第110話「百本目」
十一年目の——春。
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——百本目の——弓が——立った。
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「——できた——!!」
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——賢者が——絶叫した。
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「——百だ——!! ついに——百だ——!!」
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「——おおおおお——!!」
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——世界中で——歓声が——上がった。
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「——皆さーん——!!」
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——竜の——背から——魔法使いが——叫んだ。
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「——百本目——完成です——!!」
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「——十一年——かかりました——!!」
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「——コメント——どないや」
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「——"十一年——見てた"、"おめでとう"、"泣いた"、って——!!」
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「——十一年——見とる、って」
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——藤原が——首を——かしげた。
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「——あの、人ら——暇なんかいな」
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「——藤原さん——!!」
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——だが。
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——祝いの——席は——短かった。
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「——一色。数字は」
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——賢者が——尋ねた。
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「——百本——全部——動かして」
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——一色は——帳面を——めくった。
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「——あと——十一年」
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「——ちょうど——半分、か」
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「——ええ」
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「——では——これからが——本番だな」
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——十一年。
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——百の——弓を——毎日。
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——一日も——休まず。
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「——きついぞ、これは」
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——賢者が——唸った。
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「——弓を——作るのは——形が——見えた」
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「——だが——同じことを——十一年、だ」
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「——できますよ」
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——誠が——けろり、と——言った。
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「——なぜ——そう——言い切れる」
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「——皆さん——もう——十一年——やってますから」
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「…………」
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——賢者は。
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——ぐっ、と——言葉に——詰まった。
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——だが——問題は——別の——ところから——来た。
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「——師匠——!!」
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——ルカが——高台から——駆け下りてきた。
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「——どうした——!」
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「——第八十三番が——上がりません——!!」
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「——故障か——!」
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「——分かりません——! 昨日から——止まったままです——!」
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——現地に——飛ぶと。
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——弓の——前に——人が——集まっていた。
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「——どうしました」
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「——ああ、田中殿」
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——里の——長が——うつむいた。
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「——竜が——おらんのだ」
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「——え?」
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「——ここを——担当して——おった——竜が——里へ——帰った」
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——長は——申し訳なさそうに——言った。
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「——"疲れた"、と——言うてな」
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「…………」
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——誠は。
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——藤原を——見上げた。
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「——藤原さん」
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「——ああ。……やっぱりか」
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——藤原は——渋い——顔を——した。
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「——うちら——長生きやけどな」
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「——同じことを——十一年、っちゅうのは——初めてやねん」
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「——竜は——飽きるんですか」
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「——飽きる」
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——藤原は——けろり、と——認めた。
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「——うちらは——気ままな——性や」
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「——毎日——同じ、ことを——するように——できてへん」
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「…………」
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「——一頭——抜けたら——どうなる」
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——賢者が——尋ねた。
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「——その——弓が——止まるわ」
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——一色が——渋い——顔で——言った。
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「——一本——止まれば——その、分——遅れる」
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「——三本——止まれば——一年——延びる」
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「——では——引き止めねば——!」
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「——無理や」
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——藤原が——首を——振った。
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「——竜は——命じられるのが——一番——嫌いやねん」
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「——無理に——留めたら——余計に——出ていく」
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「——ならば——どうする——!」
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——誠は。
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——しばらく——黙って。
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——そして——言った。
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「——藤原さん。一つ——聞いていいですか」
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「——なんや」
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「——藤原さんは——なんで——飽きないんですか」
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「…………」
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——藤原が。
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——ぴたり、と——止まった。
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「——三年——前から——ずっと——弓を——引いてますよね」
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——誠は——続けた。
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「——十一年、です」
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「——一度も——休んでません」
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「…………」
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——藤原は。
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——長い、こと——黙って。
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——そして——ぼそり、と——言った。
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「——顔が——見えるからや」
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「——え?」
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「——うち——毎日——地上に——降りとる」
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——藤原は——空を——見上げた。
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「——ほんで——町の——連中と——喋っとる」
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「——"今日も——ありがとうな"、とか——言われる」
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「…………」
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「——他の——連中は——違う」
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——藤原は——静かに——言った。
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「——荒れ地の——弓に——行って——引いて——帰る」
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「——誰にも——会わへん」
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「——十一年——それやったら——そら——飽きるわ」
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「…………」
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——誠は。
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——ゆっくりと——顔を——上げた。
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「——賢者さん」
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「——なんだ」
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「——弓の——場所を——変えましょう」
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「——なに——!?」
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——賢者が——飛び上がった。
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「——百本——移すのか——!!」
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「——全部じゃ——ありません」
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——誠は——地図を——広げた。
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「——町から——遠すぎる——ものだけです」
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「——町の——近くに——移せませんか」
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「——危ないわ」
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——一色が——首を——振った。
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「——爆発したら——町が——巻き込まれる」
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「——十一年——爆発してませんよね」
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「——それは——そうだけど」
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「——なら——移しましょう」
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——誠は——きっぱりと——言った。
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「——安全を——取って——竜が——全部——抜けたら」
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「——十一年——延びます」
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「…………」
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——一色は。
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——しばらく——黙って。
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——そして——ため息を——ついた。
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「——分かったわ」
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「——ただし——柵は——きちんと——作る」
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「——ありがとう——ございます——!」
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——そして——誠は。
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——もう一つ——加えた。
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「——それと——もう一つ——やりたいことが——あります」
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「——なんだ」
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「——竜の——皆さんに——名前を——つけて——ください」
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「…………は?」
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——藤原が。
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——きょとん、と——した。
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「——竜は——名を——持たへんて——言うたやろ」
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「——長さんが——今——つけてます」
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——誠は——言った。
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「——飛べない——六頭に」
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「——それを——全部の——竜に——広げて——ください」
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「——なんでや」
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「——名前が——ないと——礼が——言えません」
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「…………」
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——藤原が。
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——固まった。
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「——町の——人が——"竜さん、ありがとう"、って——言っても」
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——誠は——静かに——言った。
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「——それ——自分に——言われてる——気が——しないと——思うんです」
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「——でも——名前で——呼ばれたら——違います」
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「…………」
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——藤原は。
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——長い、こと——黙って。
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——そして——ぼそり、と——言った。
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「——田中くん」
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「——はい」
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「——あんた——ずるいで」
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「——なんで——ですか」
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「——うちが——十一年——飽きへんかった——理由が——それやからや」
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「…………」
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「——名前で——呼ばれると——嬉しいねん」
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——藤原は——顔を——背けた。
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「——阿呆みたいやろ」
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「——阿呆じゃ——ないです」
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——誠は——微笑んだ。
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「——僕も——そうです」
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——半年、後。
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——弓は——町の——近くに——移され。
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——竜たちには——名前が——つけられた。
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「——テツさーん——! おはよう——ございます——!」
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「——うむ」
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「——今日も——お願いします——!」
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「——任せよ」
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——名前で——呼ばれた——竜が。
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——妙に——満足そうに——弦を——引いた。
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「——テツ、って——誰が——つけたんですか」
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——誠が——尋ねると。
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——長は——渋い——顔で——答えた。
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「——我だ」
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「——由来は——?」
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「——鉄が——好きだからだ」
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「——安易——ですね」
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「——うるさい」
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「——他の——方は——?」
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「——早起きの——者は——アサ」
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「——よく——寝る——者は——ネム」
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「——大きい——者は——オオ」
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「——全部——安易です——!!」
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「——三十頭も——おるのだぞ——!!」
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——だが。
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——効き目は——絶大、だった。
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「——里に——帰った——者が——戻って——おります」
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——半年、後。
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——長が——報告した。
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「——本当ですか——!?」
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「——"名を——もらった"、と——聞いて——な」
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——長は——ぶっきらぼうに——言った。
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「——"自分にも——くれ"、と——言うてきた」
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「——面倒だ」
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「——でも——嬉しそうですね」
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「——うるさい」
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——そして——十一年目の——冬。
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——百の——弓は。
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——一本も——止まらずに——動き続けていた。
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「十一年目の春、百本目の弓が、立った。皆、沸いた。虚空の方々も、"十一年、見てた"、って。藤原さんが、"あの人ら、暇なんかいな"、って。……でも、祝いは短かった。一色さんが、"百本、全部動かして、あと十一年"、って。ちょうど半分。これからが、本番。……そしたら、第八十三番が、止まった。竜が、里へ帰った。"疲れた"、って。……藤原さんが、"うちら、長生きやけど、同じことを十一年、っちゅうのは、初めてやねん。飽きる。うちらは気ままな性や"、って。一頭抜けたら、その弓が止まる。三本止まれば、一年延びる。……引き止めよう、って言ったら、"無理や。竜は、命じられるのが、一番嫌い"、って。……だから、聞いた。"藤原さんは、なんで、飽きないんですか"、って。十一年、一度も、休んでない。……"顔が見えるからや"、って。毎日、地上に降りて、町の連中と喋って、"今日もありがとうな"、って言われる。他の連中は、荒れ地の弓に行って、引いて、帰る。誰にも会わない。十一年、それやったら、飽きる、って。……だから、弓を、町の近くに移すことにした。一色さんが、"危ないわ"、って。でも、十一年、爆発してません。安全を取って、竜が全部抜けたら、十一年、延びます。……それと、もう一つ。竜の皆さんに、名前を、つけてもらうことにした。長さんが、飛べない六頭に、つけ始めてたから、全部に広げてもらった。……藤原さんが、"なんでや"、って。名前がないと、礼が言えません。"竜さん、ありがとう"、じゃ、自分に言われてる気が、しない。でも、名前で呼ばれたら、違います。……そしたら、"あんた、ずるいで。うちが、十一年、飽きへんかった理由が、それやからや。名前で呼ばれると、嬉しいねん。阿呆みたいやろ"、って。……阿呆じゃ、ないです。僕も、そうです。……半年後、弓は町の近くに移って、竜には名前が、ついた。テツさん、アサさん、ネムさん、オオさん。全部、安易でした。長さんに言ったら、"三十頭もおるのだぞ"、って、怒られた。……でも、里に帰った竜が、戻ってきた。"名をもらった"、と聞いて、"自分にもくれ"、って。長さん、"面倒だ"、って言いながら、嬉しそうでした。じいちゃん。百本、動いてます」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——たとえ——空に——見えなくても。
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まだこの時の誠は知らない。「名前で——呼ばれると——嬉しいねん」、という——藤原の——その——一言が。
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——なぜ——彼女だけが——竜の——中で——それを——知って——いたのかを。
そして——名を——持たなかった——一族が——名を——持ち始めた——この、年から。
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——彼らの——寿命が——変わり始めることも。
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——今は……まだ、誰も——測って——いない。




