表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
368/467

第101話「忘れられた、こと」

世界中に——影が——落ちて。





——ひと月が——過ぎた。







——地下は——静かに——変わり始めていた。








「——おい——! 第三層の——空き部屋——空いてるか——!」






「——うちは——地上に——戻ったよ——!」






「——戻ったのか——!?」








「——影の——下なら——住めるからな——!」









——影の——真下では。






——気温が——だいぶ——下がっていた。







——一日中——日陰、なのだから——当然、だった。








「——三年ぶりの——我が家だ——!」






「——屋根が——傷んどるが——直せば——住める——!」








「——皆さん——気を——つけて——ください——!」







——誠が——駆け回った。







「——影が——ずれたら——すぐ——地下に——戻れるように——して——ください——!」






「——分かっとる——!」









——畑も——地上に——戻り始めた。







「——師匠——! 芋が——太いです——!」







——ルカが——駆けてきた。







「——地上の、方が——やっぱり——違います——!」






「——土が——広いからな」








「——それに——鏡を——開け閉め——しなくて——いいです——!」






「——夜は——ちゃんと——来ますから——!」









——夜。







——影の——下では。






——本物の——夜が——戻っていた。







——太陽が——沈み。






——人工の——光が——昇っても。






——影が——それを——遮る。








「——星が——見える——!」






「——月も——出とるぞ——!」








——地上には——人が——溢れた。







——皆——空を——見上げて。






——そして——泣いていた。








「——三年——ぶりだ」






「——うちの——子——星を——見たことが——なかったんだ」








「——お母ちゃん——! あれ——なに——!」






「——星だよ」






「——ほし?」








「…………」







——誠は。






——その——やりとりを——聞いて。






——胸が——詰まった。









——そして。






——祭りが——立った。








「——星見の——祭りだ——!」






「——影の——祭りとも——言うぞ——!」








——地上の——広場に——屋台が——並び。






——人と——魔族と——鬼族と——虫人族が——入り混じって——飲んでいた。








「——皆さーん——!」







——魔法使いが——実況していた。







「——三年ぶりの——星空です——!」






「——コメントも——お祝いで——いっぱいです——!」








「——さても——皆様」







——高座で——駄々丸が——扇子を——広げた。







「——三年——長うござんした」






「——夜が——ねェ、ってのは——存外——こたえるもんで——さァ」








「——そうだ——!」





「——よく——言った——!」








「——ですがねェ」







——駄々丸は——にやり、と——した。







「——夜が——戻って——一つ——困ったことが——ござんす」






「——なんだ——!」








「——皆様——飲みすぎで——さァ」







——広場が——どっと——沸いた。









——だが。






——その——賑わいの——中で。







——工房の——灯りだけが。






——消えて——いなかった。








「——賢者さん」







——誠が——顔を——出した。







「——祭り、行かないんですか」






「——行かん」








——賢者は。






——紙に——向かったまま——答えた。







「——何を——してるんですか」






「——桜庭から——文が——来た」








「…………」







——誠の——足が。






——止まった。







「——なんて——書いてありましたか」








「——読むか?」






「——読んで——ください」









——賢者は。






——一枚の——紙を——差し出した。








——「影の、件、聞きました。おめでとうございます」





——「ですが、一つだけ、お伝えします」





——「星の落下は、止まっていません」







——「それどころか、少し、速くなっています」








「…………」







——誠は。






——紙を——持つ——手が——震えた。








「——速く——なってる?」






「——うむ」








「——なぜ——ですか」






「——太陽に——近づけば——引く——力は——強くなる」








——賢者は——淡々と——言った。







「——近づけば——近づくほど——速く——落ちるのだ」






「——最初は——ゆっくりだが——だんだん——加速する」








「…………」







——誠は。






——工房の——窓から——外を——見た。







——広場では。






——皆が——笑っていた。








「——賢者さん」






「——なんだ」






「——皆さん——星の、こと——忘れてますよね」








「…………」







——賢者は。






——ペンを——置いた。







「——忘れて——おる」






「——無理も——ない」








——彼は——窓の——外を——見た。







「——三年——地の底で——耐えて」






「——ようやく——星空が——戻ったのだ」







「——喜ぶな、とは——言えぬ」








「…………」







「——だが」







——賢者の——声が——低くなった。







「——我らが——やったのは——"暑さを——しのぐ"、ことだけだ」






「——星は——今も——落ちて——おる」






「——しかも——速く——なって——おる」








「——どれくらい——ですか」







「——桜庭の——見立てでは」








——賢者は——紙を——めくった。







「——三十年」








「…………」







「——三十年——後には——影など——何の——役にも——立たぬ」






「——海が——干上がり——大地が——焼ける」








「——三十年」







——誠は——その——数字を——繰り返した。







「——長いですね」






「——短い——!」








——賢者が——机を——叩いた。







「——お前——いくつだ——!」






「——四十一です」






「——三十年——後は——七十一だぞ——!」








「——あ」






「——生きて——おるのだ——! お前も——!」








「…………」







——誠は。






——ふと——ルカの——ことを——考えた。







——あの——弟子は——十三、だ。







——三十年、後。







——四十三。







——ちょうど——今の——自分と——同じ——歳、だ。








「…………」






「——分かりました」







——誠は——顔を——上げた。







「——祭りが——終わったら——皆さんに——伝えます」








「——今——言わぬのか」






「——今日は——言いません」








——誠は——窓の——外を——見た。







「——三年ぶりの——星空です」






「——一晩くらい——喜ばせて——あげたいです」








「…………」







——賢者は。






——しばらく——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——前にも——同じことを——言うたな」






「——え?」






「——人工の——太陽が——沈まぬと——分かった、時だ」








——賢者は——誠を——見た。







「——あの、時も——"一日だけ"、と——言うた」






「——そう——でしたね」








「——後悔——して——おらんのか」








——誠は。






——少し——考えて。






——そして——首を——振った。








「——してません」






「——なぜだ」







「——あの——一日が——あったから」







——誠は——静かに——言った。







「——皆さん——次の——日から——立ち上がれたんだと——思います」








「…………」







「——喜ぶ、時に——ちゃんと——喜んでおかないと」






「——次に——踏ん張れませんから」








「…………ふん」







——賢者は。






——顔を——背けて。






——そして——立ち上がった。








「——では——私も——行くか」






「——祭りに——ですか——!?」






「——一晩だけだ」









——広場に——出ると。






——星が——見えた。







——本物の——星、だった。








「——おお——! 賢者殿——!」







——光の勇者が——杯を——掲げた。







「——珍しいでは——ないか——! 飲め——!」






「——一杯だけだ」








「——師匠——!!」







——ルカが——駆けてきた。







「——見て——ください——! 星——!」






「——ああ」








「——僕、星って——初めて——ちゃんと——見ました——!」







——ルカは——空を——指した。







「——あれ——なんて——名前ですか——!」








「…………」







——誠は。






——空を——見上げた。







——祖父と——並んで——見た——星。







——名前を——教わった——星。








「——じいちゃんが——教えてくれた」







——誠は——言った。







「——あれは——"秋の——目印"、だ」






「——あれが——見えたら——芋を——掘る——頃だ、って」








「——星で——分かるんですか——!?」






「——ああ」








——誠は——ルカの——頭に——手を——置いた。







「——三年——見えなかったから——皆——忘れかけてた」






「——でも——戻った」








「——僕、覚えます——!」







——ルカが——帳面を——出した。







「——書いて——おきます——!」






「——祭りの——日くらい——休め」






「——嫌です——!」









——夜が——更けて。






——広場の——賑わいが——収まった——頃。







——誠は——一人。






——高台に——上がった。








——そこには。






——老竜が——いた。








「——おじいさん。祭りに——行かないんですか」






「——見張りが——おる」








——老竜は——空を——見つめたまま——言った。







「——それに——ここからでも——聞こえる」








「——麦茶、持ってきました」






「——すまぬな」









——誠は。






——老竜の——隣に——腰を——下ろした。







——星が——見えた。








「——八百屋」






「——はい」






「——顔が——冴えぬな」








「…………」







——誠は。






——驚いて——老竜を——見た。







「——見えるからな」






「——なんでも——見えるんですね」








「——何が——あった」








——誠は。






——しばらく——黙って。






——そして——言った。








「——星が——まだ——落ちてます」






「——うむ」








「——え? ご存知——だったんですか」






「——見えるからな」








——老竜は——けろり、と——言った。







「——太陽が——去年より——大きい」






「——毎日——見て——おれば——分かる」








「…………」







「——だが——誰も——聞かぬ」







——老竜は——空を——見つめたまま——言った。







「——皆——影が——できて——安心して——おるからな」








「——おじいさん」






「——なんだ」






「——聞きます」








——誠は——姿勢を——正した。







「——これから——毎日——聞きに——来ます」






「——空が——どうなってるか——教えて——ください」








「…………」







——老竜は。






——ゆっくりと——首を——下ろして。






——誠を——見た。








「——八百屋」






「——はい」






「——貴様——三年——前にも——同じことを——言うたか」








「——え?」






「——藤原に、だ」








——老竜は——静かに——言った。







「——あやつが——人に——なれぬ、と——言うた、時」






「——貴様——それ以上——聞かなんだ、そうだな」








「…………はい」







「——だが——今度は——聞く、と」






「——はい」








「——ならば——よい」







——老竜は。






——また——空を——向いた。







「——毎日——来い」






「——教えて——やる」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「世界中に影が落ちて、ひと月。皆、地上に、戻り始めた。影の下なら、住める。畑も、地上に戻って、ルカが、"芋が太いです"、って。夜も、ちゃんと来る。……星が、見えた。地上に、人が溢れて、皆、泣いてた。"うちの子、星を見たことがなかったんだ"、って。子どもが、"あれ、なに"、"星だよ"、"ほし?"、って。……祭りが、立った。皆、飲んで、笑ってた。……でも、工房の灯りだけ、消えてなかった。賢者さんに、桜庭さんからの文を、見せられた。"星の落下は、止まっていません。それどころか、少し、速くなっています"、って。……太陽に近づくほど、引く力が強くなるから、だんだん、加速する。桜庭さんの見立てで、三十年。三十年後には、影なんて、何の役にも立たない。海が干上がって、大地が焼ける。……"三十年。長いですね"、って言ったら、賢者さんが、"短い! お前、いくつだ"、って。四十一です。三十年後は、七十一。……ルカは、十三だ。三十年後、四十三。今の僕と、同じ歳。……皆に伝えます、って言った。でも、今日は、言いません。三年ぶりの星空だから、一晩くらい、喜ばせてあげたい。賢者さんが、"前にも同じことを言うたな。後悔しておらんのか"、って。……してません。あの一日が、あったから、皆、次の日から、立ち上がれた。喜ぶ時に、ちゃんと喜んでおかないと、次に、踏ん張れません。……賢者さんも、祭りに、出てきた。一杯だけ、って言いながら。ルカが、"あれ、なんて名前ですか"、って、星を指したから、じいちゃんの話を、した。"秋の目印"。あれが見えたら、芋を掘る頃だ、って。……夜更け、高台に、上がったら、老竜さんが、見張ってた。麦茶を、持っていったら、"顔が冴えぬな"、って。見えるらしい。星のことを、話したら、"うむ"、って。……知ってた。"太陽が、去年より大きい。毎日、見ておれば、分かる。だが、誰も聞かぬ"、って。……だから、"これから毎日、聞きに来ます"、って言った。そしたら、"貴様、三年前、藤原には、それ以上、聞かなんだそうだな。だが、今度は、聞く、と"、って。……はい。"ならば、よい。毎日、来い"、って。じいちゃん、僕、今度は、聞きます」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——三年ぶりに。





——本当に——空に。






まだこの時の誠は知らない。「三十年」、という——その——数字が。




——後に——なって——もっと——短く——なることを。


そして——毎日——高台に——通う——ことに——決めた——この、日が。




——三年——前の——悔いを——ようやく——一つ——返した——日で——あったことも。





——今は……まだ、本人しか——知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ