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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「第一回 世界平和料理選手権」

星見の——祭りから——半月。





——第九層の——広間で。






——妙な——貼り紙が——見つかった。








——「第一回——世界平和——料理選手権」





——「主催・魔王軍/暗黒教団デスクロウ」








「——なんですか——これ」







——誠が——首を——かしげた。







「——余興だ」







——魔王が——けろり、と——言った。







「——また——余興、ですか」






「——うむ。ただの——余興だ」








「——趣旨は——なんですか」






「——"料理で——世界を——一つに——する"、だ」








「——第一条——ですね」






「——知らぬ」








「——僕、何も——聞いてません」






「——うむ。それで——よい」









——決まりは——三つ。







——一つ。使う——材は——自分の——里の——ものを——持ち寄る。






——二つ。審査は——子ども——百人。






——三つ。戦闘魔法・威圧・洗脳は——禁止。








「——三つ目は——なぜ——要るんですか」






「——前に——揉めたのでな」








「——揉めたんですか——!?」






「——うむ。誰かが——"うまい、と——言え"、と——迫った」








「——第一回——って——書いてありますけど——!」






「——予行だ」









一番、魔王






——巨大な——鍋が——広場に——据えられた。







「——"世界融和——シチュー"、である」








——中身は——白い——煮込み。






——野菜が——たっぷり。







「——うまい——!」






「——おかわり——!」








「——なぜ——この、料理を?」







——誠が——尋ねると。






——魔王は——静かに——言った。








「——敵も——味方も——同じ——鍋を——囲めば」






「——争いは——減る」








「…………」






「——余興、なんですよね」






「——余興だ」









二番、四天王






——四人——合作。







——炎の将軍——焼き物。





——氷の将軍——冷やし汁。





——森の将軍——菜の——和え物。





——雷の将軍——甘味。







——だが——途中から。







「——肉が——主役だ——!」






「——甘味だ——! 締めが——大事だ——!」






「——菜が——なければ——重い——!」








「——静まれ——!!」







——魔王が——一喝した。







「——順に——出せ。それで——収まる」








——結果。






——見事な——順立ての——膳に——なった。







「——揉めた、方が——うまく——なったな」






「——言うな」









三番、首領






「——"秘密基地——辛煮込み"——!」







——香りが——広場を——覆った。







「——四十八の——香草を——配合した」






「——隠し味は——組織の——秘密だ」








「——イーッ——!!」







——戦闘員たちが——一口——食べて。






——そして——泣き出した。








「——イ……イーッ……」






「——なんて——言ってるんですか」








——誠が——尋ねると。






——八一八号が——通訳した。








「——"総帥……いつも——こんな——うまい——ものを——作って——くださって——いたのか"、と」








「——いつも?」






「——うむ。飯は——我が——作って——おる」








——首領は——ぶっきらぼうに——言った。







「——部下に——不味い——ものを——食わせては——組織が——保たぬ」








「…………」






「——第十五条ですね」






「——知らぬ」









四番、光の勇者






「——"聖なる——包み飯"——!」







——卵で——包んだ——飯の——上に。






——赤い——たれで——文字が——書いてある。








——「みんな——えがお」








「——うわあ——!」






「——かわいい——!」








——子どもたちが——群がった。







——切ると——中は——半熟。








「——おいしい——!!」







「——ふはは——! 当然だ——!」








「——勇者さん。字、上手ですね」







——誠が——言うと。






——光の勇者は——少し——顔を——赤らめた。








「——……練習した」






「——え?」






「——三十枚ほど——書き損じた」








「…………」








五番、アルフレート






「——"王国風——挽肉焼き"、である——!」







——見た目は——立派、だった。







——だが。







「——アルフレート様——料理——できましたっけ」






「——できん」








「——じゃあ——なぜ——!」






「——気合だ」









——ちなみに。






——調理場の——隅で。






——賢者が——こっそり——火加減を——見ていた。








「——賢者さん、何を——してるんですか」






「——見て——おらん」








「——今——火を——弱めましたよね」






「——気の、せいだ」








「…………」






「——これは——秘密ですよ」






「——うむ」









六番、賢者






「——"知の——結晶——焼き"、である」







——寸分の——狂いも——ない——形。






——寸分の——狂いも——ない——焼き色。







「——分量は——全て——計った」







——賢者が——胸を——張った。







「——誤差は——ごくわずかだ」








「——すごい——!」






「——お店みたい——!」








——だが。






——一人の——女の子が——ぽつり、と——言った。








「——でも——おかあさんの——味も——すき」








「…………」







——賢者が。






——固まった。







「——待て」






「——え?」






「——母の——味とは——なんだ」








「——え? ええと……おかあさんの——つくるやつ」






「——それは——計って——おるのか」






「——けいって——なに?」








「…………」







——賢者は。






——その場に——座り込んだ。







「——計らずに——うまい——ものが——できるのか」






「——賢者さん。うちの——エリナも——計ってません」








「——なんだと——!?」






「——毎日——作ってると——手が——覚えるんです」








「…………」







——賢者は。






——しばらく——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——それは——新しい——学問だ」






「——料理ですけど」






「——学問だ——!」









七番、闇魔術師






「——ふっ……"漆黒の——煮込み"、だ」







——山田が——差し出した——皿は。






——完全に——真っ黒、だった。








「——うわあ——!」






「——まっくろ——!」






「——たべられるの——!?」








「——恐れずに——喰らうがよい」








——子どもたちが。






——おそるおそる——口に——した。








「…………」






「——あまい——!!」








「——だまされたー——!!」






「——ふっ」








——山田だけが。






——満足そうに——笑っていた。








「——山田さん。なぜ——甘口に?」






「——子どもが——食うからな」








「——優しいですね」






「——言うな」









八番、魔法使い






「——"世界各地——盛り合わせ"——!!」







——一つの——皿に。






——見たことの——ない——料理が——並んでいた。








「——これは——なんですか」






「——虚空の——皆さんに——教わりました——!」








——魔法使いは——得意げに——指した。







「——これが——"すし"——! これが——"たこす"——!」






「——それと——"なん"、と——"ぎょうざ"、です——!」








「——ぎょうざ」







——誠が。






——ぴたり、と——止まった。







「——ご存知——ですか?」






「——え? いえ……」








——誠は。






——一つ——口に——した。







——そして。







——動きを——止めた。








「…………」






「——誠さん?」








「——知ってます——これ」







——誠は——かすれた——声で——言った。







「——え?」






「——食べたことが——あります」








「…………」







——魔法使いが。






——目を——見開いた。







「——私も——です」








「——え?」






「——作ってる——途中で——手が——勝手に——動いたんです」








——彼女は——自分の——手を——見つめた。







「——包み方が——分かるんです」






「——教わってないのに」








「…………」







——二人は。






——しばらく——黙って——皿を——見ていた。








「——おい——! そこの——二人——!」







——山田が——顔を——出した。







「——それ——なんだ——! 妙に——懐かしいぞ——!」








「…………」








九番、武闘家






「——"修行——汁麺"——!」







——朝——四刻から——麺を——打ち。






——汁を——一昼夜——炊いた。








「——料理も——鍛錬だ——!」






「——寝てないんですか——!?」








——だが。






——食べた——者は——皆——元気に——なった。







「——うまい——!」






「——力が——湧く——!」








「——武闘家さん。第八条」






「——なんの、ことだ」






「——残業です」









十番、皆瀬






『——"ぷるぷる——寄せ"』







——透き通った——菓子が——並んでいた。







——中に——果物が——閉じ込められている。








「——きれい——!!」






「——ぷるぷる——!!」








『——ちゃんと……果物から——作った』







——皆瀬が——念を——押した。







『——わたしの——身体じゃ——ない』








「——誰も——聞いてませんよ——!」






『——大事だから』









十一番、藤原






「——"灼熱——竜焼き"、や」







——平たく——伸ばした——生地の——上に。






——野菜と——肉を——並べて。







「——窯は——要らん」







——藤原が——大きく——息を——吸った。







「——皆——下がっとき」








——ごう——!!







——数を——数える——ほどで。






——生地が——香ばしく——焼き上がった。








「——おおおお——!!」






「——うまそう——!!」








——ただし。






——数枚は——炭に——なった。








「——加減が——難しいねん」






「——毎回——それ——言ってますね」









十二番、八百屋






——誠の——番に——なった、時。







——広場は——少し——ざわめいた。








「——おい——! 八百屋の——番だぞ——!」






「——何が——出るんだ——!」








——だが。






——出てきたのは。







——ごく——普通の——ものばかり、だった。








——地上に——戻った——畑の——実。






——菜の——揚げ物。





——具だくさんの——汁。





——炊き込みの——飯。





——焼いた——とうもろこし。





——南瓜の——蒸し菓子。








「……地味だな」







——誰かが——呟いた。







「——地味です」







——誠は——けろり、と——認めた。








「——うち——八百屋なので」






「——野菜しか——ありません」








「——だが——それでは——勝てぬぞ」







——魔王が——言った。







「——勝たなくて——いいです」








——誠は——笑った。







「——ただ——一つだけ——言わせて——ください」






「——なんだ」








——誠は。






——並んだ——皿を——見た。








「——野菜って——主役にも——脇役にも——なれるんです」







「——誰かを——引き立てることも——できるし」






「——自分が——真ん中に——立つことも——できます」







「——どっちが——偉い、って——ことは——ありません」








「…………」







——魔王が。






——静かに——笑った。







「——その——考え方」






「——好きだ」









結果






——審査は——長引いた。







——子どもたちが——揉めに——揉めた——からだ。








「——おむらいす——!!」





「——ぷるぷる——!!」





「——まっくろ——!!」








——だが。






——最後に——出た——結果は。








「——優勝——! 八百屋——!!」








「…………え?」







——誠が——ぽかん、と——した。







「——なぜ——ですか——!?」








「——聞け」







——魔王が——札を——読み上げた。








「——"まいにち——たべたい"」







「——"やさしい——あじ"」







「——"おばあちゃんにも——たべさせたい"」








「…………」







——広場が。






——静まった。








「——派手さでは——負けて——おる」







——魔王は——静かに——言った。







「——だが——毎日の——膳を——支える——ものが——最も——高く——評された」








——そして——彼は。






——大きく——手を——叩いた。








「——今日は——負けた、な」








「——野菜って——こんなに——うまかったのか」







——光の勇者も——笑った。







「——明日から——基地の——飯は——地元の——野菜を——仕入れる」







——首領が——部下に——命じた。







「——イーッ——!!」








——藤原は——焼いた——とうもろこしを——頬張り。






——皆瀬は——南瓜の——菓子を——震えながら——絶賛し。







——そして——賢者は。







——新しい——帳面を——開いていた。








「——賢者さん。何を——書いてるんですか」






「——研究だ」








——賢者は——真剣な——顔で——言った。







「——"家庭の——味は——数で——表せぬ"」






「——だが——確かに——価値が——ある」






「——これは——学問に——なるぞ」








「——楽しそうですね」






「——うるさい」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「妙な貼り紙が、あった。"第一回・世界平和・料理選手権"。主催、魔王軍と、悪の組織。魔王さんに聞いたら、"余興だ"、って。趣旨は、"料理で世界を一つにする"。第一条ですね、って言ったら、"知らぬ"、って。僕、何も、聞いてません。……魔王さんは、大鍋のシチュー。"敵も味方も、同じ鍋を囲めば、争いは減る"、って。四天王さんたちは、合作で、揉めてた。魔王さんが、"順に出せ"、って、仲裁して、立派な膳に、なった。首領さんは、四十八の香草の、辛煮込み。戦闘員の皆さんが、泣いてた。"総帥、いつも、こんなうまいものを"、って。首領さん、"部下に不味いものを食わせては、組織が保たぬ"、って。……勇者さんは、卵で包んだ飯に、"みんなえがお"、って。字が上手ですね、って言ったら、"三十枚、書き損じた"、って。アルフレート様は、料理できないのに、"気合だ"、って。賢者さんが、隅で、こっそり、火加減を見てた。……賢者さん本人の料理は、寸分の狂いもない、完璧なやつ。でも、女の子が、"おかあさんの味も、すき"、って言ったら、座り込んでた。"計らずに、うまいものが、できるのか"、って。うちのエリナも、計ってません。毎日作ってると、手が覚えます。……山田さんは、真っ黒なのに、甘口。"子どもが食うからな"、って。優しいですね、って言ったら、"言うな"、って。……魔法使いさんは、虚空の皆さんに、教わった、世界各地の盛り合わせ。その中に、"ぎょうざ"、っていうのが、あった。食べたら——知ってた。食べたことが、ある。魔法使いさんも、"作ってる途中で、手が勝手に動いた。包み方が、分かる"、って。山田さんも、"妙に懐かしいぞ"、って。……なんだろう、これ。……武闘家さんは、一昼夜、汁を炊いてた。第八条です。藤原さんは、ブレスで焼いて、数枚、炭にしてた。毎回、それ言ってますね。皆瀬さんは、"わたしの身体じゃない"、って、念を押してた。誰も、聞いてません。……僕は、畑のものを、並べただけ。地味だな、って言われたので、地味です、って答えた。うち、八百屋なので。でも、一つだけ、言わせてもらった。野菜は、主役にも脇役にも、なれる。誰かを引き立てることも、自分が真ん中に立つことも、できる。どっちが偉い、ってことは、ない。魔王さんが、"その考え方、好きだ"、って。……優勝、僕でした。理由が、"まいにち、たべたい"、"やさしい、あじ"、"おばあちゃんにも、たべさせたい"。……泣きそうに、なった。じいちゃん。じいちゃんの、野菜です」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——三年ぶりに。





——本当に——空に。






まだこの時の誠は知らない。虚空から——教わった——一皿を。




——三人が——揃って——「知って——いる」、と——言った——その、意味を。


そして——この、日の——優勝の——理由が。




——やがて——この、世界が——出す——答えと。





——寸分——違わなかったことも。





——今は……まだ、誰も——気づいて——いない。

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