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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「世界を救った三人、釣り場では、ただのおじさん」

その日。






——地底湖の——ほとりに。






——三人の——男が——並んで——座っていた。








——一人は。






——元・大英雄。






——世界を——救った——男。







——アルフレート。








「……釣れん」








——隣は。






——四本の——角。






——真紅の——巨躯。







——魔王。








「——貴殿も——一匹も——釣れて——おらぬな」







「——お前も——だろう」








「——我は——待つのが——得意だ」







「——千年——寝て——おっただけであろう」








「——失敬な」









——さらに——隣。







——黒い——マント。






——目元だけを——覆う——面。







——暗黒教団デスクロウ——首領。







——ノワール。








「——二人とも——集中が——足らぬ」







「——お前も——釣れて——おらんぞ」








「——我は——魚との——信頼を——築いて——おる」







「——餌を——つけて——座って——おるだけでは——ないのか」








「…………」






「…………」






「…………」








——沈黙。







——地底湖。






——水の——滴る——音。






——ぬるい——風。







——平和、である。









——二十年——前なら。







「——魔王——!! 覚悟——!!」






「——世界を——滅ぼす——!!」






「——我らが——支配する——!!」








——だった。







——だが——今。








「……平和だな」







——アルフレートが——呟いた。







「——うむ」






「——悪事より——疲れぬ」









——しばらく——して。






——アルフレートが——口を——開いた。








「——なあ、魔王」






「——なんだ」






「——お前、昔は——世界征服が——したかったのだろう」








「——うむ」






「——今は?」








——魔王は。






——じっと——竿の——先を——見つめた。








「——魚を——一匹——釣りたい」








「——変わったな」






「——貴殿も、だ」








「——私が?」






「——昔は——剣ばかり——振って——おった」








——魔王は——アルフレートを——見た。







「——今は——竿だ」








「…………」






「——確かに、な」









——ノワールが——湯呑みを——傾けた。







「——我は——もっと——変わったぞ」







「——ほう」






「——昔は——世界征服の——計画書を——書いて——おった」








「——今は?」






「——第七層の——催しの——予定表だ」








「…………」






「——どちらが——難しい」








——魔王が——尋ねると。






——ノワールは——即答した。








「——予定表だ」







「——早いな」






「——世界征服は——反対されぬ」








——ノワールは——重い——声で——言った。







「——だが——催しの——日取りは——必ず——揉める」






「——"その日は——畑が——忙しい"、と——三十軒から——言われた」








「——それは——大変だな」






「——大変だ」









——その、時。







——アルフレートの——竿が——動いた。








「——来た——!!」







——三人が——一斉に——身を——乗り出した。








「——大物だ——!!」






「——魔法で——引き上げるか——!!」








「——禁止だ——!!」







「——怪人部隊を——呼ぶか——!!」








「——禁止だ——!!」









——三人で——ゆっくりと——竿を——引いた。







——そして。







——釣れた。







——小さな——魚、だった。








「…………」






「——小さいな」








「——だが——初めての——一匹だ」







——魔王が——言った。







「——見事な——成果である」







——ノワールも——頷いた。








「…………」







——アルフレートは。






——手の——中の——小魚を——見つめて。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——世界を——救った、時より——褒められて——おる——気が——する」








「——あの、時は——皆——泣いて——おったからな」






「——褒める——余裕が——なかったのだ」









——昼。






——三人で——飯を——広げた。








「——魚は——焼くか」







——アルフレートが——尋ねると。






——魔王が——手を——挙げた。








「——待て」






「——なんだ」






「——今日は——記念だ」








「——何の——記念だ」






「——友に——なった——記念だ」








「…………」






「…………」








——アルフレートと——ノワールが。






——同時に——目を——そらした。








「——恥ずかしい、ことを——言うな」






「——事実である」








「…………まあ——よい」







——アルフレートは——魚を——湖へ——戻した。







「——元気で——やれ」









——その、時。







——遠くから——声が——した。







「——助けてー——!!」








——三人が——同時に——立ち上がった。







「——行くぞ——!!」






「——転移する——!!」






「——救助班——出動——!!」









——現場は。






——水路の——脇、だった。







——子どもが——一人。






——帽子を——流されて——泣いていた。








「——それだけか——!?」







——ノワールが——拍子抜けした。







「——おかあさんに——もらったのに——!!」








「…………」







——三人の——顔つきが——変わった。








「——大事だな」






「——大事である」






「——取りに——行くぞ——!!」









——三分、後。







——帽子は——見つかった。







——アルフレートが——水路に——飛び込み。






——魔王が——流れを——止め。






——ノワールが——下流で——網を——構えていた。








「——ありがとう——!!」







——子どもが——帽子を——抱きしめた。







「——困った——者を——助けるのは——当然だ」







——アルフレートが——胸を——張った。








「——昔なら——世界征服に——使って——おった——力だ」







——魔王が——ぼそり、と——言った。







「——今は——町を——守るために——使う」







——ノワールも——頷いた。








「——おじちゃんたち——誰——!?」







——子どもが——尋ねると。






——三人は——顔を——見合わせた。







——そして。







「——ただの——釣り仲間だ」









——夕方。






——釣り場に——戻った。







——結局。






——魚は——一匹だけ、だった。







——しかも——逃がした。








「——また——来るか」







——アルフレートが——言った。







「——次は——もっと——大きいのを」






「——釣りの——大会を——開こう」








「——町の——催しに——する——気だな」






「——当然だ」








「——予定表を——書くのだろう」






「——三十軒から——文句が——来るがな」









——三人は。






——並んで——地底湖を——眺めた。







——世界を——救った——男。






——元・魔王。






——元・悪の——首領。







——二十年——前なら——絶対に——交わらなかった——三人が。







——今は。







——ただの——釣り仲間、だった。









——帰り道。







「——なあ」







——アルフレートが——ふと——言った。







「——なんだ」






「——一つ——聞いてよいか」








「——申せ」







——アルフレートは。






——少し——ためらって。






——そして——尋ねた。








「——お前たち——死ぬのは——怖いか」








「…………」







——二人が。






——足を——止めた。








「——妙な、ことを——聞くな」






「——なんとなくだ」








「——我は——死なぬ」







——魔王が——けろり、と——言った。







「——ゆえに——考えた、ことも——ない」








「——我は——怖い」







——ノワールが——ぼそり、と——言った。







「——ほう」






「——部下が——三百——おる」








——ノワールは——静かに——言った。







「——我が——死ねば——飯を——作る——者が——おらぬ」








「——それが——理由か——!!」






「——大事な、ことだ」









——アルフレートは。






——低く——笑って。






——そして——言った。








「——私は——な」






「——うむ」






「——死ぬのは——怖くない」








「——ほう」






「——二度——死んだからな」








——アルフレートは——空を——見上げた。







——影の——下。






——夜が——来ている。








「——だが——一つだけ——嫌な、ことが——ある」







「——なんだ」








「——あやつが——泣く」








「…………」







——二人は。






——何も——言わなかった。








「——一度目の、時な」







——アルフレートは——続けた。







「——私が——戻ったら——あやつ——四日——店を——閉めて——おった」








「——ほう」






「——二十年で——一度きりだ」








「…………」







「——二度目は——十三日だ」







——アルフレートは——ぼそり、と——言った。







「——石の——前で——飯も——食わずに——座って——おったそうだ」








「…………」







「——だから——な」







——彼は——歩き出した。







「——三度目は——ない、ように——する」








「——できるのか」






「——努める」








「——それは——約束では——ないな」







——魔王が——言うと。






——アルフレートは——笑った。








「——私は——嘘は——つかぬ」






「——ゆえに——約束は——せぬ」









——翌週。






——広場の——掲示板に。






——新しい——札が——貼られた。








*——「地底湖に——巨大魚——出現」*





*——「討伐——求む」*








「——討伐……」







——アルフレートが——札を——見つめた。







「——釣り、では?」







——魔王が——首を——かしげた。







「——依頼主に——確かめよう」







——ノワールが——言った。








——三人は。






——顔を——見合わせた。







——そして。







「——行くか」






「——うむ」






「——道具は——我が——用意する」








「——大袈裟に——するなよ」






「——善処する」









——こうして。







——史上——初の。







——元・大英雄と——魔王と——悪の組織首領による。







——**巨大魚——釣り討伐作戦**、が——始まる、ことに——なる。








——ただし。







——それは——また——別の——話である。






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「アルフレート様と、魔王さんと、ノワールさんが、地底湖に釣りに行った。三人で。……夕方、帰ってきて、報告してくれた。一匹しか釣れなかったそうだ。しかも、小さくて、逃がした。……アルフレート様が、"世界を救った時より、褒められてる気がする"、って。魔王さんが、"あの時は皆、泣いておったからな。褒める余裕がなかった"、って。……途中で、子どもが帽子を流して、三人で助けに行ったらしい。アルフレート様が飛び込んで、魔王さんが流れを止めて、ノワールさんが下流で網。三分で、済んだ。……子どもに、"おじちゃんたち、誰"、って聞かれて、三人とも、"ただの釣り仲間だ"、って答えたそうだ。……ノワールさんが、"次は釣り大会を開く"、って。町の催しにする気ですね、って言ったら、"当然だ"、って。予定表を書くのが、世界征服より難しいらしい。"世界征服は反対されぬ。だが、催しの日取りは必ず揉める。その日は畑が忙しい、と三十軒から言われた"、って。……大変ですね。……それと、掲示板に、"地底湖に巨大魚出現。討伐求む"、って、札が貼られてた。三人で、"討伐か"、"釣りでは"、"依頼主に確かめよう"、って、話し合ってた。行くみたいです。……アルフレート様が、帰り際に、妙なことを言った。"三度目は、ない、ようにする"、って。何がですか、って聞いたら、"なんでもない"、って。……じいちゃん。あの三人、仲がいいです」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。この、日——帰り道で——アルフレートが——言った——「三度目は——ない、ように——する」、が。




——約束では——なかったことを。


そして——「私は——嘘は——つかぬ。ゆえに——約束は——せぬ」、という——その、言葉が。




——三月、後に——どういう——形で——果たされるのかも。





——今は……まだ、言った——本人すら——知らない。

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