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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第116話「表に、する」

「——整理するぞ」





——賢者が——工房の——壁一面に——紙を——貼った。







「——人工衛星を——もっと——上げる」






「——三つでは——足らぬ」








「——いくつ——要るんですか」







——誠が——尋ねると。






——青が——答えた。








「——十二だ」






「——十二——!?」








「——三つでは——世界の——三分の一しか——見えぬ」







——青は——地図を——広げた。







「——十二——上げれば——ずっと——全部が——見える」






「——嵐も——影の——ずれも——星の——道も」








「——星の——道も——ですか——!?」







——一色が——飛びついた。







「——上から——測れば——ずっと——正確だ」








「——それは——ものすごく——大きいわ——!」









——だが。






——賢者が——紙を——叩いた。








「——ここからが——本題だ」







——彼は——大きく——書いた。








——「何が——要るか」








「——今まで——我らは——場当たりで——やって——おった」







——賢者は——静かに——言った。







「——足りぬ、と——気づいて——から——探しに——行った」






「——だから——止まった」








「——今度は——違うんですか」






「——先に——全部——並べる」








——賢者は——魔法使いを——見た。







「——虚空に——問え」






「——何を——ですか——!」








「——"人工衛星を——上げるには——何が——要るか"、を」






「——全部、だ」









——高座が——組まれた。







「——皆さーん——! 本日の——問いです——!」







——魔法使いが——札を——掲げた。







「——"人工衛星を——十二——上げるには——何が——要りますか"——!」






「——"できるだけ——細かく——教えて——ください"——!」








——虚空が——流れ始めた。







「——うわあ——! すごい——量です——!」






「——書け——! 一つ——残らず——書け——!」









——三日。






——壁が——紙で——埋まった。








「——多すぎる——!!」







——賢者が——頭を——抱えた。







「——二百を——超えて——おるぞ——!」








「——分けましょう」







——誠が——言った。







「——どう——だ」






「——"ある——もの"、と——"ない——もの"、に」








「…………」







——賢者が。






——ぽかん、と——した。







「——それだけ、か」






「——それだけです」








——誠は——けろり、と——言った。







「——うち——仕入れの、時に——そうしてます」






「——"蔵に——ある——もの"、と——"買う——もの"、を——分けるんです」








「…………」







——一色が。






——ゆっくりと——立ち上がった。







「——やりましょう」









——一日、かけて。






——二百の——項目が——二つに——分けられた。








「——"ある——もの"、が——百四十」







——一色が——数えた。







「——"ない——もの"、が——六十」








「——六十、か」






「——多いですね」








「——待って」







——だが——一色が——言った。







「——もう一回——分けられるわ」






「——どう——ですか」








「——"作れる——もの"、と——"作れない——もの"、に」








「——それは——いい——!!」









——さらに——分けると。







「——"作れる"、が——四十五」






「——"作れない"、が——十五」








「——十五なら——なんとか——なるな」







——賢者が——身を——乗り出した。







「——その——十五は——何だ——!」








——一色は——読み上げた。







「——一つ。ものすごく——強い——燃料」






「——二つ。ものすごく——軽い——外側」






「——三つ。ものすごく——精密な——計算の——道具」







——彼女は——顔を——上げた。







「——大体——この——三つに——集約されるわ」









「——では——一つずつ——潰すぞ」







——賢者が——新しい——紙を——貼った。









一、燃料






「——今の——火薬では——足らぬ」







——賢者が——言った。







「——影の——布は——上げられる」






「——だが——人工衛星は——遥かに——重い」








「——虚空の——皆さんは——なんて?」







「——"液体の——燃料が——要る"、って——!」








——魔法使いが——読んだ。







「——"作り方は——教えられませんが"——!」






「——"魔法が——あるなら——別の——手が——ある、かも"、って——!」








「——魔術師——!」







——賢者が——呼んだ。







「——火の——魔法で——押す——力は——出せるか」






「——出せる」








——魔術師は——頷いた。







「——だが——長くは——保たぬ」






「——どれくらいだ」






「——一人で——十を——数えるほど」








「——足りぬな」






「——待って——ください」








——誠が——手を——挙げた。







「——一人で——十、なんですよね」






「——うむ」






「——順番に——繋いだら——どうですか」








「…………」







——魔術師が。






——固まった。







「——十人——並べば——百」







——誠は——続けた。







「——百人——並べば——千です」








「——それは——できる——!!」







——魔術師が——叫んだ。







「——一万二千人で——詠唱を——揃えた——ことも——ある——!!」






「——順に——繋ぐくらい——造作も——ない——!!」








「——だが——火薬も——要る」







——賢者が——付け加えた。







「——最初の——押し出しは——魔法では——足らぬ」








「——それは——首領に——聞きましょう」







——誠が——言った。








「——足りるか」






「——十八年——硝石を——作り続けてます」








——誠は——微笑んだ。







「——農夫の——皆さんが」








二、外側






「——軽くて——丈夫な——もの、か」







——賢者が——唸った。







「——鉄では——重すぎる」








「——虫人族の——糸は——どうですか」







——誠が——尋ねると。






——一色が——首を——振った。








「——薄すぎるわ」






「——布には——なるけど——殻には——ならない」








「——鬼族の——鉄は?」






「——強いけど——重い」








「…………」







——工房が——沈んだ。







——その、時。







「——あの」







——魔法使いが——手を——挙げた。







「——コメントが——来てます」






「——なんと——!」








「——"竜の——鱗は——使えないの?"、って——!」








「…………」







——全員が。






——天井の——穴を——見上げた。








「——うち?」







——藤原が——きょとん、と——した。







「——藤原さん。鱗は——重いですか」






「——軽いで」








——藤原は——けろり、と——言った。







「——重かったら——飛べへんやろ」








「…………」







「——待って——!!」







——一色が——立ち上がった。







「——竜は——ブレスを——吐くわよね——!?」






「——吐くで」








「——ということは——鱗は——その——熱に——耐えてるの——!?」






「——せやな」








「——それよ——!!」







——一色が——絶叫した。







「——軽くて——熱に——強い——!!」






「——それこそ——探してた——ものだわ——!!」








「——でも——剥ぐのは——駄目です——!!」







——誠が——即座に——言った。







「——痛いですよね——!?」






「——痛い」








「——ならば——駄目か——!」






「——いや——待ちィな」








——藤原が——首を——傾げた。







「——鱗な。生え替わるねん」








「…………え?」







「——古いのが——落ちて——新しいのが——生える」







——藤原は——けろり、と——言った。







「——里の——寝床に——山ほど——落ちとるで」








「——なぜ——早く——言わぬ——!!」






「——聞かれへんかったし」








「——もう——嫌だ——!!!」








三、計算の道具






「——これは——難しいぞ」







——賢者が——渋い——顔を——した。







「——寸分の——狂いも——なく——計算せねば——ならぬ」






「——人の——手では——間に——合わぬ」








「——それなら——ある」







——青が——言った。







「——基地に——ある」








「——なんですと——!?」






「——十六年——動かして——おらぬがな」








——青は——申し訳なさそうに——言った。







「——電気が——なかったのだ」






「——今は——ありますよ——!!」









——三日、後。






——基地の——地下で。







——妙な——箱が——動き出した。








「——動いた——!!」







——青が——飛び上がった。







「——これは——何が——できるの——!?」







——一色が——覗き込んだ。








「——計算だ」






「——どれくらいの——速さで——!?」






「——貴殿が——一年——かかる——ものを——一日で」








「…………」







——一色が。






——その場に——座り込んだ。








「——十六年」






「——私、十六年——手で——計算してた」








「——すまぬ」






「——聞かなかった——私も——悪いわ——!!」









——そして。






——一月、かけて。






——一枚の——表が——できあがった。








「——これが——道筋だ」







——賢者が——壁に——貼った。








——第一年。鱗を——集める。硝石を——増やす。計算の——道具を——直す。






——第二年。殻を——作る。魔術師を——三百人——訓練する。






——第三年。試しに——一つ——上げる。






——第四年から——第八年。年に——二つ——上げる。






——第九年。十二——完成。








「——九年、か」







——賢者が——腕を——組んだ。







「——長いな」






「——十八年——あります」








——誠が——言った。







「——九年で——できれば——残り——九年——使えます」








「——それは——そうだが」







「——それに——賢者さん」








——誠は——壁の——表を——見上げた。







「——初めてですね」






「——何が、だ」








「——先に——道筋が——見えてるの」








「…………」







——賢者は。






——ゆっくりと——表を——見上げた。








「——確かに、な」







——彼は——ぼそり、と——言った。







「——今までは——いつも——手探りだった」






「——できてから——次を——考えて——おった」








「——それが——十八年で——変わったんです」







——誠は——微笑んだ。







「——皆さん——上手に——なりました」








「…………」







——賢者は。






——顔を——背けて。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——お前の——せいだ」






「——え?」






「——お前が——毎度——"分けましょう"、と——言うからだ」








——賢者は——表を——指した。







「——気づけば——皆——分ける——癖が——ついた」








「——八百屋の——癖です」






「——それを——学問と——言うのだ」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「人工衛星を、もっと上げる。三つでは、世界の三分の一しか見えない。十二、要る。上から測れば、星の道も、ずっと正確に分かる。……賢者さんが、"今までは場当たりだった。足りぬと気づいてから探しに行った。だから止まった。今度は、先に全部並べる"、って。……虚空の皆さんに、"何が要りますか。できるだけ細かく"、って、聞いた。三日で、壁が紙で埋まった。二百を超えた。……多すぎる、って言うから、"分けましょう"、って。"あるもの"、と、"ないもの"、に。うち、仕入れの時に、そうしてます。……分けたら、ある、が百四十。ない、が六十。一色さんが、"もう一回、分けられる"、って。"作れるもの"、と、"作れないもの"、に。……作れない、が、十五。しかも、大体、三つに集まった。強い燃料。軽い外側。精密な計算の道具。……燃料は、魔術師さんが、"火の魔法で押せる。だが、一人で十を数えるほど"、って。だから、"順番に繋いだらどうですか"、って。十人で百、百人で千。魔術師さん、"一万二千人で詠唱を揃えたこともある"、って。火薬は、農夫の皆さんが、十八年、硝石を作り続けてる。……外側は、詰まってたら、虚空から、"竜の鱗は使えないの?"、って。皆、天井を見上げた。藤原さんが、"軽いで。重かったら飛べへんやろ"、って。しかも、ブレスの熱に耐えてる。一色さんが、"軽くて熱に強い。それこそ探してたものだわ"、って。……でも、剥ぐのは、駄目です。痛いですよね、って言ったら、"痛い"、って。そしたら、"鱗な、生え替わるねん。里の寝床に、山ほど落ちとるで"、って。……なぜ早く言わぬ、って賢者さんが。"聞かれへんかったし"、って。もう、嫌だ。……計算の道具は、基地に、あった。十六年、電気がなくて、動かしてなかっただけ。動かしたら、一色さんが一年かかるものを、一日で、やる。一色さん、座り込んで、"私、十六年、手で計算してた"、って。……一月かけて、表が、できた。第一年から第九年まで。九年で、十二上がる。……賢者さんが、"長いな"、って。でも、十八年あります。九年でできれば、残り九年、使えます。……それと、初めてですね、って言った。先に、道筋が見えてるの。賢者さんが、"今までは、いつも手探りだった。できてから次を考えておった"、って。……"お前のせいだ。お前が毎度、分けましょう、と言うからだ。気づけば、皆、分ける癖がついた"、って。八百屋の癖です、って言ったら、"それを学問と言うのだ"、って。じいちゃん、道筋が、見えました」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。壁に——貼られた——九年の——表が。




——一度も——遅れる、ことなく——進むことを。


そして——その、表の——最後の——行の——先に。




——誰も——書かなかった——第十年が——待って——いることも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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