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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「魔王、また殺される」

空が——裂けた。





——もはや——誰も——顔を——上げなかった。







「——また——来たぞ」






「——今月——四人目だな」






「——多いなあ」








「——ふはは——!! 我こそは——!!」







——降り立った——若者が——名乗りを——上げた。







「——選ばれし——者——!! 剣聖——グレン——!!」








「——はいはい」







——通りかかった——おかみさんが——手を——振った。







「——受付は——あっちだよ」






「——受付——!?」









——地下の——入り口には。






——机が——一つ——置かれていた。







——札には——こう——書いてある。








——「転移者——受付」





——「まず——麦茶を——どうぞ」








「——いらっしゃいませ」







——誠が——湯呑みを——差し出した。







「——何だ——貴様は——!!」






「——八百屋です」








「——モブか——!!」






「——はい」









——誠は——慣れた——手つきで——帳面を——開いた。







「——お名前と——できることを——教えて——ください」






「——なぜ——書く——!!」








「——住むところと——役目を——決めるためです」







——誠は——淡々と——説明した。







「——今——影守りと——布織りと——荷運びが——足りてません」






「——どれが——ご希望ですか」








「——待て——!! 我は——魔王を——倒しに——来たのだ——!!」








「…………」







——誠が。






——ペンを——止めた。







「——やめておいた、方が——いいですよ」






「——なぜだ——!! 魔王は——おるのだろう——!!」








「——いますけど」






「——ならば——行く——!!」








「——あの——今——お忙しいので——後日に——して——いただけませんか」







「——魔王が——忙しい、だと——!?」








「——はい。念話の——訓練が——あるので」






「——訓練——!?」









——だが——グレンは——聞かなかった。







「——どこだ——!! 案内せよ——!!」






「——第九層です」






「——素直に——言うのか——!?」








「——隠しても——探しますよね」






「——む。……確かに」









——グレンが——駆けていった——後。







「——師匠。止めなくて——いいんですか」







——ルカが——尋ねた。







「——止まらないよ、ああいうのは」







——誠は——ため息を——ついた。







「——それに——魔王さんは——死にませんから」






「——でも——毎回——大変ですよね」








「——うん。……申し訳ないんだけど」









——一方。






——第九層。







「——魔王——!! 覚悟——!!」







——飛び込んできた——グレンに。







——魔王は——猫を——撫でたまま——顔を——上げた。








「——また、か」






「——今月——四人目でございます」







——幹部が——帳面を——見て——言った。








「——貴様が——魔王か——!!」






「——うむ」








——魔王は——猫を——床に——下ろした。







「——一つ——聞いてよいか」






「——なんだ——!!」








「——なぜ——我を——狙う」







「——魔王だからだ——!!」








「——理由が——それだけ、か」






「——それで——十分だろう——!!」








「…………」







——魔王は。






——ふう、と——息を——吐いた。







「——ときに——外に——黒ずくめの——一団が——おったであろう」






「——おった——!!」






「——あれは——悪の——組織だ。なぜ——狙わぬ」








「——数が——多い——!!」







「——正直だな」









——魔王は。






——玉座に——深く——腰を——沈めた。








「——好きに——せよ」







「——何だと——!?」






「——面倒だ」








「——舐めるな——!!」









——そして。






——盛大な——音が——した。








——広間の——外で。






——幹部たちが——耳を——塞いでいた。








「——始まったな」






「——今日は——派手だ」






「——あの、若いのは——腕が——立つ」









——四半刻、後。







「——はあ……はあ……」







——グレンが——肩で——息を——していた。







——広間の——床には。







——魔王だった——ものが。







——いくつかに——分かれて——散らばっていた。








「——や……やった……」







「——やったぞ——!! 魔王を——討ち取った——!!」








「…………」







——扉の——外で。






——幹部たちが——目を——そらしていた。








「——見るな。可哀想だ」






「——どっちが、だ」









——グレンは。






——意気揚々と——地上へ——駆け上がった。








「——聞け——!! 魔王は——討たれた——!!」







——広場に——彼の——声が——響いた。








「…………」







——広場の——全員が。






——微妙な——顔で——彼を——見た。








「——なぜ——喜ばぬ——!!」






「——いや……その」








「——おめでとう——ございます」







——誠が——静かに——拍手した。







「——うむ——!! 分かって——おるでは——ないか——!!」








「——それで——役目は——どれに——されますか」






「——まだ——言うのか——!!」









——そして——その、夜。







——第九層の——通路を。







——何かが——のそのそと——移動していた。








「——出たぞ」






「——今日は——早いな」








——幹部たちが——見守る——中。







——散らばった——部位が。






——それぞれ——勝手に——這って。






——広間の——中央で——集まり。







——そして。







——ぼこり、と——組み上がった。








「——ふう」







——魔王が——首を——回した。







「——お帰りなさいませ」






「——うむ」








「——今日は——早うございましたな」






「——腕が——机の——下に——転がって——難儀した」








「——毎度——お疲れ様でございます」






「——うむ」









——魔王は。






——玉座に——腰を——下ろして。






——そして——猫を——膝に——載せた。








「——ときに——幹部」






「——はっ」






「——今月で——四人目だな」








「——さようで——ございます」






「——多い、な」








「——恐れながら」







——幹部が——おずおずと——言った。







「——お断りに——なっては——いかがです」






「——断ると——長引く」








——魔王は——面倒くさそうに——言った。







「——逃げ回れば——追ってくる」






「——戦えば——地下が——壊れる」






「——ならば——一度——死んで——おく、方が——早い」








「…………」







「——それに、な」







——魔王は——猫を——撫でた。







「——あの、若いのは——嬉しそうだった」








「——魔王様……」






「——言うな。恥ずかしい」









——ちなみに。







——古参の——英雄たちは。






——もう——誰も——魔王に——手を——出さなかった。








「——なぜ——行かぬのだ——!」







——グレンが——光の勇者に——詰め寄った。







「——貴殿らは——勇者であろう——!」








「——四十七回——倒した」







——光の勇者は——けろり、と——言った。







「——四十七——!?」






「——全部——生き返った」








「…………」







「——それに——だ」







——光の勇者は——遠い——目を——した。







「——四十七回——倒しても——世界は——一寸も——救われなんだ」






「——だから——やめた」








「——では——貴殿は——今——何を——して——おる——!」







「——荷を——運んで——おる」








「——荷——!?」






「——影の——布だ。重い」








「——勇者が——荷運びなど——!!」








——だが。






——光の勇者は——笑っただけだった。








「——お前も——じきに——分かる」









——そして——半月、後。







——それは——起きた。








「——光って——おる——!!」







——広場で——グレンが——輝き始めた。







「——なんだ——!? 何が——起きて——!!」








——そして——空に——文字が——浮かんだ。








——GAME CLEAR








「…………」







——広場が。






——静まり返った。








「——また、か」







——光の勇者が——低く——言った。







「——皆——集まれ——!!」








——人が——集まってきた。







——グレンは——すでに——石に——なっていた。







——剣を——掲げた——ままの——姿で。








「——なぜ——だ」







——誰かが——呟いた。







「——こやつ——何も——しとらんぞ」






「——魔王を——倒しただけだ」








「…………」







——誠は。






——石像を——見上げた。







(——役目が——終わった、ってことか)







(——魔王を——倒すのが——この、人の——役目——だったのか)









——三時間。







——皆が——待った。







「——出るか?」






「——出るといいが」








——だが。






——空には——何も——浮かばなかった。








——一日。






——三日。






——七日。








「…………」







——そして——十日目。







——空に——文字が——浮かんだ。








——販売終了








「…………」







——広場が。






——凍りついた。








「——そんな」






「——十日しか——おらんかったのに」








——そして。






——その日から。







——グレンの——石像に。







——細かい——ひびが——入り始めた。








「…………」







——誠は。






——湯呑みを——一つ——石像の——足元に——置いた。








「——旦那」







——駄々丸が——並んだ。







「——その、お人——名を——なんと——言いなすった」








「——グレンさんです」







——誠は——帳面を——見た。







「——受付で——一度だけ——書いて——もらいました」








「——書かせて——おいて——よかったで——ござんすね」






「——はい」









——その、時。







——のっそりと。







——魔王が——現れた。








「——魔王さん——!」






「…………」








——魔王は。






——ひびの——入った——石像を——見上げて。






——長い、こと——黙っていた。








「——田中」






「——はい」






「——こやつは——我を——倒して——役目を——終えたのか」








「——たぶん」






「——ならば」








——魔王の——声が。






——低くなった。







「——我が——生き返らねば——こやつは——石に——ならなんだのか」








「…………」







「——それは——分かりません」







——誠は——正直に——言った。







「——でも——魔王さんの——せいじゃ——ありません」








「——ならば——誰の——せいだ」








「…………」







——誠は。






——答えられなかった。








——ただ——空を——見上げた。







——そこには——何も——なかった。







——文字も。






——答えも。








「——魔王さん」






「——なんだ」






「——次に——誰か——来たら」








——誠は——静かに——言った。







「——僕、もっと——強く——止めます」






「——止まるまい」






「——それでも——止めます」








「…………」







——魔王は。






——ぼそり、と——言った。








「——なら——我も——一つ——変える」






「——何を——ですか」







「——次からは——断る」








——魔王は。






——石像に——背を——向けた。







「——面倒だが——断る」








「…………」







「——それと——田中」






「——はい」







「——受付で——名を——書かせるのは——続けよ」








——魔王は——振り返らずに——言った。







「——名が——残る」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「新しい人が、降ってきた。剣聖グレンさん。受付で、麦茶を出して、名前と、できることを、書いてもらった。でも、"魔王を倒しに来た"、って。……止めたけど、行った。ああいうのは、止まらない。……第九層で、四半刻。魔王さん、"面倒だ、好きにせよ"、って、抵抗も、しなかったらしい。……グレンさん、地上に戻って、"魔王は討たれた"、って、叫んでた。皆、微妙な顔してた。僕、拍手した。おめでとうございます、って。……夜、魔王さん、部位が、それぞれ、勝手に這ってきて、勝手に、組み上がってた。幹部さんが、"お帰りなさいませ"、って。"腕が、机の下に転がって、難儀した"、って。……なぜ、断らないのか、聞いたら、"断ると、長引く。逃げ回れば追ってくる。戦えば、地下が壊れる。ならば、一度、死んでおく方が、早い"、って。それから、"あの若いのは、嬉しそうだった"、って。……古参の勇者さんたちは、もう、誰も、行かない。グレンさんが、"なぜ行かぬ"、って、詰め寄ったら、光の勇者さんが、"四十七回、倒した。全部、生き返った。それに、四十七回、倒しても、世界は、一寸も、救われなんだ。だから、やめた"、って。今は、荷運びだ、って。"勇者が荷運びなど"、って、言われて、笑ってた。"お前も、じきに分かる"、って。……でも、半月後。グレンさん、光り出して、GAME CLEAR。石に、なった。剣を掲げたまま。……三時間、待った。出なかった。一日。三日。七日。……十日目に、"販売終了"、って、出た。……その日から、ひびが、入り始めた。十日しか、いなかったのに。……湯呑みを、置いた。駄々丸さんが、"名を、なんと言いなすった"、って。グレンさん。受付で、一度だけ、書いてもらってた。"書かせておいて、よかったで、ござんすね"。……魔王さんが、来た。長いこと、石像を見上げて、"我が、生き返らねば、こやつは、石にならなんだのか"、って。分かりません。でも、魔王さんのせいじゃ、ない。"ならば、誰のせいだ"、って。……答えられなかった。……"次に誰か来たら、もっと強く止めます"、って言ったら、"次からは、断る。面倒だが、断る"、って。それと、"受付で名を書かせるのは、続けよ。名が、残る"、って。……じいちゃん。グレンさん、十日でした」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。「役目が——終われば——石に——なる」、という——その——理が。




——誰によって——定められて——いるのかを。


そして——「魔王を——倒す」、という——たった——それだけの——ことが。




——一人の——人間の——生涯の——役目に——されて——しまう——その、仕組みを。





——いつか——彼が——問い詰める、ことに——なるのも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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