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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第114話「電気が、来た」

「——図面を——出すわ」





——一色が——工房の——奥から——木箱を——引きずり出した。







——埃を——払うと。






——十六年——前の——紙束が——出てきた。








「——まだ——あったんですね」







——誠が——覗き込んだ。







「——捨てるわけ——ないでしょう」








——一色は——紙を——広げた。







「——三十日——かけて——書いたのよ」






「——そして——電気が——足りなくて——諦めた」








「——今は——どうですか」






「——フウタロスさんの——おかげで——足りるわ」








——一色は——顔を——上げた。







「——あの、方——風車を——三十——同時に——回してるの」






「——三十——!?」








「——"今日は——風が——気持ちいいぞ"、って——言いながら、ね」









——半月、後。







——工房に——妙な——箱が——据えられた。







「——動くのか」







——賢者が——訝しんだ。







「——やってみましょう」








——一色が——把手を——回した。







——ぶうん。







——低い——唸りが——始まり。







——そして。







「…………」







——箱の——前が。






——冷たく——なった。








「——冷たい——!!」







——誠が——手を——かざした。







「——氷みたいです——!!」






「——動いたわ——!!」








——一色が——飛び上がった。







「——十六年——!!」






「——十六年——待ったのよ——!!」








「——おおおお——!!」







——工房が——沸いた。








「——待て」







——だが——賢者が——渋い——顔を——した。







「——裏側が——熱いぞ」






「——それが——仕組みよ」








——一色は——説明した。







「——熱を——冷やしてるんじゃ——ないの」






「——熱を——こっちから——あっちへ——運んでるだけ」








「——では——外は——余計に——暑く——なるのか」






「——なるわ」








「——それは——まずいでは——ないか——!!」









——工房が。






——静まった。








「…………」







——誠は。






——じっと——箱を——見ていた。








「——一色さん」






「——何?」






「——裏側の——熱、どこに——捨てても——いいんですか」








「——え?」






「——外に——捨てるから——暑く——なるんですよね」








——誠は——考えながら——言った。







「——なら——別の——ところに——捨てられませんか」








「——別の——ところ、って?」






「——たとえば——お湯に」








「…………」







——一色が。






——固まった。







「——待って」






「——今——なんて?」








「——うち——夏に——氷を——作る、時」







——誠は——言った。







「——出た——熱で——風呂を——沸かしてました」






「——じいちゃんが——"もったいない"、って」








「…………」







——一色は。






——ゆっくりと——立ち上がった。







「——賢者」






「——なんだ」






「——聞いた?」






「——聞いた」








「——熱を——捨てるんじゃ——なくて」







——一色は——早口に——なった。







「——"使う"、のよ——!」








「——なるほど——!!」









——こうして。






——妙な——ものが——できあがった。








「——涼しい——!!」






「——それに——湯が——出るぞ——!!」








——広場の——集会所に。






——冷やす——箱と——湯を——沸かす——桶が——繋がれていた。








「——一台で——二つ——できるのか——!!」






「——冷やした——分だけ——湯が——沸くわ」








——一色が——満足そうに——言った。







「——無駄が——ない」








「——風呂に——入れる——!!」






「——十六年ぶりだ——!!」









——そして。






——電気が——余り始めると。







——次々と——ものが——生まれた。








「——一色さん——! これは——なんですか——!」







——誠が——妙な——箱を——指した。







「——冷やして——保つ——箱よ」








——一色は——蓋を——開けた。







「——中に——飯を——入れておくと——傷まないの」








「——それ——!!」







——誠が——飛び上がった。







「——うち——毎日——野菜が——傷んで——困ってました——!!」






「——だから——作ったのよ」








「…………え?」







「——十六年——前に——あなたが——言ったの」







——一色は——ぼそり、と——言った。







「——"薬を——冷やせませんか"、って」






「——覚えて——たんですか——!?」








「——覚えてるわよ」







——一色は——顔を——背けた。







「——あれで——私、考え方が——変わったんだから」









——さらに。







「——これは——なんですか」







——誠が——別の——ものを——指した。







——細い——線が——壁に——張り巡らされている。








「——灯りよ」







——一色が——把手を——回すと。






——ぱっ、と——部屋が——明るくなった。








「——おお——!!」






「——火が——ないのに——!!」








「——火より——安全よ」







——一色は——言った。







「——それに——煙も——出ない」






「——地下でも——使えるわ」








「——それは——助かります——!!」









——だが。






——問題も——起きた。








「——足りぬ——!!」







——賢者が——叫んだ。







「——電気が——足りぬ——!!」






「——皆——使いすぎよ」








——一色が——渋い——顔を——した。







「——涼しいのが——嬉しくて——一日中——回してるの」






「——気持ちは——分かるけど」








「——では——止めさせるか——!」






「——待って——ください」








——誠が——止めた。







「——止めたら——皆さん——また——参ります」






「——だが——足らんのだ——!」








「——増やしましょう」







——誠は——言った。







「——どうやってだ——!」






「——フウタロスさんに——聞いてみます」









——だが。






——フウタロスは——首を——振った。








「——これ以上は——無理だ——!!」






「——三十で——限界——ですか」








「——我は——一人だからな——!!」







——フウタロスは——申し訳なさそうに——言った。







「——手が——二本しか——ない——!!」








「…………」







——誠は。






——ふと——ある、ことを——思い出した。








「——手が——二本」






「——どうした?」








「——虫人族の——長さんも——同じことを——言いました」







——誠は——顔を——上げた。







「——"六本——要る"、って」






「——だから——三人で——分けました」








「…………」







「——フウタロスさん」






「——なんだ——!」






「——風車、人でも——回せませんか」








「——回せる——! だが——ものすごく——重いぞ——!」






「——何人——要りますか」






「——一台に——五十人は——要る——!!」








「——五十人なら——集まります」







——誠は——けろり、と——言った。







「——本当か——!!」






「——地下に——十万——いますから」









——だが。






——ここで——首領が——口を——挟んだ。








「——待て、八百屋」






「——首領」






「——人力では——続かぬ」








——首領は——低く——言った。







「——一日は——回せよう」






「——だが——十年——回せるか」








「…………」







——誠は。






——言葉に——詰まった。







「——確かに——そうですね」








「——ゆえに——別の——手を——考えた」







——首領は——マントを——翻した。







「——何ですか——!」






「——水だ」








「——水?」






「——地下水路は——止まらぬ」








——首領は——けろり、と——言った。







「——十六年——一度も——止まって——おらぬ」






「——あれで——回せぬか」








「——回せるわ——!!」







——一色が——飛び上がった。







「——水車は——すでに——ある——! 大きくすればいい——!!」








「——首領——! すごいです——!!」







——誠が——喜ぶと。






——首領は——顔を——背けた。








「——世界征服の——ために——考えて——おっただけだ」






「——第十四条ですね」






「——知らぬ」









——一年、後。







——地下の——水路には——巨大な——水車が——並び。






——地上には——風車が——立ち。






——そして——各層に——灯りが——ついた。








「——明るい——!!」






「——夜でも——本が——読める——!!」








「——賢者さん」







——誠が——工房を——覗くと。






——賢者は——灯りの——下で——書き物を——していた。








「——なんだ」






「——今日は——早く——寝ないんですか」








「——魔王殿の——呪いで——眠くなる」







——賢者は——渋い——顔を——した。







「——だが——灯りが——あると——惜しくてな」






「——寝て——ください」








「——一つだけ——書いたら——寝る」







——彼は——顔を——上げた。







「——田中」






「——はい」








「——十六年——前を——覚えて——おるか」






「——どの——ことですか」






「——エアコンを——諦めた——日だ」








——賢者は——静かに——言った。







「——あの、時——お前は——言うたな」






「——"いつか——電気が——増えたら——作れますね"、と」








「——言いましたね」






「——私は——馬鹿な、ことを——言うと——思うた」








——賢者は——ぼそり、と——言った。







「——電気など——増えるはずが——ないと——思うて——おった」








「…………」







「——だが——増えた」







——彼は——灯りを——見上げた。







「——怪獣が——風車を——回し」






「——悪の——組織が——水を——使えと——言い」






「——そして——十六年——前の——図面が——役に——立った」








「…………」







「——田中」






「——はい」






「——"先に——置いておく"、というのは」








——賢者は——ペンを——置いた。







「——学問の——正しい——やり方、だったのだな」








「——僕、そんな——大した、ことは——言ってません」







「——言うたのだ」








——賢者は——立ち上がった。







「——ゆえに——今——書いて——おる」






「——何を——ですか」








「——"今は——できぬ、こと"、の——帳面だ」







——賢者は——分厚い——帳面を——掲げた。







「——できぬ、と——分かった、時に——なぜ——できぬかを——書いて——おく」






「——いつか——条件が——変わった、時に——引き出すためだ」








「…………」







——誠は。






——その——帳面を——見て。






——そして——微笑んだ。








「——賢者さん」






「——なんだ」






「——それ——ルカと——同じですね」








「…………」







——賢者は。






——ふん、と——鼻を——鳴らして。






——そして——顔を——背けた。








「——あの——小僧に——教わったのだ」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「一色さんが、十六年前の図面を、引っ張り出してきた。埃だらけだったけど、ちゃんと、残ってた。"捨てるわけないでしょう。三十日かけて書いたのよ"、って。……フウタロスさんが、風車を三十、同時に回してくれてるので、電気が、足りた。……半月で、冷やす箱が、できた。動いた。十六年ぶり。一色さん、飛び上がってた。……でも、裏側が熱くて、外が暑くなる。だから、聞いた。"裏側の熱、どこに捨ててもいいんですか。たとえば、お湯に"、って。うち、夏に氷を作る時、出た熱で、風呂を沸かしてた。じいちゃんが、"もったいない"、って。……一色さんが、"熱を捨てるんじゃなくて、使うのよ"、って。それで、冷やす箱と、湯を沸かす桶を、繋いだ。一台で、二つ。皆、"風呂に入れる、十六年ぶりだ"、って。……それから、次々と、できた。冷やして保つ箱。中に飯を入れると、傷まない。うち、毎日、野菜が傷んで困ってた、って言ったら、一色さんが、"だから作ったのよ。十六年前に、あなたが、薬を冷やせませんか、って言ったの。覚えてるわよ。あれで、私、考え方が変わったんだから"、って。……それと、灯り。火がないのに、明るい。煙も出ないから、地下でも使える。……でも、電気が、足りなくなった。皆、嬉しくて、一日中、回してる。止めさせよう、って言われたけど、止めたら、皆、また参ります。だから、増やす。……フウタロスさんは、"手が二本しかない"、って。虫人族の長さんと、同じだった。だから、人で回そう、と思ったら、首領さんが、"人力では続かぬ。一日は回せよう。だが、十年、回せるか"、って。……そして、"水だ。地下水路は、十六年、一度も止まっておらぬ"、って。一色さんが、飛び上がってた。すごいです、って言ったら、"世界征服のために考えておっただけだ"、って。第十四条ですね、って言ったら、"知らぬ"、って。……一年で、地下に灯りが、ついた。夜でも本が読める、って。……賢者さんが、灯りの下で、書き物をしてた。"十六年前、お前は、いつか電気が増えたら作れますね、と言うた。私は、馬鹿なことを言うと思うた。だが、増えた"、って。……"先に置いておく、というのは、学問の正しいやり方だったのだな"、って。それで、"今はできぬことの帳面"、を、書き始めたらしい。できない、と分かった時に、なぜできないかを、書いておく。いつか、条件が変わった時に、引き出すため。……ルカと、同じですね、って言ったら、"あの小僧に教わったのだ"、って。じいちゃん、風呂に、入れます」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。賢者が——書き始めた——「今は——できぬ、ことの——帳面」、が。




——やがて——何百——何千の——項目に——膨れ上がることを。


そして——その——帳面の——最後の——頁に。




——ただ一つ——引き出される、ことの——なかった——項目が——残ることも。





——今は……まだ、書いた——本人も——知らない。

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