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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「聖女様の秘密」

ハラムの里の——名簿を——貼り出して——半月。





——妙な——噂が——誠の——耳に——入った。







「——聖女?」






「——うむ」








——賢者が——渋い——顔で——言った。







「——西の——教会に——おる」






「——傷を——治す。病を——治す」






「——そして——死者を——蘇らせる」








「——死者を——!?」







——誠が——飛び上がった。







「——なぜ——今まで——教えて——くれなかったんですか——!!」








「——金が——要るのだ」







——賢者は——低く——言った。







「——どれくらい——ですか」






「——王族で——一万」








「——一万——!?」






「——庶民には——縁の——ない——話だ」








「…………」







——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——会いに——行きます」






「——やめておけ」








——賢者は——首を——振った。







「——あれは——手強いぞ」









——西の——教会は。






——古びた——木造、だった。







——机も——椅子も——年季が——入っている。






——質素——そのもの、である。








「——立派な——ものだと——思ってました」







——誠が——呟くと。






——並んでいた——信者が——誇らしげに——言った。








「——聖女様は——清貧を——貫いて——おられる——!」






「——なるほど」









——中に——通されると。







——祭壇の——前に。






——一人の——女が——座っていた。







——白い——法衣。





——穏やかな——微笑み。







——だが——目だけが。






——妙に——鋭かった。








「——ようこそ——おいでくださいました」







——彼女は——優雅に——頭を——下げた。







「——聖女ルナと——申します」








「——田中誠です。八百屋を——やっております」








「——存じて——おります」







——ルナは——にっこりと——笑った。







「——空に——影を——お作りに——なった——方ですわね」






「——皆さんが——作りました」








「——ご謙遜を」









——誠は——単刀直入に——切り出した。







「——死者を——蘇らせられる、と——伺いました」






「——ええ」








「——本当に——ですか」






「——本当ですわ」








——ルナは——けろり、と——言った。







「——ただし——お布施を——頂戴します」






「——いくらですか」








「——ケースバイケースですわ」







「——というと?」






「——青天井です」








「…………」







「——貴族の——方なら——千」







——ルナは——指を——折った。







「——王族の——方なら——一万」






「——大商人の——方なら——利の——一割」








「——庶民は?」






「——お支払いに——なれます?」








「…………」







「——命に——値段は——つけられませんもの」







——ルナは——微笑んだ。







「——ですから——お一人ずつ——伺って——おりますの」








「——それ——出せる——だけ——取ってる、って——ことですよね」








「——まあ」



「命は安くはないのよ。」






——ルナが——口元を——押さえた。







「——はっきり——おっしゃいますのね」






「——八百屋ですから」









——ちなみに。






——待合には——値札が——貼ってあった。








*——ヒール(小)……五ゴールド*





*——ヒール(大盛り)……二十ゴールド*








「——ヒール——大盛り、って——なんですか」







——誠が——尋ねると。






——並んでいた——男が——泣きそうな——顔を——した。








「——それが——な」






「——先週——指を——切って——来たんだ」








——男は——請求書を——見せた。







「——一瞬で——治った」






「——だが——請求が——二十だった」








「——指——一本で——大盛り——ですか」






「——聞いたのだ」








——男は——うなだれた。







「——"これは——小では——ないのか"、と」






「——なんて——言われました?」








「——"気持ちが——大盛りでした"、と」








「…………」







「——それと——先月は——五だったのだ」







——別の——女が——口を——挟んだ。







「——今月は——十五だ」






「——理由を——聞いたら——"物価高です"、と」








「——物価、上がってますか?」






「——うちの——芋は——二十年——同じ——値だ」








「——それと——"今日は——気分です"、と——言われた、日も——ある」








「——気分——!?」









——だが。






——誰も——文句を——言わなかった。







——治せるのは。






——彼女だけ、だから、である。









「——ルナさん」







——誠が——祭壇に——戻った。







「——一つ——伺っても——いいですか」






「——どうぞ」








「——いつから——この、世界に——おられるんですか」








「…………」







——ルナの——微笑みが。






——一瞬——止まった。







「——なぜ——そのようなことを」






「——転移者の——方ですよね」








「——ええ」






「——いつ——来られました?」








——ルナは。






——しばらく——黙って。






——そして——けろり、と——答えた。








「——四百年ほど——前ですわ」








「——四百年——!?」







——誠が——目を——見開いた。







「——一番——古いんですか——!?」






「——たぶん」








——ルナは——面倒くさそうに——言った。







「——勇者様より——賢者様より——先ですわ」






「——名もない——村に——落ちましてね」








「——それから——ずっと——治してるんですか」






「——最初は——違いましたわ」








——ルナは——遠い——目を——した。







「——転んだ——子どもの——膝を——治しただけですの」






「——そうしたら——"奇跡だ"、と——騒がれて」






「——その日の——うちに——教会に——連れて行かれましたわ」








「——それで——聖女に?」






「——ええ。給金つき、住み込み、飯つきで」








「——現実的——ですね」






「——生きて——いかねば——なりませんもの」









「——勇者一行にも——おられたと——聞きました」







——誠が——言うと。






——ルナは——顔を——しかめた。








「——三月で——辞めましたわ」






「——なぜ——ですか」






「——儲かりませんの」








「…………」







「——命懸けですのに——日当が——雀の涙ですのよ」







——ルナは——両手を——挙げた。







「——魔物と——戦って——傷だらけに——なって」






「——それで——一日——三ゴールドですわ」








「——安いですね」






「——安すぎますわ」








——ルナは——きっぱりと——言った。







「——ボランティア精神だけでは——お腹は——膨れませんの」








「——それは——分かります」







——誠が——頷いた。







「——え?」








——ルナが。






——初めて——きょとん、と——した。







「——分かって——くださるんですの?」






「——うちも——商売ですから」








——誠は——けろり、と——言った。







「——ただで——野菜を——配ってたら——三日で——潰れます」






「——僕、二十年——値を——つけて——売ってます」








「…………」







——ルナは。






——妙な——顔で——誠を——見た。








「——では——なぜ——いらしたの?」






「——説教では——なくて?」








「——お願いに——来ました」







「——お布施なら——お高くつきますわよ」








「——お金の——話じゃ——ないです」







——誠は——帳面を——出した。







「——これ——ハラムの——里の——名簿です」






「——三百人——おられます」








「——それが——何か?」






「——二十年——前は——千二百人——おられました」








「…………」







——ルナの。






——微笑みが——消えた。








「——九百人——亡くなりました」







——誠は——静かに——言った。







「——暑さと——飢えです」






「——治せる——病気も——ありました」








「…………」







「——ルナさん」







——誠は——頭を——下げた。







「——赤い——里を——回って——いただけませんか」








「——お布施は?」






「——ありません」








「——お断りしますわ」







——ルナが——即答した。







「——ですよね」








——誠は——けろり、と——頷いた。







「——だから——別の——お願いを——します」








「——別の?」







「——治し方を——教えて——ください」








「…………は?」







——ルナが。






——固まった。







「——今——なんと?」






「——ヒールの——使い方です」








——誠は——真剣な——顔で——言った。







「——弟子を——取って——ください」






「——百人——集めます」








「——馬鹿な、ことを——おっしゃらないで」







——ルナが——冷たく——言った。







「——治せる——者が——増えたら——わたくしの——商売が——上がったりですわ」








「——そうですね」






「——お分かりなら——お引き取りを」








「——でも——ルナさん」







——誠は——引かなかった。







「——十八年——後に——星が——落ちます」








「…………」







「——その、時」







——誠は——静かに——言った。







「——金貨は——何の——役にも——立ちません」








「…………」







——ルナは。






——長い、こと——黙っていた。







——そして——ぼそり、と——言った。








「——お帰りください」






「——はい」








——誠は——素直に——立ち上がった。







「——また——来ます」






「——来なくて——結構ですわ」








「——来ます」







——誠は——にっこりと——笑った。







「——商売は——一度で——決まりませんから」









——その、夜。







——教会の——地下。







——誰も——知らぬ——扉の——向こうに。







——別の——世界が——あった。








——金貨の——山。





——宝石の——山。





——純金の——燭台。





——大理石の——床。





——魔道具の——空調。





——王宮より——豪華な——風呂。





——巨大な——酒蔵。







——そして。







——金貨の——上に——飛び込むためだけに——作られた——黄金の——池。








「——ふふ」







——ルナは——金貨を——抱きしめた。







「——今日の——お布施も——上々ですわ」








——彼女は——満面の——笑みを——浮かべた。







「——やっぱり——人助けって——最高ですわ」








——その——えへら顔の笑顔だけは。






——本物、だった。









——だが。






——彼女は——ふと——手を——止めた。







——金貨の——山の——一番——奥に。







——古びた——木箱が——一つ——ある。







——四百年——開けて——いない——箱、である。








「…………」







——ルナは。






——それを——じっと——見て。






——そして——顔を——背けた。








「——十八年、ですって」







——彼女は——ぽつり、と——呟いた。







「——四百年——生きて——おいて」






「——今更——十八年で——慌てる、なんて」








「…………」







——彼女は。






——金貨を——一枚——手に——取った。







——そして——低く——笑った。








「——馬鹿らしい」









——一方。






——帰り道。







「——旦那。無駄足で——ござんしたね」







——駄々丸が——言うと。






——誠は——首を——振った。








「——収穫、ありましたよ」






「——ほう。何がで?」








「——あの、人」







——誠は——歩きながら——言った。







「——"金貨は——何の——役にも——立ちません"、って——言った、時」






「——怒りませんでした」








「…………」







「——普通——怒りますよね」







——誠は——静かに——言った。







「——四百年——集めた——ものを——否定されたんです」






「——でも——黙って——"お帰りください"、でした」








「——それが——どうかしやしたか」








「——たぶん」







——誠は——ぽつり、と——言った。







「——ご自分でも——分かってるんです」








「…………」







「——だから——また——行きます」







——誠は——にっこりと——笑った。







「——十八年——ありますから」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「聖女様がいる、と、聞いた。西の教会。傷も、病も、そして、死者も、蘇らせられる。なぜ今まで教えてくれなかったのか、って聞いたら、賢者さんが、"金が要るのだ。王族で一万"、って。庶民には縁のない話だ、って。……会いに行った。教会は、古びた木造で、質素そのもの。信者さんが、"聖女様は清貧を貫いておられる"、って、誇らしげだった。……聖女ルナさん。四百年前に来た、一番古い転移者だそうだ。勇者様より、賢者様より、先。名もない村に落ちて、転んだ子の膝を治しただけで、"奇跡だ"、と騒がれて、その日のうちに教会へ。給金つき、住み込み、飯つき。……勇者一行にもいたけど、三月で辞めた。"儲かりませんの。命懸けですのに、日当が雀の涙。ボランティア精神だけでは、お腹は膨れませんの"、って。……それは、分かります、って言ったら、きょとん、とされた。うちも商売です。ただで野菜を配ってたら、三日で潰れます。……でも、値段が、ひどかった。ヒール小が五ゴールドで、大盛りが二十。指一本切っただけの人が、二十取られてた。"これは小では"、って聞いたら、"気持ちが大盛りでした"、って。先月五が今月十五で、理由が"物価高です"。うちの芋は二十年、同じ値です。それと、"今日は気分です"、って言われた日も、あるらしい。……でも、誰も、文句を言わない。治せるのが、あの人だけだから。……ハラムの名簿を見せて、赤い里を回ってください、って頼んだ。お布施は、ありません、って言ったら、即答で、断られた。……だから、別のお願いをした。治し方を教えてください、弟子を百人集めます、って。"治せる者が増えたら、商売が上がったりですわ"、って。……そうですね。でも、十八年後に星が落ちたら、金貨は、何の役にも立ちません、って言った。……そしたら、黙って、"お帰りください"、って。……帰り道、駄々丸さんが、"無駄足でござんしたね"、って。でも、収穫は、ありました。あの人、"金貨は役に立たない"、って言われた時、怒らなかった。四百年集めたものを、否定されたのに。……たぶん、ご自分でも、分かってるんです。だから、また行きます。じいちゃん。商売は、一度じゃ、決まりません」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。金貨の——山の——一番——奥に。




——四百年——開けられて——いない——木箱が——一つ——あることを。


そして——その——中に——入って——いる——ものを。




——ただ一人——知って——いる——者が。






——遥かな——天で——蕎麦を——打って——いることも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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