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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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閑話「漆黒の転移者と、不滅の覇王」

空が——裂けた。





——もはや——誰も——驚かなかった。







「——ククク……ついに——来たか」







——黒い——外套を——翻し。






——右目を——眼帯で——覆った——若者が——降り立った。








「——我が——名は——黒城レイ——!」






「——自称——"終焉の——魔王を——滅ぼす——者"——!」








「——自称、って——自分で——言うんですね」







——誠が——ツッコんだ。







「——正直で——ござんすねェ」








「——感じる……魔力の——奔流を——!」







——レイが——右手を——掲げると。






——通りかかった——おばあちゃんが——拍手した。








「——若いの——元気じゃのう」






「——違う——! これは——魔力の——共鳴だ——!」






「——そうかい」









——ちなみに。






——地下では——この、手の——若者は——珍しくもなかった。







「——おい——新入りか——!」







——山田が——のっそりと——現れた。







「——貴様——闇の——系譜か——!」






「——いかにも——! 我が——右目には——!」






「——待て。眼帯の——中は——何も——ないだろう」








「——なぜ——分かる——!?」






「——俺も——同じだったからだ」








「…………」







——二人は。






——妙な——連帯感で——握手した。









——だが。






——その——夜。







——いや——四刻の——闇の——刻限。








——事件は——起きた。








——カサッ。







「——……!」







——レイの——鋭い——眼光が——床を——射抜いた。







——そこには。







——黒光りする——一つの——影。







——全長——約四センチ。






——二本の——触角。






——圧倒的な——存在感。








「——ま、まさか……」







——影が。






——ゆっくりと——こちらを——向いた。







——カサカサカサ……








「——《原初の——災厄》——!!」






「——ミスターG——!!」








「——ああ、それか」







——隣で——寝ていた——山田が——起き上がった。







「——ゴキブリだ」








「——ゴキブリだと——!? この、世界にも——存在するというのか——!」






「——いや。三年前は——おらんかった」








——山田は——渋い——顔を——した。







「——地下に——住み始めて——湧いた」






「——暖かくて——湿ってて——食い物が——あるからな」








「——なんという——ことだ——!」









——その、時。







——ミスターGが。






——静かに——羽を——震わせた。







——ブブブッ。








「——飛んだぁぁぁぁぁ——!!」







——漆黒の——魔導師を——名乗る——男が。






——人生で——最も——高い——悲鳴を——上げた。








「——くっ……落ち着け……我が——《深淵の——黒炎》で——!」







——右手を——突き出す。







「——ダーク・ヘル・インフェルノ・ブラス——」







——カサッ。







「——うわっ——! こっち——来た——!!」








——魔法は——詠唱の——途中で——止まった。








「——落ち着け」







——山田が——帳面を——丸めた。







「——待て——! 奴は——不滅だ——!」






——レイが——叫んだ。






「——伝説では——核戦争すら——生き延びる——!」








「——それ——たぶん——盛られてる」








——パシン——!







——一撃。







——だが。







——ミスターGは——いない。








「——消えた……?」







——レイの——額に——汗が——流れる。







「——空間——転移……だと?」








——次の——瞬間。







——カサ。







——肩、である。








「——ぎゃあああああああ——!!」








——黒き——魔導師は。






——人生——最速の——回転を——決め。






——寝床を——壊し。






——棚を——吹き飛ばし。






——通路へ——転がり出た。









——第五層の——広場。






——人が——集まってきた。







「——なんだ——! 崩落か——!」






「——違う」






「——魔物か——!」






「——違う」








——山田が——静かに——答えた。







「——ゴキブリだ」








——広場の——全員の——顔色が——変わった。








「——総員——退避——!!」





「——子どもを——守れ——!!」





「——聖水を——持て——!!」








「——聖水は——効かんだろ——!!」









——広場が——大混乱に——陥った。







——その——中心で。






——ミスターGは——静かに——触角を——揺らしていた。








「——待て——! 我が——出る——!」







——光の勇者が——剣を——抜いた。







「——駄目です——! 床が——割れます——!」








「——ならば——我が——!」







——武闘家が——拳を——構えた。







「——もっと——駄目です——!!」








「——HAHAHA——! 我が——太陽パンチで——!」






「——ここ——地下です——!!」









「——皆さん——! 落ち着いて——ください——!」







——誠が——駆けつけた。







「——おお——! 田中——!」






「——なんとか——してくれ——!」









——誠は。






——ミスターGを——じっと——見て。






——そして——静かに——言った。








「——出ましたか」








「…………え?」







「——半年——前から——出てるんです」







——誠は——ため息を——ついた。







「——蔵の——奥とか——厨の——隅とか」






「——今は——広場まで——来ましたか」








「——知って——おったのか——!!」






「——知ってました」








「——なぜ——言わぬ——!!」







「——言ったら——皆さん——騒ぐからです」








——誠は——広場を——見回した。







「——現に——騒いでます」








「…………」









「——では——どうすればよい——!」







——賢者が——尋ねた。







「——叩いても——きりが——ありません」







——誠は——きっぱりと——言った。







「——一匹——見たら——三十匹——いると——思ってください」








「——三十——!?」






「——じいちゃんが——言ってました」








「——では——万事——休すでは——ないか——!!」






「——いえ」








——誠は——首を——振った。







「——湧く——理由を——潰せばいいんです」








「——理由?」






「——暖かくて——湿ってて——食べ物が——ある——ところに——湧きます」







——誠は——指を——折った。







「——暖かいのは——直せません。地下ですから」






「——でも——湿りと——食べ物は——直せます」








「——どうやってだ」






「——食べ物を——蓋の——ある——器に——しまう」






「——生ごみを——その日の——うちに——出す」






「——水気を——拭く」








「——それだけ、か——!?」






「——それだけです」








「——地味だな——!!」






「——地味です」









——だが。






——その、時。







「——待て——!」







——一色が——目を——見開いた。







「——それ——駄目だわ」






「——なぜ——ですか」








「——今——地下じゅうに——霧を——撒いてるでしょう」







——一色は——蒼白に——なった。







「——涼しくするために」






「——あれ——湿らせてるのよ」








「…………」







——広場が。






——凍りついた。








「——涼しくすると——虫が——湧くのか——!!」






「——そうなるわね」








「——では——霧を——止めるか——!?」






「——止めたら——年寄りが——倒れます」








——誠が——即座に——言った。







「——では——どうする——!!」









——工房での——議論と。






——まったく——同じ——構図、だった。








「——霧を——撒く——場所を——分ければ——いいんじゃ——ないですか」







——誠が——言った。







「——人が——いる——ところだけ——撒いて」






「——食べ物を——置く——ところは——乾かします」








「——それは——できるわ」







——一色が——頷いた。







「——蔵を——一箇所に——まとめて——そこだけ——風を——送ればいい」








「——扇風機だな——!」






「——虫にも——風は——効くわ」









——だが。






——目の前の——一匹は——まだ——いた。








「——認めよう……」







——レイが——立ち上がった。






——眼帯を——外す。







——もちろん——何も——封印されて——いない。






——だが——気迫だけは——本物、だった。








「——貴様は——魔王以上の——敵だ——!」







「——魔王さん——そこに——いますよ」







——誠が——指した。







——広場の——隅で。






——真紅の——巨躯が——猫を——抱えて——見物していた。








「——構わぬ」







——魔王は——のんびりと——言った。







「——あれは——我らでも——嫌だ」








「——魔王が——認めた——!!」









——その、時。






——一人の——若い——術者が——小瓶を——差し出した。








「——あの——試しに——作ったんですけど」






「——"虫よけの——薬"、です」








「——これが……伝説の——聖遺物……」







「——そんな——大層な——ものじゃ——ないです——!」









——ミスターGが——飛ぶ。







——レイも——走る。







「——喰らえぇぇぇぇ——!!」







——シュッ——!!







——白い——霧が——舞った。








——数を——数える——ほど。







——ミスターGは——ふらり、と——揺れ。






——そして——静かに——動きを——止めた。








——長い——沈黙。







——やがて——広場じゅうから——歓声が——上がった。








「——勝った——!!」





「——英雄だ——!!」





「——星より——先に——ゴキブリを——倒した——男——!!」








「——イーッ——!!」









——レイは。






——天井を——見上げて——立った。







「——これで——世界は——救われた……」








「——いや。星は——まだ——落ちてますけど」







——誠が——ぼそり、と——言った。








「…………」







——レイは。






——少しだけ——天井を——見上げて。






——そして——言った。








「——それは……明日で——いい」









——その、夜。






——地下で——最初に——討伐されたのは。







——星でも——魔王でも——なく。







——一匹の——ミスターG、だった。









——しかし——翌朝。







——八百屋の——厨で。







——カサッ。








「——ぎゃあああああ——!!」







——レイの——絶叫が——再び——地下じゅうに——響き渡った。








「——だから——一匹——見たら——三十匹だと——言ったじゃ——ないですか」







——誠は——ため息を——ついて。






——そして——桶を——差し出した。








「——レイさん」






「——な、なんだ——!」






「——手伝って——もらえませんか」








「——何を——だ——!」






「——蔵を——乾かすんです」








——誠は——にっこりと——笑った。







「——薬で——倒すより——そっちの、方が——効きます」








「——ぐっ……」







——レイは。






——しばらく——葛藤して。






——そして——外套を——脱いだ。








「——よかろう——!」






「——我が——闇の——力で——蔵を——乾かして——くれる——!」








「——闇は——湿るのでは——ないですか」






「——言うな——!!」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「新しい人が、降ってきた。黒城レイさん。"自称、終焉の魔王を滅ぼす者"、って、自分で、自称って、言ってた。正直な人。山田さんと、意気投合してた。眼帯の中、何もないのを、当てられて、"なぜ分かる"、"俺も同じだったからだ"、って。……それで、その夜、ゴキブリが、出た。レイさん、"原初の災厄、ミスターG"、って、絶叫。飛んだ瞬間、人生最速の回転で、寝床を壊して、通路に転がり出てた。広場が、大混乱。"聖水を持て"、"聖水は効かんだろ"、って。勇者さんが剣を抜こうとしたので、止めた。床が割れます。武闘家さんも、フリーダムさんも、止めた。ここ、地下です。……実は、半年前から、出てるのを、僕は知ってた。言ったら、皆、騒ぐから、黙ってた。現に、騒いでる。……叩いても、きりがない。一匹見たら、三十匹。じいちゃんが、言ってた。だから、湧く理由を、潰す。暖かいのは、直せないけど、湿りと、食べ物は、直せる。蓋のある器にしまう、生ごみを、その日のうちに出す、水気を拭く。地味です。……でも、一色さんが、青くなって、"霧を撒いてるのが、湿らせてる"、って。涼しくすると、虫が湧く。でも、霧を止めたら、年寄りが倒れる。……だから、分けることにした。人がいるところは、霧。食べ物を置くところは、風で乾かす。……目の前の一匹は、若い術者さんの、虫よけの薬で、倒れた。皆、"星より先に、ゴキブリを倒した男"、って、レイさんを、英雄扱い。レイさん、"これで世界は救われた"、って言うから、"星は、まだ落ちてますけど"、って言ったら、"それは、明日でいい"、って。……翌朝、うちの厨で、また、出た。レイさんの絶叫が、地下じゅうに響いた。だから、蔵を乾かすのを、手伝ってもらうことにした。"闇の力で乾かす"、って言うから、"闇は湿るのでは"、って言ったら、怒られた。じいちゃん、賑やかです」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。「湧く——理由を——潰せばいい」、という——この——他愛ない——虫退治の——理屈が。




——遥かに——大きな——ものに——向けられる——日が——来ることを。


そして——「叩いても——きりが——ない」、と——言った——その——男が。




——いつか——星そのものに——向かって。





——まったく——同じ——ことを——言うことも。





——今は……まだ、誰も——知らない。

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