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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第105話「返事」

二通目を——送ってから。





——三日。






——返事は——なかった。








「——七日——経ったぞ」







——賢者が——苛立った。







「——待ちましょう」






「——お前は——いつも——それだな——!」








「——他に——することも——ありますし」







——誠は——荷車を——引きながら——言った。







「——今日は——第七層の——配給です」






「——こんな、時に——配給か——!」








「——こんな、時でも——腹は——減りますから」









——十日目。







——駄々丸が——妙な——ことを——言い出した。








「——旦那。ちょいと——妙な、ことが——ござんしてね」







「——なんですか」






「——ここ——十日ほど——寝覚めが——ひどうござんす」








「…………」







——誠の——手が。






——止まった。







「——ひどい、って——どういう——ふうに」








「——起きると——顔が——濡れて——おりやしてね」







——駄々丸は——首を——さすった。







「——泣いた——覚えは——ねェんですが」






「——毎朝——枕が——湿って——おりやす」








「…………」







——誠は。






——何も——言えなかった。








「——歳で——ござんすかね」







——駄々丸が——笑った。







「——涙腺が——緩んだ、と——見えやす」








「……そう——かも——しれませんね」









——十五日目。







『——来た』







——皆瀬が——揺れた。







「——読め——!!」








——工房に——皆が——駆け込んだ。








『——ええと……』







——皆瀬が。






——少し——ためらった。








「——どうした——!」






『——長い』








「——長い——!?」






『——今までで……一番、長い』








「…………」







——工房が。






——静まった。








「——読んで——ください」







——誠が——静かに——言った。







『——うん』









『——"誠くん"』







『——"手紙、二通とも——読んだ"』








「…………」







『——"一通目な"』







『——"最後の——一行が——きつかった"』








「——最後の——一行?」







——賢者が——訝しんだ。







「——"蕎麦、うまく——できましたか"、です」







——誠が——答えた。








「——なぜ——それが——きついのだ」






「…………」








『——"星が——落ちてる、と——書いた——後にな"』







——皆瀬が——読み続けた。







『——"蕎麦の——心配——しとるやろ"』







『——"あれ——効いたわ"』








「…………」







『——"それで——二通目や"』








——工房の——空気が。






——張り詰めた。








『——"謝らんでええ、って——書いたな"』







『——"あれは——ずるいで"』








「…………」







『——"ワイ、三年——謝る——練習——しとってん"』








「…………え?」







——誠が。






——目を——見開いた。








『——"どない——言うたら——ええか——ずっと——考えとった"』







『——"せやのに——お前——謝らんでええ、って"』







『——"三年の——練習が——無駄や"』








「…………」







——工房が。






——しん、と——なった。








『——"まあ——ええわ"』







『——"ほんで——本題や"』








「——来た——!!」








『——"月な"』







『——"あれ——ワイや"』








「…………」







「——今——なんと?」







『——"二つ目の——月は——ワイの——半分や"』








「…………」







——誰も。






——声を——出さなかった。








『——"四百年——空に——置いとった"』







『——"星喰いを——撃つ、時に——全部——使うた"』







『——"せやから——消えた"』








「…………」







『——"あの、時——他に——手が——なかった"』







『——"使わな——星ごと——焼かれとった"』








『——"せやけど"』








——皆瀬の——声が。






——少し——揺れた。








『——"使うたら——こうなる、って——ワイは——知っとった"』








「…………」







——工房が。






——凍りついた。








「——知って——おって——使うたのか——!!」







——賢者が——叫んだ。







『——"知っとった"』








『——"星喰いに——焼かれたら——その日で——終わりや"』







『——"月を——使うたら——二十年か——三十年か——猶予が——できる"』







『——"ワイは——後者を——選んだ"』








「…………」







『——"それが——正しかったかは——知らん"』








「…………」







——誠は。






——拳を——握っていた。








『——"それでな、誠くん"』







『——"手伝え、って——書いとったな"』








「——はい」







——誠が——虚空に——向かって——答えた。








『——"手伝う"』








「…………」







——工房が。






——ざわめいた。








「——本当か——!?」






「——今——"手伝う"、と——言うたぞ——!!」








『——"けどな"』








——ざわめきが。






——ぴたり、と——止まった。








『——"一つ——言うとく"』







『——"ワイ——もう——半分しか——残っとらん"』








「…………」







『——"もう一回——同じことを——したら"』







『——"ワイは——消える"』








「…………」







——工房が。






——完全に——静まり返った。








『——"それでも——ええか"』








「…………」







——誰も。






——答えられなかった。








『——"返事は——急がんでええ"』







『——"ほな"』








——そして。






——気配は——消えた。









——長い——沈黙が——落ちた。







——誰も——口を——きかなかった。








「…………」







「——田中」







——賢者が——ようやく——口を——開いた。







「——はい」






「——聞くぞ」








——彼は——誠を——見た。







「——頼むのか」








「…………」







——誠は。






——答えなかった。








「——星が——落ちれば——皆——死ぬのだぞ」







——賢者は——続けた。







「——十万——いや——世界中の——者が、だ」






「——それと——神——一人の——命だ」








「——比べる——ものでは——ないだろう」








「…………」







「——田中——!」








「——賢者さん」







——誠が——ようやく——顔を——上げた。







「——なんだ」






「——僕、一つ——嫌なことに——気づきました」








「——なんだ」







——誠は。






——ゆっくりと——言った。








「——三年——前も——同じでした」








「…………」







「——星喰いが——来た、時」







——誠は——静かに——続けた。







「——あの、人は——一人で——決めたんです」






「——半分を——使う、って」








「——僕たち——誰も——知りませんでした」






「——"世界が——助かった"、って——喜んでました」








「…………」







「——今度も——同じに——なりませんか」








——誠は——顔を——上げた。







「——"神様が——やってくれた"、って——喜んで」






「——あの、人は——消えて」






「——それで——終わりですか」








「…………」







——賢者は。






——言葉に——詰まった。








「——だが——他に——手が——ないぞ」






「——探します」








——誠は——きっぱりと——言った。







「——何を——だ」






「——あの、人が——消えなくて——済む——方法です」








「——そんな——ものが——あるか——!!」






「——分かりません」








——誠は——素直に——言った。







「——でも——前も——そうでした」






「——"誰かが——乗らないと——駄目だ"、って——皆——言ってました」






「——でも——三月——探したら——乗らずに——済みました」








「…………」







「——今度も——探します」







——誠は——真っ直ぐに——言った。







「——二十二年——あります」








「…………」







——賢者は。






——長い、こと——黙って。






——そして——深く——息を——吐いた。








「——分かった」






「——探すぞ」









——その、夜。






——誠は——三通目を——書いた。








『——読むね』








——「神様へ」






——「ありがとうございます」






——「でも、まだ、頼みません」






——「消えなくて済む方法を、探します」






——「二十二年、あるので」






——「それまでに、蕎麦、打ってください」






——「田中」








「…………」







——工房が。






——静まった。








「——それだけ、か」






「——それだけです」









——そして——翌朝。







——駄々丸が——工房に——現れた。








「——旦那」






「——駄々丸さん。どうしました」








「——今朝は——枕が——濡れて——おりやせんでした」








「…………」







——誠は。






——動きを——止めた。








「——それは——よかったですね」






「——へえ」








——駄々丸は。






——不思議そうに——首を——かしげた。







「——それに——妙な——ことに」






「——なんですか」








「——蕎麦が——食いとうござんしてね」








「…………」







——誠は。






——ゆっくりと——顔を——上げた。








「——駄々丸さん」






「——へえ」






「——打ちましょうか」








「——おや。旦那——打てるんで?」






「——じいちゃんに——教わりました」








——誠は——立ち上がった。







「——かえしも——ちゃんと——三日——寝かせてあります」








「——ほう。……なぜ?」






「——なんとなく、です」








——誠は——笑った。







「——いつか——誰かが——食べたくなる——気が——して」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「二通目を送って、十五日。神様から、返事が、来た。今までで、一番、長かった。……"一通目な。最後の一行が、きつかった"、って。星が落ちてる、って書いた後に、蕎麦の心配をしてる。効いた、って。……それから、"謝らんでええ、って書いたな。あれはずるいで"、って。"ワイ、三年、謝る練習しとってん。どない言うたらええか、ずっと考えとった。せやのに、お前、謝らんでええ、って。三年の練習が、無駄や"、って。……三年、練習してた。……そして、本題。"月な。あれ、ワイや。二つ目の月は、ワイの半分や。四百年、空に置いとった。星喰いを撃つ時に、全部使うた"、って。……それから、"使うたら、こうなる、ってワイは知っとった"、って。賢者さんが、"知っておって使うたのか"、って、叫んだ。……"星喰いに焼かれたら、その日で終わりや。月を使うたら、二十年か三十年か、猶予ができる。ワイは、後者を選んだ。それが正しかったかは、知らん"、って。……"手伝え、って書いとったな。手伝う"、って。皆、ざわめいた。……でも、続きが、あった。"ワイ、もう半分しか残っとらん。もう一回、同じことをしたら、ワイは消える。それでもええか"、って。……誰も、答えられなかった。……賢者さんが、"頼むのか。星が落ちれば、世界中の者が死ぬ。神一人の命と、比べるものではないだろう"、って。……でも、僕、嫌なことに、気づいた。三年前も、同じだったんです。あの人は、一人で決めた。僕たち、誰も知らずに、"世界が助かった"、って、喜んでた。……今度も、同じに、なりませんか。"神様がやってくれた"、って喜んで、あの人は消えて、それで、終わりですか。……探します、って言った。あの人が、消えなくて済む方法を。前も、"誰かが乗らないと駄目だ"、って皆、言ってたけど、三月探したら、乗らずに済んだ。二十二年、あります。……三通目を、書いた。"ありがとうございます。でも、まだ、頼みません。消えなくて済む方法を、探します。二十二年、あるので。それまでに、蕎麦、打ってください"、って。……翌朝、駄々丸さんが、"今朝は、枕が濡れておりやせんでした"、って。それと、"蕎麦が食いとうござんして"、って。……だから、打つことにした。かえし、三日前から、寝かせてある。なんとなく、いつか、誰かが、食べたくなる気がして。じいちゃん、そばつゆ、じいちゃんの、通りです」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。「まだ——頼みません」、という——その——一行が。




——遥かな——天に——いる——男に。





——四百年ぶりの——猶予を——与えたことを。


そして——「蕎麦が——食いとうござんして」、と——言った——落語家が。




——なぜ——その、朝に——限って——そう——思ったのかも。





——今は……まだ、本人すら——知らない。

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