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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「第一回 のんびり釣り大会」

明け方。






——地底湖の——ほとりに。






——大勢の——人が——集まっていた。








*——「第一回——のんびり——釣り大会」*








「——本当に——やったんですね」







——誠が——呆れた。







「——第七層の——催しとして——正式に——通した」







——ノワールが——胸を——張った。







「——予定表に——書いたのだ」








「——三十軒から——文句は?」






「——四十軒に——増えた」








「——増えたんですか——!?」






「——だが——押し切った」









——優勝の——賞品は。






——札に——大きく——書いてあった。








*——「田中青果店——提供」*





*——「旬の——野菜——一年分」*








「——おお——!!」






「——一年分は——助かる——!!」






「——近頃——葉物が——高いからな——!!」








「——あの、それ」







——誠が——おずおずと——言った。







「——僕、聞いてないんですけど」






「——書いて——おいた」








「——聞いてください——!!」









## 受付






——受付には。






——見慣れた——顔が——並んでいた。








「——お名前を——どうぞ」







——係の——者が——筆を——構えた。








「——八百屋の——田中です」







「——アルフレートだ」







「——レオンだ——!!」







「——魔王である」







「——ノワールだ」








——係の——手が。






——止まった。








「……あの」






「——なんだ」






「——最後の——お二人」








「——うむ」






「——本名で——お願いします」








「…………」






「…………」








——魔王と——ノワールが。






——目を——そらした。








「——魔王である」






「——ノワールだ」








「——本名は——!?」






「——第二十条だ」






「——何ですか——それ——!!」









——十分、後。






——名簿は——こうなった。








*——田中誠(八百屋)*





*——アルフレート(八百屋の雇い人)*





*——レオン(荷運び)*





*——魔王(本名——非公開)*





*——ノワール(本名——非公開)*








「……まあ——よいか」







——係が——諦めた。








「——なぜ——私が——"荷運び"、なのだ——!!」







——レオンが——抗議した。







「——荷を——運んで——おられますよね」






「——"光の——勇者"、と——書け——!!」








「——それ——職業です」






「——ぬう——!!」









## 開会






——司会は——駄々丸、だった。








「——さても——皆様——!!」







——扇子が——開かれた。







「——本日は——"のんびり"、釣る——大会で——ござんす——!!」








「——おお——!!」







「——つきましては——決まりが——ござんす——!!」








——駄々丸は——札を——掲げた。








「——一つ——! 危ない——魔法は——禁止——!!」






「——二つ——! 巨大な——兵器は——禁止——!!」






「——三つ——! 湖を——干上がらせる——行いは——禁止——!!」








「…………」







「——待て」







——レオンが——小声で——言った。







「——三つ目は——何だ」






「——先週です」








——誠が——静かに——答えた。







「——巨大魚の——討伐の、時に」






「——この、二人が」








「…………」







——魔王と——ノワールが。






——揃って——顔を——背けた。








「——魚は——どうなった」






「——いませんでした」








「——いなかったのか——!!」






「——最初から——噂だけでした」








「——では——なぜ——干上がらせた——!!」






「——確かめる——ためだ」








「——やり方が——ある——だろう——!!」









## 競技






「——始め——!!」







——一斉に——糸が——投げられた。







——ちゃぽん。







——湖は——静か、だった。








「——今日は——必殺技を——使わぬ」







——レオンが——宣言した。







「——魔法も——封じる」






「——秘密兵器も——封じる」








「——その、方が——釣れます」







——誠が——けろり、と——言った。









——半刻。







——誰も——釣れなかった。








「——魚が——おらぬのでは——ないか——!」







——レオンが——騒いだ。







「——います」








——誠は——静かに——言った。







「——皆さんが——騒ぎすぎです」








「…………」







——四人が。






——慌てて——口を——押さえた。









——さらに——一刻。







——魔王が——小声で——尋ねた。








「——田中」






「——はい」






「——魚は——今——何を——考えて——おるのだろうか」








「…………」







——誠は。






——少し——考えて。






——そして——答えた。








「——"今日は——人が——多いな"、くらいじゃ——ないですか」








「——なるほど」







——魔王は——深く——頷いた。







「——真面目に——受け取りましたね」






「——大事な、ことだ」









——その——横で。






——ノワールが——包みを——開けようと——していた。








「——まだ——早いです」







——誠が——止めた。







「——む」






「——あと——一刻——我慢して——ください」








「——分かった」







——ノワールは——素直に——包みを——閉じた。








「——首領が——八百屋に——従って——おる」







——部下の——一人が——小声で——言った。







「——第二十一条だ」






「——ああ、あれか」









## 最初の一匹






——突然。






——レオンの——浮きが——沈んだ。








「——来た——!」







——だが——今度は——誰も——騒がなかった。







——誠が——静かに——親指を——立てる。







——レオンも——静かに——竿を——立てた。








——ゆっくり。






——ゆっくり。







——そして。







——ぴちぴち——!!







——一尺ほどの——魚が——上がった。








「——釣れた——!!」







——レオンが——両手で——掲げた。







——周りから——拍手が——起きた。








「——おめでとう——!!」






「——いい——型だ——!!」








「…………」







——レオンは。






——照れくさそうに——笑った。







「——世界を——救った、時より——緊張した」








「——皆さん——それ——言いますね」







——誠が——微笑んだ。









## 昼






——全員で——弁当を——広げた。







——誠の——弁当は——野菜だらけ、だった。








「——田中」






「——はい」






「——その——卵焼き」








——魔王が——じっと——見つめていた。







「——換えて——もらえぬか」






「——いいですよ」








「——代わりに——これを」







——差し出されたのは——揚げた——肉、だった。








「——魔王さん——料理——上手に——なりましたね」






「——爆発せぬように——なった」








「——そこから——ですか」








「——私の——漬物も——どうぞ——!」







——レオンが——出した。







「——我は——腸詰めを」







——ノワールも——出した。








「——私は——芋しか——ないぞ」







——アルフレートが——申し訳なさそうに——言った。







「——芋も——ください」






「——よいのか」






「——うち、の——芋ですし」








「——そうであった」









——気づけば。






——五人の——おかずは——全部——混ざっていた。








「——結局——皆で——食べるのが——一番ですね」







——誠が——笑うと。






——四人も——頷いた。









## 午後






——残り——半刻。







——誠だけが——まだ——釣れて——いなかった。








「——田中。大丈夫か」







——アルフレートが——心配そうに——言った。







「——今日は——駄目かも——しれませんね」







——誠は——けろり、と——言った。








「——賞品は——お前の——ものだぞ」






「——そう——なんですよ」








「——釣らねば——出すだけだ」






「——そう——なんですよ」









——その、時、だった。







——浮きが。






——すう、と——沈んだ。








「…………」







——誠は——慌てなかった。







——竿を——少し——立てる。






——糸を——送り込む。







——そして——静かに——合わせた。








——ぐん——!!







「——大きい——!!」








——四人が——息を——呑んだ。







「——手伝おうか——!!」






「——いえ」








——誠は——首を——振った。







「——これは——ゆっくり——やります」









——四半刻——近い——やりとりの——末。







——銀色に——光る——大きな——魚が——姿を——現した。








「——おおおおお——!!」







——湖畔が——沸いた。







「——でかい——!!」






「——優勝だ——!!」









## 閉会






「——結果——発表で——ござんす——!!」







——駄々丸が——扇子を——広げた。







「——第三位——! ノワール様——!!」








「——やった——!!」






「——首領が——喜んで——おられる——!!」






「——イーッ——!!」








「——第二位——! レオン様——!!」







「——惜しい——!!」








「——そして——第一位——!!」







——駄々丸が——間を——取った。







「——八百屋の——田中様——!!」








——湖畔が——大きな——拍手に——包まれた。








「——優勝の——秘訣は——なんで——ござんしょう——!!」







——駄々丸が——尋ねると。






——誠は——少し——考えて。






——そして——答えた。








「——急がない、ことです」








「…………」







「——魚も——人も——野菜も」







——誠は——静かに——言った。







「——急がせると——いい——結果に——ならない、ことが——多いんです」








「…………」







——湖畔が。






——静かに——なった。








「……なるほど」







——魔王が——ぽつり、と——言った。







「——だから——貴殿の——野菜は——うまいのか」








「——だから——町の——者に——慕われるのか」







——ノワールも——頷いた。








「——今日は——魚より——よい——言葉が——釣れたな——!!」







——レオンが——笑って——拍手した。









## 帰り道






——ノワールが——不思議そうに——尋ねた。







「——田中」






「——はい」






「——己で——出した——賞品を——己で——持ち帰ることに——なったな」








「——そう——なんですよ」







——誠が——困った——顔で——笑った。







「——一年分——です」








——四人が——顔を——見合わせた。







——そして——同時に——言った。








「——では——皆で——食おう」








「——そうなると——思いました」









——夕刻。






——影の——下を——五人で——歩いた。







——世界を——救った——男。





——主人公を——名乗っていた——男。





——元・魔王。





——悪の組織の——首領。





——そして——八百屋。








「——次も——やるか」







——アルフレートが——言った。







「——第二回——ですか」






「——うむ」








「——いつに——します」






「——半年——後で——どうだ」








「——半年」







——誠が——指を——折った。







「——その、頃は——ハラムの——弓が——できてます、ね」








「——ちょうど——よい」







——アルフレートは——頷いた。







「——弓を——建てて——戻って——釣る」






「——よい——年に——なるな」








「——そうですね」







——誠も——笑った。







「——じゃあ——半年——後に」








「——約束だ」








「…………」







——アルフレートが。






——ふと——足を——止めた。








「——どうしました?」






「——いや」








——彼は——首を——振って。






——そして——言い直した。








「——約束は——せぬ」








「——え?」






「——努める、と——しておこう」








「——なんですか——それ」







——誠が——笑った。







「——アルフレート様——変な——ところで——律儀ですね」








「——うるさい」









——夕日は——ない。






——影の——下だから、である。







——だが——空には。







——星が——出ていた。







——五人は——笑いながら——町へ——帰った。






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「ノワールさんが、本当に、釣り大会を、開いた。第七層の催しとして、正式に通したらしい。文句は、三十軒から、四十軒に、増えたけど、押し切ったって。……賞品が、"田中青果店提供・旬の野菜一年分"、だった。僕、聞いてません。"書いておいた"、って。聞いてください。……受付で、魔王さんとノワールさんが、"本名で"、って言われて、揉めてた。第二十条だから、名乗れない。結局、"本名非公開"、で、通った。レオンさんは、"荷運び"、って書かれて、抗議してた。荷、運んでますよね。……決まりが三つ。危ない魔法禁止、巨大兵器禁止、湖を干上がらせる行い禁止。三つ目は、先週、あの二人がやりました。巨大魚を探すために。しかも、魚は、最初から、いませんでした。……半刻、誰も釣れなくて、レオンさんが、"魚がおらぬのでは"、って騒いだ。皆さんが騒ぎすぎです、って言ったら、四人とも、口を押さえてた。……魔王さんが、"魚は今、何を考えておるのだろうか"、って。"今日は人が多いな、くらいじゃないですか"、って答えたら、深く頷いてた。真面目な人です。……最初の一匹は、レオンさん。皆、静かに見守った。"世界を救った時より緊張した"、って。皆さん、それ、言いますね。……昼、五人で弁当を広げたら、おかずが全部、混ざった。魔王さんの揚げ肉、レオンさんの漬物、ノワールさんの腸詰め、アルフレート様の芋。うちの芋でしたけど。……午後、僕だけ釣れてなくて、賞品を自分で出すことになりそうだったけど、最後に、大きいのが来た。四半刻、かかった。……優勝の秘訣を聞かれて、"急がないことです。魚も、人も、野菜も。急がせると、いい結果にならないことが多いんです"、って答えた。魔王さんが、"だから貴殿の野菜はうまいのか"、って。……結局、賞品は自分で持ち帰ることになって、皆で食べることに、なりました。……帰り道、アルフレート様が、"次もやるか。半年後で、どうだ"、って。その頃、ハラムの弓ができてますね、って言ったら、"弓を建てて、戻って、釣る。よい年になるな"、って。……"約束だ"、って言いかけて、"約束はせぬ。努める、としておこう"、って、言い直してた。変なところで、律儀な人です。じいちゃん、半年後が、楽しみです」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。「半年——後に」、と——交わした——その、言葉が。




——第二回を——迎える、ことが——ないのを。


そして——「約束は——せぬ。努める、と——しておこう」、と——言い直した——その——律儀さが。




——どういう——ことで——あったのかも。





——今は……まだ、笑って——歩いて——いる——五人の——誰も——知らない。

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