第94話「三月の、最後の日」
九十日目。
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——約束の——日、だった。
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「——集まりましたね」
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——荒野に。
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——見渡す——限りの——人が——並んでいた。
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——薄布は——まだ——三百枚ほど。
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——三千には——遠い。
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——だが。
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——今日は——それを——試す——日、だった。
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「——皆さーん——!」
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——竜の——背から——魔法使いの——声が——降ってくる。
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「——本日——初めて——"影を——置く"、試みを——行います——!」
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「——うまく——いけば——空に——影が——できます——!」
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「——コメント——どないや」
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「——"ついに"、"三月——待った"、"頼む"、って——!」
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——矢の——先端に。
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——畳まれた——薄布が——括りつけられていた。
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——手のひらほどの——大きさ。
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——広げれば——町を——覆う。
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「——切り離しは——どうする」
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——賢者が——確かめた。
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「——皆瀬さんの——鏡で——見ながら」
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——魔法使いが——答えた。
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「——一番——高いところで——留め具を——外します」
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「——そこから——布だけが——ふわり、と」
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「——広がるのか」
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「——広がる——はずです」
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「——はず、か」
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「——やってみないと——分かりません」
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「——では——始めましょう」
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——誠が——言った。
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「——点火——!!」
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——ひゅうう。
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——矢が——伸びた。
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「——百尺——! 手綱——外します——!」
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——真っ直ぐ。
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——回りながら。
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——一段目——切り離し。
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——二段目——点火。
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——三段目。
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『——高いところに——着いた』
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——皆瀬の——声が——響いた。
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「——今です——!!」
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——留め具が——外れた。
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——そして。
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『——広がってる』
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「——広がったか——!?」
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『——うん。……大きい』
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——荒野の——全員が。
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——空を——見上げていた。
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——だが。
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——何も——起きなかった。
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「…………」
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「——影が——できませんね」
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「——待て。……待て」
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——一色が——空を——凝視していた。
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「——場所が——違うのよ」
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「——え?」
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「——布は——ちゃんと——広がってる」
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——彼女は——早口に——なった。
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「——でも——太陽と——私たちの——間に——ないの」
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「——横に——ずれてる」
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「——狙いが——外れたのか——!」
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「——外れてないわ。矢は——ちゃんと——当たる——場所に——行った」
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——一色は。
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——絶望的な——顔で——言った。
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「——でも——影を——作るのは——別なの」
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「——"当てる——場所"、と——"影が——できる——場所"、は——違うのよ」
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「…………」
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——荒野が。
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——静まり返った。
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「——三月——最後の日に——それが——分かるのか——!」
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——賢者が——地面を——蹴った。
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「——待って——ください」
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——誠が——止めた。
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「——一色さん。どこに——置けばいいんですか」
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「——それが——分からないのよ」
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——一色は——首を——振った。
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「——影が——できる——場所は——太陽と——地面を——結んだ——線の——上」
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「——でも——太陽も——布も——動いてるの」
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「——刻々と——変わるわ」
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「——では——どうにも——ならんのか——!」
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——その、時。
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「……あの」
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——ルカが——手を——挙げた。
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「——なんだ、小僧」
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「——日時計と——同じじゃ——ないですか」
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「…………は?」
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——一同が——振り返った。
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「——うちの——畑に——日時計が——あるんです」
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——ルカは——気まずそうに——言った。
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「——棒を——立てると——影が——できて」
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「——時刻に、よって——影の——向きが——変わります」
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「——でも——毎日——同じ——時刻には——同じ——向きに——なります」
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「…………」
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——一色が。
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——ゆっくりと——ルカを——見た。
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「——待って」
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「——今——なんて——言った?」
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「——え? 毎日——同じ——時刻には——同じ——向きに——なります、って」
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「——それよ——!!」
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——一色が——叫んだ。
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「——動いてるけど——でたらめに——動いてるわけじゃ——ない——!」
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「——決まった——通りに——動いてるの——!」
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「——ということは——!」
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「——先に——計算できる——!」
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——一色は——紙を——引き寄せた。
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「——"今——どこに——影が——できるか"、じゃ——ない」
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「——"矢が——着いた——時に——どこに——影が——できるか"、を——先に——出せばいいの——!」
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「——鴨撃ちと——同じで——ござんすね」
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——駄々丸が——ぽつり、と——言った。
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「——また——それか——!!」
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——だが。
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——賢者が——渋い——顔を——した。
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「——計算——できるのか」
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「——できるわ。……でも」
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——一色は——紙を——見つめた。
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「——今日中には——無理よ」
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「——何日——要る」
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「——十日は——欲しい」
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「…………」
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——荒野が。
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——静まった。
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——皆が。
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——魔法使いを——見た。
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——約束の——三月は。
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——今日で——終わり、だった。
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「…………」
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——誠が。
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——ゆっくりと——彼女の——前に——立った。
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「——魔法使いさん」
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「——はい」
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「——約束は——今日まででした」
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「——はい」
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「——でも——道は——見つかりました」
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——誠は——真っ直ぐに——言った。
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「——あと——十日——ください」
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「…………」
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——荒野が——息を——呑んだ。
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——彼女は——言った——はずだった。
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——「一日でも——延ばしたら——勝手に——乗ります」、と。
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「…………」
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——魔法使いは。
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——じっと——誠を——見て。
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——そして——ふう、と——息を——吐いた。
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「——誠さん」
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「——はい」
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「——私、乗らなくて——いいですよね」
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「——え?」
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「——だって——もう——乗る——必要が——ないんですよね」
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——彼女は——空を——指した。
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「——矢は——誰も——乗せずに——飛びました」
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「——布も——ちゃんと——広がりました」
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「——残ってるのは——"どこに——置くか"、だけです」
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「——それは——計算の——話です」
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「——私が——乗っても——解けません」
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「…………」
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——誠が。
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——ぽかん、と——した。
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「——じゃあ——最初から——!」
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「——三月——前に——分かってたら——そうです」
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——魔法使いは——笑った。
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「——でも——あの、時は——"乗るしかない"、と——皆——思ってました」
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「——誰も——他の——道を——探してませんでした」
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「——誠さんが——三月——止めたから」
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「——皆——探したんです」
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「…………」
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——彼女は。
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——深く——頭を——下げた。
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「——ありがとう——ございました」
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——荒野が。
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——沸いた。
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「——よかった——!!」
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「——誰も——乗らずに——済んだ——!!」
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「——イーッ——!!」
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「——十日——待つぞ——!!」
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——賢者が——叫んだ。
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「——一色——! 計算せい——!!」
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「——分かってるわよ——!!」
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——その、夜。
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——誠は。
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——ルカを——探して——歩いていた。
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——見つけたのは。
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——畑の——隅、だった。
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——ルカは。
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——日時計の——前に——しゃがんでいた。
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「——ルカ」
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「——あ、師匠」
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「——今日は——助かった」
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「——僕、何も——してませんよ」
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——ルカは——首を——振った。
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「——日時計の——話を——しただけです」
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「——それが——大事だったんだ」
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——誠は——隣に——しゃがんだ。
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「——なんで——気づいたんだ」
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「——毎日——見てるからです」
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——ルカは——日時計を——撫でた。
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「——鏡を——閉める——刻限を——測るのに——使ってるので」
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「——半年——毎日——影を——見てました」
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「…………」
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——誠は。
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——空を——見上げた。
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——二つの——光が——ある。
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「——ルカ」
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「——はい」
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「——お前——気づいてるか」
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「——何を——ですか」
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「——この——三月で——一番——役に——立ったの——お前だぞ」
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「——え——!?」
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——ルカが——飛び上がった。
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「——だって——僕、矢も——作ってないし——計算も——できないし——!」
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「——記録を——取ったのは——お前だ」
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——誠は——指を——折った。
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「——外れた——場所を——書いてたのも——お前だ」
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「——今日——日時計の——話を——したのも——お前だ」
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「——全部——毎日——数えてただけです——!」
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「——それだよ」
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——誠は——笑った。
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「——じいちゃんが——言ってた」
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「——"地味なことを——丁寧に。飽きずに——続けろ"、って」
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「——お前——それ——できてる」
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「…………」
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——ルカは。
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——しばらく——黙って。
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——そして——ぽつり、と——言った。
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「——師匠」
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「——ん?」
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「——僕、じいちゃんに——会いたかったです」
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「…………」
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——誠は。
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——ルカの——頭に——手を——置いた。
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「——今度——壁に——名前を——彫ろうか」
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「——え?」
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「——じいちゃんの」
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——誠は——静かに——言った。
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「——三年——前に——死んだんじゃ——ないけど」
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「——手を——合わせる——場所が——ないのは——同じだ」
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「…………」
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——ルカが。
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——大きく——頷いた。
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「——僕、彫ります——!」
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「——ああ。頼む」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「九十日目。約束の日。……初めて、影を置く試みを、やった。矢は、真っ直ぐ飛んで、布も、ちゃんと広がった。でも、影が、できなかった。一色さんが、"場所が違う。当てる場所と、影ができる場所は、別なの"、って。太陽も布も動いてるから、刻々と変わる。……賢者さんが、"三月最後の日に、それが分かるのか"、って、地面を蹴った。……そしたら、ルカが、"日時計と、同じじゃないですか"、って。棒を立てると、影ができて、時刻で向きが変わる。でも、毎日、同じ時刻には、同じ向きになる。……一色さんが、飛び上がった。"動いてるけど、でたらめじゃない。決まった通りに動いてる。なら、先に、計算できる"、って。矢が着いた時に、どこに影ができるか、を、先に出せばいい。……でも、計算に、十日、要る。約束は、今日まで、だった。……だから、頭を下げた。"道は見つかりました。あと十日、ください"、って。そしたら、魔法使いさん、"私、乗らなくて、いいですよね。もう、乗る必要が、ないんですよね"、って。……確かに、そうだった。残ってるのは、計算の話で、あの人が乗っても、解けない。"じゃあ、最初から"、って言いかけたら、"三月前に分かってたら、そうです。でも、あの時は、乗るしかない、と皆、思ってました。誠さんが、三月、止めたから、皆、探したんです"、って。頭を、下げられた。……夜、ルカを、探しに行ったら、日時計の前に、しゃがんでた。なんで気づいたのか、聞いたら、"毎日、見てるからです。鏡を閉める刻限を測るのに、半年、毎日、影を見てました"、って。……だから、言った。"この三月で、一番、役に立ったのは、お前だぞ"、って。"全部、毎日、数えてただけです"、って言うから、"それだよ"、って。じいちゃんの、地味なことを、丁寧に、飽きずに。あの子、できてる。……そしたら、"僕、じいちゃんに、会いたかったです"、って。だから、壁に、名前を、彫ろうか、って言った。三年前に死んだんじゃ、ないけど、手を合わせる場所がないのは、同じだから。あの子、"僕、彫ります"、って。じいちゃん。ルカが、彫るそうです」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——たとえ——空に——見えなくても。
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まだこの時の誠は知らない。三月——誰も——乗せずに——済んだ——この、日々が。
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——後に——なって——「あの——三月が——なければ」、と——幾度も——語られることを。
そして——弟子が——壁に——彫る——ことに、なる——その、名が。
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——この、世界を——救う——最後の——場面で。
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——もう一度——読み上げられることも。
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——今は……まだ、誰も——知らない。




