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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「名前を、つける」

きっかけは——ごく——些細な——ことだった。







「——おい、賢者」






「——なんだ、武闘家」






「——武闘家に——伝言だ」








「——どっちの——武闘家だ——!」









——広場で。






——妙な——言い合いが——起きていた。








「——どうしました」







——誠が——覗くと。






——賢者が——頭を——抱えていた。








「——不便なのだ——!」






「——何がですか」






「——名だ——!」








——賢者は——広場を——指した。







「——"賢者"、が——三人——おる」






「——"武闘家"、が——五人——おる」






「——"魔術師"、に——至っては——四十人だ——!」








「——確かに——多いですね」






「——先ほど——伝言が——別の——武闘家に——渡った——!」








——賢者は——絶望的な——顔を——した。







「——三日——気づかなんだ——!」








「…………」







——誠は。






——しばらく——考えて。






——そして——言った。








「——名前、つけましょうか」








「…………は?」









## 賢者






「——待て、田中」







——賢者が——身構えた。







「——私は——本名を——思い出せぬのだぞ」






「——知ってます」








「——なら——勝手に——つけるのは——まずかろう」






「——仮の——名です」








——誠は——けろり、と——言った。







「——思い出したら——そっちに——戻して——ください」








「…………」







——賢者は。






——ぐっ、と——言葉に——詰まって。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——早く——つけろ」






「——欲しかったんですね」






「——うるさい——!」









——誠は。






——賢者を——じっと——見た。







「——賢者さん。二十年——見てて——思うことが——あります」






「——なんだ」








「——よく——外しますよね」








「——なんだと——!?」







「——"こうなる、はずだ"、って——言って——大体——違います」








——誠は——真面目な——顔で——言った。







「——でも——外した——後が——早いんです」






「——すぐ——数え直して——組み立て直します」








「…………」







「——だから——"考え続ける——人"、の——名前が——いいと——思います」








「——それで——なんだ」







——誠は。






——少し——考えて。






——そして——言った。








「——ミネル、で——どうですか」








「…………」







——賢者は。






——その——音を——口の——中で——転がした。







「——ミネル」






「——嫌ですか」








「…………悪くない」







——賢者は——顔を——背けた。







「——由来は——なんだ」






「——特に——ないです」








「——ないのか——!!」






「——語呂です」








「——二十年——待った——名が——語呂か——!!」









——だが——その、時。







「…………む」







——賢者が——動きを——止めた。







「——どうしました?」






「——今——妙な——感じが——した」








——彼は——自分の——胸を——押さえた。







「——熱く——なったような」








「——覚醒——ですか——!?」







——誠が——身を——乗り出した。







「——名前を——もらって——力が——目覚めるやつ——!?」








「——待て」







——賢者は——しばらく——身体を——確かめて。






——そして——首を——振った。








「——何も——変わって——おらん」






「——え?」






「——魔力も——体力も——全く——同じだ」








「——じゃあ——今の——熱いのは——!?」






「——分からぬ」








——賢者は——訝しんだ。







「——だが——一つ——確かな、ことが——ある」






「——なんですか」








「——お前の——言うことを」







——賢者は——妙な——顔で——言った。







「——さっきより——聞く——気に——なって——おる」








「…………」







「——元から——聞いてたじゃ——ないですか」






「——いや。……そうなのだが」








——賢者は——首を——かしげた。







「——なんとも——言えぬ」









## 武闘家






——鍛錬場を——通りかかると。






——武闘家が——岩を——殴っていた。








「——おお、田中——!」






「——武闘家さん。名前——つけませんか」








「——なぜだ——!」






「——同じ——名前の——方が——五人——いるので」








「——ふむ。……確かに——先日——別の——武闘家の——飯を——食うた」






「——それは——ただの——間違いです」









「——では——考えて——くれ」







「——武闘家さんは——ええと」








——誠は——考え込んだ。







「——いつも——考える——前に——殴りますよね」






「——説明は——拳で——十分だ——!」








「——足りてません」






「——足りて——おる——!」








「——じゃあ——ゴウで」








「…………」






「——短いな」








「——長いと——呼ぶ、時に——間に——合わないので」







——誠は——けろり、と——言った。







「——武闘家さん——動くのが——速いですから」








「——なるほど——!」







——武闘家が——満足そうに——頷いた。







「——ゴウだ——! よい——名だ——!」








「——即決——ですね」






「——考える——前に——決めた——!」








「——それも——足りてません」









——だが——ゴウも。






——ふと——動きを——止めた。








「——む。今——妙に——胸が——熱く——なった」






「——覚醒——ですか——!?」








——ゴウは——岩を——殴った。







——さっきと——同じ——だけ——割れた。








「——変わらぬ——!」






「——ですよね」








「——だが——な、田中」







——ゴウは——妙な——顔で——言った。







「——今——お前の——ために——殴りたく——なった」








「——なんで——ですか——!?」






「——知らぬ——!」









## 魔術師






——工房では。






——魔術師が——実演を——していた。








「——見よ——! 我が——炎——!」







——ぼう——!!







——不必要に——派手な——炎が——上がった。








「——魔術師さん。それ——湯を——沸かすだけですよね」






「——見栄えが——大事だ——!」








「——薬缶が——溶けてます」






「——ぬう——!」









「——名前を——つけに——来ました」







——誠が——言うと。






——魔術師は——身を——乗り出した。








「——おお——! ならば——重々しい——ものを——頼む——!」






「——どんな——ですか」








「——"深淵の——闇を——統べる——者"、のような——!」






「——長いです」








「——では——縮めて——!」






「——マギス」








「——縮めすぎだ——!!」








「——でも——呼びやすいですよ」







——誠は——にっこりと——笑った。







「——それに——三百人——並んだ、時」






「——先頭の——人の——名前が——長いと——調子が——狂います」








「…………」







——魔術師は。






——しばらく——考えて。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——実務的だな」






「——八百屋ですから」






「——マギスで——よい」









## 魔法使い






——高座では。






——実況が——行われていた。








「——皆さーん——!! 本日は——芋の——収穫です——!!」






「——それ——実況——要りますか」








「——要ります——!!」







——魔法使いが——胸を——張った。







「——毎日——やらないと——見て——もらえなく——なるんです——!!」








「——そうなんですか」






「——そうなんです——!」








——彼女は——妙に——真剣に——なった。







「——実は——他の——方も——やってたんですよ」






「——え?」






「——勇者様も——英雄様も」








「——どうなったんですか」






「——見る——人が——ゼロでした」








「…………」






「——それと——何人か——止められました」








「——止められた?」






「——ある日——急に——繋がらなく——なるんです」








——魔法使いは——首を——かしげた。







「——理由は——分かりません」








「…………」







——誠は。






——その——言葉を——胸に——留めた。








「——それで——名前です」






「——私にも——くださるんですか——!?」








「——はい」







——誠は——考えた。







「——魔法使いさんは——二十年——毎日——繋いでます」






「——一日も——休まずに」








「——はい——!」






「——だから——"届ける——人"、の——名前が——いいです」








「——それで——?」






「——セレス」








「…………」







——魔法使いは。






——ぽかん、と——して。






——そして——ぼろぼろと——泣き出した。








「——ど、どうしました——!?」






「——名前——二十年ぶりです」








——彼女は——袖で——顔を——拭った。







「——ずっと——"魔法使い"、でした」








「…………」







「——皆さーん——!!」







——彼女は——泣きながら——虚空に——叫んだ。







「——私、セレスに——なりました——!!」








「——コメント——どうですか」






「——"おめでとう"、"泣いた"、"二十年"、って——!!」









## 首領






「——断る」







——即答、だった。







「——なぜですか」






「——悪の——組織の——長に——名は——要らぬ」








「——不便じゃ——ないですか」






「——不便だ」








「——じゃあ——!」






「——だが——第二十条が——ある」








——首領は——マントを——翻した。







「——"正体は——最後まで——秘密とする"」






「——名を——持てば——正体に——近づく」








「…………」







——誠は。






——しばらく——考えて。






——そして——言った。








「——じゃあ——偽名で——どうですか」








「…………なに?」







「——本名じゃ——ないんです」







——誠は——にっこりと——笑った。







「——組織の——長としての——通り名です」






「——正体は——隠したままです」








「…………」







——首領は。






——長い、こと——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——それは——盲点だった」






「——では——なんと——する」








「——ノワール、で——どうですか」






「——意味は」






「——黒、だそうです」








「——そのままでは——ないか——!」






「——分かりやすい、方が——いいです」








「…………」






「——よかろう」








——首領——改め——ノワールは——頷いた。







「——だが——一つ——言うて——おく」






「——なんですか」








「——礼は——言わぬぞ」






「——第十二条ですね」






「——知らぬ」









## 光の勇者






「——俺には——名が——ある——!」







——光の勇者が——胸を——張った。







「——なんですか」






「——"光の——勇者"、だ——!」








「——それ——職業です」






「——ぬう——!」








「——考えました」







——誠が——言った。







「——レオン、で——どうですか」








「——由来は——!」






「——強そうだからです」








「——最高だ——!!」







——光の勇者——改め——レオンが——飛び上がった。







「——これで——主人公補正が——さらに——強く——なる——!!」








「——ならないと——思います」






「——なぜだ——!!」








「——賢者さんも——武闘家さんも——何も——変わりませんでした」







——誠は——正直に——言った。







「——名前を——もらって——覚醒する——ことは——ないみたいです」








「——なんだと——!!」







——レオンが——愕然と——した。







「——では——何の——ために——!!」






「——呼びやすくするためです」








「——地味だ——!!」






「——地味です」









——だが——レオンも。






——ふと——胸を——押さえた。








「——む。……熱い」






「——皆さん——言いますね、それ」








「——力は——変わって——おらぬ」







——レオンは——首を——かしげた。







「——だが——なんだ——この——妙な——感じは」






「——なんでしょうね」









——ちなみに。






——誠は——気づいて——いなかったが。







——名を——受け取った——者は——皆。







——その日から。







——彼の——言うことを——先に——聞くように——なっていた。









## そして






——名づけが——一段落した——その、日。







——空が——裂けた。








「——また、か」







——広場の——者たちが——顔を——上げた。







「——今月——初めてだな」








——降ってきたのは。






——四人、だった。








「——いらっしゃいませ」







——誠が——受付から——麦茶を——差し出した。







「——まず——一杯——どうぞ」








「——お、おう」







——一人目は——巨漢、だった。







「——お名前を——教えて——ください」






「——それが……」








——男は——困った——顔を——した。







「——思い出せぬ」






「——では——何なら——覚えてますか」








「——戦った、ことだ」







——男は——遠い——目を——した。







「——大勢を——率いて——な」






「——それと——語った」








「——語った?」






「——武勇伝だ」








——男は——誇らしげに——胸を——張った。







「——毎日——語って——おった」






「——毎日——ですか」






「——同じ——話をな」








「…………」







——誠は。






——少し——考えて。






——そして——言った。








「——ガイアス、で——どうですか」








「——おお——! 重々しい——!!」






「——気に——入って——いただけましたか」






「——うむ——! この——名なら——武勇伝が——映える——!!」








「——そこ——ですか」









——二人目は——小柄な——男、だった。







「——お名前は」






「——覚えてない」






「——では——何を?」








「——鍵を——開けるのが——得意だ」







——男は——けろり、と——言った。







「——それと——気配を——消すのも」






「——盗賊さん——ですか」








「——たぶん」






「——盗みは——駄目ですよ」








「——分かってる」







——男は——面倒くさそうに——言った。







「——だが——鍵と——罠なら——任せろ」








「——それ——ものすごく——助かります」







——誠が——身を——乗り出した。







「——え?」






「——地下の——古い——扉が——三つ——開かないんです」








「——見てやる」






「——助かります——! お名前は——ジン、で——どうですか」








「——短いな」






「——気配を——消す——方は——短い、方が——いいかと」








「……なるほど」









——三人目は。






——降りてきた——瞬間から——鼻を——ひくつかせていた。








「——なんだ——この——匂いは——!!」






「——え?」






「——芋を——煮て——おるな——!! 火が——強い——!!」








「——分かるんですか——!?」






「——分かる——!! 弱火に——せよ——!!」








——男は——厨の、方へ——駆けていった。







「——名前は——!?」






「——後で——いい——!! 今は——芋だ——!!」








「…………」







——半刻、後。







——彼が——作った——芋の——煮物は。






——広場の——全員を——黙らせた。








「——うまい——!!」






「——同じ——芋なのに——!!」








「——料理人さん——ですね」






「——たぶんな——!!」








「——ボンゴ、で——どうですか」






「——うまそうな——名だ——!!」








「——そこ——ですか」









——そして——四人目。







——地味な——身なりの——中年の——男が。






——所在なさげに——立っていた。








「——あの」






「——はい」






「——私、たぶん——役に——立ちません」








「——え?」






「——戦えません。魔法も——使えません」








——男は——うつむいた。







「——覚えてるのは——数を——合わせることだけです」








「——数?」






「——帳簿です」








——男は——申し訳なさそうに——言った。







「——入りと——出を——書いて——合わせる——仕事を——して——おりました」








「…………」







——広場が。






——静まり返った。








「…………」







「——すみません。やっぱり——要りませんよね」








「——待って——ください」







——誠が——男の——手を——掴んだ。







「——え?」






「——今——ここに——一番——足りてない——人です」








「…………は?」







「——ミネルさん——!!」







——誠が——叫んだ。







「——なんだ——!」






「——帳簿の——方が——来ました——!!」








「——なんだと——!?」







——賢者が——飛んできた。







「——本当か——!! 二十年——探して——おった——!!」








「——え?」






「——弓が——百一本——!」








——賢者は——早口に——なった。







「——布が——一日——六百枚——!」






「——鉄が——毎日——何十貫——!」






「——飯と——人と——金の——出入りが——世界中で——!!」








「——誰も——合わせて——おらんのだ——!!」








「…………」







——男は。






——ぽかん、と——した。







「——それは——合わせねば——なりません」






「——できるか——!!」






「——それしか——できません」








「——雇う——!!」






「——待って——ください——! 名前が——まだです——!」








——誠が——止めた。







「——お名前、どうしましょう」






「——なんでも——結構です」








「——駄目です」







——誠は——首を——振った。







「——ちゃんと——考えます」








「…………」







——誠は。






——しばらく——考えて。






——そして——言った。








「——アカリ、で——どうですか」








「——灯り、ですか」






「——はい」








——誠は——微笑んだ。







「——帳簿って——見えてない——ものを——見えるように——する——仕事ですよね」








「…………」







——男は。






——しばらく——黙って。






——そして——顔を——覆った。








「——そんなふうに——言われた、ことが——ありません」






「——本当ですよ」









——その、夜。







「——旦那」







——駄々丸が——並んだ。







「——今日は——大仕事で——ござんしたね」






「——名前を——つけただけです」








「——いやいや」







——駄々丸は——煙管を——ふかした。







「——皆——妙に——嬉しそうで——ござんした」






「——覚醒は——しませんでしたけどね」








「——しなくて——よろしいので——ござんしょう」








「——そうですね」







——誠は——ふと——空を——見上げた。







「——でも——一つ——気に——なってて」






「——何がで?」








「——僕、名前を——つけるの——雑でした」








「…………」







「——ミネルさんは——語呂」






「——ゴウさんは——短いから」






「——レオンさんは——強そうだから」








「——ノワールさんに——至っては——"黒"、です」








「——へえ」






「——雑ですよね」








「——ですがねェ、旦那」







——駄々丸は——にやり、と——した。







「——一人だけ——ずいぶん——丁寧で——ござんしたよ」








「——え?」






「——最後の——お人で——さァ」








「…………」







——誠は。






——少し——考えて。






——そして——言った。








「——あの、人」






「——へえ」






「——"私、たぶん——役に——立ちません"、って——言ったんです」








「…………」







「——僕、それ——分かるので」







——誠は——ぽつり、と——言った。







「——二十年——前に——同じことを——思ってました」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


*「賢者さんが、"名が不便だ"、って。賢者が三人、武闘家が五人、魔術師に至っては四十人。伝言が別の武闘家に渡って、三日、気づかなかったらしい。……だから、名前を、つけることにした。……賢者さんは、ミネル。よく外すけど、外した後が早い人だから、"考え続ける人"の名前がいい、って言った。由来を聞かれて、"語呂です"、って答えたら、"二十年待った名が語呂か"、って、怒られた。……武闘家さんは、ゴウ。短いのは、呼ぶ時に間に合わないから。"考える前に決めた"、って。それも足りてません。魔術師さんは、"深淵の闇を統べる者"、みたいなのを希望されたけど、長いので、マギス。"縮めすぎだ"、って。でも、三百人並んだ時、先頭の名前が長いと、調子が狂います。……魔法使いさんは、セレス。二十年、一日も休まず繋いできた人だから、"届ける人"の名前。……そしたら、泣き出した。"名前、二十年ぶりです。ずっと、魔法使いでした"、って。……それと、気になる話を聞いた。実況は、勇者様も英雄様もやってたけど、見る人がゼロだったり、ある日急に、繋がらなくなったりしたらしい。理由は、分からない。……首領さんは、断られた。第二十条があるから。でも、"偽名でどうですか。組織の長としての通り名です"、って言ったら、"それは盲点だった"、って。ノワール。意味は、黒。"そのままではないか"、って。分かりやすい方がいいです。……勇者さんは、レオン。由来は、強そうだから。"これで主人公補正がさらに強くなる"、って言うから、ならないと思います、って答えた。実際、誰も、覚醒しませんでした。皆、"胸が熱くなった"、とは言うけど、力は、全く変わってない。……その日、空が裂けて、四人、降りてきた。皆、職業は覚えてるのに、名前は覚えてない。……一人目は、大勢を率いて戦って、毎日、同じ武勇伝を語ってた人。ガイアス。"この名なら武勇伝が映える"、って。そこですか。二人目は、鍵と罠の人。ジン。地下の開かない扉、三つ、見てもらえることになった。三人目は、降りた瞬間に、"芋を煮ておるな、火が強い"、って。ボンゴ。同じ芋なのに、別物みたいに、うまかった。……四人目が、地味な人だった。"私、たぶん、役に立ちません。戦えないし、魔法も使えない。覚えてるのは、数を合わせることだけです"、って。……帳簿の人だった。ミネルさんが、飛んできて、"二十年探しておった"、って。弓が百一本、布が一日六百枚、鉄が毎日何十貫。世界中の出入りを、誰も合わせてなかった。……名前を、アカリにした。帳簿って、見えてないものを、見えるようにする仕事ですよね、って言ったら、あの人、顔を覆って、"そんなふうに言われたことがありません"、って。……夜、駄々丸さんに、"僕、名前をつけるの、雑でした"、って言った。語呂とか、短いからとか、強そうだからとか。……そしたら、"一人だけ、ずいぶん丁寧でござんしたよ。最後のお人でさァ"、って。……あの人、"私、たぶん、役に立ちません"、って言ったんです。僕、それ、分かるので。二十年前に、同じことを、思ってました。じいちゃん、名前は、大事です」*



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。名を——受け取った——者たちが——揃って——感じた——「胸の——熱さ」、が。




——何で——あったのかを。


そして——名を——与える、という——行いが。




——この、世界で——誰にでも——できる——ことでは——なかったことも。





——今は……まだ、名づけた——本人が——一番——知らない。

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