第98話「影が、流れる」
半日で——荒野の——端まで——流れる。
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——それが——分かって——から。
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——次の——問いは——すぐに——出た。
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「——どこへ——行ったのだ」
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——賢者が——紙を——広げた。
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「——影は——消えた、のでは——ない」
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「——荒野の——端から——先へ——流れて——いっただけだ」
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「——ということは」
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——誠が——顔を——上げた。
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「——どこかで——影に——なってる——ところが——ありますよね」
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「——そうなる」
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「——じゃあ——誰か——気づいてるかも——しれません」
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——確かめるのは——早かった。
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『——聞いてくる』
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——皆瀬の——光が——世界を——駆けた。
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——そして——半刻も——せぬ——うちに。
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『——来た』
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『——西の——里……"昼に——急に——暗くなった"、って』
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「——おお——!」
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『——"日食かと——思って——皆で——騒いだ"』
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『——"だが——半刻ほどで——また——明るく——なった"』
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「——半刻——!?」
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——一色が——飛び上がった。
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「——こっちは——半日、よ——!?」
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「——なぜ——向こうは——半刻——なのだ——!」
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「——通り過ぎた、から、ですね」
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——誠が——静かに——言った。
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「——え?」
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「——影は——ここに——止まってました」
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——彼は——足元を——指した。
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「——でも——だんだん——ずれ始めて——動き出した」
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「——だから——向こうでは——通り過ぎるだけに——なるんです」
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「…………」
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——一色が。
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——蒼白に——なった。
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「——待って」
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「——じゃあ——荒野だけ——半日で」
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「——他の——ところは——半刻——なの?」
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「——そうなりますね」
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——工房が。
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——静まり返った。
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「——おい」
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——賢者が——低く——言った。
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「——それは——まずいのでは——ないか」
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「——まずいわ」
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——一色は——頭を——抱えた。
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「——私たち——自分の——足元しか——見てなかった」
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「——世界には——他にも——人が——住んでるのに」
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「——一日——六枚、というのは」
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「——この、荒野を——涼しくするための——数、ね」
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「——では——世界中に——影を——落とすには——!」
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「——待って。計算するわ」
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——半刻、後。
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「——駄目、ね」
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——一色が——紙を——置いた。
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「——世界中を——同じように——覆うなら」
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「——一日——四百枚」
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「——四百——!?」
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「——一年で——十四万枚よ」
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「——無理だ——!!」
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——賢者が——机に——突っ伏した。
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「——虫人族の——糸を——全部——使っても——届かん——!」
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「…………」
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——工房が。
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——重く——沈んだ。
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——影は——止められる。
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——だが——一箇所しか——覆えない。
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——ここを——涼しくすれば。
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——他の——どこかは——そのままに——なる。
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「——どうする、田中」
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——賢者が——尋ねた。
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「——え?」
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「——一日——六枚なら——ここは——救える」
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——彼は——静かに——言った。
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「——この、地下に——住む——十万の——者は——救える」
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「——だが——世界の——他の——者は——救えぬ」
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「…………」
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「——お前は——どうする」
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——誠は。
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——長い、こと——黙っていた。
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——そして——ぽつり、と——言った。
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「——賢者さん。一つ——聞いていいですか」
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「——なんだ」
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「——他の——ところにも——荒野は——ありますか」
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「——む?」
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「——人が——住んでない——広い——ところ、です」
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「——それは——いくらでも——ある」
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——一色が——地図を——広げた。
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「——地上は——ほとんど——無人よ。皆——地下に——潜ってるから」
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「——じゃあ——弓を——増やしませんか」
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「…………は?」
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「——ここに——一つ——弓が——あります」
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——誠は——地図を——指した。
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「——一つで——一箇所——覆えます」
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「——なら——弓を——十——作れば——十箇所——覆えますよね」
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「——待て——! 弓を——作るのに——どれほど——かかったと——思って——おる——!」
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——賢者が——叫んだ。
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「——一年です」
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——誠は——けろり、と——答えた。
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「——でも——あの、時は——作り方が——分からなかったんです」
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「——今は——分かってます」
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「…………」
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——一色が。
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——ゆっくりと——顔を——上げた。
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「——確かに」
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「——図面は——全部——残ってるわ」
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「——それに——一つ——大事なことが——あります」
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——誠は——続けた。
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「——弓を——引くのは——藤原さんですよね」
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「——ええ」
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「——竜は——藤原さんだけ——ですか」
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「…………」
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——工房が。
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——ぴたり、と——止まった。
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「——待て」
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「——竜は——他にも——おるのか」
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——一同が。
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——天井の——穴を——見上げた。
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——そこには。
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——五十メートルの——首が——ぬっ、と——差し込まれていた。
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「——おるで」
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——藤原が——けろり、と——言った。
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「——何頭——だ——!!」
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「——さあ。……三十は——おるんちゃうか」
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「——三十——!!!」
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——賢者が——立ち上がった。
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「——なぜ——早く——言わぬ——!!」
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「——聞かれへんかったし」
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「——もう——嫌だ——!!」
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「——藤原さん」
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——誠が——見上げた。
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「——皆さん——手伝って——くれますか」
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「——うーん」
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——藤原は——首を——傾げた。
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「——うちらの——一族、気位が——高うてな」
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「——人間の——頼みなんぞ——聞かへんで」
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「——では——駄目か——!」
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「——でも——藤原さんは——手伝って——くれてますよね」
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——誠が——尋ねると。
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——藤原は——ぷい、と——顔を——背けた。
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「——うちは——別や」
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「——なぜ——ですか」
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「——あほ。聞くな」
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——だが。
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——しばらく——して。
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——彼女は——ぼそり、と——言った。
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「……まあ。聞いたるわ」
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「——本当ですか——!?」
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「——ただし——条件が——ある」
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「——なんですか」
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「——田中くん。一緒に——来い」
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「——僕、ですか」
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「——せや」
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——藤原は——目を——細めた。
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「——うちが——頼んでも——聞かへん」
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「——せやけど——あんたが——頭を——下げたら——話は——別や」
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「——なぜ——ですか」
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「——それも——聞くな」
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——工房を——出た——後。
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「——旦那」
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——駄々丸が——並んだ。
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「——竜の——里へ——行きなさるんで?」
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「——はい」
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「——竜ってなァ——気位が——高うござんすよ」
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——駄々丸は——煙管を——ふかした。
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「——人の——頼みなんぞ——鼻も——ひっかけやせん」
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「——そうみたいですね」
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「——どうなさるんで?」
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——誠は。
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——少し——考えて。
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——そして——言った。
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「——まず——聞いてみます」
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「——何をで?」
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「——"何か——困ってませんか"、って」
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「…………」
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——駄々丸が。
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——煙管を——止めた。
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「——頼みに——行くんじゃ——ねェんで?」
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「——頼むのは——後です」
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——誠は——にっこりと——笑った。
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「——虫人族の——皆さんも——三百年——里の——ものを——食べてませんでした」
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「——鬼族も——魔族も——同じでした」
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「——竜だけ——何も——困ってない、なんて——ないと——思うんです」
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「…………」
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——駄々丸は。
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——しばらく——黙って。
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——そして——低く——笑い出した。
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「——旦那」
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「——はい」
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「——あっしゃァ——ずっと——不思議で——ござんした」
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「——何がですか」
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「——なんで——皆——旦那の——言うことを——聞くのか」
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——駄々丸は——扇子を——開いた。
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「——ですがねェ。今——分かりやした」
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「——なんですか」
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「——旦那は——頼む——前に——聞くんで——ござんす」
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「…………」
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「——たいていの——お人は——逆でさァ」
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——駄々丸は——にやり、と——した。
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「——先に——頼んで——それから——礼を——する」
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「——旦那は——先に——聞いて——後から——頼む」
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「——順番が——違うだけです」
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「——その——順番が——大違いなんで——ござんすよ」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「影は、消えたんじゃ、なくて、荒野の端から、先へ、流れていっただけ。だから、どこかで、影になってるはず。皆瀬さんに、聞いてもらったら、西の里が、"昼に急に暗くなった。日食かと思って騒いだ。でも、半刻で、また明るくなった"、って。……こっちは、半日。向こうは、半刻。通り過ぎるだけだから。一色さんが、蒼白に、なった。"私たち、自分の足元しか、見てなかった。世界には、他にも、人が住んでるのに"、って。……世界中を、同じように覆うなら、一日、四百枚。一年で、十四万枚。無理だ。賢者さんが、"一日六枚なら、この地下の十万は救える。だが、世界の他の者は救えぬ。お前は、どうする"、って。……だから、聞いた。"他のところにも、荒野はありますか"、って。地上は、ほとんど無人。皆、地下に潜ってるから。なら、弓を、増やせばいい。一つで、一箇所。十作れば、十箇所。賢者さんが、"作るのに、どれほどかかったと思っておる"、って。一年です。でも、あの時は、作り方が、分からなかった。今は、分かってます。……それと、もう一つ。弓を引くのは、藤原さん。竜は、藤原さんだけですか、って聞いたら——"おるで。三十は、おるんちゃうか"、って。三十頭。賢者さん、立ち上がって、"なぜ早く言わぬ"、って。"聞かれへんかったし"、って。……藤原さん、"うちらの一族、気位が高うてな。人間の頼みなんぞ、聞かへんで"、って。でも、藤原さんは、手伝ってくれてる。なぜか、聞いたら、"うちは別や。あほ、聞くな"、って。それから、"聞いたるわ。ただし、田中くん、一緒に来い"、って。……駄々丸さんに、どうするのか、聞かれたから、"まず、何か困ってませんか、って、聞いてみます"、って、答えた。虫人族も、鬼族も、魔族も、皆、困ってた。竜だけ、何もない、なんて、ないと思う。……駄々丸さんが、"旦那は、頼む前に、聞くんでござんす。たいていのお人は、逆でさァ"、って。順番が、違うだけです。"その順番が、大違いなんでござんすよ"、って。じいちゃん、竜の里に、行ってきます」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——たとえ——空に——見えなくても。
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まだこの時の誠は知らない。竜の——里で——彼が——聞くことに——なる——「困りごと」、が。
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——藤原が——三年——誰にも——言わずに——いた——ものと。
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——同じ——ものであることを。
そして——「あほ。聞くな」、と——顔を——背けた——その——竜が。
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——なぜ——一頭だけ——人の——そばに——いたのかも。
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——今は……まだ、誰も——問うて——いない。




