第100話「影の、道」
竜を——七頭——連れて——帰る。
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——それは——見物、だった。
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「——おい——! 空を——見ろ——!」
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「——竜が——三十頭——!?」
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「——いや——待て——! 抱えられて——おる——のも——おるぞ——!」
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——飛べぬ——七頭は。
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——若い——竜たちに——数頭がかりで——運ばれてきた。
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「——すまぬな……」
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——運ばれる——老竜が——うつむいた。
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「——気に——すんな、爺さん」
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「——重うて——かなわんが」
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「——余計な、ことを——言うな——!」
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——荒野に——降り立つと。
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——地下じゅうから——人が——出てきた。
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「——うわああ——! 竜だ——!」
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「——三十——! 三十——おるぞ——!」
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「——イーッ——!!」
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「——皆さーん——!!」
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——魔法使いが——虚空に——叫んだ。
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「——竜の——里から——戻りました——!!」
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「——三十頭——お借りできました——!!」
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「——コメント——どないや」
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「——"多すぎ"、"画面が——竜"、"どういう——交渉した"、って——!!」
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——だが。
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——誠は——すぐに——動いた。
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「——一色さん——! 第九層の——空いてる——広間、使えますか——!」
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「——使えるけど——何に?」
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「——七頭——住んで——いただきます——!」
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「——竜が——地下に——!?」
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「——涼しいですから」
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——だが。
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——老竜が——首を——振った。
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「——構うな、八百屋」
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「——我らは——ただの——荷物だ」
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「——隅に——置いて——おけば——よい」
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「——駄目です」
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——誠が——即座に——言った。
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「——なに?」
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「——皆さんに——お願いしたいことが——あります」
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「——飛べぬ——者に——何が——できる」
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「——目が——いいですよね」
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「…………む?」
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「——竜は——夜も——飛ぶって——藤原さんが——言ってました」
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——誠は——続けた。
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「——目から——光を——出して——地面を——照らせる、って」
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「——ということは——遠くも——よく——見えますよね」
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「——それは——そうだが」
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「——影を——見張って——いただけませんか」
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「…………は?」
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——誠は——地図を——広げた。
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「——これから——世界中に——弓を——十——作ります」
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「——一つで——一箇所——影を——落とします」
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「——でも——影は——少しずつ——ずれます」
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「——誰かが——ずっと——見張って——"ずれてきた"、と——知らせないと——いけません」
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「——それを——我らに?」
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「——はい」
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——誠は——真剣な——顔で——言った。
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「——皆さんは——飛べません」
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「——でも——だから——ずっと——同じ——場所に——いられます」
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「——見張りには——それが——一番——大事です」
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「…………」
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——老竜が。
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——ゆっくりと——首を——擡げた。
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「——八百屋」
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「——はい」
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「——それは——本気で——言うて——おるのか」
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「——本気です」
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——誠は——きっぱりと——言った。
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「——飛べる——方は——弓を——引きます」
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「——飛べない——方は——見張ります」
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「——どっちも——なければ——影は——保てません」
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「…………」
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——老竜は。
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——長い、こと——黙っていた。
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——そして。
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——ぼそり、と——言った。
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「——三年ぶりだ」
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「——何が——ですか」
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「——役目を——与えられたのは」
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「…………」
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——誠は。
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——何も——言わずに——頭を——下げた。
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——こうして。
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——弓の——建造が——始まった。
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「——十——だぞ——!」
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——賢者が——図面を——配った。
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「——一年で——一つ——作った——ものを——十だ——!」
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「——だが——今度は——図面が——ある——!」
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「——それに——手も——増えたわ」
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——一色が——名簿を——めくった。
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「——鬼族。虫人族。魔族。悪の組織」
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「——それに——怪獣の——皆さん」
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「——グオ。任せろ」
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——怪獣が——のっそりと——頷いた。
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「——場所は——決まったのか」
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「——一色さんが——十箇所——選んでくれました」
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——誠は——地図を——指した。
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「——人が——住んでる——ところの——上に——影が——来るように」
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「——そして——弓は——人の——いない——荒れ地に——置きます」
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「——遠いですね」
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——魔法使いが——地図を——覗いた。
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「——一番——遠いのは——海の——向こうです」
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「——竜が——おる」
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——半年。
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——世界は——弓を——作り続けた。
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「——三つ目——完成——!」
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「——五つ目——骨組み——上がりました——!」
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「——七つ目——資材が——足りません——!」
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「——回せ——! 二つ目の——余りを——回せ——!」
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——その——間も。
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——荒野の——弓は——毎日——撃たれていた。
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——一日——六枚。
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——荒野には——常に——影が——あった。
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「——涼しいねえ」
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——影の——中で。
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——年寄りたちが——縁台を——並べていた。
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「——三年ぶりに——地上で——茶が——飲める」
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「——長生きは——するもんだ」
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「——皆さん——水は——飲んで——ください——!」
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——誠が——麦茶を——配って——回る。
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「——涼しくても——地上ですから——!」
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——そして——見張り台。
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——荒野の——高台に——設えられた——場所で。
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——老竜が——空を——見つめていた。
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「——おい、八百屋」
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「——はい」
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「——今日の——布——半つ——南へ——ずれて——おる」
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「——分かりますか——!?」
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「——見えるからな」
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——老竜は——けろり、と——言った。
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「——それと——三枚目の——布」
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「——端が——少し——ほつれて——おる」
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「——ほつれ——!?」
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——一色が——飛んできた。
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「——本当ですか——!?」
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「——うむ。……あれは——じきに——裂けるぞ」
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——三日、後。
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——三枚目の——布が——裂けた。
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「——当たった——!!」
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——一色が——駆けてきた。
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「——おじいさん——! なぜ——分かったんですか——!!」
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「——見えるからだ」
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——老竜は——面倒くさそうに——言った。
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「——我らは——空を——飛ぶ。遠くの——獲物を——見分けねば——生きられん」
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「——布の——ほつれくらい——見える」
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「——それ——ものすごく——役に——立ちます——!!」
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——一色は——興奮していた。
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「——裂ける——前に——分かれば——次を——先に——上げられます——!」
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「——影が——途切れません——!!」
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「…………」
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——老竜は。
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——妙な——顔で——黙り込んで。
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——そして——ぼそり、と——言った。
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「——役に——立って——おるのか」
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「——立ってます——!!」
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「…………ふん」
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——老竜は。
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——顔を——背けたが。
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——尻尾が。
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——わずかに——動いていた。
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「——竜は——皆——ああなんですね」
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——誠が——ぽつり、と——言うと。
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——藤原が——即座に——首を——伸ばした。
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「——なんの、こっちゃ」
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「——いえ。なんでも——ないです」
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——そして——さらに——半年。
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——十本目の——弓が——立った。
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「——できた——!!」
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——賢者が——絶叫した。
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「——一年で——十——だ——!!」
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「——前は——一つに——一年——かかったのに——!!」
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「——図面が——あったからよ」
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——一色が——疲れた——顔で——笑った。
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「——それと——手が——増えたから」
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「——では——いよいよか」
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「——ええ」
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——決行の——日。
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——世界の——十箇所で。
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——同時に——弓が——構えられた。
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「——皆さーん——!!」
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——竜の——背から。
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——魔法使いの——声が——世界に——響いた。
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「——本日——世界十箇所——同時——打ち上げ——!!」
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「——うまく——いけば——世界中に——影が——落ちます——!!」
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「——コメント——どないや」
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「——"歴史的——瞬間"、"一年——見てた"、"頼む"、って——!!」
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『——各地……繋がってる』
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——皆瀬の——光が——世界を——走った。
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『——第一——よし。第二——よし。第三——よし』
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『——……第十——よし』
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「——見張りは——!」
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「——七頭——配置——完了だ」
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——老竜が——高台から——答えた。
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「——三箇所は——若い——者に——見させて——おる」
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「——ほつれの——見分け方は——教えた」
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「——ありがとう——ございます——!」
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「——では——いくぞ——!!」
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——賢者が——表を——掲げた。
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「——刻限——朝——四刻——!」
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「——各地——狙いを——合わせよ——!」
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『——合わせた』
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「——点火——!!!」
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——ひゅうう。
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——十の——荒れ地から。
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——同時に——矢が——伸びた。
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「——一段目——切り離し——!」
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「——二段目——点火——!」
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「——三段目——!」
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『——十——全部……回ってる』
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「——今です——!!」
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——十の——留め具が——外れ。
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——十の——薄布が——広がった。
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「…………」
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——世界中で。
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——人々が——足元を——見ていた。
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——そして。
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——すう、と。
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——大地が——翳った。
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『——西の——里……"暗くなった"』
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『——北の——里……"暗くなった"』
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『——海の——都……"暗くなった"』
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『——全部……暗くなった』
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「…………」
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——荒野が。
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——しん、と——なった。
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——そして。
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「——うおおおおおお——!!!」
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——爆発した。
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「——世界中だ——!!」
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「——世界中に——影が——落ちた——!!」
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「——イーーーッ——!!」
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「——皆さーん——!!」
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——魔法使いが——泣きながら——叫んだ。
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「——成功です——!! 世界中に——影が——できました——!!」
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「——コメントが——見えません——!! 流れが——速すぎて——!!」
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——だが。
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——誠は。
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——高台の——老竜を——見上げていた。
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「——どうですか——!」
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「——見えて——おる」
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——老竜は——空を——睨んだまま——言った。
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「——十——全部——きちんと——広がって——おる」
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「——ほつれも——ない」
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「——ありがとう——ございます——!」
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「——礼など——要らぬ」
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——老竜は——ぼそり、と——言った。
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「——我は——ただ——見て——おるだけだ」
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「——いえ」
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——誠は——首を——振った。
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「——今日——世界中で——影が——できました」
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「——その——十——全部を」
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「——一人で——見てるのは——おじいさんだけです」
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「…………」
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——老竜は。
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——空を——見つめたまま。
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——長い、こと——黙っていた。
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——そして。
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——ぽつり、と——言った。
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「——三年——前」
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「——はい」
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「——飛べなく——なった——日、な」
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——老竜の——声が。
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——わずかに——震えた。
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「——もう——空を——見んと——決めた」
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「——見れば——辛いからな」
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「…………」
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「——三年——地面ばかり——見て——おった」
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——老竜は。
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——ゆっくりと——首を——擡げた。
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「——だが——今は——毎日——空を——見て——おる」
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「…………」
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「——悪くない」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「竜を、三十頭、連れて帰った。飛べない七頭は、若い竜たちが、抱えて運んできた。地下じゅうから、人が出てきて、大騒ぎ。……七頭には、第九層に、住んでもらうことにした。老竜さんが、"我らは、ただの荷物だ。隅に置いておけばよい"、って言うから、駄目です、って。……お願いしたのは、影の見張り。竜は、夜も飛ぶから、目がいい。それに、飛べないから、ずっと、同じ場所にいられる。見張りには、それが一番、大事です。……老竜さん、"それは、本気で言うておるのか"、って。本気です。飛べる方は、弓を引く。飛べない方は、見張る。どっちも、なければ、影は保てません。……そしたら、"三年ぶりだ。役目を与えられたのは"、って。……それから、一年。弓を、十、作った。前は、一つに一年かかったのに。図面があったのと、手が増えたから。その間も、荒野には、毎日、影があった。年寄りたちが、縁台を出して、三年ぶりに、地上で茶を飲んでた。……老竜さんは、すごかった。"今日の布、半つ、南へずれてる"、"三枚目の布、端がほつれてる。じきに裂ける"、って。三日後、本当に、裂けた。一色さんが、飛び上がってた。裂ける前に分かれば、次を先に上げられる。影が途切れない。……"役に立っておるのか"、って聞かれたから、"立ってます"、って。尻尾、動いてました。竜は、皆、ああなんですね、って言ったら、藤原さんに、睨まれた。……そして、今日。世界十箇所で、同時に、打ち上げた。皆瀬さんが、各地を繋いで、十、同時。……全部、暗くなった。西も、北も、海の都も。世界中で、影が、落ちた。皆、爆発してた。……僕は、高台の老竜さんを、見上げてた。"十、全部、きちんと広がっておる"、って。礼を言ったら、"我は、ただ、見ておるだけだ"、って。……でも、十、全部を、一人で見てるのは、あの人だけです。そう言ったら、しばらく黙って、それから、"飛べなくなった日、もう空を見んと決めた。見れば辛いからな。三年、地面ばかり見ておった"、って。"だが、今は、毎日、空を見ておる"、って。"悪くない"、って。……じいちゃん。今日は、いい日でした」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——たとえ——空に——見えなくても。
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まだこの時の誠は知らない。世界中に——影が——落ちた——この、日が。
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——人々にとって——三年ぶりの——安堵で、あった、ことを。
そして——その——安堵が。
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——一つの——大事な——ことを——皆に——忘れさせる、ことも。
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——星は——今も——落ち続けている、という——ことを。
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——今は……まだ、誰も——口に——して——いない。




