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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第121話「ハラムの、弓」

ハラムの里に——弓を——一本。





——それが——決まって——から。






——一番——先に——手を——挙げたのは。







——アルフレート、だった。








「——私が——行く」







「——駄目です」







——誠が——即座に——言った。







「——なぜだ——!」






「——アルフレート様——今——レベル1ですよね」








「…………」







——アルフレートが。






——顔を——背けた。







「——芋の——袋も——持てないのに」






「——半分なら——持てる」








「——半分——ですよね」









——五年——経っていた。







——二度目の——GAME CLEARから。







——アルフレートは——毎日——芋を——運び続けていたが。






——上がりは——遅かった。








「——一度目は——十三年で——上がりきった」







——彼は——ぼそり、と——言った。







「——だが——今度は——遅い」






「——なぜかは——分からん」








「——歳、では——ないですか」







——駄々丸が——のんびりと——言った。







「——転移者に——歳は——ない——!」






「——さて——どうですかねェ」









——だが。






——アルフレートは——引かなかった。








「——田中」






「——はい」






「——お前は——なぜ——ハラムへ——行った」








「——え?」






「——五十七に——なって——半日も——竜に——乗って、だ」








——アルフレートは——誠を——見た。







「——若い——者に——任せれば——よかったであろう」








「…………」







「——同じだ」







——アルフレートは——静かに——言った。







「——私も——行きたいのだ」








「…………」







——誠は。






——長い、こと——黙って。






——そして——言った。








「——分かりました」






「——おお——!」






「——でも——重い——ものは——持たないで——ください」








「——約束は——できん」






「——してください」








「——善処する」






「——それ——一番——駄目なやつです」









——ハラムの里。







——弓の——建造が——始まった。







「——おお——! 本当に——来た——!」







——ネイルが——駆けてきた。







「——一年、と——申しました」







——誠が——荷を——下ろした。







「——でも——半年で——終わらせます」








「——なぜだ——!」






「——早い、方が——いいですから」









——建造は——過酷、だった。







——影が——ない。






——地上に——出られるのは——ごく——短い——間だけ。







——それでも。







「——四半刻——働いて——四半刻——休む——!」







——誠が——号令を——かけた。







「——水は——必ず——飲んで——ください——!」






「——倒れたら——すぐ——洞穴へ——!」








「——効率が——悪いぞ——!」







——鬼族の——一人が——言うと。






——誠は——首を——振った。








「——ここでは——それで——いいんです」






「——ここの——人たちは——二十年——耐えてきました」






「——僕たちが——倒れたら——世話を——させることに——なります」








「…………」









——四月。






——櫓が——半分——組み上がった。








「——早いな」







——賢者が——感心した。







「——百一本目ですから」







——誠が——微笑んだ。







「——皆さん——手順を——覚えてます」









——だが。






——アルフレートは——苦しんでいた。








「——くっ」







——梁を——持ち上げようとして。






——彼は——よろけた。








「——アルフレート様——!」






「——大事ない」








「——休んで——ください」






「——まだ——できる」








「…………」







——誠は。






——それ以上——言わなかった。







——言えば——この、人は——余計に——無理を——する。







——二十年——見てきて——分かっていた。









——その、夜。






——洞穴の——隅で。







「——田中」






「——はい」






「——少し——話しても——よいか」








——アルフレートが——珍しく——静かな——声で——言った。







「——どうぞ」








「——私は——な」







——彼は——天井を——見上げた。







「——二度目に——石に——なった、時」






「——十三日——何も——見えなんだ」








「——覚えてるんですか」






「——うむ」








——アルフレートは——低く——言った。







「——真っ暗で——音も——ない」






「——ただ——己が——おる、という——ことだけ——分かる」








「…………」







「——一度目は——三時間だった」







——彼は——続けた。







「——だから——気にも——せなんだ」






「——だが——十三日は——長い」








「…………」







「——あの、間——私は——考えて——おった」







——アルフレートは——ぽつり、と——言った。







「——"このまま——戻れなんだら"、と」








「…………」







「——恐ろしかった」








「…………」







——誠は。






——何も——言わずに——聞いていた。








「——だが——な、田中」







——アルフレートは——ふと——笑った。







「——一番——恐ろしかったのは——それでは——ない」








「——なんですか」







「——"何も——せずに——終わる"、ことだ」








「…………」







「——ゆえに——無理を——する」







——彼は——自分の——腕を——見た。







「——分かって——おる。悪い——癖だ」








「——アルフレート様」






「——なんだ」






「——一つ——約束して——ください」








「——なんだ」






「——僕より——先に——死なないで——ください」








「…………」







——アルフレートは。






——きょとん、と——した。







「——妙な、ことを——言うな」






「——約束して——ください」








「……よかろう」







——彼は——ぶっきらぼうに——頷いた。







「——約束する」









——五月目。






——櫓が——ほぼ——組み上がった。







——残るは——頂上の——梁——一本。








「——今日で——終わりだ——!」







——鬼族が——歓声を——上げた。







「——気を——つけて——ください——!」







——誠が——下から——叫んだ。








——梁が——吊り上げられていく。







——頂上には——五人。






——そして——その——中に。






——アルフレートが——いた。








「——アルフレート様——!! 上に——いるんですか——!!」







「——最後だからな——!」








「——降りて——ください——!!」






「——見て——おれ——!」









——梁が——所定の——位置に——収まり。






——留め具が——打ち込まれた。








「——完成だ——!!」







——歓声が——上がった。







——洞穴からも——人が——出てきていた。








「——弓だ——!!」






「——うちにも——弓が——できた——!!」








「——アルフレート様——!! 降りて——ください——!!」







——誠が——叫んだ——その、時。








——ばき。







——妙な——音が——した。








「…………」







——櫓の——足場が。






——一箇所——傾いた。







「——木が——焼けとる——!!」







——鬼族が——叫んだ。







「——日に——灼かれて——脆く——なっとる——!!」








「——降りろ——!! 全員——降りろ——!!」








——四人が——縄を——伝って——降り始めた。







——だが——一人。







——若い——鬼族が。






——足を——滑らせた。








「——うわあっ——!!」







「——危ない——!!」








——アルフレートが——動いた。







——手を——伸ばし。






——若者の——腕を——掴み。






——そして——引き上げた。








「——掴まれ——!!」






「——アルフレート様——!!」








——若者が——足場に——戻り。







——そして。







——反動で。







——アルフレートが——外へ——投げ出された。








「…………」







——時が——止まったように——見えた。







——三十丈の——高さから。







——彼は——落ちていった。








「——アルフレート様ぁぁぁ——!!!」









——地面に——叩きつけられる——音は。






——妙に——短かった。








「…………」







——荒野が。






——静まり返った。








「——アルフレート様——!!」







——誠が——駆け寄った。







「——アルフレート様——!! 聞こえますか——!!」








「…………」







——返事は——なかった。








「——どいて——!!」







——一色が——押しのけて——脈を——見た。







——そして。







——ゆっくりと——手を——離した。








「…………」







「——一色さん」






「——駄目よ」








「——一色さん——!!」






「——駄目なの——!!」








「…………」







——誠は。






——アルフレートの——手を——握った。







——まだ——温かい。







——だが——動かない。








「——起きて——ください」







——誠は——呼びかけた。







「——アルフレート様。起きて——ください」








「…………」







「——約束——したじゃ——ないですか」








「…………」







「——僕より——先に——死なない、って」








「…………」







——荒野に。






——誰の——声も——なかった。







——ただ。







——完成したばかりの——弓が。






——影の——ない——空に——向かって——立っていた。






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「ハラムの里の弓に、アルフレート様が、行くと言った。駄目です、って言った。レベル1で、芋の袋も持てないのに。"半分なら持てる"、って。半分ですよね。……そしたら、"お前はなぜハラムへ行った。五十七になって、半日も竜に乗って。若い者に任せればよかったであろう"、って。……"同じだ。私も行きたいのだ"、って。だから、分かりました、って言った。重いものは持たないでください、って頼んだけど、"善処する"、って。一番、駄目なやつです。……建造は、過酷だった。影がないから、地上に出られるのは、ごく短い間だけ。四半刻働いて、四半刻休む。鬼族の人が、"効率が悪いぞ"、って言ったけど、ここでは、それでいい。ここの人たちは、二十年、耐えてきた。僕たちが倒れたら、世話をさせることになる。……四月で、櫓が半分。百一本目だから、皆、手順を覚えてる。……でも、アルフレート様は、苦しんでた。梁を持ち上げようとして、よろけてた。休んでください、って言っても、"まだできる"、って。それ以上は、言わなかった。言えば、余計に無理をする人だから。……夜、話した。二度目に石になった時、十三日、真っ暗で音もなくて、"このまま戻れなんだら"、と考えて、恐ろしかった、って。でも、一番恐ろしかったのは、それじゃなくて、"何もせずに終わる"、ことだった、って。……"ゆえに無理をする。悪い癖だ"、って。……だから、約束してもらった。僕より先に、死なないでください、って。"妙なことを言うな"、って言いながら、"約束する"、って。……五月目、櫓が組み上がった。最後の梁。頂上に、アルフレート様がいた。"最後だからな"、って。……梁が収まって、皆が沸いた瞬間、足場が、傾いた。木が、日に灼かれて、脆くなってた。……若い鬼族の人が、足を滑らせた。アルフレート様が、腕を掴んで、引き上げた。……その反動で、外に、投げ出された。三十丈。……一色さんが、脈を見て、手を離した。"駄目なの"、って。……手を、握った。まだ、温かかった。でも、動かなかった。……約束したじゃないですか。僕より先に、死なないって。……じいちゃん」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。この、世界には——死者を——戻す——仕組みが——あることを。




——そして——それが——半月——前に——彼が——会いに——行った——女の——手の——中に——あることも。


そして——アルフレートを——戻すために——支払われる——ものが。




——金だけでは——ないことも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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