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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第118話「試しの、一つ」

第三年。





——初めての——打ち上げの——日が——来た。







——荒野には。






——見渡す——限りの——人が——集まっていた。








「——多いな」







——賢者が——呟いた。







「——皆さん——見たいんですよ」







——誠が——微笑んだ。







「——三年——支度してましたから」









——中央には。






——今までとは——比べ物に——ならぬ——大きさの——矢が——立っていた。







——高さは——三十丈。







——竜の——鱗で——覆われた——殻が。






——鈍く——光っている。








「——でかいなあ」







——グランデルが——見上げた。







「——ワシより——でかいゥ」








「——グランデルさん。押さえ——お願いします」






「——おうよ——!!」









——配置が——始まった。







——弓を——引くのは——竜が——五頭。






——押さえるのは——鬼族と——ヒーローたち。






——そして。







——荒野に——沿って。






——魔術師が——三百人——一列に——並んだ。








「——壮観だな」







——光の勇者が——唸った。







「——三年——訓練したからな」







——魔術師が——胸を——張った。








「——さても——皆様」







——列の——先頭に。






——駄々丸が——太鼓を——据えていた。








「——調子は——あっしが——取りやす」






「——頼む」









「——皆さーん——!!」







——竜の——背から——魔法使いが——叫んだ。







「——本日——初めての——人工衛星——打ち上げです——!!」






「——三年——支度しました——!!」








「——コメント——どないや」






「——"三年——見てた"、"緊張する"、"頼む"、って——!!」









——高台では。






——ルカが——空を——見ていた。








「——今日の——空は——どうだ——!」







——誠が——呼びかけると。






——ルカは——帳面を——見て——答えた。








「——雲——なし——!」






「——風——弱い——!」






「——塵——なし——!」






「——空見の——爺さまなら——"よい——空だ"、と——言うと——思います——!」








「…………」







——誠は。






——高台を——見上げて。






——そして——頷いた。








「——では——始めましょう」









「——第一——点火——!!」







——火薬に——火が——入り。







——ごおう——!!







——巨大な——矢が——地を——離れた。








「——上がった——!!」







——だが——賢者は——叫んだ。







「——まだだ——!! ここからだ——!!」








「——百尺——!!」







——魔法使いの——声が——飛んだ。







「——駄々丸師匠——!!」






「——へえ」








——とん。







——太鼓が——鳴った。







——とん。とん。とん。







——一定の——調子で。






——揺るぎなく。








「——一番——!!」







——先頭の——魔術師が——手を——かざした。







——ごう。







「——二番——!!」







——ごう。







「——三番——!!」








——火が——順に——繋がっていく。







——一人が——十を——数え。






——次に——渡す。







——太鼓の——調子だけを——頼りに。








「——繋がって——おる——!!」






「——五十番——通過——!!」








『——上がってる』







——皆瀬の——声が——響いた。







『——今までで……一番——高い』








「——百番——!!」






「——百五十番——!!」








——だが。






——百八十番の——あたりで。







「——あっ——!!」







——一人が——よろけた。







「——切れる——!!」








——だが。






——太鼓は——止まらなかった。







——とん。とん。とん。







——そして。







「——百八十一番——!!」







——隣の——者が——調子を——外さずに——繋いだ。








「——繋がった——!!」






「——一人——飛ばしても——調子が——ありゃァ——続きやす——!!」







——駄々丸が——叫んだ。








「——二百五十番——!!」






「——二百八十番——!!」






「——三百番——!!」








——最後の——一人が——火を——放ち。







——そして。







——太鼓が——止まった。








「…………」







——荒野が。






——静まり返った。







——皆が——空を——見上げていた。








「——皆瀬さん——!!」







——誠が——叫んだ。







「——見えますか——!!」








『……見えない』







「——落ちたのか——!!」








『——ううん』







——皆瀬が——ぷるん、と——揺れた。







『——遠すぎて……わたしの——目じゃ——届かない』








「——では——どうやって——確かめる——!!」







——賢者が——叫ぶと。






——青が——手元の——板を——掲げた。








「——待て」






「——通信を——待って——おる」








「——通信——!?」






「——上がれば——向こうから——声が——来る」








——青は——板を——睨んだ。







「——落ちれば——来ぬ」








「…………」







——荒野が。






——息を——呑んだ。








——十を——数えた。







——二十を——数えた。







——五十を——数えた。








「……駄目か」







——賢者が——うなだれた——その、時。








——ぴ。








「…………」







——青の——手が——止まった。







「——今の——何だ——!!」








——ぴ。ぴ。ぴ。








「——来た——!!」







——青が——絶叫した。







「——上がった——!! 軌道に——乗った——!!」








「——うおおおおおお——!!!」







——荒野が——爆発した。








「——上がった——!!」





「——三年——!!」





「——イーーーッ——!!」








「——皆さーん——!!」







——魔法使いが——泣きながら——叫んだ。







「——成功です——!! 四つ目の——人工衛星——上がりました——!!」






「——コメントが——読めません——!! 速すぎて——!!」









——魔術師の——列では。






——三百人が——座り込んでいた。








「——魔力が——空だ……」






「——だが——やった……」








「——皆さん——!!」







——誠が——桶を——抱えて——駆け回った。







「——麦茶です——! 飲んで——ください——!!」






「——ありがてえ……」









——そして。






——誠は——太鼓の——前に——立った。








「——駄々丸さん」






「——へえ」






「——ありがとう——ございました」








——駄々丸は。






——撥を——置いて。






——そして——手を——さすった。








「——いやァ——腕が——痺れやした」






「——半刻——叩き続けましたからね」








「——ですがねェ、旦那」







——駄々丸は——ふと——真顔に——なった。







「——妙な、ことが——ござんした」






「——なんですか」








「——百八十番が——よろけた、時で——ござんす」







——彼は——自分の——手を——見つめた。







「——あっしゃァ——止めようと——思ったんで」








「——え?」






「——切れた、と——思いやしたからね」








——駄々丸は——首を——かしげた。







「——ですが——手が——止まらなんだ」








「…………」







——誠の。






——動きが——止まった。







「——勝手に——叩き続けて——おりやした」







——駄々丸は——ぼそり、と——言った。







「——おかげで——繋がったんで——ござんすが」








「…………」







「——旦那?」






「——いえ」








——誠は。






——首を——振った。







「——腕が——いいんですよ」






「——そうで——ござんすかね」









——その、夜。






——誠は——一人。






——地上で——空を——見上げていた。








「——神様」







——彼は——呼びかけた。







「——今日——上がりました」






「——四つ目です」








——返事は——ない。








「——あと——八つ——上げます」







——誠は——静かに——言った。







「——六年——かかります」






「——でも——できます」








「…………」







「——それと——一つ——お伝えします」







——誠は——湯呑みを——置いた。







「——僕、まだ——頼みません」






「——十八年——ありますから」








「——だから——蕎麦、打っといて——ください」









——翌朝。







——湯呑みは——空に——なっていた。







——そして。







——その——横に。







——箸が——一膳——置いてあった。








「…………」







——誠は。






——それを——拾い上げて。






——そして——笑った。








「——打ってるんですね」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「第三年。初めての、打ち上げ。荒野に、見渡す限りの人が、集まった。三十丈の矢。竜の鱗の殻。弓を引くのは、竜が五頭。魔術師さんが三百人、一列に並んだ。……高台のルカに、空を聞いたら、"雲なし、風弱い、塵なし。空見の爺さまなら、よい空だ、と言うと思います"、って。……点火。上がった。百尺で、駄々丸さんの太鼓が、鳴り始めた。とん、とん、とん。一定の調子で。……一番、二番、三番。火が、順に繋がっていく。五十番、百番、百五十番。……でも、百八十番で、一人、よろけた。切れる、と思った。……けど、太鼓は、止まらなかった。そして、隣の人が、調子を外さずに、繋いだ。駄々丸さんが、"一人飛ばしても、調子がありゃァ、続きやす"、って。……三百番まで、通った。……皆瀬さんの目でも、届かない高さ。青さんが、"通信を待っておる。上がれば声が来る。落ちれば来ぬ"、って。……五十数えて、駄目か、と思ったら——ぴ、って。上がった。軌道に乗った。……荒野が、爆発した。魔術師の皆さん、魔力が空で、座り込んでた。麦茶を、配って回った。……駄々丸さんに、礼を言ったら、"腕が痺れやした"、って。それから、"妙なことがござんした。百八十番がよろけた時、あっしゃァ、止めようと思ったんで。切れた、と思いやしたからね。ですが、手が止まらなんだ。勝手に、叩き続けておりやした"、って。……何も、言えなかった。"腕がいいんですよ"、って、答えた。……夜、地上で、神様に、報告した。四つ目、上がりました。あと八つ、六年かかります。でも、できます。……それと、まだ、頼みません。十八年、ありますから。だから、蕎麦、打っといてください、って。……翌朝、湯呑みが空で、横に、箸が一膳、置いてあった。じいちゃん。あの人、打ってます」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。太鼓を——叩く——手が——止まらなかった——その、瞬間。




——誰が——叩いて——いたのかを。


そして——置かれて——いた——箸、一膳が。




——どれほどの——意味を——持って——いたのかも。





——今は……まだ、置いた——本人しか——知らない。

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