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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第107話「百の、弓」

「——では——決を——採るぞ」





——広場に——世界中の——代表が——集まった。







——各地の——長。





——各国の——使い。





——魔族。鬼族。虫人族。竜族。





——そして——悪の組織。








「——二十二年だ」







——賢者が——皆に——告げた。







「——一日も——休まず——弓を——百——立て——毎日——打ち続ける」






「——それで——ようやく——星の——落下が——止まる」








「——二十二年——!?」







——ざわめきが——起きた。







「——それは——長すぎるぞ——!」






「——うちの——里は——人手が——足りん——!」








「——分かって——おる」







——賢者は——静かに——言った。







「——ゆえに——決を——採る」






「——やる、か——やらぬか、だ」









——だが。






——誠が——立ち上がった。








「——待って——ください」






「——なんだ」






「——その——聞き方は——駄目です」








「——なに?」







——誠は——広場を——見回した。







「——"やるか——やらぬか"、と——聞かれたら」






「——皆さん——"やる"、と——答えます」








「——それで——よいでは——ないか——!」






「——よくないです」








——誠は——首を——振った。







「——今——"やる"、と——言っても」






「——十年後に——できてなかったら——意味が——ありません」








「…………」







「——だから——こう——聞きます」







——誠は——皆に——向かって——言った。








「——皆さんの——里は」






「——二十二年——何を——出せますか」








「…………」







——広場が。






——静まった。








「——毎年——人を——十人——出せる——里も——あると——思います」







——誠は——続けた。







「——でも——三人しか——出せない——里も——あります」






「——鉄しか——出せない——里も——あります」






「——飯しか——出せない——里も——あります」








「——それで——いいんです」







——誠は——きっぱりと——言った。







「——大事なのは——"二十二年——出し続けられる——量"、です」








「…………」







——一人の——長が。






——おずおずと——手を——挙げた。








「——あの——うちの——里は——小さくて」






「——人は——年に——二人が——精一杯です」








「——書きます」







——ルカが——帳面を——広げた。







「——それでも——よいのか?」






「——十分です」








——誠は——微笑んだ。







「——二十二年で——四十四人です」






「——ものすごく——大きいです」








「…………」







——長は。






——ぽかん、と——した。







「——四十四……」






「——そう——考えた、ことが——なかった」









——それを——皮切りに。






——手が——次々と——挙がった。








「——うちは——鉄が——出る——! 年に——五十貫——なら——!」






「——うちは——縄だ——! 縄なら——いくらでも——編める——!」






「——飯を——出す——! 人は——出せんが——飯なら——!」








「——全部——書け——!」






「——はい——!!」









——三日。






——帳面が——五冊に——なった。








「——これは——すごいわ」







——一色が——目を——見張った。







「——世界中の——出せる——ものが——全部——書いてある」






「——こんな——ものは——見た、ことが——ない」








「——足りますか」







——誠が——尋ねると。






——一色は——計算して。






——そして——顔を——上げた。








「——足りるわ」






「——本当ですか——!?」






「——ぎりぎり、だけど」









——こうして。






——百の——弓の——建造が——始まった。









——一年目。







——弓が——十二——増えた。







「——早い——!」







——賢者が——驚いた。







「——前は——一年で——十だったのに——!」






「——慣れた、からよ」









——三年目。







——弓は——四十を——超えた。







——そして——毎日。







——鉄の——塊が——空へ——上げられていた。








「——今日の——分——完了——!」






「——記録——!」








——ルカが——帳面に——書き込む。







——毎日——同じ——ことを。








「——小僧」







——高台から——老竜が——呼んだ。







「——はい——!」






「——今日の——太陽は——昨日と——同じだ」








「——書きます——!」









——五年目。







——問題が——起きた。








「——師匠——! 大変です——!」







——ルカが——駆けてきた。







「——第三十七番の——弓が——止まりました——!」








「——なぜだ——!」






「——人が——集まらないんです——!」








——誠は——すぐに——現地へ——飛んだ。








「——どうしました」







「——すまん、田中殿」







——里の——長が——うつむいた。







「——皆——飽きたのだ」








「——飽きた?」






「——五年——毎日——同じことを——して——おる」








——長は——ため息を——ついた。







「——だが——星は——落ち続けて——おる」






「——何も——変わらん」








「——皆——言うのだ」







——長は——静かに——言った。







「——"本当に——効いて——おるのか"、と」








「…………」







——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——効いてます」






「——なぜ——分かる」






「——数字が——あります」








——誠は——帳面を——広げた。







「——五年——前は——あと——二十二年でした」






「——今は——あと——十九年です」








「——三年——減っただけでは——ないか——!」






「——違います」








——誠は——きっぱりと——言った。







「——何も——しなければ——今頃——十四年です」








「…………え?」







「——落ちる——速さは——増え続けます」







——誠は——説明した。







「——だから——放っておけば——年が——減る——速さも——増えます」






「——でも——五年で——五年しか——減ってません」







「——これが——効いてる、って——ことです」








「…………」







——長は。






——ぽかん、と——した。







「——五年で——五年しか——減っておらぬ、のが」






「——手柄なのか」








「——手柄です」







——誠は——微笑んだ。







「——皆さんが——毎日——打ち上げてるから——加速が——抑えられてるんです」








「…………」







「——でも——これ——分かりにくいですよね」







——誠は——申し訳なさそうに——言った。







「——僕たちの——落ち度です」






「——伝えてませんでした」









——その日から。






——新しい——取り決めが——できた。








「——毎月——数字を——貼り出します——!」







——魔法使いが——配信で——告げた。







「——"何も——しなければ——あと——何年"」






「——"皆さんが——やって——今——あと——何年"」






「——この——二つを——並べます——!」








「——それは——よい——!」







——賢者が——頷いた。







「——差が——見えれば——手柄が——見える——!」









——効き目は——すぐに——出た。








「——おい——! 今月の——差、見たか——!」






「——七年だ——! 七年——稼いだ——!」






「——先月は——六年だったぞ——!」






「——伸びとる——!」








「——第三十七番も——動き出しました——!」







——ルカが——報告した。







「——よかった」









——八年目。







——弓は——七十を——超えた。







——そして——高台で。







——老竜が——ふと——言った。








「——八百屋」






「——はい」






「——今日は——妙だ」








「——何がですか」






「——太陽が——小さい」








「…………え?」







——誠が。






——固まった。







「——今——なんて?」






「——小さい」








——老竜は——空を——見つめたまま——言った。







「——昨日より——わずかに、な」








「——ルカ——!!」







——誠が——叫んだ。







「——帳面を——持ってこい——!!」









——三日、後。







「——測り直したわ」







——一色が——工房に——駆け込んだ。







「——どうでしたか——!」






「——止まってる」








「…………」







——工房が。






——凍りついた。








「——止まった、だと——!?」






「——違うわ」








——一色は——首を——振った。







「——"加速が"、止まったの」






「——落ちるのは——まだ——続いてる」








「——だが——速く——ならなく——なったのか——!」






「——ええ」








——一色は——紙を——掲げた。







「——八年——かけて——ようやく——釣り合ったの」








「——ということは——!」







「——これから——先は」







——一色の——声が——震えた。







「——年が——減らなく——なるわ」








「…………」







——そして。







「——うおおおおお——!!」







——工房が——爆発した。








「——止まった——!!」






「——八年で——止めた——!!」






「——イーッ——!!」








「——待て——!!」







——だが——賢者が——制した。







「——止まったのは——"加速"、だけだ——!」






「——星は——今も——落ちて——おる——!」








「——あと——何年、ですか」







——誠が——尋ねると。






——一色は——帳面を——見て——答えた。








「——十四年」








「——十四、か」







——賢者が——唸った。







「——だが——もう——減らぬのだな」






「——ええ」








「——それは——大きい」







——賢者は——深く——息を——吐いた。







「——追われる——側から——追う——側に——なった、ということだ」









——その、夜。






——高台で。







「——おじいさん」






「——うむ」






「——おじいさんが——見つけました」








——誠は——深く——頭を——下げた。







「——加速が——止まった、って」






「——おじいさんが——最初に——気づいたんです」








「——見えるからな」







——老竜は——けろり、と——言った。







——だが。






——その——声は。






——少し——嗄れていた。








「——おじいさん?」






「——気に——するな」








「——具合が——悪いんですか」






「——歳だ」








——老竜は——空を——見上げたまま——言った。







「——それに——目が——少し——霞んできた」








「…………」







——誠は。






——言葉に——詰まった。








「——だから——な」







——老竜は——静かに——言った。







「——小僧を——呼べ」






「——ルカを?」








「——教えて——おく」







——老竜は——目を——細めた。







「——我が——見えて——おる——うちに、な」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「世界中の代表を、集めた。賢者さんが、"やるか、やらぬか"、で決を採ろうとしたから、止めた。その聞き方は、駄目です。今、"やる"、と言っても、十年後に、できてなければ、意味がない。……だから、"皆さんの里は、二十二年、何を出せますか"、って、聞いた。十人出せる里もあれば、三人しか出せない里もある。鉄しか出せない里も、飯しか出せない里も、ある。大事なのは、二十二年、出し続けられる量です。……小さな里の長さんが、"人は年に二人が精一杯"、って。十分です。二十二年で、四十四人。ものすごく、大きいです、って言ったら、"そう考えたことがなかった"、って。……三日で、帳面が五冊。一色さんが、"世界中の出せるものが、全部、書いてある。こんなものは、見たことがない"、って。そして、"足りるわ。ぎりぎり、だけど"、って。……一年目で、弓が十二。三年目で四十。毎日、鉄を上げ続けた。……五年目に、第三十七番が、止まった。皆、飽きた、って。"本当に効いておるのか"、って。……効いてます。五年前は二十二年、今は十九年。三年しか減ってない。でも、何もしなければ、今頃、十四年でした。落ちる速さは、増え続けるから、放っておけば、減る速さも増える。五年で五年しか減ってないのが、手柄なんです。……でも、分かりにくい。伝えてなかった、僕たちの落ち度です。だから、毎月、二つの数字を、並べて貼り出すことにした。"何もしなければ、あと何年"、"皆さんがやって、今、あと何年"。……効いた。"今月の差、七年だ"、"先月は六年だった"、"伸びとる"、って。第三十七番も、動き出した。……八年目。老竜さんが、"今日は妙だ。太陽が小さい"、って。……一色さんが、三日、測り直して、"加速が、止まった"、って。八年かけて、ようやく、釣り合った。これから先は、年が、減らなくなる。……皆、爆発した。でも、賢者さんが、"止まったのは加速だけだ。星は今も落ちておる"、って。あと十四年。でも、もう、減らない。"追われる側から、追う側になった"、って。……夜、高台で、礼を言った。加速が止まったのを、最初に気づいたのは、おじいさんです、って。"見えるからな"、って。……でも、声が、嗄れてた。具合を聞いたら、"歳だ。それに、目が少し霞んできた"、って。……"だから、小僧を呼べ。教えておく。我が、見えておるうちに"、って。じいちゃん。時間が、ないのは、星だけじゃ、ないみたいです」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。八年——かけて——ようやく——止めた——その、加速が。




——本当は——何によって——止まったのかを。


そして——老竜が——弟子に——教える——ことに、なる——「空の——見方」、が。




——ただの——観測の——技では——なかったことも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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