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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第102話「毎日、聞く」

高台に——通う——日課が——始まった。






「——おじいさん。おはようございます」







——夜明け前。






——誠が——湯呑みを——持って——上がると。






——老竜は——すでに——空を——見ていた。








「——早いな」






「——おじいさんこそ」






「——寝て——おらぬ」








「——寝て——ください」






「——夜の、方が——よく——見えるのだ」









——最初の——十日は。






——同じ——やりとりの——繰り返し、だった。








「——今日は——どうですか」






「——変わらぬ」








「——そうですか」






「——うむ」









——だが——十一日目。







「——八百屋」






「——はい」






「——一つ——聞いてよいか」








「——なんですか」






「——なぜ——毎日——来る」








「——聞くと——言いましたから」






「——変わらぬ、と——言うて——おるだろう」








「——でも——変わったら——教えて——もらえますよね」







——誠は——けろり、と——言った。







「——変わってない、と——聞くのも——大事です」








「…………」







——老竜は。






——ふん、と——鼻を——鳴らして。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——変な——男だ」






「——よく——言われます」









——三十日目。







「——八百屋」






「——はい」






「——今日は——少し——違う」








「——え?」







——誠が——顔を——上げた。







「——太陽が——大きく——なったのだ」






「——ひと月で——ですか——!?」








「——うむ」







——老竜は——静かに——言った。







「——三年——前は——一年で——ようやく——分かるほど、だった」






「——だが——今は——ひと月で——分かる」








「…………」







——誠は。






——背筋が——冷たく——なるのを——感じた。







「——速く——なってる、ってことですね」






「——そうなる」








「——ルカ——!!」







——誠が——階下に——叫んだ。







「——はい——!!」






「——これから——毎日——一緒に——来い——!!」






「——え——!?」








「——おじいさんの——言うことを——全部——書け——!!」









——こうして。






——高台に——帳面が——置かれた。








——「太陽の——大きさ。昨日と——同じ」





——「昨日と——同じ」





——「昨日と——同じ」





——「少し——大きい」








「——小僧」






「——はい——!」






「——それは——面白いか」








——老竜が——尋ねると。






——ルカは——きょとん、と——した。








「——面白いですよ」






「——同じことばかり——書いて——おるだろう」








「——だから——面白いんです」







——ルカは——帳面を——めくった。







「——"同じ"、が——続くから——"違う"、が——分かるんです」






「——毎日——違うことが——起きてたら——何も——分かりません」








「…………」







——老竜が。






——ゆっくりと——首を——下ろした。







「——小僧」






「——はい」






「——いくつだ」








「——十三です」






「——恐ろしいな」









——そして——半年。







——帳面は——三冊に——なった。








「——賢者さん。これ——見て——ください」







——工房に——持ち込むと。






——賢者は——それを——めくって。






——そして——顔色を——変えた。








「——これは」






「——どうですか」







「——一色——! 来い——!!」









——一刻、後。







「——桜庭の——見立てより——速い」







——一色が——紙を——置いた。







「——三十年、では——ない」






「——では——何年だ」








「——二十二年」








「…………」







——工房が。






——静まり返った。








「——八年——縮んだのか」






「——ええ」








——一色は——疲れた——顔で——言った。







「——近づけば——近づくほど——速くなるの」






「——これからも——縮み続けるわ」








「…………」







——誠は。






——帳面を——見つめた。







——ルカの——字が——並んでいる。







——「同じ」「同じ」「同じ」「少し——大きい」。








「——皆さんに——言います」







——誠が——顔を——上げた。







「——待て」








——賢者が——止めた。







「——今——言えば——皆——絶望するぞ」






「——ようやく——地上に——戻れたばかりだ」








「——だから——言うんです」







——誠は——きっぱりと——言った。







「——なに?」






「——今なら——皆さん——元気です」








——彼は——窓の——外を——見た。







「——飯も——食べられて——夜も——眠れて——地上に——戻れて」






「——今なら——聞けます」








「——参ってから——言ったら——立ち上がれません」








「…………」







——賢者は。






——長い、こと——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——お前は——商人だな」






「——八百屋です」









——三日、後。






——地上の——広場に——人が——集まった。







——影の——下、である。








「——皆さん。集まって——いただいて——ありがとう——ございます」







——誠が——壇に——立った。







「——お伝えしたい、ことが——あります」








——ざわめきが——静まった。








「——星は——今も——落ちてます」








「…………」







——広場が。






——しん、と——なった。








「——影が——できて——涼しく——なりました」






「——夜も——戻りました」






「——でも——それは——暑さを——しのいだだけです」








「——星は——止まってません」








「…………」







——誰も——動かなかった。








「——それどころか——速くなってます」







——誠は——帳面を——掲げた。







「——半年——毎日——空を——測りました」






「——調べたら——あと——二十二年です」








「——二十二年——!?」







——どよめきが——起きた。







「——じゃあ——うちの——子は——!」





「——二十二年、って——!!」








「——皆さん——!!」







——誠が——声を——張り上げた。







「——僕は——今——言うことに——しました——!!」






「——なぜか——分かりますか——!!」








——広場が——静まった。








「——今の——皆さんが——一番——強いからです——!!」








「…………」







「——三年——前の——皆さんに——これを——言ったら——潰れてました」







——誠は——続けた。







「——飯も——なくて——夜も——なくて——地下から——出られなくて」






「——でも——今は——違います」








「——皆さんは——夜を——取り戻しました」






「——影を——作りました」






「——世界中に——弓を——十——立てました」








「——三年——前には——一つも——できなかったことです」








「…………」







——広場の——空気が。






——少しずつ——変わり始めた。








「——だから——今——言います」







——誠は——深く——頭を——下げた。







「——二十二年——あります」






「——三年で——ここまで——来ました」






「——二十二年——あれば——何が——できますか」








「…………」







——長い——沈黙が——落ちた。







——そして。







「——……何でも——できるんじゃ——ないか?」







——誰かが——ぽつり、と——言った。








「——三年で——夜を——取り戻したんだ」






「——二十二年、だぞ」








「——それに——今度は——皆——おる」







——グランデルが——のっそりと——言った。







「——鬼族も——魔族も——竜も——虫人も——おるゥ」








「——イーッ——!!」







——黒ずくめが——一斉に——手を——挙げた。








「——皆さん——!!」







——誠が——顔を——上げた。







「——星を——止めます——!!」






「——今度こそ——本当に——止めます——!!」








「——おおおおお——!!」







——広場が——沸いた。









——だが。






——壇を——降りた——誠に。






——賢者が——低い——声で——言った。








「——田中」






「——はい」






「——見事な——演説だった」








「——ありがとう——ございます」






「——だが——一つ——聞く」








——賢者は——誠を——見た。







「——止める——方法は——あるのか」








「…………」







——誠は。






——正直に——首を——振った。







「——ありません」






「——一つも、か」






「——一つも」








「——では——なぜ——"止めます"、と——言うた」








——誠は。






——沸いている——広場を——見た。








「——言わないと——探さないからです」








「…………」







「——"できるかも——しれない"、と——思わないと」






——誠は——静かに——言った。







「——誰も——探しません」








「——騙して——おるのか」






「——騙してます」








——誠は——うつむいた。







「——でも——僕も——本気で——止めるつもりです」






「——だから——嘘では——ないと——思ってます」








「…………」







——賢者は。






——長い、こと——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——それを——世間では——"志"、と——言う」






「——え?」






「——騙り、では——ない」








——賢者は——歩き出した。







「——では——探すぞ」






「——はい——!」









——その、夜。






——誠は——高台に——上がった。








「——おじいさん。今日も——ありがとう——ございました」






「——うむ」








「——皆に——伝えました」






「——聞いた」








——老竜は——空を——見つめたまま——言った。







「——ここまで——声が——届いた」








「——どう——思いましたか」







——誠が——尋ねると。






——老竜は——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——二十二年、か」






「——はい」






「——我は——保たぬな」








「…………」







——誠は。






——言葉に——詰まった。







——竜は——長寿、だと——聞いていた。






——だが——この——老竜は。







——飛べなく——なって——三年、である。








「——おじいさん」






「——気に——するな」








——老竜は——けろり、と——言った。







「——だが——一つ——頼みが——ある」






「——なんですか」








「——小僧に——教えて——おく」







——老竜は——空を——見上げた。







「——空の——見方を、だ」








「…………」







「——我が——おらぬように——なっても」






「——誰かが——見て——おらねば——ならぬ」








「——おじいさん」






「——なんだ」






「——それ——ルカが——喜びます」








——誠は——笑った。







「——あの子——"同じ"、を——書くのが——好きなんです」








「——うむ。知って——おる」







——老竜も。






——低く——笑った。







「——だから——選んだ」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「高台に、毎日、通うことにした。最初の十日は、"変わらぬ"、"そうですか"、の繰り返し。十一日目に、"なぜ毎日来る"、って、聞かれた。変わったら教えてもらえるし、変わってない、と聞くのも、大事です、って答えた。"変な男だ"、って。……三十日目に、"今日は少し違う。太陽が大きくなった"、って。三年前は、一年でようやく分かるほど、だったのに、今は、ひと月で分かる。……速くなってる。それで、ルカを、連れていくことにした。毎日、書かせる。老竜さんが、"それは面白いか"、って聞いたら、ルカが、"同じ、が続くから、違う、が分かるんです。毎日、違うことが起きてたら、何も、分かりません"、って。老竜さん、"恐ろしいな"、って。……半年で、帳面が三冊。賢者さんと、一色さんに、見せたら——二十二年。桜庭さんの見立てより、八年、短かった。近づくほど、速くなるから、これからも、縮む。……皆に言います、って言ったら、賢者さんに、止められた。"今言えば、絶望する"、って。でも、だから、言うんです。今なら、皆、元気です。飯も食べられて、夜も眠れて、地上にも戻れた。参ってから言ったら、立ち上がれません。……広場で、伝えた。二十二年、って。どよめいた。だから、言った。"今の皆さんが、一番、強いからです。三年前なら、潰れてました。でも、皆さんは、夜を取り戻して、影を作って、弓を十、立てました。三年前には、一つもできなかったことです"、って。……そしたら、誰かが、"何でもできるんじゃないか"、って。グランデルさんが、"今度は、皆おる"、って。皆、沸いた。……でも、壇を降りたら、賢者さんに、"止める方法は、あるのか"、って、聞かれた。ありません。一つも。"では、なぜ、止めます、と言うた"、って。……言わないと、探さないからです。"できるかもしれない"、と思わないと、誰も、探しません。騙してます。でも、僕も、本気で、止めるつもりです。だから、嘘じゃ、ないと、思ってます。……賢者さんが、"それを、世間では、志と言う。騙りではない"、って。……夜、高台に、行った。老竜さんが、"二十二年か。我は、保たぬな"、って。……言葉に、詰まった。でも、"気にするな。だが、一つ、頼みがある。小僧に、空の見方を、教えておく。我がおらぬようになっても、誰かが、見ておらねばならぬ"、って。ルカが、喜びます、って言ったら、"知っておる。だから、選んだ"、って。じいちゃん。二十二年です」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。「二十二年」、という——その——数字が。




——さらに——短く——なる、ことを。


そして——老竜が——弟子に——空の——見方を——教え終える——その、日が。




——思ったより——ずっと——早く——来ることも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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