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英雄は世界を救う。でも、世界を住みやすくするのは八百屋でした ~勇者も魔王も悪の組織も常連です~  作者: 伝説の男前
異世界との窓

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第95話「十日の、計算」

十日。





——それだけの——猶予を——もらって。






——一色と——賢者は——工房に——籠もった。








「——一日目——!」







——賢者が——紙に——線を——引いた。







「——まず——太陽の——動きを——出す——!」






「——それと——人工の、方も——ね」








——一色が——別の——紙を——広げた。







「——二つとも——動いてる」






「——そして——布も——落ちながら——動く」







「——三つ——同時に——追わねば——ならんのか」








「——そういう、ことね」









——二日目。






——紙が——床を——埋めた。








「——駄目だ——! 合わん——!」






「——どこが——おかしいの」






「——分からん——! 全部かも——しれん——!」









——三日目。






——賢者が——机に——突っ伏した。







「——賢者さん。少し——寝て——ください」







——誠が——湯呑みを——置いた。







「——寝られるか——!」






「——寝ないと——間違えます」








「…………」







——賢者は。






——麦茶を——一気に——飲んで。






——そして——ぼそり、と——言った。








「——田中。一つ——聞いてよいか」






「——はい」






「——お前——この、計算が——できると——思って——おるか」








「——分かりません」







——誠は——正直に——答えた。







「——でも——賢者さんが——できないなら——誰にも——できません」








「——それは——慰めか」






「——事実です」








「…………ふん」







——賢者は。






——顔を——背けて——また——紙に——向かった。









——四日目。






——最初の——山が——見えた。








「——太陽の、方は——出た——!」







——賢者が——紙を——掲げた。







「——毎日——同じ——時刻には——同じ——ところに——おる——!」






「——ずれは——一年で——少しずつ、だ——!」








「——人工の、方は?」






「——それが——分からんのだ——!」








——賢者は——頭を——掻きむしった。







「——あれは——我らが——作った——ものだ」






「——だが——どう——回って——おるかを——誰も——測って——おらん——!」








「——作った、のに——ですか」






「——作ったから——測って——おらんのだ——!」








——一色が——苦い——顔で——付け加えた。







「——"自分で——置いたんだから——場所は——知ってる"、と——思い込んでたのよ」






「——でも——三年よ」






「——三年——動き続けたら——最初と——同じ、はずが——ないわ」








「…………」









——五日目。






——工房は——絶望に——沈んでいた。








「——測るには——何日——要る」






「——きちんと——測るなら——ひと月」








「——十日しか——ないぞ——!」






「——分かってるわよ——!」









——その、時。







「——あの」







——入り口から。






——ルカが——顔を——出した。








「——忙しい——ところ——すみません」






「——なんだ、小僧——! 今は——それどころでは——!」








「——影の——長さ、要りませんか」








「…………は?」







——工房が。






——ぴたり、と——止まった。








「——今——なんと——言った」







「——日時計の——影の——長さです」







——ルカは——帳面を——抱えていた。







「——毎日——測ってます」






「——鏡を——閉める——刻限を——決めるのに——要るので」








「——待て」







——賢者が。






——ゆっくりと——立ち上がった。







「——それは——いつからだ」






「——え? 一年半——前くらい、ですけど」








「——一年半——!?」







「——はい。空に——二つ——出てから——ずっと」







——ルカは——気まずそうに——言った。







「——最初は——太陽の——影だけ——測ってたんですけど」






「——二つに——なってから——影が——二本——できるように——なって」






「——ややこしいので——両方——書いてました」








「…………」







——一色が。






——帳面を——ひったくった。







——そして。







——声を——上げた。








「——ある——!!」







「——なんだと——!?」







「——人工太陽の——影——! 一年半——分——!!」








——彼女は——頁を——めくり続けた。







「——毎日——同じ——刻限に——影の——長さと——向き——!」






「——これが——あれば——動きが——出せるわ——!!」








「——ルカ——!!」







——賢者が——少年に——詰め寄った。







「——なぜ——早く——言わぬ——!!」







「——え? だって——聞かれ——」








「——それだ——!! もう——それは——聞き飽きた——!!」








「——賢者さん。落ち着いて——ください」







——誠が——止めた。







「——ルカは——畑の——ために——測ってたんです」






「——空の——計算に——要るなんて——思ってません」








「——それは——そうだが——!」







「——だから——僕たちが——聞くべきでした」







——誠は——静かに——言った。







「——"誰か——空を——毎日——見てる——人は——いませんか"、って」








「…………」







——賢者は。






——ぐっ、と——言葉に——詰まって。






——そして——ルカに——向き直った。








「——小僧」






「——は、はい——!」






「——すまなんだ」








「——え——!?」






「——助かった、と——言って——おるのだ」








「…………」







——ルカが。






——真っ赤に——なって——うつむいた。









——六日目から。






——計算は——一気に——進んだ。








「——出た——! 人工の、方の——動きだ——!」






「——ずれは?」






「——ほんの——わずかだが——ある——!」








——賢者は——紙を——叩いた。







「——三年で——少しずつ——ずれて——おる——!」






「——このままなら——十年で——星の——反対側から——外れるぞ——!」








「——それは——いいことなの?」







——一色が——尋ねた。







「——よくない」







——賢者は——首を——振った。







「——引く——力の——釣り合いが——崩れる」






「——星の——落ち方が——変わる、かも——しれん」








「…………」







「——それは——後で——考えましょう」







——誠が——言った。







「——今は——影です」






「——うむ。……そうだな」









——七日目。






——八日目。






——九日目。







——工房の——灯りは——消えなかった。








——そして——十日目の——朝。







「——できた」







——一色が。






——一枚の——紙を——机に——置いた。








「——本当ですか——!?」






「——見て」








——そこには。






——刻限ごとの——数字が——並んでいた。








——朝——一刻。狙う——先。指——四本——前。上へ——二つ。





——朝——二刻。指——三本——前。上へ——一つ。





——朝——三刻。指——二本——前。真っ直ぐ。








「——刻限ごとに——狙いを——変えるのか」






「——そう」







——一色は——疲れ切った——顔で——頷いた。







「——太陽も——人工太陽も——星も——全部——決まった——通りに——動いてる」






「——だから——刻限が——決まれば——狙いも——決まるの」








「——では——この、表を——見ながら——撃てば——!」






「——影が——できる、はずよ」








「——はず、か」






「——やってみないと——分からないわ」









——荒野に。






——人が——集まった。







——十日ぶりの——試み、だった。








「——皆さーん——!」







——竜の——背から——魔法使いの——声が——降る。







「——十日——お待たせ——しました——!」






「——本日——二度目の——挑戦です——!」








「——コメント——どないや」






「——"待ってた"、"頼む"、"今度こそ"、って——!」









「——今——何刻だ」







——賢者が——表を——手に——尋ねた。







「——朝——三刻です——!」







——ルカが——日時計を——見て——答えた。








「——ならば——指——二本——前。真っ直ぐだ——!」






「——弓——構え——!」








——藤原が——弦を——引く。






——鬼族と——ヒーローたちが——弓を——押さえる。







「——点火——!!」








——ひゅうう。







——矢が——伸びた。







「——百尺——! 手綱——外します——!」







——一段目——切り離し。






——二段目——点火。






——三段目。








『——着いた』







——皆瀬の——声。







「——今です——!!」








——留め具が——外れ。






——薄布が——広がった。








「…………」







——荒野の——全員が。






——足元を——見ていた。







——空では——ない。







——足元を。








——そして。







——すう、と。







——地面が——翳った。








「…………」







「——影だ」







——誰かが——ぽつり、と——言った。







「——影が——できた」









——荒野が。






——爆発した。







「——うおおおおお——!!」





「——できた——!! 影が——できたぞ——!!」





「——イーッ——!!」








「——皆さーん——!! 見えてますか——!!」







——魔法使いが——絶叫した。







「——影です——!! 空に——影が——できました——!!」









——だが。







——影は。







——ゆっくりと——動き始めた。







——荒野の——上を——滑り。






——西へ——流れ。







——そして。







——遠ざかっていった。








「…………」







——歓声が。






——すう、と——引いた。








「——行って——しまったな」







「——どれくらい——ありましたか」







——誠が——尋ねると。






——ルカが——日時計を——見て——答えた。








「——十を——数える——ほど、です」








「…………」






「——十、か」








——賢者が。






——地面に——腰を——下ろした。







「——三月と——十日——かけて」






「——十を——数える——ほどの——影か」








「…………」







——荒野が——静まった。








——だが。







「——十、あったんですよね」







——誠が——言った。







「——え?」






「——今まで——零だったんです」








——彼は——空を——見上げた。







「——零が——十に——なりました」






「——なら——後は——増やすだけです」








「…………」







——賢者は。






——しばらく——誠を——見上げて。






——そして——低く——笑い出した。








「——お前は——本当に」






「——なんですか」






「——折れんな」








「——八百屋ですから」







——誠は——にっこりと——笑った。







「——一個——売れたら——次は——二個です」






その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。


「十日、もらって、計算が、始まった。でも、三日目で、詰まった。太陽の動きは、出たけど、人工太陽の動きが、分からない。自分たちで作ったのに、どう回ってるか、誰も測ってなかった。一色さんが、"自分で置いたんだから、場所は知ってる、と、思い込んでた。でも、三年よ"、って。……五日目、絶望してたら、ルカが、"影の長さ、要りませんか"、って。日時計の影を、一年半、毎日、測ってたって。空に、二つ出てから、影が二本になるので、両方、書いてたって。……一色さん、帳面を、ひったくって、"ある!"、って、叫んだ。人工太陽の影、一年半分。これで、動きが、出せる、って。賢者さんが、"なぜ早く言わぬ"、って怒ったけど、ルカは、畑のために、測ってただけです。空の計算に要るなんて、思ってません。だから、僕たちが、聞くべきでした。"誰か、空を、毎日見てる人は、いませんか"、って。……賢者さん、ルカに、"すまなんだ。助かった"、って、頭を下げてた。あの子、真っ赤に、なってた。……十日目の朝、表が、できた。刻限ごとに、狙いを変える。太陽も、人工太陽も、星も、決まった通りに動いてるから、刻限が決まれば、狙いも決まる。……そして、二度目の挑戦。朝三刻、指二本前、真っ直ぐ。撃った。皆、空じゃ、なくて、足元を、見てた。……そしたら、すう、と、地面が、翳った。影だ。皆、沸いた。……でも、影は、西へ、流れて、遠ざかっていった。ルカが、"十を数えるほど、です"、って。三月と十日かけて、十。賢者さん、座り込んでた。……でも、十、あったんです。今まで、零だった。零が、十に、なった。なら、後は、増やすだけです。賢者さんに、"折れんな"、って、笑われた。八百屋ですから。一個、売れたら、次は、二個です。じいちゃん、影が、できました」



心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。




——たとえ——空に——見えなくても。





まだこの時の誠は知らない。十日の——計算を——救ったのが。




——空を——見上げる——学者では——なく。





——足元の——影を——毎日——測って——いた——少年で、あったことを。


そして——この、日——賢者が——書き留めた——「人工太陽は——少しずつ——ずれて——おる」、という——一行が。




——後に——なって——恐ろしい——意味を——持つことも。





——今は……まだ、誰も——気に——留めて——いない。

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