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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「異世界転移者向け攻略本」

事件は——早朝に——起きた。






「——泥棒——!! 泥棒だよ——!!」







——第五層の——おかみさんの——悲鳴が——通路に——響いた。








「——どうしました——!!」







——駆けつけた——誠が——見たのは。







——真っ二つに——割れた——壺と。






——引き出しを——全部——開け放たれた——箪笥と。







——そして。







——きょとん、と——立っている——見知らぬ——若者、だった。








「——何を——してるんですか——!!」







「——え?」







——若者は——本気で——不思議そうに——首を——かしげた。







「——探索……ですけど」








「——探索——!?」






「——壺は——割るものでしょう?」








「——割りません——!!」






「——え——!?」








「——箪笥も——勝手に——開けません——!!」






「——え——!?」








——若者は。






——心底——驚いた——顔を——していた。








「——だって——中に——薬草とか——お金とか——入ってるんじゃ」







「——入ってません——!!」







——おかみさんが——叫んだ。







「——うちの——下着だよ——!!」








「——すみません——!!」









——広場に——引きずり出された——若者は。






——なおも——納得——していなかった。








「——でも——おかしいですよ」






「——何が——ですか」







「——僕の——世界では——普通でした」








——若者は——真剣に——言った。







「——民家に——入って——壺を——割って——箪笥を——開けて」






「——誰も——怒りませんでした」








「——それは——おかしいです——!!」









——だが。






——その、時。







——広場の——隅で。







——アルフレートが——そっと——目を——そらしていた。








「——アルフレート様」






「——何も——言うな」








「——前に——やりましたよね」






「——言うなと——言って——おる——!」








「——うちの——蔵の——壺、三つ——割られました」






「——弁償した——!!」








「——三年——かけて、ですけどね」






「——うるさい——!!」









——そこへ。






——のっそりと——魔王が——現れた。








「——田中。少し——よいか」






「——魔王さん」








「——相談が——ある」







——魔王は——渋い——顔を——していた。







「——先月から——断って——おるのだが」






「——断り切れぬのだ」








「——どういう、ことですか」






「——"魔王は——討伐する——ものだ"、と——言うのだ」








——魔王は——ため息を——ついた。







「——"そういう——決まりだ"、と」






「——決まり——!?」








「——うむ。誰が——決めたかは——知らぬ、そうだ」






「——だが——決まって——おる、と」








「…………」







——誠は。






——広場の——若者を——見た。







——彼も——「壺は——割るものだ」、と——本気で——信じていた。








「——魔王さん」






「——なんだ」






「——あの、人たち——教わってないんです」








「——なに?」






「——"やってはいけない"、と——誰も——教えてないんです」








——誠は——静かに——言った。







「——降ってきて——いきなり——放り出されて」






「——知ってる——通りに——動いてるだけです」








「…………」









——その——会話を。






——首領が——聞いていた。








「——ならば——教えれば——よかろう」







「——首領?」






「——書物に——すればよい」








——首領は——マントを——翻した。







「——降りてきた——者に——渡す」






「——読めば——揉め事は——減る」








「——それは——いいですね——!」







——誠が——目を——輝かせた。







「——"転移者向け——手引き"、みたいな——ものですか」






「——うむ」









——こうして。






——編纂が——始まった。







——だが。






——三日で——問題が——起きた。








「——誰も——読まぬ——!!」







——首領が——机を——叩いた。







「——なぜ——ですか」






「——"手引き"、では——手に——取らぬのだ——!」








——首領は——渋い——顔で——言った。







「——降りてきた——者に——渡したが」






「——"俺は——手引きなど——要らぬ"、と——突き返された」








「——なるほど……」







「——だが——手は——ある」








——首領が——にやり、と——した。







「——名を——変える」






「——何に——ですか」








「——"攻略本"、だ」








「…………」







——数日、後。







——降りてきた——若者に。






——同じ——中身の——冊子が——渡された。








——「異世界——転移者向け——攻略本」








「——攻略本——!?」







——若者が——飛びついた。







「——そんな——ものが——あるのか——!!」






「——ある」








「——読む——!! 全部——読む——!!」








「…………」







——誠は。






——遠い——目を——した。







「——中身、同じ——ですよね」






「——一字も——変えて——おらぬ」








「——名前だけで——こんなに」






「——これが——商いだ」









——だが——ここで——もう一つ——問題が——出た。







「——発行元は——どう——する」







——賢者が——尋ねた。







「——"暗黒教団デスクロウ——発行"、では」






「——誰も——読まぬ、な」








「——むしろ——罠だと——思われます」






「——それも——そうだ」








——首領は——腕を——組んだ。







——そして——ぼそり、と——言った。








「——勇者と——ギルドの——名を——借りる」







「——え?」






「——我らの——名は——出さぬ」








「——でも——作ったのは——首領ですよね」






「——第二十条だ」








「…………」







「——僕、何も——聞いてません」






「——うむ」









——執筆陣は——こうなった。







——魔王。





——光の勇者。





——英雄。





——賢者。





——そして——藤原。







——編集は——首領。







——ただし——名は——載らない。








「——では——中身を——決めるぞ」







——首領が——紙を——広げた。









第一条






「——"民家・王城・魔王城・秘密基地に——勝手に——入っては——ならない"」







「——当たり前だ——!!」






——おかみさんが——叫んだ。







「——当たり前が——通じぬのだ」








「——秘密基地も——入れるんですね」






「——先月——三人——来た」








「——来るんですか——!?」






「——"悪の——組織だから"、と——言うてな」








「——それは——まあ……」






「——迷惑だ」









第二条






「——"民家や——王城の——壺を——壊したり——箪笥を——勝手に——開けては——ならない"」







「——これは——強く——書いて——ください——!!」







——おかみさんが——身を——乗り出した。







「——太字に——する」








「——ときに」







——英雄が——静かに——言った。







「——なぜ——壺を——割ろうと——思うのだ」








「…………」







——広間の——転移者たちが。






——一斉に——目を——そらした。








「——おい」






「——貴様ら——やって——おったな?」








「——最初だけだ——!!」






「——一回だけ——!!」






「——三回くらい——!!」








「——多い——!!」









第三条






「——"竜を——討伐しては——ならない"」







「——理由は?」






「——痛いからや」








——藤原が——天井の——穴から——言った。







「——それだけ——ですか?」






「——それだけや」








「——強くて——勝てない、とかじゃ——なく」






「——痛いねん」








——藤原は——不服そうに——鼻を——鳴らした。







「——鱗の——間に——剣を——刺されると——じくじく——痛むねん」






「——三日は——ひりひりする」








「——書いて——ください——! 太字で——!!」









第四条






「——"魔王を——討伐しては——ならない"」







「——理由は——二つ——書け」







——魔王が——低く——言った。







「——一つ。無駄である」






「——我は——死なぬ。何度——倒しても——組み上がる」








「——二つ、目は?」







——魔王は。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——"石に——なるかも——しれぬ"」








「…………」







——広間が。






——静まった。








「——魔王殿」







——賢者が——尋ねた。







「——それは——確かなのか」






「——確かでは——ない」








——魔王は——首を——振った。







「——だが——先月——一人——石に——なった」






「——我を——倒した——十日——後にな」








「…………」







「——書け」







——魔王は——静かに——言った。







「——"魔王を——倒せば——役目が——終わるかも——しれぬ"」






「——"終われば——石に——なる"」






「——"そして——戻れぬかも——しれぬ"」








「…………」







——首領が。






——黙って——それを——書き取った。









第五条






「——"先輩の——勇者・賢者に——必ず——話を——聞くこと"」







「——これは——私が——推した」







——光の勇者が——言った。







「——なぜ——ですか」






「——俺は——聞かなんだ」








——彼は——ぼそり、と——言った。







「——降りてきて——すぐ——魔王を——探しに——行った」






「——四十七体——倒した」






「——全部——無駄だった」








「…………」







「——先に——聞いて——おれば——三年——早く——動けた」








「——書きます——!」









第六条






「——"一日——一善"」







「…………」







——広間が。






——妙な——顔を——した。








「——首領。それは——攻略本に——要るのか」







——賢者が——尋ねた。







「——要る」








——首領は——きっぱりと——言った。







「——なぜだ」






「——一日——一つ——善いことを——すれば」








——首領は——低く——言った。







「——一日——一つ——名を——覚えて——もらえる」







「…………」







「——書け」









第七条






——最後の——一条を——決める——段に——なって。






——揉めた。








「——"八百屋を——あなどるな"、で——ある」







——魔王が——言った。







「——賛成だ」







——光の勇者が——即座に——頷いた。








「——待って——ください——!!」







——誠が——立ち上がった。







「——なぜ——僕が——出てくるんですか——!!」








「——必要だからだ」







——魔王は——真剣な——顔で——言った。







「——降りてきた——者は——皆——貴様を——"モブ"、と——呼ぶ」






「——そして——三月ほどで——貴様に——頭が——上がらなくなる」








「——それは——ただの——慣れです——!」






「——違う」








——光の勇者が——首を——振った。







「——俺は——三月——無駄に——した」






「——最初から——お前の——話を——聞いて——おれば——早かった」








「——うちも——書いてええと——思うで」







——藤原が——天井から——言った。







「——藤原さんまで——!!」








「——採決だ」







——首領が——手を——挙げた。







「——賛成の——者」








——全員が——手を——挙げた。







「——イーッ——!!」







——外の——戦闘員まで——挙げていた。








「——なんで——皆さんまで——!!」






「——可決だ」









——こうして。






——「異世界転移者向け——攻略本」、が——世に——出た。







——発行——勇者一行およびギルド。







——執筆——魔王・光の勇者・英雄・賢者・藤原。







——編集——記載なし。









——効き目は——すぐに——出た。







「——攻略本——読みました——!!」







——降りてきた——若者が——冊子を——掲げた。







「——壺は——割りません——!!」






「——ありがとう——ございます——!!」








「——それと——魔王も——倒しません——!!」






「——助かる」








——魔王が——心底——安堵した——顔で——言った。








「——それで——あの」







——若者が——きょろきょろと——した。







「——第七条の——八百屋、って——どこですか」








「——僕です」







——受付の——誠が——手を——挙げた。







「——え? ……普通の——おじさんですけど」








「——普通の——おじさんです」






「——なぜ——載ってるんですか」








「——僕が——聞きたいです」









——若者が——去った——後。







「——旦那」







——駄々丸が——並んだ。







「——大した——もんで——ござんすね」






「——恥ずかしいだけです」








「——いやいや」







——駄々丸は——冊子を——開いた。







「——あっしが——感心したのは——別の——ところで——ござんす」






「——どこですか」








「——第四条で——さァ」







——彼は——頁を——指した。







「——"魔王を——倒せば——石に——なるかも——しれぬ"」








「…………」







「——あれを——書いたのは——魔王の——旦那で——ござんしょう」






「——はい」








「——自分を——倒す——連中の——心配を——して——おりやす」







——駄々丸は——冊子を——閉じた。







「——妙な——世の中で——ござんすねェ」








「——いい——世の中だと——思います」







——誠は——笑った。







「——へえ。……それも——そうで——ござんすね」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「泥棒が、出た。新しく降ってきた人が、民家に入って、壺を割って、箪笥を開けてた。本人、きょとん、として、"壺は割るものでしょう"、って。……本気で、そう信じてた。おかみさんの下着が、入ってた箪笥を、開けてた。……アルフレート様が、隅で、目を、そらしてた。うちの蔵の壺、三つ、割られました。弁償、三年、かかりました。……魔王さんからも、相談。断っても、"魔王は討伐するものだ、そういう決まりだ"、って、聞かないらしい。誰が決めたかは、知らないけど、決まってる、って。……あの人たち、教わってないんです。降ってきて、いきなり放り出されて、知ってる通りに、動いてるだけ。……首領さんが、"書物にすればよい"、って。それで、"手引き"、を作ったけど、三日で、誰も読まなかった。"俺は手引きなど要らぬ"、って、突き返される。……そしたら、首領さんが、"名を変える。攻略本だ"、って。中身、一字も変えてないのに、皆、飛びついて、"全部読む"、って。これが商いだ、って。……発行元は、勇者とギルド。首領さんの名前は、載せない。第二十条だから。僕、何も、聞いてません。……中身は、七つ。民家や城に勝手に入るな。壺を割るな、箪笥を開けるな。竜を討伐するな——理由は、"痛いから"。藤原さん、"鱗の間に剣を刺されると、じくじくして、三日、ひりひりする"、って。魔王を討伐するな——理由は、無駄だから。それと、魔王さんが、"石になるかもしれぬ"、って、書け、って。先月、倒した人が、十日後に、石になったから。……自分を倒しに来る人の、心配を、してる。……先輩に話を聞け。これは、勇者さんが推した。"俺は聞かなんだ。四十七体、倒した。全部、無駄だった。先に聞いておれば、三年、早く動けた"、って。……一日一善。首領さんが、"一日一つ、善いことをすれば、一日一つ、名を覚えてもらえる"、って。……そして、最後。"八百屋をあなどるな"。なんで僕が、って言ったけど、全会一致で、可決された。戦闘員の皆さんまで、手を挙げてた。……降りてきた若い人に、"第七条の八百屋って、どこですか"、って、聞かれた。僕です、って言ったら、"普通のおじさんですけど"、って。普通のおじさんです。なぜ載ってるのか、僕が、聞きたいです。じいちゃん、恥ずかしいです」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。攻略本の——第四条に——書かれた——「石に——なるかも——しれぬ」、という——その、一行が。




——後に——なって——幾人もの——命を——繋ぐことを。


そして——「八百屋を——あなどるな」、という——第七条が。




——冗談では——なかったと。





——世界そのものが——認める——日が——来ることも。





——今は……まだ、書いた——本人たちすら——本気に——して——いない。

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