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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「約定二十条」

それは。





——ごく——偶然、だった。







「——師匠。第九層に——干し芋——届けてきて——ください」






「——ああ。行ってくる」








——魔族の——住処へ——向かう——途中。






——誠は——妙な——ことに——気づいた。








——通路に——誰も——いない。







——いつもなら——魔族が——うろうろ——している——のに。








「……あれ」







——さらに——奥へ——進むと。







——古びた——広間の——扉が。






——少しだけ——開いていた。








——そして。







——中から——声が——漏れていた。








「——では——第一条から——読み上げる」







——魔王の——声、だった。








「——イーッ——!」







——そして——黒ずくめの——返事。








「…………」







——誠は。






——干し芋の——籠を——抱えたまま。






——足を——止めた。








(——なんだろう)







——覗くのは——よくない。






——分かって——いた。







——だが。








「——第一条——!」







「——"お互い——世界平和の——ために——結託する"——!」








「…………は?」









——中では。






——奇妙な——光景が——繰り広げられていた。







——上座に——真紅の——魔王。






——その——両脇に——四天王。






——向かいに——黒マントの——首領。






——そして——ずらりと——整列した——戦闘員。








「——第二条——! "一日——一善"——!」






「——イーッ——!」








「——第三条——! "週末に——ごみ拾い"——!」






「——イーッ——!」








「——第四条——! "困った——者には——手を——差し伸べよう"——!」






「——イーッ——!」








「…………」







——誠は。






——扉の——陰で——固まっていた。








(——何を——してるんだろう、この——人たち)









——だが——読み上げは——続いた。








「——第五条——! "横断する——場所では——歩く——者を——最優先とする"——!」







「——待て、首領」







——魔王が——手を——挙げた。







「——地下に——横断する——場所は——ないぞ」






「——いずれ——地上に——戻る——時の——ためだ」








「——ふむ。備えは——大事だな」






「——うむ」









「——第六条——!」







「——"高齢者・子ども・動物には——いかなる——作戦中で——あっても——危害を——加えない"——!」








「——イーッ——!!」







——戦闘員たちの——声が——一段——大きくなった。








「——第七条——! "決闘は——双方の——同意を——得た——上で——始め——敗者には——敬意を——払う"——!」







「——これは——大事だ」







——四天王の——一人が——頷いた。







「——先だっては——同意も——得ずに——袋叩きに——された——者が——おったからな」








「——イ……」







——列の——中ほどで。






——八一八号が——うつむいた。









「——第八条——!」







——首領が——読み上げる。







「——"部下の——残業は——月——二十刻——以内とし——休みの——取得を——推奨する"——!」








「…………」







——誠が。






——扉の——陰で——目を——見開いた。







(——残業——規定?)








「——待て、首領」







——四天王が——手を——挙げた。







「——我らは——先月——三十刻——超えて——おる」






「——なんだと?」








「——瓦礫の——片付けだ」







——四天王は——うなだれた。







「——散らかしたままでは——帰れぬ、と——思うと——つい」








「——それは——いかん——!」







——魔王が——机を——叩いた。







「——真面目なのは——よいが——身体を——壊すぞ——!」






「——来月は——必ず——休め——!」








「——ははっ——!」









「——第九条——! "地域住民への——挨拶を——怠らない"——!」






「——イーッ——!」








「——これは——魔王殿の——呪いで——すでに——徹底されて——おるな」






「——うむ。あれは——効きすぎた」








「——第十条——! "作戦後は——現場を——元通りに——し——ごみは——必ず——持ち帰る"——!」






「——イーッ——!」








「——第十一条——! "魔物・戦闘員・幹部を——問わず——安全の——教えを——年——二回——実施する"——!」







「——次は——いつだ」






「——来月——三日だ。全員——出席せよ」








「…………」







——誠は。






——もはや——何も——考えられなかった。









「——第十二条——!」







——首領の——声が——少し——高くなった。







「——"人助けを——した、場合——それを——武勇伝として——吹聴しない"——!」








「——これは——難しいぞ」







——四天王が——唸った。







「——つい——言いたく——なる」






「——ならぬ——!」








——首領が——立ち上がった。







「——言えば——それは——善行では——なく——見世物に——なる——!」






「——我らは——悪の——組織だ——! 誉れなど——要らぬ——!」








「——イーーーッ——!!」








「…………」







——誠は。






——胸が——熱く——なるのを——感じた。









「——第十三条——! "勇者および——正義の——味方との——戦いは——双方の——食事の——刻を——避ける"——!」







「——これは——前に——揉めたな」






「——うむ。腹が——減って——集中——できなんだ」








「——第十四条——!」







——首領が——読み上げた。







「——"世界征服を——口に——しても——本当に——実行しては——ならない"——!」








「…………」







——広間が。






——少し——静まった。








「——首領。よいのか」







——魔王が——尋ねた。







「——貴殿の——組織の——悲願であろう」








「…………」







——首領は。






——しばらく——黙って。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——征服したら——直さねば——ならぬだろう」







「——む?」






「——道も——井戸も——畑も——だ」








——首領は——マントを——翻した。







「——面倒だ」








「——それが——理由か——!!」







——誠が——思わず——心の中で——叫んだ。









「——第十五条——! "部下の——生まれ日には——全員で——祝福する"——!」






「——イーッ——!!」








「——これは——魔王殿から——学んだ」







——首領が——言った。







「——千年——誰も——祝わなんだ、そうだな」






「——……うむ」








——魔王が。






——妙に——照れくさそうに——顔を——背けた。








「——あの——八百屋が——蒸し菓子を——持ってきてな」






「——なんとも——不格好な——ものだったが」








「…………」







「——あれは——旨かった」









——扉の——陰で。






——誠は。






——籠を——強く——抱えた。









「——第十六条——! "雨の——日は——捨て猫・捨て犬を——見かけたら——保護を——優先する"——!」







「——魔王殿の——ところは——すでに——猫だらけだが」






「——あれは——勝手に——集まって——おる」








「——第十七条——!」







「——"困窮する——里や——町を——見つけた、場合——匿名で——支援の——品を——届ける"——!」








「——先月は——どうだ」






「——第七層と——第十一層に——届けた」








——四天王が——帳面を——めくった。







「——芋——三十——袋。干し肉——二十」






「——誰が——置いたか——知られて——おらんな?」






「——夜中に——置いた。誰も——見て——おらん」








「…………」







——誠は。






——目を——見開いた。







(——あれ——皆さんだったのか)







——半年ほど——前から。






——「誰かが——夜中に——荷を——置いていく」、という——話が——あった。







——誠も——不思議に——思っていた。









「——第十八条——! "災いが——起きた、時は——勇者一行とも——協力し——人命の——救助を——最優先とする"——!」






「——イーッ——!」








「——第十九条——! "魔王城および——秘密基地は——地域住民の——避難所として——開放する"——!」







「——すでに——第九層は——避難所に——なって——おるな」






「——うむ。涼しいのでな」









「——そして——最後——!」







——首領が——立ち上がった。







——広間の——全員が——姿勢を——正す。








「——第二十条——!」







「——"善行を——積み重ねても——"悪役"、としての——誇りを——忘れず"——!」







「——"正体は——最後まで——秘密とする"——!!」








「——イーーーーーッ——!!!」








「——よいか——!!」







——首領が——吼えた。







「——我らが——善を——なすのは——誉れの——ためでは——ない——!」






「——礼を——言われる——ためでも——ない——!」







「——ゆえに——決して——名乗るな——!!」








「——イーーーッ——!!」








「——我らは——悪の——組織だ——!!」







「——イーーーッ——!!」








「——胸を——張れ——!!」







「——イーーーーーッ——!!!」









——誠は。






——扉の——陰で。







——静かに——泣いていた。









——そして。






——足元で——籠が——傾いた。







——ころん。







——干し芋が——一つ——転がって。






——扉の——隙間から——広間へ——入っていった。








「…………」







——広間が。






——凍りついた。








「…………」







——魔王が。






——ゆっくりと——扉を——見た。








「……田中」







「——す、すみません——!!」







——誠が——飛び出した。







「——干し芋を——届けに——来ただけで——!」






「——通路に——誰も——いなくて——!」








「…………」







——首領が。






——がっくりと——膝を——ついた。







「——第二十条が……」






「——初回で——破られた……」








「——ど、どこから——聞いて——おった——!」







——四天王が——うろたえた。







「——第一条から、です」






「——全部か——!!」








「…………」







——広間が。






——気まずい——沈黙に——包まれた。








「——田中」







——魔王が——低く——言った。







「——はい」






「——これは——その」








——魔王は。






——妙に——落ち着かない——様子で——目を——泳がせた。







「——余興だ」








「——余興、ですか」






「——うむ。……ただの——余興だ」








「——そ、そうだ——!」







——首領も——立ち上がった。







「——我らは——悪の——組織だぞ——!」






「——善行など——するはずが——なかろう——!」








「——イーッ——!」









——誠は。






——涙を——拭いて。






——そして——にっこりと——笑った。








「——分かりました」






「——え?」






「——僕、何も——聞いてません」








「…………」







「——干し芋を——届けに——来て」







——誠は——籠を——置いた。







「——誰も——いなかったので——置いて——帰りました」






「——それだけです」








「…………」







——魔王と——首領が。






——顔を——見合わせた。








「——田中」






「——はい」






「——助かる」








「——いえ」







——誠は——踵を——返して。






——そして——扉の——前で——足を——止めた。








「——あの」






「——なんだ」







「——第八条だけは——ちゃんと——守って——ください」








「…………」







「——皆さん——働きすぎです」







——誠は——振り返らずに——言った。







「——僕、心配してます」









——扉が——閉まった——後。







——広間には。






——長い——沈黙が——落ちた。








「…………」






「——首領」






「——なんだ」








「——第二十一条を——加えぬか」







——魔王が——言った。







「——なんと——書く」








——魔王は。






——しばらく——考えて。






——そして——言った。








「——"あの——八百屋には——敵わぬと——心得よ"」








「…………」






「——異議——なし」







「——イーーーッ——!!」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「第九層に、干し芋を、届けに、行ったら、通路に、誰も、いなかった。奥の広間の扉が、少し開いてて、中から、声が。……魔王さんと、四天王と、悪の組織の、皆さんが、集まって、何かの、約定を、読み上げてた。二十条。"世界平和のために結託する"、"一日一善"、"週末にごみ拾い"、"困った者には手を差し伸べよう"。……"高齢者・子ども・動物には、いかなる作戦中でも危害を加えない"、"敗者には敬意を払う"。それから、"部下の残業は月二十刻以内"。四天王さんが、"先月、三十刻、超えた"、って、白状して、魔王さんに、"身体を壊すぞ、来月は必ず休め"、って、怒られてた。……"人助けを武勇伝として吹聴しない"、っていう条があって、四天王さんが、"つい言いたくなる"、って言ったら、首領さんが、"言えば、それは善行ではなく、見世物になる。我らは悪の組織だ。誉れなど要らぬ"、って。……"世界征服を口にしても、本当に実行してはならない"。魔王さんが、"よいのか、悲願であろう"、って聞いたら、首領さん、"征服したら、道も井戸も畑も、直さねばならぬ。面倒だ"、って。それが理由か。……"部下の生まれ日には全員で祝福する"。首領さんが、"魔王殿から学んだ"、って。魔王さん、照れて、"あの八百屋が、蒸し菓子を持ってきてな。不格好だったが、旨かった"、って。……それから、"困窮する里には、匿名で支援物資を届ける"。半年前から、夜中に誰かが荷を置いていく、って話があったけど、皆さんだった。誰にも、言ってなかった。……そして、第二十条。"善行を積み重ねても、悪役としての誇りを忘れず、正体は最後まで秘密とする"。首領さんが、"我らが善をなすのは、誉れのためではない。ゆえに、決して名乗るな。我らは悪の組織だ。胸を張れ"、って。皆、"イーッ"、って。……僕、泣いてた。そしたら、干し芋が、転がって、バレた。魔王さん、"これは、余興だ"、って。首領さんも、"善行など、するはずがなかろう"、って。……だから、"分かりました。僕、何も聞いてません。干し芋を届けに来て、誰もいなかったので、置いて帰りました"、って、言った。……でも、第八条だけは、守ってください、って、お願いした。皆さん、働きすぎです。じいちゃん、僕、いい人たちに、囲まれてます」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。この、日——広間に——加えられた——第二十一条を。




——そして——それが——後に——なって。





——世界中の——誰もが——認める——ことに——なる——一文で——あったことも。





——今は……まだ、書いた——本人たちしか——知らない。

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