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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第122話「勇者、ローン返済中」

アルフレートの——身体を。





——藤原が——運んだ。







——ハラムから——半日。






——誰も——一言も——喋らなかった。








「——弔いの——壁の——隣に」







——誠が——ぽつり、と——言った。







「——墓を——作ります」








「——待って」







——一色が——止めた。







「——何ですか」






「——教会に——連れて——行きなさい」








「…………え?」







——誠が。






——顔を——上げた。








「——なぜ——ですか」






「——聖女が——おるでしょう」








「…………」







「——死者を——蘇らせられる、って」







——一色は——早口に——なった。







「——あなた——半月——前に——会いに——行ったでしょう——!」








「…………」







——誠は。






——しばらく——固まって。






——そして——立ち上がった。








「——藤原さん——!!」






「——なんや——!」






「——西へ——!! 全速で——!!」









——教会の——扉を。






——誠は——蹴り開けた。








「——ルナさん——!!」







「——あら」







——ルナは——祭壇の——前で——茶を——飲んでいた。







「——また——いらしたの?」






「——蘇らせて——ください——!!」








——誠は——アルフレートを——横たえた。







「——お願いします——!!」








「…………」







——ルナは。






——茶碗を——置いて。






——そして——覗き込んだ。








「——あら」







——彼女は——妙な——顔を——した。







「——この、方」






「——ご存知——ですか」








「——知って——おりますわ」







——ルナは——けろり、と——言った。







「——四回——蘇らせて——おりますもの」








「…………は?」









——だが——今は。






——それどころでは——なかった。








「——お願いします——!!」







——誠が——床に——両手を——ついた。







「——何でも——します——!!」








「——お顔を——上げて——ください」







——ルナは——静かに——言った。







「——商売ですもの」






「——やりますわ」








「——本当ですか——!!」






「——ええ」









——ルナは。






——両手を——かざした。







——柔らかい——光が——広がる。







——そして。







「……ぬ」







——アルフレートが——身じろぎした。








「——アルフレート様——!!」







「——おお、田中」








——彼は——けろり、と——起き上がった。







「——また——落ちたか」






「——"また"、って——なんですか——!!」








「——五回目だ」







「…………」









——そして。






——ルナが——にっこりと——笑った。








「——では——お布施を」








「——はい——! いくらでも——!!」







——誠が——即答すると。






——ルナは——請求書を——差し出した。








*——死者蘇生——一式*





*——お布施——五千五百ゴールド*








「…………」







「——ご、五千五百——!?」








「——命は——尊う——ございますので」






「——前は——いくらだったんですか」








「——二千ですわ」






「——倍以上じゃ——ないですか——!!」








「——相場ですの」






「——命に——相場が——あるんですか——!?」








「——需要と——供給ですわ」









——誠は——財布を——開いた。







——所持金。







——二十三ゴールド。








「…………」






「——足りませんわね」






「——はい」








「——では——完済まで——教会で——お過ごしを」







「——え?」






「——お帰りに——なれません」








「——それ——借金じゃ——ないですか——!!」






「——お布施ですわ」








「——お布施って——なんですか——!!」









——だが——その、時。







「——ルナ殿」







——アルフレートが——のっそりと——立ち上がった。







「——あら」






「——今回は——私の——分だ」








——彼は——きっぱりと——言った。







「——田中に——払わせるな」






「——アルフレート様——!!」








「——では——五回目、ですわね」







——ルナが——帳面を——めくった。







「——現在の——残高は」






「——言うな——!!」








「——一万——二千——四百ゴールドですわ」








「…………」







——誠が。






——固まった。







「——アルフレート様」






「——なんだ」






「——それ——なんですか」








「…………」







——アルフレートは。






——気まずそうに——顔を——背けた。








「——前の——四回、分ですわ」







——ルナが——けろり、と——言った。







「——星喰いの——戦いより——前の、ことですの」






「——二十年——お返しに——なって——おります」








「…………」







——誠は。






——言葉が——出なかった。








「——二十年」






「——うるさい」








「——うちで——働いてたのは」







——誠は——かすれた——声で——言った。







「——それが——理由——ですか」








「——違う——!!」







——アルフレートが——即座に——否定した。







「——最初は——そうだった」






「——だが——途中から——違う」








「…………」







「——芋が——うまかったからだ」








「…………」







——誠は。






——うつむいて——肩を——震わせた。








「——なんで——言わないんですか」






「——言えるか——!!」









——ちなみに。






——教会の——外には。






——巨大な——魔導掲示板が——設えられていた。








## 【本日の——回復相場】






| 品目 | 価格 | 前日比 |

|---|---|---|

| ヒール(小) | 十八 | ▲三 |

| ヒール(並) | 三十五 | ▲五 |

| ヒール(大) | 六十五 | ▼二 |

| ヒール(大盛り) | 二百五十 | ▲二十 |

| ヒール(特盛) | 五百 | ▲五十 |

| 完全回復 | 百八十 | ▲十 |

| 死者蘇生 | 五千五百 | ▲三百五十 |






*——※混雑時は——価格が——変動します*





*——※深夜・休日料金——あり*





*——※本日の——聖女様の——ご機嫌により——変動する——場合が——ございます*





*——※「大盛り」「特盛」は——聖女様——おすすめの——特別品です*





*——※おすすめですが——効き目は——「大」と——変わらぬ——場合が——ございます*





*——※お布施への——苦情は——受け付けません*





*——※取り消し——不可*








「——なんですか——これ——!!」







——誠が——絶叫した。








——だが。






——掲示板の——前は——人だかり、だった。








「——おい——! 完全回復の、方が——安いぞ——!」






「——大盛りと——特盛は——何が——違うんだ——!」








「——器の——大きさですわ」







——ルナが——澄まして——答えた。







「——回復魔法に——器が——あるんですか——!?」






「——気持ちの——問題ですの」








「——おい——! ヒール大が——下がったぞ——!」






「——今の——うちに——腰を——治して——もらえ——!」






「——待て——! 大盛りも——まだ——安い——!」






「——特盛は——高すぎる——!」






「——昨日は——四百五十だったぞ——!」








「——皆さん——慣れすぎです——!!」








「——それと——な」







——一人の——男が——泣きそうな——顔で——言った。







「——先週——指を——切っただけで——特盛を——取られた——者が——おる」








「——五百——!?」






「——理由を——聞いたら——"気持ちが——特盛でした"、と」








「——それ——前も——聞きました——!!」









——その、瞬間。







——掲示板が——ぴこん、と——音を——立てた。








*——死者蘇生……五千八百ゴールド ▲三百*








「——上がったぁーー——!!」







——全員が——叫んだ。








「——五分——前より——上がってます——!!」






「——本日の——相場が——更新されましたの」








「——なんで——ですか——!!」






「——需要が——ございましたので」








「——僕——ですか——!?」






「——ええ」









——一方——その頃。






——地下。







——純金の——燭台。





——大理石の——床。





——樽に——無造作に——放り込まれた——宝石。







——秘書の——シスターが——報告した。








「——聖女様。本日の——上がりは——過去——最高です」






「——えへ」








——ルナは——金貨の——山に——両手を——突っ込んでいた。







「——蘇生の——指数が——急騰ですわ……えへへ」








「——聖女様」






「——なあに?」






「——お口が」








——シスターが——そっと——手拭いを——差し出した。







「——あら——失礼」








——拭いた——瞬間。






——魔導の——板が——更新された。








*——ヒール(特盛)……五百二十 ▲二十*








「——えへっ」







——再び——垂れた。








「…………」







——シスターは——天を——仰いだ。







「——もう——隠す——気が——ない」









## 翌日






——アルフレートは。






——八百屋の——店先に——立っていた。








「——大根——いかがですかー——!!」






「——芋が——安いですよー——!!」








「——勇者様——!?」







——通りかかった——者が——驚いた。







「——ハラムで——死んだ、と——聞いたぞ——!!」






「——戻った」








「——それで——なぜ——大根を——売って——おる——!!」






「——お布施を——貯めて——おる」








「——え?」






「——五回、分だ」








「…………」







——子どもが——目を——輝かせた。







「——勇者様——! 頑張って——!!」






「——ありがとう——!!」






「——大根——一本——ください——!!」








「——毎度——ありがとう——ございます——!!」









——世界を——救った——男は。






——今日も——八百屋で——汗を——流していた。







——完済は。






——まだまだ——先である。









——だが——その、夜。







——店を——閉めた——後。







「——アルフレート様」






「——なんだ」








——誠が——帳面を——差し出した。







「——これ——見て——ください」






「——なんだ、これは」








「——二十年——分の——給金です」








「…………は?」







「——僕、ずっと——払ってましたよね」







——誠は——静かに——言った。







「——でも——アルフレート様——一度も——使ってません」








「…………」







「——全部——教会に——行ってたんですね」








「…………」







——アルフレートは。






——答えなかった。








「——二十年です」







——誠は——帳面を——閉じた。







「——僕、一度も——気づきませんでした」








「——気づかれては——困る」







——アルフレートは——ぼそり、と——言った。







「——恥だからな」








「——恥じゃ——ないです」







——誠は——首を——振った。







「——四回とも——誰かを——庇ったんですよね」








「…………」






「——なぜ——分かる」








「——五回目も——そうでしたから」








「…………」







——アルフレートは。






——長い、こと——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——田中」






「——はい」






「——一つ——聞いてよいか」








「——どうぞ」






「——お前は——なぜ——泣かなんだ」








「…………え?」






「——今回だ」








——アルフレートは——誠を——見た。







「——一度目は——四日——店を——閉めた」






「——二度目は——十三日——石の——前に——座って——おった」







「——だが——今回は——泣いて——おらぬ」








「…………」







——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——泣く——暇が——なかったんです」








「——なに?」






「——一色さんが——"教会に——連れて——行きなさい"、って」








——誠は——ぽつり、と——言った。







「——だから——走りました」






「——泣いてる——暇が——ありませんでした」








「…………」







「——それに」







——誠は——ふと——笑った。







「——泣いたら——アルフレート様が——嫌がるので」








「…………」







——アルフレートは。






——ぐっ、と——言葉に——詰まって。






——そして——顔を——背けた。








「——知って——おったのか」






「——二十年——見てますから」









——一方——その頃。






——地下教会。







「——聖女様」






「——なあに」






「——明日から——蘇生を——六千に——なさいますか」








「——いいえ」







——ルナは——ぽつり、と——言った。







「——五千五百に——戻しますわ」








「…………え?」







——シスターが——目を——見開いた。







「——なぜ——ですか」






「——気分ですの」








——ルナは——金貨を——一枚——弄びながら——言った。







「——それと——一つ——伝えて——おいて」






「——何を——でしょう」








「——あの——八百屋に、ですわ」







——ルナは——金貨を——山に——投げた。







「——"次は——半額"、と」








「…………」







「——聖女様」






「——言わないで」








——ルナは——顔を——背けた。







「——気の迷いですわ」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「一色さんが、"教会に連れて行きなさい"、って。……走った。藤原さんに、全速で飛んでもらった。……ルナさんが、覗き込んで、"この方、知っておりますわ。四回、蘇らせておりますもの"、って。……四回。……とにかく、お願いした。床に手をついた。何でもします、って。"お顔を上げてください。商売ですもの"、って。……蘇りました。アルフレート様、けろり、と起き上がって、"また落ちたか"、って。五回目だ、って。……そして、請求書。五千五百ゴールド。前は二千だったのに。"相場ですの"、"需要と供給ですわ"、って。財布に、二十三ゴールドしか、なかった。……完済まで教会にお泊りください、って言われかけたら、アルフレート様が、"今回は私の分だ。田中に払わせるな"、って。……そしたら、ルナさんが、"現在の残高は、一万二千四百"、って。……二十年、返してた。星喰いの戦いより、前の、四回分。……うちで働いてたのは、それが理由ですか、って聞いたら、"違う。最初はそうだった。だが、途中から違う。芋がうまかったからだ"、って。……なんで言わないんですか、って言ったら、"言えるか"、って。……教会の外に、巨大な掲示板があって、値段が、刻々と、変わってた。ヒール小、並、大、大盛り、特盛、完全回復、死者蘇生。しかも、"本日の聖女様のご機嫌により変動する場合がございます"、って。皆、慣れてて、"完全回復の方が安いぞ"、"今のうちに腰を治せ"、って、騒いでた。……僕が蘇生を頼んだせいで、五分で、三百、上がりました。"需要がございましたので"、って。……翌日、アルフレート様は、店先で、大根を売ってた。"勇者様、ハラムで死んだと聞いたぞ"、"戻った"、"なぜ大根を売っておる"、"お布施を貯めておる"。子どもが、"勇者様、頑張って"、って。……夜、二十年分の給金の帳面を、見せた。一度も、使ってなかった。全部、教会に行ってた。"恥だからな"、って。……恥じゃ、ないです。四回とも、誰かを庇ったんですよね、って言ったら、"なぜ分かる"、って。五回目も、そうでしたから。……それから、"お前はなぜ泣かなんだ"、って、聞かれた。……泣く暇が、なかったんです。一色さんに言われて、走ったので。それに、泣いたら、アルフレート様が嫌がるので。……"知っておったのか"、って。二十年、見てますから。じいちゃん。アルフレート様、生きてます」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。あの、夜——聖女が——秘書に——言い残した——「次は——半額」、という——一言を。




——そして——それが——四百年で——初めての——値下げで——あったことも。


そして——金貨の——山の——一番——奥に——ある——木箱が。




——その、夜——ほんの——少しだけ——動かされたことも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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