第119話「目が、増える」
第四年。
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——二基目が——上がった。
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「——成功——!!」
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——青が——板を——掲げた。
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「——軌道に——乗った——!!」
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「——うおおお——!!」
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——荒野が——沸いた。
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——だが——一年——前ほどでは——なかった。
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「——静かだな」
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——賢者が——呟いた。
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「——二度目ですから」
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——誠が——微笑んだ。
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「——皆さん——できると——知ってるんです」
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「——それは——よい、ことか」
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「——いいことです」
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——誠は——きっぱりと——言った。
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「——一度目は——祭りです」
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「——二度目からが——仕事です」
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——そして。
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——二基目が——上がると。
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——世界の——見え方が——変わった。
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「——見て——ください——!!」
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——青が——地下の——赤い——灯りの——下で——板を——並べた。
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「——なぜ——ここで——やって——おる——!」
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「——落ち着くのだ」
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『——フハハハハ——!!』
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「——それも——慣れたか——!!」
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——だが。
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——板に——映った——ものを——見て。
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——賢者は——絶句した。
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「——これは」
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「——世界の——半分だ」
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——青は——静かに——言った。
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「——一基では——三分の一しか——見えなんだ」
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「——二基で——半分だ」
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「…………」
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——工房が。
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——静まり返った。
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——板には。
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——大地が——映っていた。
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——山。川。海。
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——そして——影の——帯。
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「——影が——見える——!!」
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——一色が——飛びついた。
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「——百箇所——全部——一目で——!!」
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「——それだけでは——ない」
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——青は——別の——板を——指した。
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「——熱も——見える」
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「——熱——!?」
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「——どこが——暑いか——色で——分かる」
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——そして。
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——板が——切り替わった。
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——赤。
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——濃い——赤。
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——一面の——赤。
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「…………」
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「——これは——なんですか」
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——誠が——尋ねた。
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「——赤いほど——熱い」
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「——ほとんど——赤ですけど」
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「——うむ」
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——青は——重い——声で——言った。
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「——影の——下だけが——青い」
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「…………」
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——誰も。
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——声を——出さなかった。
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——板の——上で。
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——世界は——真っ赤に——燃えていた。
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——その——中に。
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——百の——青い——斑点が——ぽつり、ぽつり、と——散っている。
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——それが——彼らの——二十年、だった。
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「……少ないな」
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——賢者が——ぽつり、と——言った。
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「——二十年——かけて——これか」
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「——賢者さん」
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「——なんだ」
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「——二十年——前は——一つも——ありませんでした」
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「…………」
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——賢者は。
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——ふん、と——鼻を——鳴らして。
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——そして——顔を——背けた。
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「——お前は——本当に——折れんな」
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「——八百屋ですから」
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——だが。
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——問題は——翌日から——始まった。
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「——田中殿——!!」
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——広場に——人が——押し寄せた。
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「——あの——絵を——見せて——ください——!!」
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「——うちの——里は——どうなって——おりますか——!!」
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「——え?」
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「——空から——見えるんでしょう——!!」
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——噂は——一日で——世界に——広がっていた。
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「——見せて——差し上げましょう」
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——誠が——言うと。
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——青が——止めた。
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「——待て」
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「——なぜ——ですか」
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「——赤い」
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「…………」
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「——影の——ない——里は——真っ赤だ」
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——青は——静かに——言った。
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「——それを——見せて——どうする」
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「…………」
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——誠は。
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——しばらく——黙って。
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——そして——言った。
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「——見せます」
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「——待て——!」
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「——隠したら——余計に——恐ろしいです」
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——誠は——きっぱりと——言った。
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「——それに——皆さん——知ってます」
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「——自分の——里が——暑いのは——住んでる——人が——一番——知ってます」
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「…………」
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——広場に——大きな——板が——据えられた。
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——そして——世界の——絵が——映し出された。
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「…………」
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——広場が。
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——静まり返った。
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「——赤い」
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「——真っ赤だ」
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「——うちの——里、ここか」
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「——真っ赤じゃ——ないか——!!」
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——ざわめきが——広がった。
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——そして——それは——すぐに——別の——ものに——変わった。
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「——なぜ——うちには——影が——ないんだ——!!」
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——一人の——男が——叫んだ。
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「——ここは——青いぞ——!!」
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「——なぜ——ここばかり——!!」
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「——待て——! 順に——増やして——おるのだ——!」
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——賢者が——叫んだが。
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「——二十年——待った——!!」
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「——うちの——里は——半分——死んだ——!!」
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「…………」
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——広場が。
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——重く——荒れた。
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「——だから——言うたのだ——!!」
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——青が——誠に——詰め寄った。
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「——見せねば——よかった——!!」
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「…………」
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——誠は。
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——荒れる——広場を——見ていた。
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——そして——静かに——壇に——上がった。
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「——皆さん——!!」
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——声を——張り上げると。
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——ざわめきが——少し——静まった。
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「——謝ります」
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——彼は——深く——頭を——下げた。
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「——順番を——つけたのは——僕たちです」
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「…………」
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「——二十年——前」
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——誠は——顔を——上げた。
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「——弓は——十しか——ありませんでした」
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「——だから——人が——多い——ところから——順に——置きました」
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「——それは——分かる——!!」
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「——だが——二十年だ——!!」
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「——はい」
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——誠は——頷いた。
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「——二十年——待たせました」
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「——それは——僕たちの——落ち度です」
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「…………」
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「——でも——一つだけ——聞いて——ください」
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——誠は——板を——指した。
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「——今——初めて——世界の——半分が——見えました」
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「——どこが——赤いかも——分かりました」
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「——だから——どうした——!!」
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「——順番を——つけ直せます」
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「…………」
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——広場が。
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——ぴたり、と——静まった。
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「——今まで——僕たちは——見えてませんでした」
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——誠は——静かに——言った。
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「——だから——"人が——多い——ところから"、しか——決められませんでした」
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「——でも——今は——違います」
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「——一番——赤い——ところから——影を——置けます」
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「…………」
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——先ほど——叫んだ——男が。
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——ゆっくりと——顔を——上げた。
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「——うちの——里は——どのくらい——赤い」
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「——青さん」
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——誠が——呼ぶと。
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——青は——渋々——板を——操作した。
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「……上から——七番目だ」
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「——七番目——!?」
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「——世界で——七番目に——赤い」
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——青は——低く——言った。
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「——よく——生きて——おられたな」
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「…………」
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——男は。
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——その場に——座り込んだ。
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「——分かって——おったのか」
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「——今——分かった」
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「——では——なぜ——助けに——来なんだ——!!」
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「——だから——今——分かったのだ——!!」
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「…………」
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——誠が。
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——壇を——降りて。
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——男の——前に——しゃがんだ。
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「——すみませんでした」
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——誠は——深く——頭を——下げた。
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「——僕たち——聞きに——行きませんでした」
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「…………」
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「——二十年——毎日——地下を——回ってました」
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——誠は——静かに——言った。
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「——四百十二軒——一軒ずつ——回ってました」
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「——でも——それは——ここの——四百十二軒です」
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「——あなたの——里には——一度も——行きませんでした」
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「…………」
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——男は。
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——顔を——覆った。
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「——今から——行きます」
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——誠が——言った。
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「——え?」
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「——七番目の——里から——順に——回ります」
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「——待て、田中——!!」
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——賢者が——止めた。
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「——上から——何番まで——回る——つもりだ——!」
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「——全部です」
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「——世界中だぞ——!!」
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「——二十年——ありますから」
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「——十八年だ——!!」
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「——十八年——ありますから」
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——そして——誠は。
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——男の——手を——取った。
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「——一つ——聞いても——いいですか」
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「——なんだ」
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「——お名前は」
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「…………」
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——男は。
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——しばらく——黙って。
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——そして——かすれた——声で——答えた。
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「——ゴードンだ」
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「——ゴードンさん」
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——誠は——名を——繰り返した。
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「——里の——名前も——教えて——ください」
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「——ハラム」
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「——ルカ——!!」
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——誠が——呼んだ。
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「——書いてます——!!」
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——ルカが——すでに——帳面を——開いていた。
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「——ハラムの——里。ゴードンさん」
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「——世界で——七番目に——赤い」
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「——一番から——順に——書け」
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「——はい——!」
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——その、夜。
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「——旦那」
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——駄々丸が——並んだ。
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「——今日は——荒れやしたね」
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「——はい」
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「——見せねェ、方が——よかったんじゃ——ござんせんか」
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「…………」
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——誠は。
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——空を——見上げた。
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——影の——下。
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——星が——見える。
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「——駄々丸さん」
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「——へえ」
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「——僕、今日——初めて——気づいたんです」
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「——何にで?」
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——誠は。
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——ぽつり、と——言った。
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「——僕、地下の——ことしか——考えてませんでした」
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「…………」
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「——四百十二軒——回って」
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「——名簿を——作って」
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「——毎日——麦茶を——配って」
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「——それで——皆を——救ってる——つもりでした」
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「——救うて——おりやしたよ」
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「——ここだけです」
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——誠は——首を——振った。
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「——ハラムの——里に——四百十二軒——分の——人が——いても」
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「——僕、一度も——名前を——聞きに——行きませんでした」
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「…………」
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「——二十年です」
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「…………」
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——駄々丸は。
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——煙管を——ふかして。
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——そして——静かに——言った。
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「——旦那。一つ——申し上げても——ようござんすか」
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「——はい」
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「——見えなんだ——ものは——見えなんだので——ござんす」
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——駄々丸は——空を——見上げた。
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「——旦那は——目が——二つしか——ござんせん」
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「——今日——四つに——なりなすった」
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「…………」
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「——四つに——なった——途端に——回りに——行くと——言いなすった」
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——駄々丸は——扇子を——閉じた。
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「——それで——十分で——ござんしょう」
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「…………」
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——誠は。
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——長い、こと——黙って。
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——そして——言った。
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「——十二に——なったら——どうなりますかね」
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「——さあ」
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——駄々丸は——にやり、と——した。
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「——旦那が——もっと——忙しく——なるんじゃ——ござんせんか」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「二基目が、上がった。一年前ほどには、沸かなかった。賢者さんが、"静かだな"、って。二度目ですから。皆、できると知ってるんです。一度目は祭り、二度目からが、仕事です。……でも、二基で、世界の半分が見えるようになった。影の帯も、百箇所、一目で見える。それに、熱も見える。赤いほど、暑い。……板を切り替えたら、真っ赤だった。影の下だけが、青い。百の青い斑点が、ぽつりぽつり。それが、僕たちの二十年でした。賢者さんが、"少ないな"、って。でも、二十年前は、一つもありませんでした。……翌日、広場に人が押し寄せた。"うちの里はどうなっておりますか"、って。青さんが、"赤い。見せてどうする"、って、止めたけど、隠したら、余計に恐ろしい。それに、自分の里が暑いのは、住んでる人が、一番、知ってます。……広場に、板を据えて、映した。皆、静まって、それから、荒れた。"なぜ、うちには影がないんだ"、"二十年待った"、"うちの里は半分死んだ"、って。……謝った。順番をつけたのは、僕たちです。弓が十しかなかったから、人が多いところから置いた。二十年、待たせました。僕たちの落ち度です。……でも、一つだけ、聞いてもらった。今、初めて、どこが赤いか、分かった。だから、順番を、つけ直せます。今までは、見えてなかったから、人が多いところから、しか、決められなかった。……叫んでた人の里は、世界で七番目に赤かった。青さんが、"よく生きておられたな"、って。その人、座り込んで、"では、なぜ助けに来なんだ"、って。"だから、今、分かったのだ"、って。……僕、しゃがんで、謝った。僕たち、聞きに行きませんでした、って。二十年、毎日、地下を回って、四百十二軒、一軒ずつ回ってた。でも、それは、ここの四百十二軒です。あなたの里には、一度も行きませんでした。……名前を、聞いた。ゴードンさん。里の名は、ハラム。ルカが、書いてた。一番から順に、書け、って言った。……夜、駄々丸さんに、"見せねェ方がよかったんじゃ"、って言われた。……僕、今日、初めて気づいたんです。地下のことしか、考えてませんでした。二十年です。……駄々丸さんが、"見えなんだものは、見えなんだので、ござんす。旦那は目が二つしかござんせん。今日、四つになりなすった。四つになった途端に、回りに行くと言いなすった。それで十分でござんしょう"、って。……じいちゃん。僕、明日から、遠くへ行きます」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——たとえ——空に——見えなくても。
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まだこの時の誠は知らない。この、日——初めて——名を——聞いた——ハラムの——里が。
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——後に——なって——どれほど——大きな——役目を——果たすことに——なるのかを。
そして——「目が——四つに——なった」、という——駄々丸の——言い方が。
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——ただの——比喩では——なかったことも。
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——今は……まだ、言った——本人すら——知らない。




