第89話「八十九日」
翌日から。
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——荒野は——矢で——埋まった。
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「——角度——一分——! 三本——!」
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「——角度——二分——! 三本——!」
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「——角度——三分——! 三本——!」
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——同じ——形の——矢を——山ほど——作り。
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——羽根の——傾きだけを——変えて。
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——ひたすら——飛ばす。
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——そして——記録する。
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「——どこまで——真っ直ぐ——飛んだか——!」
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「——どこで——傾いたか——!」
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「——回りは——最後まで——保ったか——!」
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——地味な、こと、だった。
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——恐ろしく——地味な——ことだった。
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「——飽きた——!!」
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——五日目に。
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——武闘家が——音を——上げた。
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「——同じことばかりでは——ないか——!」
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「——同じことです」
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——誠が——けろり、と——言った。
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「——なぜ——お前は——平気なのだ——!」
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「——八百屋、ですから」
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——彼は——次の——矢を——立てた。
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「——毎日——野菜を——並べて——毎日——同じことを——言って——毎日——同じ——挨拶を——します」
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「——二十年——やってます」
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「…………」
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「——恐ろしいな、お前は」
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——十日目。
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——最初の——形が——見え始めた。
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「——角度が——浅いと——回りが——弱い——!」
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——賢者が——帳面を——叩いた。
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「——だが——遠くまで——飛ぶ——!」
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「——角度が——深いと——よく——回る——! だが——伸びぬ——!」
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「——じゃあ——真ん中——ですね」
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「——そう——単純では——ない」
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——一色が——首を——振った。
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「——見て。角度——五分から——七分の——間だけ——妙な、ことが——起きてる」
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「——妙な、こと?」
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「——よく——回るのに——遠くまで——飛ぶの」
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「——両方——立つ、のか——!?」
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「——この、幅だけ、ね」
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「——では——そこを——細かく——調べるぞ——!」
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——だが。
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——十五日目に——問題が——起きた。
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「——火薬が——尽きました」
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——首領が——渋い——顔で——報告した。
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「——なんだと——!?」
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「——備蓄が——底を——ついた」
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「——世界征服の——ために——溜めて——おったのでは——ないのか——!」
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「——溜めて——おった」
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——首領は——ぼそり、と——言った。
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「——だが——三百本も——飛ばせば——なくなる」
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「——三百本も——飛ばしたんですか」
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「——数えて——おった」
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「…………」
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——荒野が——沈んだ。
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「——作れんのか」
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「——材料が——ない」
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——一色が——地図を——広げた。
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「——火薬の——元に——なる——ものは——地上に——ある」
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「——でも——今の——地上は——昼しか——ないでしょう」
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「——採りに——行けないの」
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「——それでは——止まって——しまうぞ——!」
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——賢者が——頭を——抱えた。
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「——三月の——うち——十五日で——止まるのか——!」
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——だが。
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——その、時。
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「——あの」
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——魔王が——のっそりと——口を——挟んだ。
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「——火薬の——元とは——何だ」
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「——硝石よ」
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——一色が——答えた。
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「——それと——硫黄。あとは——炭」
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「——硫黄なら——ある」
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「…………は?」
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「——我らの——古い——住処だ」
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——魔王は——けろり、と——言った。
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「——溶岩の——そばでな。壁じゅうに——黄色い——ものが——ついて——おる」
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「——臭くて——かなわんので——出たのだが」
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「——それです——!!」
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——一色が——叫んだ。
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「——なぜ——早く——言わないの——!!」
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「——聞かれなんだ」
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「——出た——!!」
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——賢者が——天を——仰いだ。
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「——三度目だぞ——! この——やりとりは——!」
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「——では——今後は——毎日——聞きます」
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——誠が——真面目な——顔で——言った。
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「——"何か——持ってませんか"、って」
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「——それは——それで——妙な——挨拶だな」
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——そして——硝石。
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「——それなら——古い——厩の——床に——できます」
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——年配の——農夫が——手を——挙げた。
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「——なんだと?」
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「——うちの——じいさんが——やってました」
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——彼は——気まずそうに——言った。
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「——藁と——土を——混ぜて——寝かせるんです」
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「——何年も——かかりますが」
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「——何年——!?」
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「——ですが——実は」
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——農夫は——頭を——掻いた。
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「——地下に——移る、時に——古い——厩の——土を——持ってきてまして」
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「——肥やしに——なるかと——思って」
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「…………」
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「——どれくらい——ですか」
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「——五十——袋ほど」
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「——それです——!!!」
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——荒野が——沸いた。
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「——なぜ——それも——言わぬ——!!」
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「——聞かれなかったので」
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「——もう——嫌だ——!!」
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——その日から。
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——地下に——新しい——習わしが——できた。
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「——皆さーん——!」
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——広場で——誠が——呼びかける。
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「——今日——探してるのは——"燃える——粉"、と——"黄色い——石"、です——!」
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「——心当たりの——ある——方は——教えて——ください——!」
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——毎日。
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——探し物を——貼り出して——聞いて——回る。
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——すると——面白いほど——出てきた。
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「——うちの——蔵に——変な——石が——あるよ——!」
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「——爺さんが——使ってた——道具が——あるが——なんだか——分からん——!」
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「——虫人族の——里に——似た——ものが——あった——気が——する——!」
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「——これは——すごいわ」
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——一色が——目を——見張った。
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「——地下じゅうが——蔵に——なってる」
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「——探せば——何でも——出てくるじゃ——ない」
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「——皆さん——持ってるんです」
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——誠は——笑った。
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「——ただ——それが——役に——立つと——知らないだけで」
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——三十日目。
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——試しが——再開した。
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——四十日目。
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——角度の——幅が——絞られた。
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——五十日目。
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——「六分と——半」、という——数字が——出た。
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「——これだ——!!」
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——賢者が——帳面を——掲げた。
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「——六分と——半——! この、角度で——回りも——伸びも——両方——立つ——!」
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「——十本——連続で——真っ直ぐ——飛んで——おる——!」
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「——おおおお——!!」
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——荒野が——沸いた。
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「——では——縄を——外して——みましょう」
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——一色が——言った。
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「——百尺までは——手綱で——支えて」
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「——そこから——先は——回りに——任せるの」
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——五十一日目。
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——縄が——外された。
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「——点火——!!」
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——ひゅうう。
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——矢が——伸びた。
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「——百尺——! 手綱——外します——!」
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——魔法使いの——手が——止まる。
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——そして。
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——矢は。
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——真っ直ぐ——伸び続けた。
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「——飛んでます——!!」
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「——ぶれて——おらん——!!」
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——皆瀬の——鏡が。
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——矢の——姿を——映し続ける。
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——一段目——切り離し。
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——二段目——点火。
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——さらに——伸びる。
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『——まだ……見えてる』
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「——どこまで——行った——!?」
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『——縄の——時の……三倍』
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「——四倍——!」
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『——五倍……』
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「…………」
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——荒野が。
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——静まり返った。
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『——見えなく——なった』
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「——落ちたのか——!?」
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『——ううん』
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——皆瀬が——ぷるん、と——揺れた。
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『——遠すぎて……見えなく——なっただけ』
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「…………」
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——そして。
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——歓声が——爆発した。
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「——うおおおお——!!」
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「——乗らずに——飛んだ——!!」
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「——誰も——乗らずに——!!」
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——魔法使いが。
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——ぽかん、と——立っていた。
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「——え。……え?」
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「——私、乗らなくて——いいんですか」
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「——いいんです」
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——誠が——言った。
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「——五十一日目です。あと——三十九日——残ってます」
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「…………」
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——魔法使いは。
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——しばらく——空を——見上げて。
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——そして——ぽろぽろと——泣き出した。
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「——ど、どうしました——!?」
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「——いえ……その」
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——彼女は——袖で——顔を——拭った。
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「——私、実は——怖かったんです」
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「…………」
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「——乗ります、って——言ったけど」
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「——毎晩——眠れなくて」
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「——でも——他に——道が——ないから」
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「——言うしか——なくて」
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「…………」
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——誠は。
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——何も——言わずに。
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——ただ——麦茶を——差し出した。
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「——ありがとう——ございます」
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「——いえ」
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「——三月——待って——くれて」
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——魔法使いは——笑った。
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「——ありがとう——ございます」
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その日、誠は、祖父のノートに、こう書き加えた。
「三月の、始まり。毎日、羽根の角度だけ変えて、ひたすら飛ばして、記録した。五日目で、武闘家さんが、"飽きた"、って。"なぜ、お前は平気なのだ"、って言われたから、"八百屋ですから。毎日、同じことを、二十年、やってます"、って答えた。……十五日目に、火薬が尽きた。三百本も、飛ばしたらしい。詰まったか、と思ったら、魔王さんが、"硫黄なら、古い住処にある"、って。なぜ早く言わないのか、って聞いたら、"聞かれなんだ"、って。三度目だ。……それで、毎日、広場で、"今日、探してるものは、これです"、って、貼り出すことにした。そしたら、面白いほど、出てきた。硝石も、農夫さんが、"じいさんが作ってた土を、五十袋、持ってきてる"、って。一色さんが、"地下じゅうが、蔵になってる"、って。……皆さん、持ってるんです。ただ、それが役に立つと、知らないだけで。……五十日目に、答えが出た。羽根の角度、六分と半。回りも、伸びも、両方立つ。十本、連続で、真っ直ぐ飛んだ。五十一日目、縄を外して、飛ばした。百尺までは、手綱で支えて、そこから先は、回りに任せる。……真っ直ぐ、飛んだ。縄の時の、五倍。皆瀬さんの目でも、見えなくなるところまで。落ちたか、って聞いたら、"遠すぎて、見えなくなっただけ"、って。……誰も、乗らずに、飛んだ。魔法使いさん、ぽかんとして、"私、乗らなくて、いいんですか"、って。いいんです。まだ、三十九日、残ってます。……そしたら、あの人、泣き出した。"実は、怖かったんです。乗ります、って言ったけど、毎晩、眠れなくて。でも、他に道がないから、言うしかなくて"、って。麦茶を、渡した。"三月、待ってくれて、ありがとうございます"、って。……じいちゃん。僕、間に合いました」
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心の中に——一つの、月が——浮かんでいた。
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——たとえ——空に——見えなくても。
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まだこの時の誠は知らない。「誰も——乗らずに——済んだ」、この、日を。
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——彼が——後に——何度も——思い返すことに——なるのを。
そして——「間に——合った」、という——その、感触が。
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——いつも——手に——入る——ものでは——ないことも。
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——今は……まだ、知らない。




