第101話「忘れられた、こと」
世界中に——影が——落ちて。
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——ひと月が——過ぎた。
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——地下は——静かに——変わり始めていた。
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「——おい——! 第三層の——空き部屋——空いてるか——!」
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「——うちは——地上に——戻ったよ——!」
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「——戻ったのか——!?」
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「——影の——下なら——住めるからな——!」
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——影の——真下では。
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——気温が——だいぶ——下がっていた。
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——一日中——日陰、なのだから——当然、だった。
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「——三年ぶりの——我が家だ——!」
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「——屋根が——傷んどるが——直せば——住める——!」
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「——皆さん——気を——つけて——ください——!」
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——誠が——駆け回った。
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「——影が——ずれたら——すぐ——地下に——戻れるように——して——ください——!」
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「——分かっとる——!」
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——畑も——地上に——戻り始めた。
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「——師匠——! 芋が——太いです——!」
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——ルカが——駆けてきた。
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「——地上の、方が——やっぱり——違います——!」
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「——土が——広いからな」
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「——それに——鏡を——開け閉め——しなくて——いいです——!」
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「——夜は——ちゃんと——来ますから——!」
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——夜。
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——影の——下では。
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——本物の——夜が——戻っていた。
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——太陽が——沈み。
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——人工の——光が——昇っても。
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——影が——それを——遮る。
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「——星が——見える——!」
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「——月も——出とるぞ——!」
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——地上には——人が——溢れた。
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——皆——空を——見上げて。
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——そして——泣いていた。
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「——三年——ぶりだ」
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「——うちの——子——星を——見たことが——なかったんだ」
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「——お母ちゃん——! あれ——なに——!」
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「——星だよ」
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「——ほし?」
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「…………」
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——誠は。
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——その——やりとりを——聞いて。
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——胸が——詰まった。
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——そして。
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——祭りが——立った。
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「——星見の——祭りだ——!」
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「——影の——祭りとも——言うぞ——!」
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——地上の——広場に——屋台が——並び。
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——人と——魔族と——鬼族と——虫人族が——入り混じって——飲んでいた。
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「——皆さーん——!」
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——魔法使いが——実況していた。
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「——三年ぶりの——星空です——!」
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「——コメントも——お祝いで——いっぱいです——!」
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「——さても——皆様」
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——高座で——駄々丸が——扇子を——広げた。
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「——三年——長うござんした」
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「——夜が——ねェ、ってのは——存外——こたえるもんで——さァ」
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「——そうだ——!」
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「——よく——言った——!」
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「——ですがねェ」
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——駄々丸は——にやり、と——した。
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「——夜が——戻って——一つ——困ったことが——ござんす」
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「——なんだ——!」
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「——皆様——飲みすぎで——さァ」
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——広場が——どっと——沸いた。
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——だが。
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——その——賑わいの——中で。
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——工房の——灯りだけが。
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——消えて——いなかった。
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「——賢者さん」
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——誠が——顔を——出した。
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「——祭り、行かないんですか」
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「——行かん」
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——賢者は。
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——紙に——向かったまま——答えた。
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「——何を——してるんですか」
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「——桜庭から——文が——来た」
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「…………」
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——誠の——足が。
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——止まった。
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「——なんて——書いてありましたか」
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「——読むか?」
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「——読んで——ください」
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——賢者は。
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——一枚の——紙を——差し出した。
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——「影の、件、聞きました。おめでとうございます」
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——「ですが、一つだけ、お伝えします」
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——「星の落下は、止まっていません」
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——「それどころか、少し、速くなっています」
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「…………」
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——誠は。
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——紙を——持つ——手が——震えた。
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「——速く——なってる?」
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「——うむ」
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「——なぜ——ですか」
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「——太陽に——近づけば——引く——力は——強くなる」
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——賢者は——淡々と——言った。
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「——近づけば——近づくほど——速く——落ちるのだ」
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「——最初は——ゆっくりだが——だんだん——加速する」
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「…………」
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——誠は。
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——工房の——窓から——外を——見た。
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——広場では。
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——皆が——笑っていた。
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「——賢者さん」
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「——なんだ」
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「——皆さん——星の、こと——忘れてますよね」
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「…………」
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——賢者は。
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——ペンを——置いた。
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「——忘れて——おる」
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「——無理も——ない」
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——彼は——窓の——外を——見た。
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「——三年——地の底で——耐えて」
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「——ようやく——星空が——戻ったのだ」
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「——喜ぶな、とは——言えぬ」
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「…………」
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「——だが」
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——賢者の——声が——低くなった。
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「——我らが——やったのは——"暑さを——しのぐ"、ことだけだ」
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「——星は——今も——落ちて——おる」
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「——しかも——速く——なって——おる」
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「——どれくらい——ですか」
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「——桜庭の——見立てでは」
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——賢者は——紙を——めくった。
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「——三十年」
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「…………」
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「——三十年——後には——影など——何の——役にも——立たぬ」
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「——海が——干上がり——大地が——焼ける」
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「——三十年」
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——誠は——その——数字を——繰り返した。
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「——長いですね」
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「——短い——!」
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——賢者が——机を——叩いた。
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「——お前——いくつだ——!」
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「——四十一です」
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「——三十年——後は——七十一だぞ——!」
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「——あ」
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「——生きて——おるのだ——! お前も——!」
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「…………」
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——誠は。
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——ふと——ルカの——ことを——考えた。
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——あの——弟子は——十三、だ。
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——三十年、後。
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——四十三。
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——ちょうど——今の——自分と——同じ——歳、だ。
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「…………」
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「——分かりました」
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——誠は——顔を——上げた。
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「——祭りが——終わったら——皆さんに——伝えます」
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「——今——言わぬのか」
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「——今日は——言いません」
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——誠は——窓の——外を——見た。
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「——三年ぶりの——星空です」
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「——一晩くらい——喜ばせて——あげたいです」
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「…………」
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——賢者は。
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——しばらく——黙って。
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——そして——ぼそり、と——言った。
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「——前にも——同じことを——言うたな」
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「——え?」
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「——人工の——太陽が——沈まぬと——分かった、時だ」
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——賢者は——誠を——見た。
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「——あの、時も——"一日だけ"、と——言うた」
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「——そう——でしたね」
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「——後悔——して——おらんのか」
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——誠は。
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——少し——考えて。
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——そして——首を——振った。
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「——してません」
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「——なぜだ」
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「——あの——一日が——あったから」
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——誠は——静かに——言った。
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「——皆さん——次の——日から——立ち上がれたんだと——思います」
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「…………」
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「——喜ぶ、時に——ちゃんと——喜んでおかないと」
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「——次に——踏ん張れませんから」
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「…………ふん」
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——賢者は。
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——顔を——背けて。
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——そして——立ち上がった。
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「——では——私も——行くか」
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「——祭りに——ですか——!?」
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「——一晩だけだ」
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——広場に——出ると。
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——星が——見えた。
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——本物の——星、だった。
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「——おお——! 賢者殿——!」
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——光の勇者が——杯を——掲げた。
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「——珍しいでは——ないか——! 飲め——!」
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「——一杯だけだ」
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「——師匠——!!」
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——ルカが——駆けてきた。
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「——見て——ください——! 星——!」
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「——ああ」
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「——僕、星って——初めて——ちゃんと——見ました——!」
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——ルカは——空を——指した。
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「——あれ——なんて——名前ですか——!」
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「…………」
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——誠は。
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——空を——見上げた。
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——祖父と——並んで——見た——星。
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——名前を——教わった——星。
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「——じいちゃんが——教えてくれた」
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——誠は——言った。
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「——あれは——"秋の——目印"、だ」
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「——あれが——見えたら——芋を——掘る——頃だ、って」
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「——星で——分かるんですか——!?」
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「——ああ」
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——誠は——ルカの——頭に——手を——置いた。
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「——三年——見えなかったから——皆——忘れかけてた」
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「——でも——戻った」
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「——僕、覚えます——!」
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——ルカが——帳面を——出した。
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「——書いて——おきます——!」
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「——祭りの——日くらい——休め」
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「——嫌です——!」
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——夜が——更けて。
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——広場の——賑わいが——収まった——頃。
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——誠は——一人。
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——高台に——上がった。
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——そこには。
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——老竜が——いた。
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「——おじいさん。祭りに——行かないんですか」
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「——見張りが——おる」
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——老竜は——空を——見つめたまま——言った。
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「——それに——ここからでも——聞こえる」
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「——麦茶、持ってきました」
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「——すまぬな」
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——誠は。
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——老竜の——隣に——腰を——下ろした。
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——星が——見えた。
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「——八百屋」
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「——はい」
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「——顔が——冴えぬな」
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「…………」
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——誠は。
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——驚いて——老竜を——見た。
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「——見えるからな」
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「——なんでも——見えるんですね」
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「——何が——あった」
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——誠は。
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——しばらく——黙って。
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——そして——言った。
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「——星が——まだ——落ちてます」
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「——うむ」
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「——え? ご存知——だったんですか」
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「——見えるからな」
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——老竜は——けろり、と——言った。
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「——太陽が——去年より——大きい」
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「——毎日——見て——おれば——分かる」
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「…………」
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「——だが——誰も——聞かぬ」
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——老竜は——空を——見つめたまま——言った。
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「——皆——影が——できて——安心して——おるからな」
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「——おじいさん」
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「——なんだ」
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「——聞きます」
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——誠は——姿勢を——正した。
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「——これから——毎日——聞きに——来ます」
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「——空が——どうなってるか——教えて——ください」
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「…………」
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——老竜は。
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——ゆっくりと——首を——下ろして。
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——誠を——見た。
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「——八百屋」
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「——はい」
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「——貴様——三年——前にも——同じことを——言うたか」
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「——え?」
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「——藤原に、だ」
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——老竜は——静かに——言った。
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「——あやつが——人に——なれぬ、と——言うた、時」
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「——貴様——それ以上——聞かなんだ、そうだな」
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「…………はい」
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「——だが——今度は——聞く、と」
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「——はい」
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「——ならば——よい」
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——老竜は。
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——また——空を——向いた。
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「——毎日——来い」
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「——教えて——やる」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「世界中に影が落ちて、ひと月。皆、地上に、戻り始めた。影の下なら、住める。畑も、地上に戻って、ルカが、"芋が太いです"、って。夜も、ちゃんと来る。……星が、見えた。地上に、人が溢れて、皆、泣いてた。"うちの子、星を見たことがなかったんだ"、って。子どもが、"あれ、なに"、"星だよ"、"ほし?"、って。……祭りが、立った。皆、飲んで、笑ってた。……でも、工房の灯りだけ、消えてなかった。賢者さんに、桜庭さんからの文を、見せられた。"星の落下は、止まっていません。それどころか、少し、速くなっています"、って。……太陽に近づくほど、引く力が強くなるから、だんだん、加速する。桜庭さんの見立てで、三十年。三十年後には、影なんて、何の役にも立たない。海が干上がって、大地が焼ける。……"三十年。長いですね"、って言ったら、賢者さんが、"短い! お前、いくつだ"、って。四十一です。三十年後は、七十一。……ルカは、十三だ。三十年後、四十三。今の僕と、同じ歳。……皆に伝えます、って言った。でも、今日は、言いません。三年ぶりの星空だから、一晩くらい、喜ばせてあげたい。賢者さんが、"前にも同じことを言うたな。後悔しておらんのか"、って。……してません。あの一日が、あったから、皆、次の日から、立ち上がれた。喜ぶ時に、ちゃんと喜んでおかないと、次に、踏ん張れません。……賢者さんも、祭りに、出てきた。一杯だけ、って言いながら。ルカが、"あれ、なんて名前ですか"、って、星を指したから、じいちゃんの話を、した。"秋の目印"。あれが見えたら、芋を掘る頃だ、って。……夜更け、高台に、上がったら、老竜さんが、見張ってた。麦茶を、持っていったら、"顔が冴えぬな"、って。見えるらしい。星のことを、話したら、"うむ"、って。……知ってた。"太陽が、去年より大きい。毎日、見ておれば、分かる。だが、誰も聞かぬ"、って。……だから、"これから毎日、聞きに来ます"、って言った。そしたら、"貴様、三年前、藤原には、それ以上、聞かなんだそうだな。だが、今度は、聞く、と"、って。……はい。"ならば、よい。毎日、来い"、って。じいちゃん、僕、今度は、聞きます」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——三年ぶりに。
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——本当に——空に。
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まだこの時の誠は知らない。「三十年」、という——その——数字が。
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——後に——なって——もっと——短く——なることを。
そして——毎日——高台に——通う——ことに——決めた——この、日が。
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——三年——前の——悔いを——ようやく——一つ——返した——日で——あったことも。
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——今は……まだ、本人しか——知らない。




