——受付は——彼女が——担っていた。









——その、時。







——ずしん。







——ずしん。







——ずしん。








「…………」







——広場の——全員が——顔を——上げた。








——天井——すれすれの——巨体が——入ってきた。







——高さ——六丈。





——二本の——角。





——太い——尾。





——丸い——目。







——そして。







——どこか——愛嬌の——ある——顔、だった。








「——なんだ——あれ」






「——祭りは——来月だぞ」






「——芸人か?」








——巨体は。






——丁寧に——頭を——下げた。








「——ガオ」








「…………」







——エリナは。






——首を——かしげた。







「——ええと」








——巨体は——札を——指した。







*——「働き手——受付」*







「——ガオ——!」








「——お仕事を——探しに?」






「——ガオ——!!」








——元気よく——頷いた。









## 登録






「——では——こちらに——お名前を」







——エリナが——筆を——差し出した。







——巨体が——受け取る。







——ぼきっ。








「…………」






「——ガオ……」








——二本目。







——ぼきっ。







——三本目。







——ぼきっ。








「——力加減——!!」







「——ガオ……」








——巨体は——申し訳なさそうに——頭を——下げた。








「——待って——ください」







——エリナが——奥から——何かを——持ってきた。







「——炭です」






「——ガオ——!!」








——巨体は——嬉しそうに——書き始めた。









*——名:ガオゴン*





*——齢:四十八*





*——種族:怪獣*





*——職:無し*





*——趣味:昼寝*





*——特技:町を——踏まないように——歩くこと*








「…………」







——エリナが。






——じっと——最後の——一行を——見た。







「——優しい——方ですね」








「——ガオ……」







——巨体が——照れた。









## 試験






「——では——腕試しを——します」







——一色が——出てきた。







「——ガオ——!」








——まず——魔力の——測定。







——水晶に——触れる。







——ぱりん。








「——割れた」






「——ガオ?」






「——優しく——お願いします」








——今度は——小指で。







——ぱりん。







「——もっと——優しく——!!」









——次に——力の——測定。







「——この——槌で——叩いて——ください」







——だが。







——槌が——小さすぎた。







——巨体は——爪先で——つまんだ。








「——ガオ?」






「——それで——結構です」








——こん。







——鐘が。






——見えなく——なるまで——飛んでいった。








「…………」






「——鐘が——戻って——きません」








「——ガオ……」









——続いて——速さの——測定。







「——始め——!!」







——ずしん——!!







——ずしん——!!







——ずしん——!!








「——速い——!!」






「——というか——歩幅——!!」








——一歩——十丈。






——十歩で——到着した。









——そして——筆記。







*——問:スライムの——弱点を——書きなさい*








「——ガオ?」







——巨体は——炭を——くわえた。







——十分——考えた。







——そして——書いた。








*——踏む*








「——正しいですけど——雑です——!!」








『——やめて』







——足元で——皆瀬が——ぷるん、と——揺れた。







「——ガオ——!?」








——巨体が——飛び上がった。







——そして——慌てて——頭を——下げた。








「——ガオ——! ガオ——!!」







『——いい。……気を——つけて』









## 面談






「——最後に——伺います」







——エリナが——筆を——構えた。







「——なぜ——働きたいんですか」








「——ガオ」








——皆瀬が——揺れた。







『——通訳する』








『——"友達が——欲しい"』








「…………」







——広場が。






——静まった。








『——"怪獣だから——怖がられる"』







『——"だから——一緒に——働く——仲間が——欲しい"』








「…………」







——エリナは。






——筆を——置いた。







——そして——少し——目を——押さえた。








「——合格です」







「——ガオーー——!!」








——拍手が——起きた。









## 札の——問題






——だが——エリナが——困った——顔を——した。







「——一つ——問題が——あります」







「——ガオ?」






「——札が——入りません」








——働き手には——木札が——渡される。







——だが。







「——懐が——ありませんよね」








「——ガオ……」








——確かに——ない。








「——待て」







——鬼族の——鍛冶師が——出てきた。







「——首に——かければ——よかろう」








——半刻、後。







——巨大な——首輪が——できた。







——金の——板つき。








「——ガオ——!!」







——嬉しそう、だった。









——だが——問題は——まだ——あった。







——働き手には——等級が——ある。







——甲・乙・丙・丁・戊・己。







——新入りは——「己」、から——始まる。







——ところが。








「——札が——首輪に——収まりません」







——エリナが——うめいた。







「——文字が——小さすぎて——見えないんです」








「——ならば——新しく——作れ」







——ノワールが——口を——挟んだ。







「——新しい——等級を——ですか?」






「——うむ」








——かんかんかん——!!







——鍛冶師が——金板を——叩いた。







——新しい——文字が——刻まれた。








*——「巨」*








「——できました——!!」






「——ガオ?」








「——あなたが——最初の——"巨"、等級です——!!」








「——前代未聞だ——!!」






「——一番——下か——!?」








「——違う」







——ノワールが——首を——振った。







「——"巨"、は——大きさの——等級だ」






「——普通の——仕事では——寸法が——合わぬ」






「——巨大な——者——専用の——等級である」








「——ガオーー——!!」







——ガオゴンが——胸を——張った。









## 最初の——仕事






*——「山の——上の——実を——採って——ください」*







——ガオゴンが——手を——伸ばした。







——もいっ。







——終わり、だった。








「——五つ——数える——ほどでした」







——エリナが——記録した。







「——報酬は——銅貨——三枚です」








「——ガオ?」






『——"これだけ?"』






「——実ですから」









——次の——仕事。







*——「迷子の——犬を——探して——ください」*







——ガオゴンが——鼻を——鳴らした。







——一分、後。







——発見した。







——だが。








「——きゃん——!!」







——子犬が——逃げた。








「…………」







——ガオゴンが。






——うつむいた。








『——"また——怖がられた"』








「——大丈夫です——!!」







——エリナが——子犬を——抱き上げた。







「——この、方——優しいですよ」








——そして——ゆっくりと——近づけた。







——子犬が。







——ぺろ。







——巨大な——鼻を——舐めた。








「——ガオォォォ……」








『——"初めて——舐められた"』








「…………」







——広場の——者たちが。






——なぜか——皆——目を——押さえた。









## その後






——「巨」等級には。






——次々と——登録者が——増えた。








——藤原(空を——飛ぶ——枠)





——キャベゴンほか——怪獣一同(地を——歩く——枠)





——皆瀬(大きくなれる——枠)





——グランデル(微妙に——入る——枠)








「——ワシ——大きいか——!?」






「——微妙です」






「——微妙——!!」









——そして——地下では——こう——噂された。







「——"巨"、は——"巨大"、の——巨では——ないらしい」






「——では——なんだ」






「——"受付が——想定して——おらんかった——連中"、の——巨だ」









## 夜






——里回りから——戻った——誠は。






——首輪を——揺らして——歩く——巨体を——見て——足を——止めた。








「——なんですか——あれ」






「——新しい——働き手よ」








——エリナが——けろり、と——言った。







「——ガオゴンさん」






「——増えましたね……」








「——ガオ——!!」







——ガオゴンが——丁寧に——頭を——下げた。







「——ご丁寧に——どうも」








——誠も——頭を——下げた。







「——田中誠です。八百屋を——やっております」








「——ガオ——!」







『——"知ってる"』








「——え?」






『——"来る——前から——聞いてた"』








「——誰に——ですか」







『——"皆に"』








「…………」







「——なんて——聞きましたか」








——ガオゴンは。






——しばらく——考えて。






——そして——言った。








「——ガオ」







『——"名前を——聞いて——くれる——人が——おる"、って』








「…………」







——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——微笑んだ。








「——ガオゴンさん、ですね」






「——ガオ——!!」








「——覚えました」









——その、夜。






——天井の——穴から。






——藤原が——首を——伸ばしてきた。








「——田中くん」






「——藤原さん」






「——あの——新入りな」








「——はい」






「——本物や」








「…………え?」







——誠が。






——目を——見開いた。







「——中に——人が——入って——ないんですか」






「——入ってへん」








——藤原は——けろり、と——言った。







「——匂いが——違う」






「——あれは——生まれつきの——怪獣や」








「——じゃあ——この、世界の——!?」






「——せや」








「…………」







——誠は。






——ゆっくりと——広場を——見た。







——ガオゴンが。






——子犬に——鼻を——舐められて——喜んでいた。








「——藤原さん」






「——なんや」






「——あの、人——四十八年——ずっと——一人だったんですか」








「…………」







——藤原は。






——答えなかった。







——ただ——ぼそり、と——言った。








「——あんた——さっき——名前を——覚えた、って——言うたやろ」







「——はい」






「——あいつ——夜中に——泣いとったで」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「里回りから戻ったら、六丈の怪獣が、地下を歩いてた。ガオゴンさん。エリナが受付をして、登録したらしい。……筆を三本、折ったので、炭で書いてもらったって。特技の欄に、"町を踏まないように歩くこと"、って、書いてあった。エリナが、"優しい方ですね"、って。……試験は、大変だったらしい。水晶は二つ割れて、槌で叩いたら、鐘が飛んでいって、戻ってこなかった。筆記の"スライムの弱点"に、"踏む"、って書いて、皆瀬さんに、"やめて"、って言われてた。慌てて謝ってたって。……面談で、"なぜ働きたいのか"、って聞いたら、"友達が欲しい"、"怪獣だから怖がられる"、"だから一緒に働く仲間が欲しい"、って。エリナ、筆を置いて、目を押さえてた。……札が首輪にしか付けられなくて、しかも等級の文字が入らなくて、ノワールさんが、"新しい等級を作れ"、って。"巨"、という等級ができた。一番下か、と言われたけど、"大きさの等級だ。巨大な者専用である"、って。……最初の仕事は、山の実を採ること。五つ数えるほどで終わって、銅貨三枚。"これだけ?"、って。実ですから。……次が、迷子の子犬。一分で見つけたけど、逃げられた。"また怖がられた"、って、うつむいてた。エリナが、子犬を抱いて、"この方、優しいですよ"、って近づけたら、鼻を舐められて、"初めて舐められた"、って。皆、目を押さえてた。……その後、"巨"等級には、藤原さんも、怪獣の皆さんも、皆瀬さんも、登録された。グランデルさんは、"微妙に入る枠"、で、抗議してた。……夜、ガオゴンさんに挨拶したら、"知ってる。来る前から聞いてた"、って。何を聞いたのか、聞いたら、"名前を聞いてくれる人がおる、って"。……覚えました、って答えた。……その後、藤原さんが、"あの新入りな、本物や。中に人は入ってへん。生まれつきの怪獣や"、って。……この世界の怪獣。四十八年、ずっと一人だったんですか、って聞いたら、答えてくれなかった。……ただ、"あんた、さっき、名前を覚えた、って言うたやろ。あいつ、夜中に泣いとったで"、って。じいちゃん、名前は、大事です」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。四十八年——たった一人で——町を——踏まないように——歩いて——きた——怪獣が。




——なぜ——この、時期に——現れたのかを。


そして——「名前を——聞いて——くれる——人が——おる」、という——噂が。




——どこまで——広がって——いたのかも。





——今は……まだ、誰も——数えて——いない。

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