閑話「第一回 のんびり釣り大会」
明け方。
⸻
⸻
⸻
⸻
——地底湖の——ほとりに。
⸻
⸻
⸻
⸻
——大勢の——人が——集まっていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
*——「第一回——のんびり——釣り大会」*
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——本当に——やったんですね」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——呆れた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——第七層の——催しとして——正式に——通した」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ノワールが——胸を——張った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——予定表に——書いたのだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——三十軒から——文句は?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——四十軒に——増えた」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——増えたんですか——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——だが——押し切った」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——優勝の——賞品は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——札に——大きく——書いてあった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
*——「田中青果店——提供」*
⸻
⸻
⸻
*——「旬の——野菜——一年分」*
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おお——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——一年分は——助かる——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——近頃——葉物が——高いからな——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——あの、それ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——おずおずと——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——僕、聞いてないんですけど」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——書いて——おいた」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——聞いてください——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 受付
⸻
⸻
⸻
⸻
——受付には。
⸻
⸻
⸻
⸻
——見慣れた——顔が——並んでいた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——お名前を——どうぞ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——係の——者が——筆を——構えた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——八百屋の——田中です」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——アルフレートだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——レオンだ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔王である」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ノワールだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——係の——手が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——止まった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「……あの」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なんだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——最後の——お二人」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うむ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——本名で——お願いします」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王と——ノワールが。
⸻
⸻
⸻
⸻
——目を——そらした。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔王である」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ノワールだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——本名は——!?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——第二十条だ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——何ですか——それ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——十分、後。
⸻
⸻
⸻
⸻
——名簿は——こうなった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
*——田中誠(八百屋)*
⸻
⸻
⸻
*——アルフレート(八百屋の雇い人)*
⸻
⸻
⸻
*——レオン(荷運び)*
⸻
⸻
⸻
*——魔王(本名——非公開)*
⸻
⸻
⸻
*——ノワール(本名——非公開)*
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「……まあ——よいか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——係が——諦めた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なぜ——私が——"荷運び"、なのだ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——レオンが——抗議した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——荷を——運んで——おられますよね」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——"光の——勇者"、と——書け——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——それ——職業です」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ぬう——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 開会
⸻
⸻
⸻
⸻
——司会は——駄々丸、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——さても——皆様——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——扇子が——開かれた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——本日は——"のんびり"、釣る——大会で——ござんす——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おお——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——つきましては——決まりが——ござんす——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——駄々丸は——札を——掲げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——一つ——! 危ない——魔法は——禁止——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——二つ——! 巨大な——兵器は——禁止——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——三つ——! 湖を——干上がらせる——行いは——禁止——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——待て」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——レオンが——小声で——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——三つ目は——何だ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——先週です」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——静かに——答えた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——巨大魚の——討伐の、時に」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——この、二人が」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王と——ノワールが。
⸻
⸻
⸻
⸻
——揃って——顔を——背けた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魚は——どうなった」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——いませんでした」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——いなかったのか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——最初から——噂だけでした」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——では——なぜ——干上がらせた——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——確かめる——ためだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——やり方が——ある——だろう——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 競技
⸻
⸻
⸻
⸻
「——始め——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一斉に——糸が——投げられた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ちゃぽん。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——湖は——静か、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——今日は——必殺技を——使わぬ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——レオンが——宣言した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔法も——封じる」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——秘密兵器も——封じる」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——その、方が——釣れます」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——けろり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——半刻。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誰も——釣れなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魚が——おらぬのでは——ないか——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——レオンが——騒いだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——います」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——静かに——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——皆さんが——騒ぎすぎです」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——四人が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——慌てて——口を——押さえた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——さらに——一刻。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王が——小声で——尋ねた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——田中」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——はい」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魚は——今——何を——考えて——おるのだろうか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は。
⸻
⸻
⸻
⸻
——少し——考えて。
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——答えた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——"今日は——人が——多いな"、くらいじゃ——ないですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なるほど」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王は——深く——頷いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——真面目に——受け取りましたね」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——大事な、ことだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——その——横で。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ノワールが——包みを——開けようと——していた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——まだ——早いです」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——止めた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——む」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——あと——一刻——我慢して——ください」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——分かった」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ノワールは——素直に——包みを——閉じた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——首領が——八百屋に——従って——おる」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——部下の——一人が——小声で——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——第二十一条だ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ああ、あれか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 最初の一匹
⸻
⸻
⸻
⸻
——突然。
⸻
⸻
⸻
⸻
——レオンの——浮きが——沈んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——来た——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが——今度は——誰も——騒がなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——静かに——親指を——立てる。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——レオンも——静かに——竿を——立てた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ゆっくり。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ゆっくり。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ぴちぴち——!!
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——一尺ほどの——魚が——上がった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——釣れた——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——レオンが——両手で——掲げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——周りから——拍手が——起きた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おめでとう——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——いい——型だ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——レオンは。
⸻
⸻
⸻
⸻
——照れくさそうに——笑った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——世界を——救った、時より——緊張した」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——皆さん——それ——言いますね」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——微笑んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 昼
⸻
⸻
⸻
⸻
——全員で——弁当を——広げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠の——弁当は——野菜だらけ、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——田中」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——はい」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——その——卵焼き」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王が——じっと——見つめていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——換えて——もらえぬか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——いいですよ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——代わりに——これを」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——差し出されたのは——揚げた——肉、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魔王さん——料理——上手に——なりましたね」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——爆発せぬように——なった」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そこから——ですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——私の——漬物も——どうぞ——!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——レオンが——出した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——我は——腸詰めを」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ノワールも——出した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——私は——芋しか——ないぞ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——アルフレートが——申し訳なさそうに——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——芋も——ください」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——よいのか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うち、の——芋ですし」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そうであった」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——気づけば。
⸻
⸻
⸻
⸻
——五人の——おかずは——全部——混ざっていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——結局——皆で——食べるのが——一番ですね」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——笑うと。
⸻
⸻
⸻
⸻
——四人も——頷いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 午後
⸻
⸻
⸻
⸻
——残り——半刻。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠だけが——まだ——釣れて——いなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——田中。大丈夫か」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——アルフレートが——心配そうに——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——今日は——駄目かも——しれませんね」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——けろり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——賞品は——お前の——ものだぞ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そう——なんですよ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——釣らねば——出すだけだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そう——なんですよ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——その、時、だった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——浮きが。
⸻
⸻
⸻
⸻
——すう、と——沈んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——慌てなかった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——竿を——少し——立てる。
⸻
⸻
⸻
⸻
——糸を——送り込む。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——静かに——合わせた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ぐん——!!
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——大きい——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——四人が——息を——呑んだ。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——手伝おうか——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——いえ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——首を——振った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——これは——ゆっくり——やります」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——四半刻——近い——やりとりの——末。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——銀色に——光る——大きな——魚が——姿を——現した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——おおおおお——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——湖畔が——沸いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——でかい——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——優勝だ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 閉会
⸻
⸻
⸻
⸻
「——結果——発表で——ござんす——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——駄々丸が——扇子を——広げた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——第三位——! ノワール様——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——やった——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——首領が——喜んで——おられる——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——イーッ——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——第二位——! レオン様——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——惜しい——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そして——第一位——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——駄々丸が——間を——取った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——八百屋の——田中様——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——湖畔が——大きな——拍手に——包まれた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——優勝の——秘訣は——なんで——ござんしょう——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——駄々丸が——尋ねると。
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——少し——考えて。
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——答えた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——急がない、ことです」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——魚も——人も——野菜も」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠は——静かに——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——急がせると——いい——結果に——ならない、ことが——多いんです」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——湖畔が。
⸻
⸻
⸻
⸻
——静かに——なった。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「……なるほど」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——魔王が——ぽつり、と——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——だから——貴殿の——野菜は——うまいのか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——だから——町の——者に——慕われるのか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——ノワールも——頷いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——今日は——魚より——よい——言葉が——釣れたな——!!」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——レオンが——笑って——拍手した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
## 帰り道
⸻
⸻
⸻
⸻
——ノワールが——不思議そうに——尋ねた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——田中」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——はい」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——己で——出した——賞品を——己で——持ち帰ることに——なったな」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そう——なんですよ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——困った——顔で——笑った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——一年分——です」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——四人が——顔を——見合わせた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——同時に——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——では——皆で——食おう」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そうなると——思いました」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——夕刻。
⸻
⸻
⸻
⸻
——影の——下を——五人で——歩いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——世界を——救った——男。
⸻
⸻
⸻
——主人公を——名乗っていた——男。
⸻
⸻
⸻
——元・魔王。
⸻
⸻
⸻
——悪の組織の——首領。
⸻
⸻
⸻
——そして——八百屋。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——次も——やるか」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——アルフレートが——言った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——第二回——ですか」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うむ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——いつに——します」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——半年——後で——どうだ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——半年」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——指を——折った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——その、頃は——ハラムの——弓が——できてます、ね」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——ちょうど——よい」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——アルフレートは——頷いた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——弓を——建てて——戻って——釣る」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——よい——年に——なるな」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——そうですね」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠も——笑った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——じゃあ——半年——後に」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——約束だ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「…………」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——アルフレートが。
⸻
⸻
⸻
⸻
——ふと——足を——止めた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——どうしました?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——いや」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——彼は——首を——振って。
⸻
⸻
⸻
⸻
——そして——言い直した。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——約束は——せぬ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——え?」
⸻
⸻
⸻
⸻
「——努める、と——しておこう」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——なんですか——それ」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——誠が——笑った。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——アルフレート様——変な——ところで——律儀ですね」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
「——うるさい」
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——夕日は——ない。
⸻
⸻
⸻
⸻
——影の——下だから、である。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——だが——空には。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——星が——出ていた。
⸻
⸻
⸻
⸻
⸻
——五人は——笑いながら——町へ——帰った。
⸻
⸻
⸻
⸻
その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
*「ノワールさんが、本当に、釣り大会を、開いた。第七層の催しとして、正式に通したらしい。文句は、三十軒から、四十軒に、増えたけど、押し切ったって。……賞品が、"田中青果店提供・旬の野菜一年分"、だった。僕、聞いてません。"書いておいた"、って。聞いてください。……受付で、魔王さんとノワールさんが、"本名で"、って言われて、揉めてた。第二十条だから、名乗れない。結局、"本名非公開"、で、通った。レオンさんは、"荷運び"、って書かれて、抗議してた。荷、運んでますよね。……決まりが三つ。危ない魔法禁止、巨大兵器禁止、湖を干上がらせる行い禁止。三つ目は、先週、あの二人がやりました。巨大魚を探すために。しかも、魚は、最初から、いませんでした。……半刻、誰も釣れなくて、レオンさんが、"魚がおらぬのでは"、って騒いだ。皆さんが騒ぎすぎです、って言ったら、四人とも、口を押さえてた。……魔王さんが、"魚は今、何を考えておるのだろうか"、って。"今日は人が多いな、くらいじゃないですか"、って答えたら、深く頷いてた。真面目な人です。……最初の一匹は、レオンさん。皆、静かに見守った。"世界を救った時より緊張した"、って。皆さん、それ、言いますね。……昼、五人で弁当を広げたら、おかずが全部、混ざった。魔王さんの揚げ肉、レオンさんの漬物、ノワールさんの腸詰め、アルフレート様の芋。うちの芋でしたけど。……午後、僕だけ釣れてなくて、賞品を自分で出すことになりそうだったけど、最後に、大きいのが来た。四半刻、かかった。……優勝の秘訣を聞かれて、"急がないことです。魚も、人も、野菜も。急がせると、いい結果にならないことが多いんです"、って答えた。魔王さんが、"だから貴殿の野菜はうまいのか"、って。……結局、賞品は自分で持ち帰ることになって、皆で食べることに、なりました。……帰り道、アルフレート様が、"次もやるか。半年後で、どうだ"、って。その頃、ハラムの弓ができてますね、って言ったら、"弓を建てて、戻って、釣る。よい年になるな"、って。……"約束だ"、って言いかけて、"約束はせぬ。努める、としておこう"、って、言い直してた。変なところで、律儀な人です。じいちゃん、半年後が、楽しみです」*
⸻
心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
⸻
⸻
——たとえ——空に——見えなくても。
⸻
⸻
⸻
まだこの時の誠は知らない。「半年——後に」、と——交わした——その、言葉が。
⸻
⸻
——第二回を——迎える、ことが——ないのを。
そして——「約束は——せぬ。努める、と——しておこう」、と——言い直した——その——律儀さが。
⸻
⸻
——どういう——ことで——あったのかも。
⸻
⸻
⸻
——今は……まだ、笑って——歩いて——いる——五人の——誰も——知らない。




