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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第99話「竜の、里へ」

竜の——里へ——向かう——朝。





——荒野に——人が——集まっていた。







「——気を——つけて——ください——!」






「——無事に——戻れよ——!」








「——大げさですよ」







——誠は——苦笑した。







「——挨拶に——行くだけです」








「——甘いわ」







——藤原が——首を——下ろした。







「——うちらの——里はな。人が——来た、ことが——ないねん」






「——一度も——ですか」








「——一度も——や」









——同行は——四人。







——誠。





——駄々丸。





——魔法使い。





——そして——ルカ。








「——なぜ——小僧まで——連れて——行く」







——賢者が——訝しんだ。







「——記録係です」







——誠は——答えた。







「——僕、話に——夢中に——なると——書き忘れるので」








「——僕、書きます——!」







——ルカが——帳面を——掲げた。








「——実況も——やります——!」







——魔法使いが——胸を——張った。







「——竜の——里なんて——絶対——盛り上がります——!」








「——不謹慎で——ござんすねェ」






「——駄々丸師匠も——高座——持ってきてるじゃ——ないですか」






「——備えで——ござんす」









——藤原の——背に——乗って。






——一行は——飛んだ。








「——うわああ——! 速い——!」







——ルカが——しがみついた。







「——落ちんように——せえよ」









——眼下には。






——灼けた——大地が——広がっていた。







——かつては——森だった——ところ。






——かつては——町だった——ところ。







——今は——何も——ない。








「……ひどいですね」







——魔法使いが——ぽつり、と——言った。







「——三年で——こうなったんですか」






「——せやな」








——藤原は——静かに——言った。







「——うちら——毎日——上から——見とる」






「——少しずつ——枯れていくのを、な」








「…………」









——半日——飛んで。







——北の——山脈が——見えてきた。







「——あそこや」







——藤原が——首を——傾けた。







「——雲の——上に——ある」









——山頂。







——そこには。







——巨大な——岩の——棚が——連なり。






——竜たちが——寝そべっていた。







——赤。青。黒。白。






——大小——さまざま。








「——うわあ……」







——ルカが——息を——呑んだ。







「——すごい——数……」









——だが。






——降り立った——瞬間。







——空気が——変わった。








「——人だと?」







——一番——大きな——黒竜が——首を——擡げた。







「——藤原。何の——つもりだ」








「——長。話が——あんねん」







「——人を——連れてくるな、と——言うたはずだ」








——黒竜の——声は。






——地を——揺らした。







「——貴様——三年——里に——寄りつかず」






「——挙句に——人を——連れてくるとは」








「…………」







——藤原が。






——首を——垂れた。








「——藤原さん?」






「——ええから。黙っとき」









——誠は。






——一歩——前に——出た。








「——初めまして」







——彼は——深く——頭を——下げた。







「——田中誠と——申します」






「——八百屋を——やっております」








「——八百屋、だと?」







——黒竜が——訝しんだ。







「——何を——しに——来た」








「——ご挨拶に——参りました」







「——挨拶?」








「——はい」







——誠は——荷を——下ろした。







「——手土産です」









——中から——出てきたのは。







——鉄鉱石と——銅鉱石、だった。







——鬼族が——掘った——ものを。






——粒を——揃えて——並べてある。








「…………」







——黒竜が。






——ぴくり、と——鼻を——動かした。








「——北の——鉄か」






「——はい。それと——南の——銅です」








「——なぜ——これを」






「——藤原さんに——教わりました」








——誠は——にっこりと——笑った。







「——"鉄が——白飯なら——銅は——魚や"、って」








「…………」







——黒竜が。






——ゆっくりと——藤原を——見た。







「——藤原。貴様」






「——な、なんや」






「——人間に——そんな、ことを——話して——おったのか」








「——あ、あほ——! 別に——ただの——世間話や——!」







——藤原が——真っ赤に——なった。







——竜の——顔なので——分かりにくかったが。









「——ふん」







——黒竜は——鼻を——鳴らして。






——そして——鉄鉱石を——一つ——口に——含んだ。







——ごり、ごり。








「…………」






「——いかがですか」








「——悪くはない」







——黒竜は——ぼそり、と——言った。







「——だが——用向きを——言え」






「——手土産だけで——来たわけでは——あるまい」








「…………」







——誠は。






——少し——考えて。






——そして——言った。








「——その、前に——一つ——伺っても——いいですか」






「——なんだ」







「——皆さん——何か——困ってませんか」








「…………」







——山頂が。






——静まり返った。








「——何を——言って——おる」







——黒竜が——低く——言った。







「——我らは——竜だ」






「——困る、ことなど——ない」








「——そうですか」







——誠は——素直に——頷いて。






——そして——あたりを——見回した。








——岩の——棚。






——寝そべる——竜たち。






——そして。







——棚の——奥に。






——動かない——竜が——数頭——いた。








「……あの」






「——なんだ」






「——あちらの——方々は——寝ておられるんですか」








「…………」







——黒竜が。






——ぴたり、と——止まった。







「——見るな」






「——すみません」








「——長」







——藤原が——口を——挟んだ。







「——言うたらどうや」






「——藤原——!」








「——三年や」







——藤原の——声が。






——珍しく——強かった。







「——三年——誰にも——言わんと——抱え込んで」






「——それで——どうなった」







「——増えとるやろ」








「…………」







——黒竜は。






——長い、こと——黙っていた。







——そして。







——ぽつり、と——言った。








「……飛べぬのだ」








「——え?」






「——あの、者たちは——もう——飛べぬ」








——黒竜は——奥の——棚を——見た。







「——翼が——動かぬ」






「——三年——前から——一頭——また——一頭と——増えて——おる」








「…………」







——誠は。






——奥の——棚を——見た。







——動かない——竜が——七頭。







——皆——痩せていた。








「——理由は——お分かりですか」






「——分からぬ」








——黒竜は——首を——振った。







「——病でも——傷でも——ない」






「——ただ——ある日——飛べなく——なるのだ」








「——長」







——藤原が——静かに——言った。







「——うちも——一つ——言うてええか」






「——なんだ」








「——うち——人に——なれへんように——なった」








「…………」







——山頂が。






——ざわめいた。








「——なんだと?」






「——三年——前からや」








——藤原は——うつむいた。







「——最初は——たまに——なれへんだけ、やった」






「——それが——だんだん——増えて」






「——今は——一度も——なれへん」








「——なぜ——言わなんだ——!」







「——恥や、思うたからや」








——藤原の——声が。






——かすれた。







「——里の——者にも——言えへんかった」






「——人間の——連中にも——言えへんかった」








「…………」







——誠は。






——藤原を——見上げた。







——三年。







——あの——巨体で。






——広間に——入れずに。






——天井の——穴から——首だけ——突っ込んで。







——「なれへんのや」、と——だけ——言って。








「——藤原さん」






「——な、なんや」








「——ごめんなさい」







——誠は——深く——頭を——下げた。







「——僕、一度——聞いたんです」






「——"人の——姿に——なった、ほうが——楽じゃ——ないですか"、って」







「——あの、時——"なれへんのや"、って——言われて」






「——それ以上——聞きませんでした」








「——ええねん」






「——よくないです」








——誠は——顔を——上げた。







「——僕、聞くべきでした」






「——三年も——放って——おきました」








「…………」







——藤原は。






——ぷい、と——顔を——背けた。







「——あほ。あんたのせいや——ない」









「——待て」







——黒竜が——口を——挟んだ。







「——藤原。今——"三年前"、と——言うたな」






「——せや」








「——飛べなく——なった——者たちも——三年——前からだ」







——黒竜の——目が——鋭くなった。







「——同じ、ではないか」








「…………」







——誠が。






——ゆっくりと——顔を——上げた。








「——三年——前」






「——どうした」







「——アルフレート様も——三年——前に——レベルが——1に——戻ってます」








「…………」







「——それと——星が——落ち始めたのも——三年——前です」








——山頂が。






——凍りついた。








「——ルカ——!」






「——書いてます——!!」








——ルカが——猛然と——帳面に——書き込んだ。







「——飛べなく——なった——竜。七頭。三年——前から——!」






「——藤原さんの——人型。三年——前から——!」






「——アルフレート様の——レベル。三年——前——!」






「——星の——落下。三年——前——!」








「——おい」







——黒竜が——低く——言った。







「——それは——何の——話だ」








「——分かりません」







——誠は——正直に——言った。







「——でも——同じ——時に——始まってます」






「——偶然かも——しれません」






「——でも——調べる——価値は——あると——思います」








「…………」







——黒竜は。






——長い、こと——誠を——見ていた。







——そして——言った。








「——八百屋」






「——はい」






「——貴様——何を——頼みに——来た」








「——弓を——引いて——いただきたく」







——誠は——姿勢を——正した。







「——世界中に——影を——落とすには——弓が——十——要ります」






「——竜の——力が——なければ——引けません」








「——なぜ——我らが——人のために——働く」







「——人のためじゃ——ありません」








——誠は——奥の——棚を——見た。







「——あの、方々の——ためです」








「…………」







「——飛べなく——なった——理由が——星と——同じ——ところに——あるなら」







——誠は——真っ直ぐに——言った。







「——星を——直せば——あの、方々も——飛べるように——なるかも——しれません」








「——かも、しれぬ、か」






「——はい。分かりません」








——誠は——頭を——下げた。







「——でも——このままでは——増える——一方です」








「…………」







——山頂に。






——長い——沈黙が——落ちた。








——そして。







「——長」







——奥の——棚から。






——かすれた——声が——した。








——飛べなく——なった——竜の——一頭、だった。







「——やらせて——やってくれ」








「——お前」






「——わしは——もう——飛べぬ」








——その——竜は。






——空を——見上げた。







「——だが——若い——者が——同じ——目に——遭うのは——見たくない」








「…………」







——黒竜は。






——目を——閉じた。







——そして——開いた。








「——八百屋」






「——はい」






「——三十頭——出す」








「——本当ですか——!?」






「——ただし——条件が——ある」








——黒竜は——首を——伸ばした。







「——飛べぬ——者たちを——連れて——行け」








「——え?」






「——ここには——医者も——おらぬ。食い物を——運ぶ——者も——足らぬ」







——黒竜は——静かに——言った。







「——貴様の——ところなら——面倒を——見て——もらえよう」








「…………」







——誠は。






——深く——頭を——下げた。








「——お預かりします」






「——世話に——なる」








「——ただ——一つだけ——お願いが——あります」







「——なんだ」








「——"預ける"、と——言わないで——ください」







——誠は——顔を——上げた。







「——"来て——もらう"、と——言って——ください」








「——なぜだ」






「——飛べなくても——できる、ことは——ありますから」








——誠は——にっこりと——笑った。







「——うちには——目の——見えない——方も——足の——動かない——方も——おられます」






「——皆——何かしら——やってます」








「…………」







——黒竜は。






——しばらく——黙って。






——そして——低く——笑った。








「——藤原」






「——なんや」






「——貴様が——三年——里に——戻らなんだ——理由が——分かった」








「——あほ——! 別に——そんなんちゃう——!」







——藤原が——真っ赤に——なった。







「——尻尾が——動いて——おるぞ」






「——動いてへん——!!」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「竜の里に、行った。北の山脈の、雲の上。行く途中、地上を、上から見た。森だったところも、町だったところも、何もなかった。藤原さんが、"うちら、毎日、上から見とる。少しずつ、枯れていくのを"、って。……里で、長さんに、"人を連れてくるな"、って、怒られた。藤原さん、首を垂れてた。だから、手土産を、出した。北の鉄と、南の銅。藤原さんが、"鉄が白飯なら、銅は魚"、って、教えてくれたやつ。長さん、"藤原、人間に、そんなことを話しておったのか"、って。藤原さん、真っ赤に、なってた。……用向きを言え、って言われたけど、先に、"皆さん、何か困ってませんか"、って、聞いた。"我らは竜だ。困ることなどない"、って。……でも、棚の奥に、動かない竜が、七頭、いた。痩せてた。聞いたら、"見るな"、って。藤原さんが、"三年、誰にも言わんと、抱え込んで、それで、どうなった。増えとるやろ"、って。……"飛べぬのだ"、って。病でも、傷でもなく、ある日、突然。三年前から、一頭ずつ。……そしたら、藤原さんが、"うちも、人に、なれへんようになった。三年前からや"、って。恥だと思って、里にも、人間にも、言えなかったって。……僕、三年前に、一度、聞いてた。"人の姿になった方が、楽じゃないですか"、って。"なれへんのや"、って言われて、それ以上、聞かなかった。……三年、放っておいた。謝ったら、"あんたのせいやない"、って。……長さんが、"飛べなくなった者たちも、三年前からだ。同じではないか"、って。……アルフレート様のレベルも、三年前。星が落ち始めたのも、三年前。ルカが、全部、書き留めた。偶然かも、しれない。でも、調べる価値は、ある。……弓を引いてほしい、と、頼んだ。"なぜ、人のために働く"、って。人のためじゃ、ありません。飛べなくなった、あの方々のためです。理由が、星と同じところに、あるなら、星を直せば、飛べるように、なるかもしれません。分かりませんけど。……そしたら、飛べない竜の一頭が、"やらせてやってくれ。わしは、もう飛べぬ。だが、若い者が、同じ目に遭うのは、見たくない"、って。長さん、三十頭、出してくれることに、なった。条件は、飛べない七頭を、預かること。……でも、"預ける"、じゃ、なくて、"来てもらう"、って、言ってください、って、お願いした。飛べなくても、できることは、あります。うちには、目の見えない方も、足の動かない方も、おられます。皆、何かしら、やってます。……長さんが、"藤原が、三年、里に戻らなんだ理由が分かった"、って。藤原さん、真っ赤に、なって、否定してた。尻尾、動いてました。じいちゃん、大収穫です」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。この、日——ルカが——帳面に——並べて——書いた——四つの——「三年——前」、が。




——やがて——一つの——線で——結ばれる、ことを。


そして——飛べなく——なった——七頭が。




——地下で——見つける——ことに——なる——己の——役目も。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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